第3章 分野別に見た外交


【主要分野の概観】
<農業>
 新ラウンド交渉に先駆けて交渉が開始された農業については、より歪曲的でない貿易の実現を目指し(注4)、交渉が行われている。日本は、農業の多面的機能や食糧安全保障などの非貿易的関心事項に配慮しつつ、市場へのアクセス以外にも国内の補助金及び輸出補助金なども含めたバランスのとれた成果を目指して交渉に臨んできた。2004年7月の枠組み合意においては、全ての輸出補助金の撤廃が合意されるなど、議論が大きく前進した。今後も厳しい交渉が予想されるが、分野横断的なバランスや食糧純輸入国と輸出国の立場の違いの反映をはじめ、日本にとって望ましいバランスを維持した最終合意に向けて、取り組んでいく。

<非農産品市場アクセス交渉>
 本交渉分野は、農産品以外の鉱工業製品や林水産品の関税・非関税障壁を如何に軽減していくかが対象である。現在、7月枠組み合意に沿って関税削減方式(フォーミュラ)(注5)、分野別アプローチ等の事項(注6)、あるいは途上国に対する特別かつ異なる取り扱いをどうするかという論点などの主要な課題を中心に、より「野心的な」成果を目指す先進国及び一部途上国と、途上国配慮を重視する途上国との間で意見が対立している。鉱工業品に競争力を有する日本としては、この交渉分野を重視しており、実質的な市場アクセスの改善につながる成果が得られるよう今後も交渉を行っていく。

<サービス>
 2004年7月枠組み合意において、2005年5月末までに各国が改訂オファー(注7)を提出するという新たな日程が合意され、減速していたサービス貿易交渉の前進に弾みをつける動きがあった。その一方で、2003年3月末に提出期限であった初期オファーの提出数は、加盟国148か国・地域のうち未だ69か国・地域(2004年12月末現在)にとどまっている(日本は期限内に提出済)。日本としては、WTO交渉において、農業や非農産品分野といったその他の市場アクセス分野と共にサービス貿易を重視しており、初期オファー未提出国への早期提出の働きかけ、質の高い改訂オファーの提出の実現などを通じて、サービス貿易交渉が進展するよう努力していく。

<その他の課題>
 ドーハ開発アジェンダでは農業、非農産品市場アクセス、サービスのほか、アンチダンピング(AD)や補助金に関するルール交渉、環境、TRIPS(注8)、DSU(注9)の改正交渉、実施等が交渉対象となっている。また、税関手続きの簡素化などを目的とした貿易円滑化交渉が、新しく7月枠組み合意において議題に加えられた。

<今後の交渉>
 このように、WTOの新ラウンド交渉の分野は多岐にわたる上に加盟国の立場も異なるため、困難な交渉である。しかしながら、多角的貿易体制の確立こそが世界の安定的かつ均衡ある発展につながる道である。このような認識の下、今後も日本の現状と将来に向き合いつつも、日本の国益と、国際貿易の現状にとってプラスとなるような制度の構築に向けて努力しなければならない。

<WTOの下での紛争解決制度>
 WTOの紛争解決制度は、GATT時代に比べ、加盟国によって積極的に利用されており、1995年1月のWTO設立以来、2004年12月末までに324件(協議要請件数)の紛争案件がWTO紛争解決制度に持ち込まれている(1948年~1994年のGATTの下では314件)。
 WTOの中立かつ公正な紛争解決制度は、多角的自由貿易体制に安定性と予見性を与える柱として機能しており、日本も積極的にこの制度を利用してきている。例えば、2004年は、「米国のバード修正条項」(注10)に関し、米国がパネル・上級委員会勧告を履行していないことから、日本は、WTOに対し対抗措置の申請を行いこれが承認された。また、米国が日本に対して申立てを行った「日本の検疫措置(リンゴ火傷病)」(注11)については、日本の検疫措置のWTO協定違反を指摘する上級委員会報告が発出され、それを受けて緩和した日本の検疫措置の内容について現在パネルにおいて再度審議されている。なお、2004年に米国が中国のIC(集積回路)に関する増値税(付加価値税)問題(注12)について、WTOの紛争解決制度を利用して問題解決を図ったが、これは、中国が初めてWTO提訴された事案として注目されている。

 



テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む