3.地域安全保障
アジア太平洋地域では、政治・経済体制や文化・民族の多様性等を背景として、欧州における北大西洋条約機構(NATO)のような多国間による集団防衛的な安全保障機構は発達せず、米国を中核とした二国間の安全保障取極の積み重ねを基軸として地域の安定が維持されてきた。日本は、自国を取り巻く安定した安全保障環境を整備し、アジア太平洋地域の平和と安定を確保していくためには、この地域における米国の存在と関与を前提としつつ、二国間及び多国間の対話の枠組みを重層的に整備し、強化していくことが現実的で適切な方策であると考えている。
二国間の枠組みとして、日本は、ロシア、中国、韓国、インド等との間で、安全保障に関する対話や防衛交流を行い、相互の信頼関係を高め、安全保障分野における協力関係を進展させるよう努めている。
また、多国間の枠組みとして、日本はアジア太平洋地域の主要国が参加する全域的な政治・安全保障の枠組みであるARFを活用している。ARFは、(1)信頼醸成の促進、(2)予防外交の進展、(31)紛争へのアプローチの充実-という3段階のアプローチを設定して漸進的な進展を目指している。これまでの会合を通じて、参加国自身を当事者とする問題(朝鮮半島情勢、インドネシア情勢、ミャンマー情勢等)を含めて、率直に意見交換する慣習が生まれつつある。また、参加国が地域の安全保障に関する自国の情勢認識等を作成して、ARF議長国がとりまとめる「年次安全保障概観(ASO:Annual Security Outlook)」の刊行やテロ対策等の各種会合の開催等の具体的な措置を通じ、参加国間の信頼関係の醸成に大きく貢献している。第2段階である予防外交の進展についても具体的な取組に向けて議論されており、ARFはアジア太平洋地域における政治・安全保障に関する唯一の政府間対話と協力の場として、緩やかではあるが着実に進展している。7月に行われた第12回閣僚会合においては、25番目のメンバーとして東ティモールが新たに参加するとともに、朝鮮半島情勢、ミャンマー情勢等の地域情勢に関して意見交換がなされた。また、テロ対策、海上安全保障、大量破壊兵器の拡散問題及び地域の防災・災害対策の分野に協力して取り組むことの重要性が確認され、テロ対策等における情報の共有に関する声明が採択された。日本は具体的取組として、12月に東京で「海上安全保障のキャパシティ・ビルディングに関するARFワークショップ」を開催した。
ARFは「信頼醸成」から「予防外交」の段階に前進しているが、各国からARFが予防外交に本格的に取り組むためにはARFの機能強化が重要であることが指摘されている。日本は、ARF議長の役割強化のための仕組み(「議長フレンズ」制度:特定の案件につき、議長国をほかの特定国が補佐する仕組み)を設置すべきであること、ASEAN事務局内に設置された「ARFユニット」の構成を非ASEAN諸国にも開放する必要があることなどを提案している。
▼ASEAN地域フォーラム(ARF)
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