第3章 分野別に見た外交 

 漁業
 水産物は日本国民の食生活の中で伝統的に重要な位置を占めており、国民1人当たりの水産物消費量は他国に比べて著しく多い。その一方で、世界の海洋漁業資源の4分の3は上限まで利用されているか、それを超え乱獲状況にあるとの懸念が国際的に広まりつつあり、漁業資源の保存と海洋環境保全のための国際協力が重視されている。このような中、日本は世界有数の漁業国かつ水産物の輸入国として、国際漁業資源管理に積極的な役割を果たしている。
 2003年には、各地域の漁業資源を管理する国際機関において、違法・無報告・無規制(IUU)漁船対策が進んだ。特に、大西洋、インド洋、東部太平洋及び南太平洋におけるマグロ類のための各漁業管理機関において、日本のイニシアティブにより、ポジティブリスト措置を導入した(注18)。また、世界のカツオ・マグロ漁業生産の半分、日本のカツオ・マグロ漁業生産の約80%を占める中西部太平洋における漁業資源の保存管理のため、「中西部太平洋まぐろ類条約」が2004年6月に発効する見通しである。日本は、この条約に漁業国の立場を十分に反映させるべきであるとの観点より、手続規則等の策定作業に取り組んできた。
 捕鯨については、2003年6月にベルリンで開催された第55回国際捕鯨委員会(IWC)総会では、日本が長年の政策目標としている商業捕鯨の再開が認められず、鯨類の保護に重点を置いた「保存委員会」の設置が反捕鯨国の賛成多数により決定された。近年IWCでは鯨類の持続的利用を支持する加盟国数が反捕鯨国の数と拮抗してきているが、日本は、鯨類を含む海洋生物資源は科学的根拠に基づき持続的に利用すべきであるとの立場をIWCにおいて一層強化するため、他の持続的利用支持国と連携しつつ各国への働きかけを行っている。

 

 鯨の肉って食べていいの?


 スーパーで鯨肉の缶詰やパックを見たことがありますか?「あれ、捕鯨は禁止されているのでは?」と疑問に思う方もいると思います。国際捕鯨委員会(IWC)の商業捕鯨モラトリアム(一時停止)により、現在は商業捕鯨は行われていませんが、資源状況等を調査するための調査捕鯨は条約上の権利として認められており、日本は太平洋と南氷洋で調査捕鯨を実施しています。現在スーパーマーケットや専門店等で販売されている鯨肉の多くは、この調査捕鯨の副産物なのです。副産物は有効利用するとの条約の規定に従って、鯨肉は販売されその売上金は調査費用にあてられています(このほか一部地域においてIWC管轄外の鯨種を対象とする沿岸小型捕鯨が水産庁の許可制度の下で行われています。)。
 2002年5月に山口県下関市で開催されたIWC総会の席上、ある反捕鯨国の代表団が「グリーンランド産」と表示されてスーパーで売られていた鯨肉のパックを手に掲げて「日本は鯨肉の密輸を行っている」と非難する演説を行いました。早速この鯨肉のサンプルを入手してDNAを分析したところ、この鯨肉は日本の調査捕鯨で捕獲されたうちの一頭の副産物であり、実は密輸ではなく販売店の誤表示であったことが判明したという一幕がありました。このように、日本の調査捕鯨は副産物の履歴を含め科学的に管理されています。
 日本をはじめ多くの国々は、鯨類を国際的枠組みの下で科学的に管理し、資源量の減少しているシロナガスクジラ等の鯨類を保護しつつ、ミンククジラ等資源量の十分な鯨種については、科学的根拠に基づいて資源量に悪影響を与えない範囲内で有効利用すべきであると主張しています。一方で、鯨類についてはどんなに増えていても捕獲を認めないという強硬な反捕鯨国も多いのが現状です。鯨類の多くは健全な資源状態にあります。日本は、天然資源の持続的利用という、世界的に受け入れられている原則が鯨類資源にも適用されるのは当然であると考え、粘り強く主張を続けているところです。

 

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