第3章 分野別に見た外交 |
(2)不 拡 散 (イ)地域の不拡散問題 北朝鮮については、2005年2月に核兵器を製造したとの声明が出されるなど、懸念される情勢が続く一方、同問題の平和的解決に向けた様々な外交努力が継続して行われてきた。約1年にわたる中断の後に2005年夏に開催された第4回六者会合では、参加各国が合意の実現に向けて外交努力を行った結果、北朝鮮の「すべての核兵器及び既存の核計画」の検証可能な放棄の約束を含む共同声明に初めて合意し、核問題の平和的解決に向けた重要な基礎となっている。北朝鮮の核問題は日本の安全保障に直結する問題であるとともに、国際的な核不拡散体制に対する重大な挑戦であり、関係国と緊密に協力しつつ、この共同声明の具体化に向けて議論・働きかけを行っていく必要がある。 イランは、2004年11月のEU3(英国、フランス、ドイツ)との合意(パリ合意)により、ウラン濃縮関連活動を停止し、EU3との間で長期的取決めに向けた交渉を開始した。その後、6月のイラン大統領選挙を挟み、8月初めには、EU3が包括的な提案を示したが、イランはこれを不満とし、ウラン転換活動を再開するとともにEU3の提案を拒否した。こうした対応を受け、8月11日、IAEA特別理事会が開催され、イランに対して深刻な懸念を表明するとともに、ウラン濃縮関連活動の完全な停止等を求める決議を採択した。しかし、イランはなおウラン転換活動を再停止しなかったため、9月のIAEA理事会は、同国のIAEA保障措置協定違反(non‐compliance)を認定するとともに、同国に対してIAEAへの更なる協力とウラン濃縮関連活動等の再停止を求める決議を、多数の理事国の支持(35か国中、22か国)を得て採択した。その後、12月にEU3とイランとの「予備的協議」が開催されるなど、交渉の再開が模索されたが、イランの対応に大きな変化は見られず、2006年1月、イランはウラン濃縮関連活動を再開した。これを受けて開催されたIAEA特別理事会は、2月4日、本件を国連安保理に報告することなどを内容とする決議を、多数の理事国の支持(35か国中、27か国)を得て採択したが、その後、イランは、国内の研究施設においてウラン濃縮活動を再開した。日本は、イランが真摯に対応することを強く期待しており、引き続き、イランに対し、あらゆる機会をとらえて強く働きかけていく考えである。 1998年に核実験を実施したインドとパキスタンは、日本を含む国際社会からの働きかけにもかかわらず、依然としてNPT加入とCTBT署名に至っていない。日本は、引き続き両国に対し、NPTへの加入及びCTBTの署名・批准を働きかけてきている (注30) 。一方で、注目すべき新たな動きとして、シン・インド首相は7月の訪米の際、ブッシュ大統領との間で、両国政府が完全な民生用の原子力協力を行うことを意図したイニシアティブに合意した。日本としては、今回の合意について、NPTに非核兵器国として加入していないインドに対する原子力協力がNPTを礎とする国際的な核軍縮・不拡散体制に与える影響等も念頭に注意深く検討する必要があると考えており、両国に対してこのような日本の考え方を伝えるとともに、今後の動向を注視している。 また、2006年1月には麻生外務大臣がインド・パキスタン両国を訪問し、軍縮・不拡散に関する局長級協議の立ち上げにそれぞれ合意した。 (ロ)大量破壊兵器等の拡散防止 (i)IAEA保障措置 IAEAの保障措置 (注31) は、核物質等が軍事的目的に転用されないことを確保するための検認制度であり、国際的な核不拡散体制の実効性を確保する上で中核をなす制度である。核不拡散体制の維持・強化を主要な外交課題の一つに掲げる日本は、保障措置の強化のため積極的に貢献してきた。特に、可能な限り多くの国が保障措置の強化のための「追加議定書」 (注32) を締結すること(「追加議定書の普遍化」)が重要であるとの認識の下、日本は二国間・多国間の協議の場をとらえ、各国に締結を求めている。同時に、日本はIAEAが有する限られた人的・財政的資源の効率的な運用を重視し、IAEA事務局に対して保障措置活動の一層の効率化を求めてきている。この観点から、日本は、「統合保障措置」 (注33) がより多くの国に適用され、それに伴って保障措置の受入れ国とIAEA双方の負担や経費が削減されることが重要と考えている。 (ii)輸出管理 輸出管理レジームとは、兵器やその関連汎用品の供給能力を持ち、かつ不拡散に同意する国々による輸出管理についての協調の枠組みである。現在、核兵器、生物・化学兵器、ミサイル、通常兵器及び汎用品のそれぞれに対応した以下の4つの輸出管理レジームが存在する。 (1)核兵器:原子力供給国グループ(NSG:Nuclear Suppliers Group) (注34) とザンガー委員会(Zangger Committee) (2)生物・化学兵器:オーストラリア・グループ(AG:Australia Group) (注35) (3)ミサイル:ミサイル技術管理レジーム(MTCR:Missile Technology Control Regime) (注36) (4)通常兵器及び汎用品:ワッセナー・アレンジメント(WA:Wassenaar Arrangement) (注37) 日本はこれらすべてに参加している。輸出管理は拡散懸念国やテロ組織等、大量破壊兵器やその関連物資を入手し、拡散しようとする者に対し、言わば供給サイドから規制を行うための枠組みであり、日本はこれを積極的に活用しつつ、これら輸出管理レジーム自体の強化にも貢献している。ミサイルに関しては、日本は、2002年11月に採択された「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)」 (注38) を遵守し、信頼醸成措置の一環としてHCOC参加国を招待し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)種子島宇宙センター国際視察を実施するなど、その実効性の確立と普遍化に積極的に貢献している。 (iii)拡散に対する安全保障構想(PSI:Proliferation Security Initiative) (注39) 不拡散に関連する国際規範を受け入れていない国の存在等により、大量破壊兵器の拡散を完全には防止できていない現状に対し、従来の不拡散体制の「抜け穴」を埋めるべく、2003年にPSIが日本を含む11か国によって立ち上げられた。日本は、大量破壊兵器等の不拡散に関する日本の取組に沿ったものとしてこれまでPSIに積極的に参加してきており、8月にはシンガポール主催海上阻止訓練に艦船等を派遣して参加した。 (iv)アジア地域における不拡散体制の強化のための働きかけ アジア諸国における大量破壊兵器等の不拡散体制の強化は、日本とアジア地域全体の安全保障の向上に資するとの認識の下、日本は2003年以降毎年度、東京でアジア不拡散協議(ASTOP:Asian Senior‐level Talks on Non‐Proliferation) (注40) や1993年以降毎年度、アジア輸出管理セミナーを開催するなど、アジアにおける不拡散体制への理解の促進と取組の強化を目指す働きかけ(アウトリーチ活動)を積極的に実施してきている。 (v)核燃料供給保証 核不拡散体制の「抜け穴」を防ぐ必要があるという問題意識から、エルバラダイIAEA事務局長が提唱する「核燃料サイクルへのマルチラテラル・アプローチ(MNA:Multilateral Nuclear Approaches)」 (注41) について、2月に国際専門家グループによる報告書が公表された。今後、核燃料供給保証についての国際的な議論が活発化することが予想され、日本としても、世界の核不拡散問題に対応した新たな枠組みの構築に向け、議論に積極的に参画していく考えである。 |
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