第1章 概観


【日本外交の基本方針】
 現在、日本は、外交政策の推進にあたって日米同盟と国際協調を外交の基本として位置づけ、アジア太平洋地域の平和と繁栄を目指すとともに、日本にとって望ましい国際秩序を形成しようと外交努力を積み重ねてきている。中でも、国際的な平和協力の分野での日本の取組の発展ぶりは顕著である。1991年の湾岸戦争での日本の貢献が、国際的には必ずしも十分に評価されなかった経験を踏まえ、日本は、国際平和協力の分野での貢献を十全に実施できるよう、国際平和協力法をはじめとした法整備を含め国内の体制を整えてきた(注6)。最近では、国際的な平和協力は急速に進展し、特別の法律に基づいて、現在、アフガニスタンにおけるテロとの闘いへの支援の一環としてインド洋に自衛隊艦船等を派遣している(テロ対策特措法)ほか、イラクの復興支援のためにイラクに自衛隊の部隊を派遣し(イラク人道復興支援特措法)、給水、医療、公共施設の復旧、整備等の人道復興支援活動等を行うに至っている。さらに、2004年末に策定された新たな防衛大綱においては、今後の防衛力について、国際的な安全保障環境を改善するために、国際社会が協力して行う活動に、主体的かつ積極的に取り組みうるものにする必要があるとの認識が示されている。こうした取組を通じて、世界共通の関心事項に対して国際社会と一緒になって努力している国としての日本の評価は着実に得られてきており、名実ともに、国際場裡で主要な責任を有する一国として認識されてきている。現在、日本政府は、国際的な平和協力をさらに適切に実施していくため、今後の日本の国際平和協力活動のあり方全般について幅広く検討を進めている。
 日本にとって望ましい国際秩序を形成していく上で、国際社会からの高い評価を得るとともに、近隣諸国や友好国との信頼関係を構築し、これを強化していくことは極めて重要なことである。
 特に、この地域の平和と繁栄のためには経済的に重要でありアジア地域の平和と安定のためにも重要な役割が期待されている中国や、日本と価値観を共有する重要な友好国である韓国等の近隣諸国と、未来志向の協力関係を維持・構築し、予見可能性の向上と責任ある行動をとることを促していくことが不可欠であると考えており、日本はこれらの諸国と対話・協力を重ねてきている。日本が、東アジア諸国を中心に経済連携協定の締結を目指していること、また、日中韓三国間協力や、日・ASEAN、ASEAN+3(日中韓)、アセアン地域フォーラム(ARF)、アジア太平洋経済協力(APEC)といった地域協力を進めていることもそのような努力の一環である。さらに、国際の平和と繁栄のために、国連をはじめとする国際機関等の取組にも積極的に貢献してきている。
 同時に、日本は、外交の要である日米関係の維持・強化に尽力してきた。日米両国は「世界の中の日米同盟」との考え方の下で、国際社会の諸課題に緊密に連携しながら取り組んできており、グローバルな安全保障面での日米協力も近年その幅を拡げている。テロ対策特措法やイラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊の海外への派遣がその典型である(注7)。こうした自衛隊の国際的な協力活動と外交努力が一体となって行う取組は、日本の国際社会における国際貢献を強化するものとして、その重要性は一層高まっており、国際社会から寄せられる期待も高い。また、東アジアにおいて、依然として不安定な要素が存在している現状に照らせば、東西の冷戦構造が解消された現在においても日米同盟の重要性は変わることはなく、むしろ高まっている。アジアにおいては、地域協力を通じた安全保障が十分に確保される基盤が整っておらず、韓国やシンガポールをはじめとするアジア諸国も、自国の安全保障を図るため、米国との関係を重視するアプローチをとっている。そうした中で、日本の安全と繁栄の確保だけでなく、アジア太平洋の安定にも資するものとしての日米同盟の抑止力としての効果は極めて高く、その重要性についてはアジア諸国にも受け入れられてきている。日本は、日本国憲法第9条の下で、自衛のために必要な最小限度の防衛力のみを保有し、相手から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使するといった専守防衛に徹し、また唯一の被爆国として非核三原則を守り、平和国家の道を歩んできた。外部からの攻撃を未然に防いだり、日本の安全を揺るがすような事態に対処するには、自らの防衛力だけで十分に対応できるとは限らないことを考慮すれば、日米安保体制を中核とする日米同盟が、日本の安全ひいてはアジア太平洋の平和と安定を確保する上で、最良で、戦略的かつ現実的な手段であることは明らかである。日本としては、民主主義や資本主義等の価値観を共有し、政治や経済・社会といった様々な分野で強固に結びついた日米同盟関係を強化するとともに、日米安保体制が引き続き実効的に機能することを確保すべく不断の努力を続けていく方針である。日本政府は、これまで、日本の平和と安全及び日米安保体制の効果的な運用を確保するとの観点から、周辺事態関連法や有事法制を整備してきたところであるが、アジア地域が抱える不安定要因への効果的ネ対応をはじめ、テロや大量破壊兵器等の拡散といった新たな脅威への対応には、日米間の更なる協力が必要であるとの共通の認識を踏まえ、米国との様々な協議を重ねている。また、現在、米国は新たな米軍の軍事態勢見直しを含むトランスフォーメーションを世界規模で進めているが、日本としても、日米安保体制がアジア太平洋地域において抑止力としての効果を維持しつつ、沖縄をはじめとする地元の負担の軽減を図るべく米国と協議を行っている。2005年2月19日に米国において行われた日米安全保障協議委員会では、まさにそのような認識に立って、日米両国が、グローバルな課題における協力のあり方や東アジアにおける安全保障環境につき議論した上で、両国にとっての共通の戦略目標を設定し、各々の外交努力、日米安保体制の下の協力、その他の同盟国としての協力を通じてこれを追求していくことを確認した(注8)




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