第2章 地域別に見た外交


第2節 北  米

1.米  国

(1)日米関係全般

(イ)総論

 日米両国は同盟国として、二国間の課題のみならず、国際社会が直面する諸課題に世界の国々と協調しながら取り組んでいる。日米同盟とは、両国が共通の価値観と利益に基づき、日米安全保障体制を基盤としつつも、安全保障面のみならず、政治、経済等の幅広い分野で緊密に協調・協力していく関係である。

 この米国との関係は、緊密な政策協調と両国民の人的交流の拡大に伴い、近年拡大・強化されてきており、6月28日から30日の小泉総理大臣の米国公式訪問は日米同盟の力強さを象徴するものとなった。小泉総理大臣は、29日にブッシュ大統領と首脳会談を行い、二国間関係に加え、北朝鮮、イラク、イラン、インド、国連安保理改革といった幅広い国際社会の課題について話し合うとともに、「新世紀の日米同盟」と題する成果文書を発出した。この文書では、日米関係が歴史上最も成熟した二国間関係の一つであるとの認識が確認され、自由、人間の尊厳及び人権、民主主義、市場経済、法の支配といった日米両国の長い歴史的伝統に深く根ざした共通の価値観と、テロとの闘いにおける勝利、地域の安定と平和、航海・通商の自由やエネルギー安全保障といった共通の利益を基盤とし、地球的規模での協力関係を今後とも発展させていくことが重要との認識で一致した。



▲故エルビス・プレスリーの邸宅「グレースランド」を訪問する小泉総理大臣(6月28日、米国・メンフィス)

 安倍政権の下においても日米関係は日本外交の要であり、9月末、安倍総理大臣は所信表明演説において、「世界とアジアのための日米同盟」という考え方に基づき、同盟の基盤である信頼関係をより強固なものにしていく旨述べた。10月の北朝鮮による核実験実施発表を経て、11月のハノイAPECの際には、安倍総理大臣とブッシュ大統領の初顔合わせとなる日米首脳会談が行われ、両首脳は安全保障についてはもちろん、両国経済関係の強化も含めて日米同盟を更に強化し、国際社会の諸課題に立ち向かっていくことを確認した。



▲APEC首脳会議の際にブッシュ米国大統領との会談に臨む安倍総理大臣(11月18日、ベトナム・ハノイ)

(ロ)二国間の課題への対処

 まず、国際社会の諸課題について触れる前に、二国間の課題としては、在日米軍再編、ミサイル防衛、米国産牛肉輸入問題等が挙げられる。

 在日米軍再編に関しては、2005年10月の日米安全保障協議委員会(「2+2」会合)で兵力態勢の再編に関する検討結果をとりまとめた文書を発表したことを受け、2006年5月に開催された「2+2」会合において、再編に関する具体的施策を実施するための計画が日米両国の閣僚レベルで承認された(「再編実施のための日米のロードマップ」)。また、11月のハノイでの日米首脳会談では、在日米軍再編の着実な実施を確認するとともに、ミサイル防衛に関する日米協力を更に強化・加速化することで一致した(第3章第1節1.「日米安全保障体制」参照)

 米国産牛肉輸入問題については、消費者の食の安全・安心の確保を大前提に、日米両国が協議を行い、7月27日に米国産牛肉の輸入手続きが再開された(本節1.(2)「日米経済関係」参照)

(ハ)地域・国際社会が直面する課題への共同の取組

 地域・国際社会の課題への対処として、日米両国はテロ、大量破壊兵器及びその拡散といった国際社会にとっての新たな脅威の拡大や、依然として不透明性や不確実性が見られるアジア太平洋地域の国際安全保障環境の中で、共通の戦略目標を明確に打ち出し、目標達成のために緊密に協力している。

 まず、地域・国際社会の諸課題についての中長期的観点からの情勢認識や共通戦略のすり合わせの場として、日米戦略対話を活用している。3月の第2回日米閣僚級戦略対話(シドニー)では、安定的かつ予見可能な東アジアの国際環境の創出のため、日米がどのような役割を果たし、協力していけるかとの観点から議論を行った。そして、その議論も踏まえて、麻生外務大臣は訪米の際(5月)に、「東アジアの将来の安定と繁栄を共に目指して」と題するスピーチを行い、同地域における日米の共通目標や協力の在り方等について論じた。

 次に、北朝鮮問題についても、日米は緊密な連携を実践した。まず、7月5日の北朝鮮の弾道ミサイル発射に際し、日本は、北朝鮮による弾道ミサイルの発射は、国際社会において厳しく糾弾されるべきものとの認識に基づき、米国とともに安保理会合の開催を要請するとともに、日米首脳電話会談や日米外相電話会談等を通じて国際社会の結束に尽力した。その結果、16日、北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難し、加盟国に対し北朝鮮のミサイルや大量破壊兵器(WMD)計画へのモノや技術の移転規制等を要求する国連安保理決議第1695号が中国及びロシアを含む全会一致で成立した。

 また、10月9日の北朝鮮による核実験実施発表に際しても、日本は、国際社会全体として厳しい対応がとられるべきとの認識の下、ただちに日米韓外相電話会談、日米首脳電話会談、北朝鮮を除く六者会合参加国との外相電話会談等を通じた米国との緊密な連携を図った。また、ニューヨークにおいては、安保理議長国を務めつつ米国をはじめとする関係国との緊密な連携を図った。こうした努力により、15日、北朝鮮の核実験への非難、北朝鮮によるすべての核兵器等及び既存の核計画の放棄、すべての加盟国に対する北朝鮮の核関連等の物品等の移転等の防止の義務を含む国連安保理決議第1718号が全会一致で成立した。

 同決議採択後の10月18日及び19日には、ライス国務長官が訪日し、日米外相会談や安倍総理大臣等への表敬を行う中で、同長官は、日米安保体制下での米国の日本防衛のためのコミットメントをあらゆる形で履行することを改めて確認した。また日米両国は、各国が国連安保理決議第1718号の下での措置を履行することを求めていくことを確認した。こうした日米の共通の認識は、11月のハノイAPECの際の日米外相会談及び日米首脳会談でも、北朝鮮に対する圧力の継続、再開後の六者会合での具体的成果を出すことの重要性を確認する形で示されている。また、米国側からは、これらの会談において拉致問題に関する日本の立場について明確な支持が表明された。



▲会談後、共同記者会見に臨む麻生外務大臣とライス米国国務長官(10月18日、東京)

 一方、こうした地域の課題への取組にとどまらず、国際的な課題においても日米は引き続き緊密な連携をとっている。例えば、日米両国は、出入国管理・交通保安体制の強化、国際的法的枠組みの強化、テロ資金対策等のテロ対策に関する協力の継続を行っている。また、日本は、テロ対策特別措置法に基づくインド洋上での多国籍軍に対する補給活動の継続等の形でテロとの闘いに米国等とともに従事しており、そうした活動は、米国を含む各国から高く評価されている。なお、日本は、こうした中で11月に同法を1年間延長した。

 イラクについては、サマーワに派遣していた陸上自衛隊が所期の目的を達成して、活動を終了したが、航空自衛隊による輸送支援を拡大し、最大35億ドルの円借款等による経済活動の基盤整備支援を強化するなど、イラクの復興努力を引き続き積極的に支援している。特に、7月以降、「イラク・コンパクト」の策定に向けて、イラクと国連の主導による準備作業が開始される中、日本はこれを積極的に支持し、早い段階から米国と協調しつつその策定プロセスに参画した。




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