第3章 分野別に見た外交


人間の安全保障
<人間の安全保障委員会報告書と人間の安全保障諮問委員会>
 日本は、「人間の安全保障」の視点を重視して外交を推進しており、「人間の安全保障」が従来の安全保障概念を補完するものとして定着し、2003年5月にアナン国連事務総長に提出された人間の安全保障委員会最終報告書(注1)の提言を踏まえた取組が実践されるよう活動している。また、人間の安全保障委員会報告書のフォローアップ、「人間の安全保障」概念の普及、及び人間の安全保障基金の方向性の指示を目的として設置された人間の安全保障諮問委員会(緒方貞子JICA理事長が議長)への支援を行っている。
 人間の安全保障基金は、1999年に日本政府からの拠出を得て国連事務局に設置されて以来、国連関係機関の援助プロジェクトに資金を供与してきている。同基金に対して、日本は2004年度には約30億円を拠出し、拠出累計が約290億円となった。また、人間の安全保障委員会の提言がより効果的に基金の事業によって実現されるようにガイドライン(注2)の改訂が行われた。具体的には、プロジェクトの実施に際しては、複数の国際機関やNGOが参画し、相互に連関するより広い地域・分野を視野に入れることや、紛争から平和への移行期において継ぎ目のない支援を実施するために人々の能力を強化し、人道支援と開発支援の連携を図ることなどに配慮することが新たに盛り込まれている。日本としては、こうしたガイドラインに従って、今後、スリランカ、アフガニスタン等の復興支援を積極的に支援していく予定である。
 近年は、国際舞台の様々な場でも「人間の安全保障」の考え方が取り上げられている。2004年には、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)総会「上海宣言」(4月)、第2回アジア・太平洋HIV/AIDS閣僚会議の閣僚共同宣言(6月、於バンコク)、第12回アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議(11月、於サンチャゴ)、同閣僚共同宣言において「人間の安全保障」の文言が盛り込まれている。
 人間の安全保障ネットワーク(注3)は、カナダが中心となって1999年の設立以来活動を行っているが、同ネットワークの閣僚会合が2004年6月にマリで開催された際、日本もオブザーバーとして出席した。2005年の同ネットワーク議長国はカナダが務めることとなっているが、日本は、2005年1月のマーティン・カナダ首相の訪日の際に「平和及び安全保障に関する協力のための日加計画」を発出するとともに、「人間の安全保障」について日加両国間で対話を行っていくことに合意した。
 日本のODA政策においては、2003年に改定されたODA大綱に従い、「人間の安全保障」の視点を重視してきており、特に「草の根・人間の安全保障無償資金協力」にはこの考え方を強く反映させている。



▲ベトナムで若者の家(「人間の安全保障基金」案件)を視察する松宮勲外務大臣政務官(7月)


 



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