第2章 地域別に見た外交 |
(2)日朝関係
(イ)日朝関係 日朝関係については、2月に第1回日朝包括並行協議が開かれるなど、2006年前半には一定の進展が見られたものの、その後は全く対話が途絶えた状態が続いた。 まず、2月4日から8日に開かれた日朝包括並行協議においては、(1)拉致協議、(2)安全保障協議及び(3)国交正常化交渉の3つを並行して議論した。最優先課題の拉致問題については、(1)生存者の帰国、(2)真相の究明及び(3)容疑者の引渡し-を北朝鮮側に要求した。国交正常化交渉については、日本から日朝平壌宣言に明記されている「一括解決・経済協力方式」について北朝鮮側に正しく理解するよう働きかけたが、共通認識は得られなかった。安全保障協議については、核問題、ミサイル問題、資金洗浄等の不法活動に関する日本の懸念を伝達したものの、具体的進展は得られなかった。 また、4月に東京で開催されたNEACDの機会をとらえて行われた日朝非公式協議では、横田めぐみさんの夫に関するDNA検査の結果も伝えつつ、拉致問題の解決に向けて誠意ある対応を改めて求めた。 その後は、7月のミサイル発射や10月の核実験実施などもあり、日朝間の対話は途絶えた状態が続いた。12月に1年1か月ぶりに開催された第5回六者会合第2セッションでも、日朝間の協議は開かれなかったが、第5回六者会合第3セッションにおいては、日朝間の協議が行われ、六者会合についてのみならず、日朝間の今後の取組についても意見交換が行われた。 (ロ)拉致問題に関する取組 (i)総論 拉致問題は、日本国民の生命と安全にかかわる重大な問題であり、その解決なくして国交正常化はあり得ないとの基本方針に基づき、日本は、あらゆる機会をとらえて、(1)生存者の即時帰国、(2)真相究明及び(3)拉致実行犯の引渡し-を北朝鮮側に対し強く要求しているところである。 6月には、いわゆる「北朝鮮人権法」 (注9) が議員立法で成立し、拉致問題を解決するために最大限の努力をすることが国の責務とされた。 9月、日本政府は、拉致問題に関する総合的な対策を推進することを目的として、総理大臣を本部長とする「拉致問題対策本部」を設置するとともに、塩崎官房長官を拉致問題担当大臣に、また中山恭子氏を拉致問題担当の内閣総理大臣補佐官に任命した。同対策本部は全閣僚から構成されており、10月の第1回会合では、すべての被害者の安全確保及び即時帰国等の要求、更なる対応措置の検討、厳格な法執行の継続、情報の集約・分析及び国民世論の啓発、拉致の可能性を排除できない事案の捜査・調査の継続並びに国際協調の更なる強化の6項目からなる「拉致問題における今後の対応方針」を決定するなど、拉致問題の解決に向け、同対策本部を中心に政府一体となって取り組んでいく体制が整備された。12月には、北朝鮮人権法により設けられた「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」が実施され、政府は、拉致問題に関する国際会議への支援や講演会等の啓発行事を実施した (注10) 。 ![]() ▲拉致問題対策本部の第1回会合であいさつする安倍総理大臣(10月16日、総理大臣官邸 写真提供:内閣広報室) (ii)個別の拉致事案に関する動き 個別の拉致事案についても種々の動きが見られた一年であった。まず、4月、日本政府が実施したDNA検査により、日本人拉致被害者横田めぐみさんの夫が、1978年に韓国から拉致された韓国人拉致被害者金英男氏である可能性が高いことが判明した。これを受け、日本側から北朝鮮側に対し、同検査結果を伝えつつ拉致問題解決に向けた誠意ある対応を改めて求めた (注11) 。 また、11月20日、新たな証拠等が得られたことなどから、政府は松本京子さんを拉致被害者として認定した (注12) 。加えて、拉致容疑事案の実行犯として北朝鮮工作員・辛光洙(注13) 、北朝鮮工作員・自称小住健蔵こと通称チェ・スンチョル (注14) 及び北朝鮮工作員・通称キム・ミョンスク (注15) の3人をそれぞれ特定し、逮捕状の発付を得て国際手配を行うとともに、政府として北朝鮮側に身柄引渡しを要求した。 (iii)国際社会における動き 4月には、拉致被害者の家族が訪米し、米国下院公聴会における証言、ブッシュ大統領との面会等を通じて、拉致被害の深刻さと解決の重要性を訴え、関係者から共感を得た。ホワイトハウスで横田早紀江さん等と面会したブッシュ大統領は、「北朝鮮は人権と人間の尊厳を尊重すべきであり、めぐみさんのお母さんがもう一度娘を抱きしめられるようにすべきである」旨表明し、日本側の立場に更なる理解と支持を示した。この訪米を通じ、米国のみならず、国際社会に対して拉致問題の解決の重要性を訴える強いメッセージが発出された。 (iv)日本の外交上の取組 日本政府は、主要国首脳会議(G8サミット)等の各種国際会議、首脳会談等あらゆる外交上の機会をとらえ拉致問題を提起し、諸外国からの理解と支持を得てきている。例えば、7月のG8サンクトペテルブルク・サミットにおいては、議長総括において、「我々は北朝鮮に対し、拉致問題の早急な解決を含め、国際社会の他の安全保障及び人道上の懸念に対応するよう求める」との強いメッセージが盛り込まれた (注16) 。 さらに、10月に全会一致で採択された北朝鮮による核実験実施の発表に係る安保理決議第1718号には、日本の強い主張により、北朝鮮が国際社会の「人道上の懸念」にこたえることの重要性への言及が盛り込まれた (注17) 。また、12月19日(現地時間)には、日本が欧州連合(EU)と共同で作成・提出し、拉致問題を国際的懸念事項とし、他の主権諸国家の国民の人権を侵害するものであるとする「北朝鮮の人権状況」決議が、2005年に引き続き国連総会本会議において採択された。 |
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