第3章 分野別に見た外交


(2)日本の取組

(イ)テロ対策特別措置法

 テロ対策特別措置法(以下、テロ対策特措法)は、2001年9月11日の米国同時多発テロが国連安保理決議1368で国際の平和と安全に対する脅威と認められたことなどを踏まえ、日本が国際的なテロの防止・根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与することを目的として制定された。

 米国、英国、フランスをはじめとする諸外国は、インド洋上におけるテロリストの移動や武器・弾薬等の関連物資の海上移動を阻止または抑止することを目的として、「不朽の自由作戦」に基づく海上阻止活動(OEF‐MIO:Operation Enduring Freedom‐Maritime Interdiction Operation)を実施している。日本は、同法に基づく協力支援活動として、2001年12月から、海上阻止活動に従事する米英等の艦船に対し、海上自衛隊による給油支援等を実施している。

 2003年11月にはテロ対策特措法を2年間延長し、さらに、2004年10月の基本計画の延長時には、海上阻止活動の効率性を促進するとの観点から、従来の艦船用燃料に加え、艦艇搭載ヘリコプター用燃料や水の補給もできるように協力支援活動の内容を変更した。また、国際社会は米国同時多発テロ以降、「不朽の自由作戦」などでテロ対策に一致団結した取組を続ける中、7月のG8グレンイーグルズ・サミットや9月の安保理首脳会合の結果を踏まえ、11月にテロ対策特措法を1年間延長した。

(ロ)その他(人材育成、キャパシティ・ビルディング支援など)

 日本は、国際テロの防止・根絶には、幅広い分野で国際社会が一致団結し、息の長い取組を継続することが重要との考えの下、政治的意思の形成、各分野における対策の強化、途上国に対する支援等のいずれの面においても、積極的に参加してきている。

 9月には、小泉総理大臣が国連首脳会合に出席した機会に核テロリズム防止条約に署名し、日本として今後とも積極的にテロ対策に取り組んでいく意志を内外に示した。また、日本は1月から国連安保理非常任理事国として、安保理の下部委員会であるテロ対策委員会(CTC)や対アル・カーイダ、タリバーン制裁委員会等の議論に貢献し、また、CTCの評価や支援調整機能改善に関する委託調査を米国のシンクタンクに行わせるなどテロ対策に関する効果的な取組を先導する役割を果たしているほか、CTAG等の多国間協力にも参画している。同時に、テロリスト等に対する制裁措置を定める安保理決議を誠実に履行し、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づいて、2005年末までの累計でウサマ・ビン・ラーディンをはじめとするアル・カーイダ関係者など合計500の個人と団体に対し、資産凍結措置を実施している。また、APECでは、11月に採択された閣僚共同声明に、紛失盗難旅券情報を国際刑事警察機構(ICPO)の関連データベースへ早期に提供開始するべきとの提案が、日本のイニシアティブで盛り込まれた。

 日本は、国際的なテロ対策協力への取組で、特に途上国等に対するキャパシティ・ビルディング支援を重視しており、主に東南アジア地域を重点として、政府開発援助(ODA)も活用した支援を継続、強化している。具体的には、(1)出入国管理、(2)航空保安、(3)港湾・海上保安、(4)税関協力、(5)輸出管理、(6)法執行協力、(7)テロ資金対策、(8)CBRN(化学、生物、放射性物質、核)テロ対策、(9)テロ防止関連諸条約(注14)、などの分野でセミナーを開催し、2005年は総計約355名の研修員を受け入れ、2002年のAPEC首脳会議で小泉総理大臣が表明したテロへの対処に関する日本のキャパシティ・ビルディング支援について、着実にフォローアップしている(注15)。また5月には、インドネシア国家警察の能力強化のための捜査・鑑識など関連機材の整備に対して、総額4.49億円の無償資金協力の供与を決定した。なお、2006年度予算では、途上国が経済社会開発に取り組む上で不可欠で、日本の安全にも直結するテロ・海賊等の治安対策への支援を一層強化することを目的として、総額70億円のテロ対策等治安無償支援の枠組みを新設した。また、日本が100万ドルを拠出しているアジア開発銀行(ADB)の「地域的貿易・金融安定化イニシアティブ(基金)」では、インドネシア、フィリピン、マレーシアに対するテロ資金対策関連プロジェクトが進められている。さらに、2004年12月10日に決まった「テロの未然防止に関する行動計画」も踏まえ、タイに対して文書鑑識指導者を派遣するとともに最新式の関連機材を供与して、出入国管理体制の強化を支援した。

