第2章 地域別に見た外交


(1)EU情勢

(イ)欧州憲法条約の批准期限の延期

 欧州憲法条約は、2004年10月29日に各国首脳が署名したことを受け、2006年11月を目標期限として各国による批准手続きに入った。しかし、フランス(5月29日)とオランダ(6月1日)が国民投票で批准に反対 (注1) 、英国はこれを受けて国民投票を凍結した(6月6日)。

 6月16日の欧州理事会では、欧州憲法条約の取扱いについて協議され、 (1)批准手続きを継続する、(2)2006年11月の批准期限を延期する(新たな批准期限は設けず)、(3)オーストリア議長国の下(2006年前半)で再度協議する、(4)欧州憲法条約の再交渉は行わない、(5)今後の批准のタイミングについては各国にゆだねる、旨合意された。

 この合意を踏まえ、デンマーク、チェコ、アイルランド、ポルトガルが国民投票の実施を延期、一方でルクセンブルクは予定どおり国民投票を実施し(7月10日)、批准した。2005年12月までに13か国(リトアニア、ハンガリー、スロベニア、ギリシャ、スロバキア、ドイツ、スペイン、イタリア、オーストリア、ラトビア、キプロス、マルタ、ルクセンブルク)が批准している。

(ロ)拡  大

 2004年5月の第5次拡大 (注2) に続き、2005年も更なる拡大に向けての動きが見られた。ブルガリア、ルーマニアについては、4月にEU加盟条約が署名され、2007年1月の条約発効及びEU加盟を目標として現在、加盟各国による批准手続きが行われている。トルコについては、6月、欧州委員会が加盟国にトルコとの加盟交渉枠組み案 (注3) を提出、種々議論の末、10月3日のEU総務・対外関係理事会で枠組み案が採択され、交渉開始が決まった。また、クロアチアについても同理事会で交渉開始が決定、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国に対しては12月の欧州理事会でEU加盟候補国の地位を付与することが決まった。

(ハ)EU中期財政見通し

 EUでは、各年ごとの予算とは別に、予算の項目別の上限を定めた中期財政見通しがあり、現在は「アジェンダ2000」 (注4) (2000年~2006年)に基づき運営されている。

 6月の欧州理事会で、2007年から2013年の(EU加盟国が25か国になって初の)中期財政見通しが協議されたが、総額の水準や英国の還付金 (注5) の扱い等を巡り、加盟国間で意見が対立し、合意には至らなかった。12月の欧州理事会では、ブルガリア、ルーマニアの2007年EU加盟を前提とした中期財政見通しの総額が約8,623億ユーロ、EU加盟国の分担率はGNI比1.045%、英国への還付金は2007年から2013年の間で最大105億ユーロの削減となり、2008年から2009年に欧州委員会が共通農業政策及び英国への還付金を含めてEUの歳出と財源についての見直しを行い、報告することで合意した。

(ニ)経済情勢

 欧州経済は2005年後半から、対ドルでのユーロ安を背景とした輸出拡大や設備投資の回復により緩やかな回復が続いたが、2004年後半から2005年前半にかけて低成長が続いたため、2005年通年の成長率(前年比)は、ユーロ圏で1.3%、EU25か国で1.5%にとどまる見通しである。また、ユーロ圏の失業率は、2004年に8.9%まで増加したが、2005年は依然として高水準ながらも8.6%まで低下する見込みである(EU25か国は8.7%)。

 ユーロ圏に回復基調が定着する中、12月に欧州中央銀行は、原油価格高騰の消費者物価への影響等、中長期的な物価安定に対する上方リスクを考慮し、緩和的な金融政策を調整するため、2003年6月以来据え置かれていた主要政策金利を0.25%引き上げ2.25%とした。一方、英国では、2003年半ばから2004年にかけて実施された政策金利引上げの結果、2005年に個人消費の減速が顕在化し、8月に政策金利を0.25%引き下げ4.5%とした。

 安定成長協定の下、EU加盟国は財政赤字を対GDP比3%以下に抑えるなどの財政規律の遵守が義務付けられているが、ドイツ、フランス、イタリア、ポルトガル等の多数の加盟国がGDP比3%を上回る過剰財政赤字状態にある。こうした状況を受けて、3月には過剰財政赤字を予防する措置を強化しつつ、協定の運用措置を柔軟化するため、協定の見直しが行われた。

 ユーロの対ドル相場は、米国との成長率格差や金利差等を背景に年初から下落基調にあり、ユーロ圏の輸出競争力の改善に作用した。なお、2004年5月に新規加盟した10か国は総じてユーロの早期導入を望んでおり、チェコ、ポーランド、ハンガリーを除く7か国は既にユーロ導入の基準の一つである為替相場メカニズム(ERMⅡ) (注6) に参加していることから、すべての基準を満たした加盟国によるユーロ導入が、早ければ2007年から始まると見られている。




<< 前の項目に戻る 次の項目に進む >>