第3章 分野別に見た外交


【各論】
<メキシコ>
 メキシコは世界第10位の経済規模を有しており、これはASEAN10か国の合計を上回っている。こうした中で、日本とメキシコとの間でEPA/FTAが存在しないことにより、メキシコとFTAを締結している米国やEU等の企業に比べ日本企業は相対的に競争上の不利益を被っていた。こうして、WTOによるグローバル・ルールと地域取極によるリージョナル・ルールの狭間を如何に埋めるかという命題に直面した日本にとり、二国間の経済連携強化へ向けた枠組み作りが急務となった。2002年10月の首脳会談の際に、日・メキシコEPA締結に向けた交渉を開始することで合意したことを受け、翌11月より政府間交渉が開始され、2004年3月には大筋合意に達したことが確認された。その後も引き続き署名に向けた最終的な交渉が行われ、同年9月17日に、小泉純一郎総理大臣がメキシコを訪問した際、フォックス・メキシコ大統領との間で本協定への署名が行われた。本協定は既に日・メキシコ両国の国会承認を得ており、2005年4月1日に発効する予定である。本協定により、日本の産業界が被る相対的不利益が解消されると共に、他国・地域と積極的にFTAを結ぶメキシコが日本の産業界にとり南北アメリカ市場への進出拠点となることが期待される。

<東アジア諸国とのEPA締結の意義>
 グローバル化が急速に進む中で、従来の「国家」を単位とする国際経済関係は性格を変え、国民と国民が直接関わり合う、いわば面と面が重なり合うような経済・社会の実態が生じている。こうした動きは、日本と東アジア諸国との間で顕著であり、深い相互依存関係が生じている。例えば、東アジア諸国との貿易は日本の貿易の約4割を占め、また、日本企業は東アジア地域に極めて大きな投資を行い、国際的分業体制を確立し、投資は今後とも増加していくと見られる。他方で、東アジア諸国においては、高関税、サービス・貿易分野における障壁、知的財産や競争政策などのルールの不備といった問題も見られる。このような東アジア諸国と幅広い分野を包含した、質の高いEPAを結ぶことにより得られる利益は大きく、また、日本を含む東アジア諸国の経済発展や、東アジア地域全体の安定に貢献することとなる。このような観点から、東アジア諸国との経済連携を強化するためのリーダーシップをとっていくことは、日本にとって戦略的に特に重要であるといえる。

経済連携協定とは?

 特定の国・地域の間で、関税等を撤廃し、モノやサービスの貿易の自由化を図ることを目的とした協定を自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)といいます。また、現在日本が取り組んでいる経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)は、自由貿易協定の内容を基礎としながら、投資や、例えば看護師や介護労働者といったヒトの移動を促進させたり、政府調達※1、競争政策※2、知的財産などの分野でのルールづくり、さらには様々な分野での協力を通じて、各種経済制度の調和等を図るなど、より幅広い対象分野について経済関係の強化を図ることを目的とした協定です。
 では、EPAを締結することにより、どのような効果が得られるのでしょうか。日・メキシコEPAを例にとって考えてみます。
 メキシコとEPAを締結するメリットは、大きく分けて次の3つがあります。1)メキシコは、世界第10位のGDP(ASEAN10か国と同規模)を有する重要な貿易・投資相手国ですが、日・メキシコEPAを通じて、双方の輸出入の総額の約96%が無税となることにより、こうしたメキシコ市場へのアクセスが拡大します。2)米国、カナダ、中南米諸国等と積極的にFTAを結んでいるメキシコとFTAを結ぶことにより、メキシコが南北アメリカ市場への進出拠点(ゲートウェイ)となります。3)メキシコと既にFTAを締結している米国、EUに比べて、日本の産業界は相対的に不利益を被っており、その不利益が解消されます。
 このように、EPAは双方の国内に大きなメリットをもたらす一方、双方の既存の産業構造や規制の枠組の変更・変革を求めて市場開放を迫る性質のものであることから、交渉を通じて合意に到達するためには、時としてそれに伴う痛みが生じることがあることも事実です。EPA交渉を進めていく上では、構造改革を通じてこうした困難を乗り越え、将来の成長に結びつけていくことが大切になります。

※1 政府調達とは、政府機関が購入、借入等の方法を通じて物品やサービスの調達を行うことを意味する。メキシコの政府調達市場においては、メキシコ及びメキシコとのFTA締結国の企業しか入札できない案件が存在するなど、入札制度上、日本企業は競争上の不利益を被っていたところ、こうした不利益の解消が求められていた。
※2 競争政策とは、企業間の公正で自由な競争を促進する政策を意味する。経済連携協定においては、相手国との間で、貿易・投資の障壁となる反競争的行為(輸入カルテル、不当な排他的取引慣行等)を効果的に規制するために協力していくことが重要な課題となっている。

