第3章 分野別に見た外交


(3)主要分野の概観

(イ)農  業

 農業分野では、2013年までのすべての輸出補助金撤廃が香港閣僚会議で合意され、国内補助金や関税率の引下げ方式の骨格が固まった。今後、具体的な削減率及びセンシティブ品目 (注3) の数や扱いを決定するための厳しい交渉が予想されるが、日本はこれまで同様、農業の多面的機能や食料安全保障等の非貿易的関心事項に配慮した、バランスのとれた最終合意を目指して取り組んでいく。

(ロ)非農産品市場アクセス交渉

 非農産品市場アクセス交渉は、鉱工業品及び林水産品の関税や非関税障壁をいかに軽減するかを対象としている。「7月枠組み合意」 (注4) の下、関税削減方式(以下、フォーミュラ)、分野別関税撤廃・調和、開発途上国配慮等の主要論点を中心に交渉を行ってきた。香港閣僚会議では、フォーミュラについて、高関税ほど大きい削減とする「スイス・フォーミュラ」の採用で合意されたものの、最終的な関税水準の決定を巡っては、依然として、より野心的な成果を目指す先進国及び一部開発途上国と、開発途上国配慮を重視する開発途上国との間の意見の隔たりが大きい。鉱工業で強い競争力を持つ日本としては、実質的な市場アクセスの改善につながる成果を目指して引き続き努力していく。

(ハ)サービス

 「7月枠組み合意」を受けて、2005年5月末までに各国が質の高い改訂オファー (注5) を提出することが期待されたが、その質・量とも不満足なものに終わった。これを受けて、日本は、これまでの二国間の交渉方式に加えて、全加盟国ないし関係国が共同で共通の達成目標を追求することを強く主張し、その導入に主導的役割を果たした。一部開発途上国の反発もあったが、香港閣僚会議では中身のある交渉目標、交渉方法及び交渉日程 (注6) が合意され、2006年の本格交渉に向けた足掛かりを得ることができた。

(ニ)開  発

 開発途上国がWTOの加盟国の5分の4以上を占めている現状で、開発途上国の開発問題は、今次ラウンドの中核的テーマとなっている。開発途上国に対する「特別かつ異なる待遇(S&D)」、綿花問題 (注7) 、統合フレームワーク(IF) (注8) 、技術援助等の開発に関するテーマについて活発に議論されてきている。特に、S&Dについては、後発開発途上国(LDC)グループの提案が集中的に議論され、香港閣僚会議で同提案が採択された。

 日本が香港閣僚会議に先立ち発表した「開発イニシアティブ」は、貿易の促進を通じて開発途上国の開発に資することを目的とした包括的支援パッケージである。貿易を構成する「生産」、「流通・販売」、「購入」の各局面で、LDC産品の市場アクセスの原則無税無枠化やODAを通じた途上国の一般市民に手が届く様々な支援を組み合わせ、総合的かつきめ細かな支援を行うもので、今後3年間に貿易・生産・流通インフラ関連分野における100億ドルの資金協力と計1万人の専門家派遣及び研修生受入れを目標としている。

(ホ)WTO下の紛争解決制度

 WTO体制に信頼性・安定性をもたらす柱として、紛争解決制度がある。日本を含め各加盟国は同制度を積極的に活用しており、1995年のWTO発足時から2005年12月末までの10年間の紛争案件数は、既に335件(年平均33.5件)に達している (注9)

 2005年には、日本が米国のダンピング防止措置に関連する「ゼロイング」手続き (注10) がダンピング防止協定等に違反すると申し立てた案件や、「日本の検疫措置(リンゴ火傷病)」 (注11) を巡る日米間の紛争は、日本が関連措置を改正し、解決した。日本が申立てを行った「米国のバード修正条項」 (注12) については、米国による是正が見られなかったことを受け、日本は対抗措置を9月に発動した。




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