第3章 分野別に見た外交


1.人間の安全保障

 日本は、「人間の安全保障」の視点を重視して外交を推進している。「人間の安全保障」が従来の国家の安全保障を補完するものとして定着し、2003年5月に発表された人間の安全保障委員会最終報告書の提言を踏まえた取組が実践されるよう活動している。同報告書のフォローアップ、「人間の安全保障」の理念の普及、人間の安全保障基金の方向性に関する示唆を目的として、人間の安全保障諮問委員会が設置され(緒方貞子JICA理事長が議長)、日本は同諮問委員会を支援している。2005年9月に開催された国連総会首脳会合の「成果文書」には国連総会文書としては初めて「人間の安全保障」の文言が盛り込まれた。今後、国連総会の場でその概念を検討し、定義付けについて議論されていくことになった (注1)

 人間の安全保障基金は、1999年に日本政府の拠出により国連事務局に設置されて以来、国連関係機関の援助プロジェクトに資金を供与してきている。日本は同基金に対してこれまで累計約290億円を拠出してきた。2005年1月に行われた同基金のガイドライン改訂以降、複数の国際機関やNGOが参画し、相互に連関するより広い地域・分野を視野に入れたプロジェクトや、紛争から平和への移行期において継ぎ目のない支援を実施するために人々の能力を強化し、人道支援と開発支援の統合を図るプロジェクトが主流になっている。日本は関係国連機関と協力しつつ、こうしたプロジェクトを積極的に支援していく予定である。

 人間の安全保障を外交の柱とするカナダが中心となっている人間の安全保障ネットワーク(13か国が加盟)の閣僚会合が5月にカナダのオタワで開催され、日本も特別ゲストとして出席した。同ネットワークとの協力関係も進展しており、人間の安全保障基金を通じた共同プロジェクトの実施等も検討されている。

 日本のODA政策では、2003年に改定されたODA大綱及び2005年2月に策定された中期政策に従い、「人間の安全保障」の視点を重視し、特に「草の根・人間の安全保障無償資金協力」にはこの考え方を強く反映させている。




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