第5章 海外の日本人・日本企業に対する支援 

  【交流促進と治安対策】
 9.11米国同時多発テロ以降、米国をはじめ国際社会においてテロ対策及び治安対策に対する関心が大きく高まる中で、外務省は、国内治安の確保や国際的な犯罪の予防のため、厳正な査証発給政策及び旅券の発給・管理体制の強化や偽変造対策を実施しつつ、国際交流の促進に努めている。
 2003年の日本への外国人入国者数は約577万人、在留外国人数は約185万人であり、多くの外国人が日本に滞在するようになった。このように海外との人的交流が活発化している一方で、テロリストのほか、不法滞在、不法就労等の問題を起こす可能性がある外国人の入国を事前に防止することも在外公館の重要な任務の一つとなっている。そのような外国人の入国を、査証の発給段階で効率的に精査するため、査証広域ネットワーク(査証WAN)システムの稼働を2002年12月から開始し、その後もネットワークを拡大している。
 近年、旅券等の渡航文書が不正取得、あるいは偽変造され、悪用される事例も発生していることから、渡航文書の発給・管理体制の強化や偽変造対策の強化が国際的な関心事項となっている。外務省は、各国との効果的な協力体制の構築が不可欠であるとの観点から、生体情報による本人認証技術を用いた旅券の導入に関する国際民間航空機関(ICAO)等関係国際会議での議論に積極的に参画している。また、11月には、旅券犯罪対策及び国際協力等についての情報支援を目的としたアジア諸国旅券政策協議を開催するなど、旅券の発給・管理体制の強化、偽変造防止技術の向上及び情報ネットワーク作りに努めている。
 外国人による犯罪は、不法滞在外国人が1993年を境に少しずつ減少しているにもかかわらず、在日外国人に対する誤ったイメージを生じさせ得るのみならず、健全な人的交流自体を妨げる恐れがある。外務省は、厳正な査証審査を通じて、不法就労や不法滞在を目的とする者の入国阻止を図る一方で、健全な人的交流を促進するため、査証手続の簡素化及び迅速化も継続して推進している。こうした努力は観光立国構想や政府の規制緩和の取組にも沿うものでもある。また、入国者の多い国々とは定期的に協議を行い、領事分野での問題解決に努めている。さらに、外国人に関する問題については、被雇用者の多くが社会保険に加入していないことや、教育を受けない子弟が非行に走るケースが多い等の在日外国人及び日系人の滞在に関する諸問題等とともに、海外交流審議会の総会及び外国人問題部会において議論している。

 

 生体情報による本人認証技術を用いた旅券とは?


 生体情報による本人認証技術(バイオメトリクス)とは、人間の身体的特徴(顔、指紋、虹彩等)や行動特性(音声、署名等)を利用して本人を確認する技術です。最近では、制限区域への入退場ばかりでなくマンションの玄関などにも応用されていますが、この技術を旅券に応用しようとする試みが国際的に進んでいます。この旅券の導入により、旅券に装着されたICの中に記録されたバイオメトリクス情報と、実際に旅券を使用する人物から採取した情報とを人間の目ではなく電子機器により照合することで、より確実に本人であることを確認することが可能となります。
 近年、偽変造旅券の使用や他人の旅券を使用する「成りすまし」等の旅券犯罪が少なからず発生しており、こうした不正行為や関連する不法移民、組織犯罪などを防止するため、旅券へのバイオメトリクスの応用について国際的に議論、研究がなされてきましたが、2001年の米国同時テロ以降、テロ対策の観点からも早急に導入する必要性が叫ばれるようになりました。特に米国は査証免除の要件として、査証免除対象国にバイオメトリクスを用いた旅券の発行を求めることを法制化し、2004年10月26日から実施することにしています。
 一方、バイオメトリクスを用いた旅券の国際的な相互運用性(インターオペラビリティー)を確保するため、国際民間航空機関(ICAO)を中心に国際標準策定作業や技術検討が進められています(日本も参加しています)。これまでのところ、ICAOは必須のバイオメトリクス情報として顔画像を選択(追加的に指紋や虹彩の利用も認めています)し、記憶媒体として非接触IC(*)を利用することを決定しました。
 外務省ではこれらの状況を踏まえ、また諸外国の動向を注視しつつ、国際標準に準拠したバイオメトリクスを用いた旅券の2005年度中の導入を目指して取り組んでいるところです。


 

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