第2章 地域別に見た外交


1.ロ シ ア

(1)日露関係

(イ)北方領土問題と平和条約交渉

 日露間の最大の懸案である北方領土問題については、戦後60年を迎えた現在もなお、両国の立場に隔たりがある。日本政府は、日本固有の領土である北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結し、これにより日露関係を完全に正常化するという一貫した方針を維持しており、ロシア側との間で粘り強い交渉を続けている。


▼日ソ・日露貿易高の推移



  2005年は、11月のプーチン大統領訪日に向けて、1月に町村外務大臣がロシアを訪問、5月にはラヴロフ外相が訪日と相互訪問が行われ、領土問題に関する立場の隔たりを埋めるための真剣な議論が行われた。また、G8グレンイーグルズ・サミット、国連総会、APEC等の機会にも首脳、外相レベルの話合いが続けられた。その一方で、ロシア政府要人が相次いで北方四島を訪問し、9月には、プーチン大統領がロシアのテレビ番組で、四島はロシアの主権の下にある、このことは国際法によって確立されており、第2次世界大戦の結果である、この点について我々は議論するつもりはない旨発言 (注2) するなど、訪日を控えて領土問題に関する強硬な姿勢が見られた。これに対し、日本政府は、日本の一貫した立場を繰り返し表明して反論した。

 11月、約5年ぶりに訪日したプーチン大統領との首脳会談で、小泉総理大臣は、日ソ共同宣言 (注3) 、東京宣言 (注4) 、日露行動計画 (注5) 等のこれまでの諸合意及び諸文書は極めて重要かつ有効であり、これらに基づいて平和条約締結交渉を継続する必要があることを改めて強調するとともに、両国には四島の帰属の問題を解決して平和条約を可能な限り早期に締結すべきであるとの共通の認識があり、双方が受け入れられる解決を見いだす努力を続けていきたいと表明した。プーチン大統領は、平和条約が存在しないことが日露関係の発展を阻害しており、この問題を解決することは我々の責務であると表明した。両首脳は、これまでの様々な合意及び文書に基づき、両国が共に受け入れられる解決を見いだす努力を続けることで合意し、プーチン大統領から小泉総理大臣にロシア訪問の招待があった。

(ロ)日露経済関係

 日露の経済関係は、好調なロシア経済及び日本の民間企業の対露ビジネスへの関心の増大を背景に、引き続き拡大している。2005年の日露間の貿易高は約107億ドルに達し、昨年に続き、ソ連時代を含めて過去最高額を記録した。また、4月にトヨタ自動車がサンクトペテルブルク市に工場建設を決定するなど多くの日本企業がロシアに進出した。

 11月のプーチン大統領訪日の際には、両国の経済界の代表が参加する「日本・ロシア経済協力フォーラム」 (注6) が開催され、日露間の経済交流拡大の可能性につき意見交換が行われた。

 政府としても、民間企業の対露ビジネス上の問題点の是正につき、4月に東京において行われた貿易経済日露政府間委員会第7回会合等の政府間協議の場でロシアに対し働きかけてきたほか、日露貿易投資促進機構 (注7) を通じ、企業やビジネス慣行に関する情報の提供等、ビジネス支援活動を行っている。

 政府は、ロシア国内7か所の日本センターを通じて、経営関連講座、訪日研修、日本語講座等の技術支援を実施しロシアの経済改革を一貫して支援している。同センターは上記機構のロシア国内の日本支部としても活動している。

 エネルギー分野では、日本企業が参加する石油・天然ガス開発プロジェクトであるサハリン1・2プロジェクトが進展している。シベリアの原油を太平洋岸まで輸送する「東シベリア―太平洋」パイプライン・プロジェクトについては、11月のプーチン大統領訪日の際に、両首脳は、同プロジェクトの早期かつ完全な実現のための日露の協力について、2006年のできるだけ早い時期に政府間の合意を目指すことで一致し、この内容を盛り込んだ文書が署名された。これを受け、日露の専門家の間でそのための協議が行われている。


▼太平洋パイプライン地図


(ハ)様々な分野における日露間の協力

 2005年も「日露行動計画」に基づき、幅広い分野での協力が進められた。

 防衛・治安分野では、防衛庁の統合幕僚会議議長のロシア訪問(5月)、ロシア極東軍管区司令官の訪日(6月)、海上自衛隊艦艇のロシア訪問 (注8) 、ロシア国境警備庁長官の訪日(9月)、防衛庁長官のロシア訪問(2006年1月)等、活発な対話・交流が行われた。8月にカムチャッカ半島沖で発生したロシア海軍小型潜水艇の遭難に際しては、ロシア海軍の要請を受けて海上自衛隊艦艇が国際緊急援助隊として派遣された。また、刑事共助条約締結のための協議が2006年から開始されることになった。

 文化・国民間交流の分野では、2005年が日露修好150周年であることを踏まえ、各種記念事業が両国で行われた。日本では、4月に下田で政府主催記念式典が開催され、6月には両国の青年が同じ船に乗ってウラジオストク、函館、下田等、日露ゆかりの地を訪問する回航事業が行われた。また、地方自治体や民間団体により約120件の記念事業が行われた。

 11月のプーチン大統領訪日の際には、テロとの闘いに関する文書が両首脳間で署名されたほか、非核化協力分野で5隻のロシア退役原子力潜水艦解体事業の実施取決めが署名された。また、観光、情報通信技術、査証手続きの簡素化等、「日露行動計画」に基づく一連の実務分野での協力強化に関する文書が署名された。




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