第3章 分野別に見た外交 |
2 経済連携協定の推進
【総論】
2004年9月17日、日本にとってシンガポールに続き2件目となる経済連携協定(EPA)がメキシコとの間で署名された。また、11月29日には、日本とフィリピンの首脳間で、日・フィリピン経済連携協定の主要点について大筋合意に達したことが確認された。現在、日本はフィリピンの他に、タイ、マレーシア、韓国とも、経済連携協定締結に向けた交渉を行っており、2005年4月にはASEAN全体との交渉も開始する予定である。さらに、インドネシアとの間でも二国間EPA交渉を視野に入れた「共同検討グループ」を立ち上げ、協議していくことで一致している。
なぜ、日本は現在、EPA/自由貿易協定(FTA)に積極的に取り組んでいるのか。
WTOを中心とする多角的自由貿易体制の強化・発展は、確たるグローバル・ルールの下で日本の経済的な繁栄を確保する上で引き続き重要である。その一方でWTOは、加盟国数の増加、取り扱う分野の多様化によって交渉が複雑化し、新たな課題やルールの策定に迅速に対応する時に困難に直面することもあると指摘されている。換言すれば、WTO体制はグローバル・ルールの根幹として各国が一つのルールを拠りどころとする基本であるが、さらにこれを補完するものとして、WTOで実現できる範囲を超えた、あるいは、WTOでは取り扱われていない分野における連携を強化する手段としてEPA/FTAを推進する意義は大きい。
また、近年、単に経済面のみならず、政治面においても地域的な連携の強化が進んでいる。日本も、東アジア共同体の形成に向けた積極的な貢献にみられるように、東アジア諸国との関係の一層の緊密化へ向けた取組を進めている。EPAは、東アジア共同体の構築に向けた重要な機能的協力の一つであり、政治・外交戦略上、日本にとって有益な国際環境を形成することに資するものである。このように、EPAの推進は経済的効果にとどまらない、より深化した対外関係の構築にもつながるものである。
このような経済面及び政治面双方において意味のあるEPAを実現するためには、双方にとり有益な質の高い協定を目指す必要がある。その中には、日本及び相手国にとって必ずしも容易でない課題も想定される。例えば、国内産業への配慮により関税が残されている産品があるが、EPA/FTAの締結には実質上すべての貿易について関税等を撤廃することが求められる。したがって、こうした産品についても関税を撤廃する必要が出てくるため、そうした産業は競争力を高めるための構造改革に一層強力に取り組む必要がある。一方、交渉相手国に対しても、EPA締結による貿易・投資の自由化は、長期的には利益をもたらすことを説明すると共に、相手国の国内構造改革を促し、支援していくことが必要である。
一方で、現在、世界各国から日本とのEPA/FTA締結について関心が表明されている。日本は、現在進行中の東アジア諸国とのEPA交渉に全力を傾注する一方で、その他の国・地域とのEPAについても主体的に検討していく必要がある。その検討の指針として、2004年12月の経済連携促進関係閣僚会議において、「今後の経済連携協定の推進についての基本方針」が決定された。この基本方針では、交渉相手国・地域の決定に関する基準として、大別して、1)日本にとり有益な国際環境の形成、2)日本全体としての経済利益の確保、3)相手国・地域の状況、EPA/FTAの実現可能性の3つの視点が挙げられ、これらを総合的に勘案するものとされている。今後、日本はこうした基本方針に沿って交渉相手国・地域を選定しつつ、引き続きEPAを積極的に推進していく。
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