 二国間レベルの取組としては、国際テロ対策担当大使を中心に、引き続き各国とテロ情勢やテロ対策協力に関する意見交換などを行っている。7月に東京でインドとの初の二国間テロ協議を実施したほか、9月にワシントンで日米豪テロ対策総合協議を開催、また、10月に東京で欧州連合(EU)と第2回日・EUテロ協議を開催した。11月には、プーチン・ロシア大統領の訪日の際に、日露間で「テロリズムとの闘いにおける協力の分野における行動プログラム」を作成した。さらに、12月、マレーシア・クアラルンプールで開催された日・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で、日本は、2006年の早い段階に日・ASEANテロ対策対話を開催することを提案し、ASEAN側と合意した。

 

▼日本の国際テロ対策協力

 COLUMN

インド洋上で活躍する自衛官

 テロ対策特別措置法(137ページ参照)に基づく協力支援活動等も5年目を迎え、海上自衛隊の艦艇延べ49隻、隊員延べ9,590名(2006年1月現在)が、この活動に従事してきました。インド洋方面においては、米国をはじめとする多国籍の海軍が、アフガニスタンのタリバーン政権崩壊後も作戦を継続しており、航行船舶や物資を厳しくチェックすることにより、多数の武器や麻薬を押収したり、テロリストを拘束するなど、テロとの闘いに着実な成果を上げております。海上自衛隊の派遣部隊は、これまで11か国の外国艦艇に対して燃料や真水などの補給を継続することにより、テロとの闘いという共通の目標に貢献してきた訳です。

 私は、第5次派遣部隊(護衛艦「こんごう」、同「ありあけ」、補給艦「はまな」)の指揮官として、平成15年4月から8月まで、活動に従事しました。その際、各国部隊の作戦を統制していた米国海軍の司令官はもとより、乗船検査活動を実施していたカナダ、ドイツの提督からも、心からの感謝を表明されたことを印象深く憶えております。これは、補給艦を継続的に派遣できる海軍が少ない中、海上自衛隊が乗船検査活動には直接従事せずとも補給活動の継続という役割を確実に遂行してきたことに対する感謝であったと受けとめております。

▲護衛艦「こんごう」上でのドイツ海軍ネルソン少将との記念撮影(写真前列右から2番目が筆者 写真提供:防衛庁)

 このことは、日本の国際テロ撲滅に取り組む姿勢を示すとともに日米安全保障体制の信頼性を高める重要な柱の一つとなり、さらには、その他の諸外国との間で安全保障面の連携協力を深め、もって、国際社会の安定と日本に対する信頼の向上に寄与することができたものと考えております。実際、東洋に位置する海上自衛隊が、欧米の海軍と、インド洋という互いに遠く離れた地域で連携し、その連携の輪にパキスタンというイスラム国家も参加しているという構図は、反テロの立場で軌を一にする諸国が、海洋での活動を通じて深くつながっていることを実感させるものでありました。

 陸上における対テロ掃討作戦のみならず、こうした多数の海軍の協力関係が、テロリストの活動を阻止・抑制し、もって人々がテロの標的になることを未然に防止するとともに、日本の経済活動に不可欠な主要資源供給国が集中する当該地域の安定に大きく寄与しているといえるでしょう。

執筆:(当時)第2護衛隊群司令 海将補 柴田 雅裕




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