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<東アジア諸国との交渉の経緯>
 フィリピンとの間では、2003年12月の日・ASEAN特別首脳会議の際に開催された二国間首脳会談において、EPA交渉の開始が決定された。2004年2月の第1回交渉会合以降、5回の交渉会合と多数の分野別会合が行われ、その結果、11月29日にラオスにて行われた小泉総理大臣とアロヨ・フィリピン大統領との首脳会談において、本協定の主要点について大筋合意に達したことが確認された。今後、できるだけ早期の署名に向けた交渉が進められることとなる。
 タイ、マレーシアとの間では、2003年12月の日・ASEAN特別首脳会議の際に行われた二国間首脳会談においてEPA交渉開始が決定されたことを受け、2004年1月からマレーシアと、2月からタイとそれぞれ交渉が開始された。以降、おおむね2ヶ月に一度の交渉会合のほか、多数の分野別会合が開催されており、フィリピンとの大筋合意も弾みとし、早期の合意を目指して交渉に取り組んでいる。



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 韓国との間では、2003年10月に開催された日韓首脳会談において、両国政府は2003年中にFTA締結交渉(注13)を開始し、2005年内に実質的に交渉を終えることを目標とすることで意見が一致した。同年12月の第1回交渉会合以降、約2ヶ月に1度交渉会合が開催され、また、2004年7月及び12月に開催された日韓首脳会談の際には、両首脳間で2005年中の実質的な交渉終了を目標とすることが改めて確認された。
 インドネシアとの間では、2003年9月から2回の予備協議を開催している。2005年1月に行われた町村孝外務大臣とカッラ・インドネシア副大統領との会談の際、4月までに3回の「共同検討グループ」会合を開催し、二国間のEPA交渉開始の必要性等につき結論を出すことで一致した。
 上記の東アジア各国との二国間交渉に加え、ASEAN全体との間では、2003年10月に、日本とASEANの首脳間で署名された「日・ASEAN包括的経済連携の枠組み」を受け、日ASEAN包括的経済連携委員会(AJCCEP)(注14)において日本とASEAN全体の経済連携の具体的なあり方を含め、協議が重ねられた。その結果、2004年11月30日にラオスのビエンチャンで行われた日・ASEAN首脳会議において、2005年4月からの交渉開始が決定された。日本とASEANとの間で包括的経済連携協定が締結されることにより、日・ASEAN間の貿易や投資の更なる増加を通じた経済関係の深化が期待される他、ASEAN諸国の経済の発展にも貢献することが期待される。

<その他>
 日中韓三国間では、近年の三国間の直接投資の急速な伸び(注15)及びその意義に鑑みて、2003年10月の日中韓首脳共同宣言において、将来におけるより緊密な経済連携の方向性を探求するとともに、三国間投資取決めのあり得べき形態に関する産官学の共同研究を立ち上げることが謳われた。共同研究の報告書は、2004年11月末にラオスにて開催された日中韓外相三者委員会及び日中韓首脳会議に報告され、三国は、三国間の投資促進(注16)を図るための法的枠組みについて、さらに検討を深め、また、共同研究において早期導入が合意されたビジネス環境改善に関する措置の実施状況を確認し、必要に応じた追加的改善措置を検討するための政府間メカニズムを立ち上げることを決定した。また、この日中韓首脳会議においては、2001年から三国の民間研究機関により実施されている三国間の経済協力の強化に関する共同研究の報告書が併せて提出された。
 チリは、太平洋地域の友好国であり、中南米において民主主義の定着、経済の近代化に最も成功した国である。さらに、チリは、銅をはじめとする重要な鉱物資源の供給国でもある。そのようなチリとの間では、2004年11月の首脳会談においてEPA/FTA産官学共同研究会の立ち上げが決定された。
 巨大市場としての潜在力を有するほか、地政学的重要性や国際世論形成への強い影響力等を有するインドとの間でも、2004年11月の首脳会談において、経済関係の強化のあり方について包括的な観点から協議するための枠組みとして「日印共同研究会」の立ち上げが合意された。「共同研究会」は、日印関係の経済的潜在性に鑑み、投資・貿易関係を含め、包括的な観点から経済関係の現状を見直し、問題点や将来の重点分野を洗い出すことにより、今後の具体的方策や行動計画をまとめることを想定している。



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