第3章 分野別に見た外交


(1)核 軍 縮

 日本は、核兵器のない平和で安全な世界の実現のために、NPTを礎とする国際的な核軍縮・不拡散体制の維持・強化を極めて重視しているが、5月の2005年NPT運用検討会議では、中東諸国を中心とする非同盟諸国と西側諸国との意見対立等により、会議時間の約3分の2が手続き事項の採択に費やされ、最終的に実質的事項に関する合意文書を作成することができなかった。9月の国連首脳会合で採択された成果文書についても、核軍縮と不拡散のバランスを巡る意見対立等の結果、軍縮・不拡散に関する記述が盛り込まれなかった。これらの結果は、アナン国連事務総長が「本年2回失敗した」と述べたとおり、大変遺憾な結果であった。

 日本は、CTBTをIAEAの保障措置と並び、NPTを礎とする核軍縮・不拡散体制の不可欠の柱としてとらえ、最優先課題の一つとして重視している。このような観点から、4月に、町村外務大臣はCTBT未批准の発効要件国11か国の外務大臣に対し、早期批准を求める書簡を発出したほか、会議中にもCTBTフレンズ会合を主催した。9月の第4回CTBT発効促進会議では、日本政府代表が未批准国に対し批准を呼びかけるなど、発効促進のための外交的働きかけを行った。

 日本は、核軍縮・不拡散を進める具体的措置として、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の交渉開始も重視しているが、ジュネーブ軍縮会議は、2005年会期においても、交渉開始を含む作業計画に合意することはできなかった。日本は、今後とも、同条約交渉の早期開始を含め軍縮会議(CD)の停滞を打開すべく粘り強い外交努力を継続していく。

 現実的、漸進的に核軍縮・不拡散を進めるために、日本は1994年から毎年、国連総会に核軍縮決議案を提出して国際社会で核軍縮・不拡散に関するコンセンサスの形成に努めてきている。被爆60周年に当たる2005年は、決議案を新たに構成し直し、名称を「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」に変更し、重複を避け、簡潔で力強い決議案として国連総会に提出した。その結果、昨年まで棄権していた新アジェンダ連合(NAC)諸国も賛成にまわり、過去最多の168か国という圧倒的多数(注28)の支持で採択され、核兵器の全面的廃絶に向けた国際社会の意思形成を着実に進展させることができた。

 また、日本は核軍縮・不拡散と日本海周辺の環境汚染を防止する観点から、日露非核化協力委員会を通じてロシア極東地域に残された退役原子力潜水艦の解体支援(注29)を実施している。本事業は「希望の星」と命名され、これまで1隻の解体支援を実施するとともに、11月のプーチン・ロシア大統領訪日時には新たに5隻を対象とする解体事業に関する実施取決めが結ばれ、今後、作業が具体化する予定である。

 

▼核実験の監視制度

 TOPIC

核軍縮決議ができるまで

 日本が国際社会で主導的な役割を果たしている例として、核軍縮に関する国連総会決議ができるまでを見てみましょう。

 1994年以来、日本は、毎年核軍縮決議案を国連総会に提出しています。決議案の作成では、核兵器のない平和で安全な世界を、現実的・漸進的な取組を通じて実現するという日本の基本的な考えを盛り込みつつ、大多数の国にとっても受け入れられる内容とすることが最も難しい仕事です。核軍縮の分野においては、核兵器国と非核兵器国の立場の違いが大きいのですが、こうした立場の違いを越えて支援を得るために毎年入念な準備を行って、核兵器国と非核兵器国の両方から支持を得てきています。

 2005年は、6月から決議案を作成し始め、8月には主に核兵器国、そして近年日本の決議案に棄権をしている新アジェンダ連合(NAC)(注)の国々と調整を開始しました。5月のNPT運用検討会議で合意文書が採択されないという残念な結果も踏まえ、今度の決議案は、前年までの決議の内容から更に強化しましたが、一部の核兵器国からは内容を弱めるよう、逆にNAC諸国からはもっと強めるようにとの反応でした。双方に受入れ可能な案文を作成するため、2か月の間に実に5回も案文の修正を行うなど調整は難航しました。10月の国連総会第一委員会の際には、働きかけを世界中の国に拡大し、ニューヨークの会議場では各国の代表団に、各国の首都においては相手国政府に、そして、東京では各国大使館に対し被爆60周年を迎えた日本の核廃絶の願いを伝え支持をお願いしました。

 こうした働きかけが功を奏し、採択日の直前になって、調整が難航していたフランス・ロシア等の核兵器国及びNAC諸国からの支持が相次いで伝えられました。結果的には、10月の第一委員会では166か国、12月の総会では168か国という過去最多の支持を得ることができました。決議案に反対あるいは棄権した米国、中国等にも、引き続き日本の核軍縮に向けた考え方を働きかけています。

(注)新アジェンダ連合:核軍縮において日本よりも急進的な立場をとる7か国の集まり(メンバーは、ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ、スウェーデン)。




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