第1章 概観 |
【日本を取り巻く国際環境】
そうした動きの中で、日本及び国民は依然として様々な不安定要因に晒されている。確かに、冷戦の終焉により、圧倒的な軍事力を背景とする東西間の対峙の構造は消滅し、日本への大規模な軍事侵攻が行われる可能性は減少した。しかし、例えば、いわゆるテポドン事件(1998年)(注3)、不審船事件(2001年)(注4)に見られるように、また、現在も拉致問題や六者会合の枠組みを通じて交渉が行われている核問題が示しているとおり、朝鮮半島における不安定な要素は日本及び国民にとって十分大きな直接の脅威である。さらに、東アジア地域には、世界全体の約45%を占める兵力が存在する(注5)など依然として核戦力を含む相当の規模の軍事力が存在している。
経済の視点からは、日本経済が諸外国との貿易・投資に多くを依存している今日、経済的な結びつきのある国や地域と安定した関係を維持・構築し、多角的自由貿易体制の下で、経済活動の基盤を整備していくことが極めて重要となっている。特に、四方を海に囲まれた日本は、食糧、石油や鉱物等のエネルギー資源の多くを海外からの輸入及び海上輸送に依存している。したがって、一次資源供給国との相互依存関係を通じて一次資源の安定供給を確保することや、大陸棚や排他的経済水域等の海洋権益の維持・確保に努めることも、日本が安定的かつ持続的な発展を確保する上で死活的な問題である。また、近年、マラッカ海峡をはじめ東南アジアで頻発している海賊問題や海上テロの危険性といった懸念等は、日本経済の生命線であるシーレーンを中心とする海上の安全にとっての脅威となっている。
さらに、日本及び国民の国際的な活動が活発化することに比例して、これまで以上に日本及び日本人の安全が脅かされるようになっていることにも注視する必要がある。日本人も犠牲になった2001年9月11日の米国における同時多発テロ以降、国際テロの脅威が一層増加しているほか、2004年末に起きたスマトラ沖大地震によるインド洋津波で多くの日本人も犠牲になったように、日本人の海外渡航者数が年々増加していることに伴って、犯罪や自然災害等に巻き込まれるケースも多くなってきている。現在、約九十万人の日本人が海外で生活しており、多くの日本企業が海外での経済活動を行っているが、海外に渡航する、または居住する日本人の安全や、海外における日本企業等の円滑な活動を確保することも、日本の平和と繁栄を継続するために、従来にも増して必要不可欠となっている。
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