第2章 地域別に見た外交 |
(4)米国経済
米国経済は2000年から2001年にかけて、ITバブル崩壊に伴う景気後退や米国同時多発テロ事件の影響により一時期マイナス成長を記録したが、2003年第2四半期以降は雇用の改善を背景とした堅調な個人消費、循環的な回復力を強める民間設備投資の持続等により、10四半期連続で年率3%以上の成長を記録している。現在、景気は拡大基調であると見られており、今後も3.5%前後の成長が続くとの見方が一般的である。なお、当初心配されていた2005年8月と9月のハリケーン被害が米国の経済成長に及ぼす影響は、予想に比して軽微であったとの見方が大勢を占めている。 ブッシュ政権は2001年9月の同時多発テロ発生以降、大規模な減税を中心とした一連の景気対策を実施している (注3) 。また、2005年には、ハリケーン被災地支援のため、二次にわたる計約623億ドルの補正予算及び被災者向けの減税約61億ドルが決定された。 金融面では、連邦準備制度理事会(FRB)が2004年6月、堅調な個人消費や設備投資を受け、約4年ぶりに金利引上げを実施して以降、計13回の引上げを経て、2005年末のフェデラルファンド(FF)レートは4.25%まで上昇している。なお、2006年1月末にグリーンスパンFRB議長が退任し、大統領経済諮問委員会委員長のバーナンキ氏が就任した。 今後の米国経済における最大の懸念材料は、近年増加傾向にある財政収支と貿易収支の赤字(いわゆる「双子の赤字」)の存在である。市場では、この「双子の赤字」問題の再燃が、金利急上昇や為替調整圧力(ドル安)の高まり、消費者購買意欲の低下等の問題を引き起こす可能性が指摘されており、危機感が強まっている。ドルの急落と長期金利の上昇が起これば、株式市場の動揺等につながり、世界経済の波乱要因となりかねないとの懸念も聞かれる。また、エネルギー価格の動向とFRBによる金利引上げの影響についても、引き続き注視する必要がある。 貿易面では、2005年の商品貿易赤字は7,668.17億ドル(前年比17.8%増)に達している。このうち対日赤字は前年比9.4%増の826.82億ドルと過去最大を記録した。対中赤字は前年比24.5%増の2,016.26億ドルと4年続けて過去最大を更新している。中国は米国貿易赤字の4分の1を占め、6年連続で国別赤字額の最大国となった (注4) 。 財政面では、2005会計年度(2004年10月~2005年9月)の財政赤字は、前年度比22.9%減の3,183.46億ドル(対GDP比2.6%)となった。財政赤字は4年連続となったが、景気拡大に伴う税収増から赤字額は前年度比で大幅に減少した。ブッシュ大統領は2009年までに財政赤字を2005年度の当初見込み5,210億ドルから半分にすると公約しているが、所得税減税等の恒久化が予定されていることや、イラクとアフガニスタンでの活動のための補正予算の編成が確実視されていること、メディケア処方薬給付の増加や戦後ベビーブーム世代の高齢化で社会保障費用の急増が予想されていることなどから、財政収支改善にとって否定的な要因が存在することには留意する必要がある。 雇用情勢については、2005年12月時点で31か月連続の雇用者数増加を記録しており、堅調さを維持しているとの見方が強い。なお、2005年通年では約198万人の雇用が創出(月平均約16.5万人増)された。 通商政策に関しては、ブッシュ政権は自由貿易の推進を主要政策課題として掲げ、WTOにおける通商交渉を積極的に進めると同時に、FTA締結を促進しており、2005年中に中米自由貿易協定(CAFTA)の国内批准手続きを完了し、バーレーンとのFTAに署名、またオマーンとのFTA交渉を終えた。さらに、貿易促進権限(TPA)の期限である2007年7月1日を念頭に、現在交渉中のFTAの早期締結を目指すのみならず、韓国やASEAN諸国、中東諸国等とのFTA交渉開始も検討している。今後も米国のFTAを巡る動きが日本経済や各地域経済、さらには世界経済全体に与える影響を注視していく必要がある。 |
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