第3章 分野別に見た外交 |
3 テロ対策
【総論】
2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、国際社会にとって、アル・カーイダやジュマ・イスラミーヤ等の国境を越えて活動するイスラム過激主義団体によるテロへの対策が最優先で取り組まなければならない課題となっている。米国同時多発テロ発生直後から、国連やG8の多国間、APECなどの地域協力等の場において、また、二国間でも首脳や外相レベルでテロに関する宣言や声明が発出され、テロ対策の緊急性・重要性に対する政治的意思の形成が進み、実質的にも国際社会全体としてテロ防止関連12条約(注11)の批准が加速している。テロ直後の2001年10月には、米軍等は米国同時多発テロの実行犯組織であるアル・カーイダの本拠地であったアフガニスタンのテロリスト訓練キャンプの破壊、情報や資金ルートの分断等を行った。その後も世界各地でアル・カーイダのメンバーの摘発・拘束が継続的に行われ、これまでに主要幹部全体の4分の3あまりが殺害・拘束されたと言われている。さらにテロ資金対策や大量破壊兵器のテロ団体への拡散等の防止についても、関連する安保理決議やPSI(注12)等により、取組が進展している。加えてテロ対処能力が不足している途上国に対する能力向上のための支援(キャパシティ・ビルディング支援)も行われている。このように、国際社会は、幅広い分野において国際協調を進め、テロとの闘いにおいて着実に成果を上げている。
しかし、2004年を通じ、ロシア・モスクワ市地下鉄での爆弾テロ事件(2月6日)、スペイン・マドリードにおける列車同時爆破テロ事件(3月11日)、サウジアラビア東部アル・コバルの外国人居住区襲撃テロ事件(5月29日)、トルコ・イスタンブールにおけるホテル連続爆破テロ事件(8月10日)、ロシアにおける飛行機での連続爆弾テロ事件(8月24日)、ロシア・北オセチアにおける学校占拠事件(9月上旬)、インドネシア・ジャカルタにおける豪大使館前爆弾テロ事件(9月9日)、サウジアラビア・ジッダにおける米国総領事館襲撃テロ事件(12月6日)など、また、2005年になってもフィリピン・マニラ等における連続爆弾テロ事件(2月14日)が発生するなど世界各国でテロ事件が頻発しており、国際テロの脅威は、日本企業や旅行者・在留邦人が多く存在し、政治、経済、社会全般にわたり関係の深い東南アジア地域を含め、依然として深刻である。さらに、ウサマ・ビン・ラーディン等アル・カーイダ幹部名による、イスラム教徒に聖戦(ジハード)を呼びかける内容の声明が中東の衛星放送局等を通じて繰り返し出され、その中には日本への言及も見られる(注13)。
国際テロリストは、高度に発達した情報通信技術や国際交通網等の現代社会の特性を最大限利用し、国境を越え、ネットワークをはりめぐらせて、資金や武器等の調達を行うとともに、インターネット等を用いて自らの影響力拡大を図っている。こうした状況下において、テロ防止のためには、国際社会が一丸となってテロに対する断固とした姿勢を示すとともに、テロリストに活動の拠点を与えないこと、資金・武器等テロを実行するための手段を持てないようにすること、テロの標的となりうる施設・機関等の脆弱性を克服すること、また、テロ対策能力の不足している途上国に対して支援を行うことが重要となっている。具体的には、これまでも行われている、テロリストを厳正に処罰するための国際的な法的枠組みの強化、テロ資金対策、交通保安体制の強化、出入国管理の強化、大量破壊兵器等の不拡散といった幅広い分野における取組を継続、強化していくことが必要である。
さらに、テロは国家及び国民の安全上の問題のみならず、投資・観光・貿易等に対する影響を通じ、一般市民の経済生活にも重大な影響を与えうる問題であり、我々一人一人がテロを市民生活に対する挑戦として捉え、テロの防止のために協力する必要がある。日本は、いかなる理由をもってしてもテロを正当化することはできず、断じて容認できないとの立場から、テロを自らの安全確保の問題と捉え、引き続き国際社会と協力して積極的にテロ対策を強化していく考えである。
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