第3章 分野別に見た外交


(3)原子力の平和的利用のための国際的な規制の枠組み

 核不拡散体制に加え、原子力の平和利用を適切に進めるための主要な国際的枠組みには、原子力安全並びにテロリスト等による核物質及び放射線源の悪用の脅威に対応するための核セキュリティーの枠組みがある。原子力安全に関する「原子力の安全に関する条約」及び「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約」の両条約を、日本は締結し実施している。核セキュリティーの分野では、その強化のため、4月に国連で「核テロリズム防止条約(仮称)」が採択され、9月の国連首脳会合で主要国首脳とともに小泉総理大臣がこれに署名した。また、既存の「核物質の防護に関する条約」を強化するための改正が7月にIAEAの場で採択された。日本は、これら条約及び改正の早期締結に向けた検討を行っているほか、特別基金への拠出等を通じて核セキュリティーに関するIAEAの活動を積極的に支援している。

 TOPIC

ノーベル平和賞を受賞した国際原子力機関(IAEA)とは?

 原子力エネルギーは、日本の電力の約3割を生み出しており、我々の生活に欠かせないものです。しかし、その桁外れに大きなエネルギーが、軍事的に大きな価値を有しているのもまた事実です。この「両刃の剣」を平和目的にいかすと同時に、軍事転用を防ぐことは人類の務めでもあり、そのために1957年に国際原子力機関(IAEA)が設立されました。

 原子力の安全対策や、放射線医療等も含めた幅広い活用もIAEAの重要な任務であり、例えば、IAEAが受け取ったノーベル平和賞の賞金は途上国における癌治療や栄養状態改善のための人材育成にあてられることになっています。

 一方で、よく注目されるのは、ノーベル平和賞の受賞理由ともなった原子力の軍事転用を防ぐための活動で、核物質の計量管理と実際に原子力活動を確認すること(査察)がその中心です。核兵器保有等がおよそ考えられない日本も査察の例外ではなく、現在でも平均6名ほどの査察官が常時国内の関連施設の査察に当たっています。

 日本は、原子力の平和的利用のモデルたるべく40年以上にわたりIAEAに協力し、原子力活動の透明性の確保に努めてきており、核物質の転用も未申告の活動もないとの評価をIAEAより得ています。しかし、核疑惑を抱える国の活動は、それとは逆に秘密裏に行われることが多く、IAEAも査察の強化に向けて取り組んできていますが、完全な活動の把握は容易ではありません。そのような中で、IAEAのノーベル平和賞受賞は、エルバラダイ事務局長も受賞演説で述べたとおり、安全保障(軍事不転用)と開発(平和的利用)のための努力を続けていくことへの「強力なメッセージ」といえるでしょう。

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▲ノーベル平和賞を受領したエルバラダイ事務局長と天野IAEA理事会議長:12月、ノルウェー・オスロでの授与式にて (Photo credit : IAEA/Dean Calma)




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