第3章 分野別に見た外交


【在日米軍の駐留に関する諸問題】
 日米安保体制の円滑かつ効果的な運用のためには、在日米軍の活動が施設・区域周辺の住民に与える負担を軽減し、米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ていくことが重要である。
 特に、在日米軍施設・区域の約75%が存在する沖縄県の県民の負担を軽減することが重要であることについては、日米首脳会談、日米外相会談等の累次の機会に確認されている。
 日本政府は、1996年12月に取りまとめた沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告(注4)の着実な実施に取り組んでおり、今後も引き続き沖縄の負担軽減に努めていく考えである。そのうち、普天間飛行場の移設・返還については、日本政府は、1999年末の閣議決定「普天間飛行場の移設にかかわる政府方針」(注5)に基づき取組を進めており、2004年には環境影響評価方法書の公告・縦覧(注6)、現地技術調査の一部であるボーリング調査(注7)への着手等が行われた。



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 2004年8月13日、沖縄県宜野湾市において、米海兵隊CH-53Dヘリが墜落した。この事故を受け、日本政府は、事故の原因を究明し、再発を防止し、また、事故現場での日米両当局の対応に関し指摘された様々な問題に対処するため、関係省庁が緊密に連携して対応にあたった。事故原因の究明・再発防止については、日米合同委員会の事故分科委員会にて、日本側も関与した形での取組が行われ、2004年10月5日、事故原因は整備ミスによるものであるとする事故調査報告書が米国側から提出された。また、事故現場における日米両当局の対応については、「事故現場における協力に関する特別分科委員会」を日米合同委員会の下に新設し、事故現場の共同統制や検証のあり方に関して、継続的に協議を行ってきている。
 施設・区域周辺の住民の負担を軽減すべく、政府が取り組んでいる日米地位協定の運用の改善に関しても、国民の目に見える形で、一つ一つ成果を上げていくことが重要であるとの考えに立ち、具体的な取組を進めてきている。日米地位協定の下での刑事裁判手続について、2003年6月以降行われてきた日米交渉の結論として、2004年4月、日米間の捜査協力の強化などに関する日米合同委員会合意を作成し、一定の場合について米軍の代表者が日本側当局による被疑者の取調べに同席することが認められることとなった(注8)。また、在日米軍施設・区域に関係している環境問題については、2002年8月に発表された米国防省の方針に基づき(注9)、2003年8月に引き続いて、2004年4月、その時点で使用済みとなっていたポリ塩化ビフェニル(PCB)含有物質すべてが米国に向け搬出された。
 SACO案件以外の在日米軍施設・区域についても、整理・返還に向けた取組は着実に行われている。2003年2月以降、日米間で協議を行ってきた神奈川県内の在日米軍施設・区域の整理等に関し、2004年9月、横浜市内の6施設・区域の返還に向けた具体的な道筋について、「池子住宅地区及び海軍補助施設」(横浜市域)における住宅等の建設と併せ、日米間で一致した。
 2004年は、災害支援、人道支援のために在日米軍に属する部隊が様々な場で活躍した。2004年10月に発生した新潟県中越地震では、在日米軍輸送機が在日米軍により提供されたビニール・シート1万枚と、東京都及び横田飛行場周辺5市1町からの支援物資を横田飛行場から新潟空港まで空輸した。また、2004年12月には、台風などによって大きな被害(注10)を受けたフィリピン政府の要請を受け、在日米軍に所属する部隊が人道支援物資等の輸送にあたった。さらに、2004年末に発生したスマトラ沖大地震及びインド洋津波被害に対しても、在日米軍に所属する部隊が救援活動を行うために派遣されている。

「日米地位協定」~刑事裁判手続きの運用改善~

 米軍人や米軍に勤務している米国籍の文民である軍属が公務外で罪を犯し、日本の警察当局が被疑者の身柄を確保した時には、日本の警察当局は、これを引き続き拘禁できることとなっています。これは、被疑者が一般の日本人である場合と同様です。一方、日米地位協定は、米国側が被疑者の身柄を確保した時には、日本側が起訴する時まで米国側が被疑者を拘禁すると定めています。
このように、派遣国側(米国)が被疑者の身柄を確保した場合に受入国側が起訴する時点まで派遣国側(米国)が被疑者を拘禁するという枠組みは、北大西洋条約機構(NATO)の諸国間で締結されているNATO地位協定と同じですから、身柄の引渡しのタイミングについては、他の地位協定と比較しても、日米地位協定の規定は決して受入国である日本にとって不利になっているわけではありません。また、米国側は、自らが被疑者を拘禁している間、日本の警察当局による捜査活動に対して全面的な協力を行っています。ちなみに、米国が韓国と締結している米韓地位協定では、被疑者の韓国側への身柄の引渡しが起訴時に行われるのは、12種類の凶悪な犯罪の場合に限られており、それ以外の犯罪については起訴され、判決が確定した後になっています。
 さらに、日米両国間では、1995年に沖縄県で発生した少女暴行事件を受け、殺人または強姦という凶悪な犯罪の場合には、被疑者の身柄を起訴より前の段階で引き渡すよう日本側が米国側に対し要請できる仕組みを作りました。この合意(刑事裁判手続に関する日米合同委員会合意)に基いて、起訴前に身柄の引き渡しが3回実現しています。このように受入国が被疑者の身柄の引渡しを起訴前に要請できる仕組みに基づいて何度も実際に起訴前の身柄引渡しが行われている地位協定は、日米地位協定以外にはありません。この点で、むしろ日米地位協定は他の地位協定と比べてもっとも受入国側に有利であると言えます。また、2004年4月2日の日米合同委員会では、日米間の捜査協力の強化等に関する合同委員会合意が作成されるなど、日米間の運用改善に向けた取組が進んでいます(内容については本文参照)。

このほか、日米地位協定のQ&Aについては、外務省ホームページでも掲載されています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/qa.html を参照。)

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