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中東和平】
中東和平問題は、中東地域において、紛争の直接の当事者のみならず、中東の人々の心情に深く影響を与える問題であり、イラク情勢をはじめとして激動する中東地域の平和と安定の鍵である。中東地域の平和と安定は日本の平和と繁栄に直接の影響を与える問題であり、その鍵である中東和平問題の解決に向けて、日本として積極的に貢献することが重要である。
<イスラエル・パレスチナ間の紛争の現状>
パレスチナ自治政府の最大の課題は暴力の停止であり、このための治安分野をはじめとする改革の推進と、行政権を統括する首相職の設置が課題となっていた。この中で、3月、パレスチナ立法評議会は首相職の設置を含む基本法の改正を承認し、4月、アッバース首相が就任した。このため、4月に四者(米、ロシア、EU、国連)による「ロードマップ」(中東和平行程表)
(注)が公表された。一方、イスラエルでは、1月の総選挙でリクード党が快勝し、シャロン首相が再選された。ブッシュ米大統領は6月に中東諸国を訪問、ヨルダンのアカバで行われた米・イスラエル・パレスチナ三者の首脳会談において、三者は「ロードマップ」実施へのコミットメントを確認した。アッバース・パレスチナ首相は、治安をはじめとする改革の推進を掲げ、過激派の停戦合意に向け取り組んだ結果、6月にはパレスチナ過激派の主要諸派が停戦を宣言した。これを受けて2000年9月の衝突発生以降停止していたイスラエル・パレスチナ間の首脳レベルの対話が再開され、イスラエル軍のパレスチナ自治区主要都市の一部からの撤退やパレスチナ人囚人の一部釈放等が実現した。
こうして和平への機運が高まるかに見られたが、パレスチナ過激派組織の解体を求め、過激派暗殺を継続するイスラエルと、過激派組織の解体は内戦に繋がるとしてこれを拒否し、イスラエルによる自治区からの撤退を求めるパレスチナ側との間で意見が対立して、8月頃より再び膠着状態に陥った。これに加え、パレスチナにおける治安権限をめぐるアラファト・パレスチナ解放機構(PLO)議長との対立や自爆テロの発生等を受け、アッバース首相は9月に辞職した。10月、イスラエルは、アラファト議長が依然として影響力を保持し暴力の停止を妨げているとして同議長の排除を決定し、さらに、パレスチナ自治区との間を隔て、一部がパレスチナ自治区に食い込む「分離壁/フェンス」の建設を延長すると閣議決定した。これに対し、パレスチナ自治政府及びアラブ諸国等の働きかけにより、「分離壁/フェンス」建設の停止を求める国連総会決議等が採択された。暫くの間の混乱後に、クレイ・パレスチナ自治政府首相が11月に就任したものの、12月、シャロン・イスラエル首相は、イスラエルは占領地域において一方的な分離措置を講じると発言するなどイスラエル側の対応に大きな変化は見られていなかった。しかし、2004年3月22日、イスラム過激派ハマスの精神的指導者であるアハマド・ヤシン師が、イスラエル空軍の攻撃により殺害されたことで、イスラエル・パレスチナ間の対立は決定的となり、混迷の度合いを強める様相を呈している。
シリア・トラックについては、12月にはバッシャール・シリア大統領がイスラエルとの交渉再開に言及するなどの動きも見られた。しかし、交渉再開の条件をめぐって両者間で同意が見られず、再開は実現していない。レバノン・トラックについても、シェバア農地の帰属をめぐる対立が継続している。
<日本の取組>
日本は、和平をめぐる状況が困難な中でもイスラエルとパレスチナの二国家の共存が唯一の和平への道であるとの考えの下、ロードマップをイスラエル・パレスチナ双方が履行するよう求めるとともに、〔1〕劣悪化するパレスチナ人への人道状況の改善、〔2〕パレスチナ独立国家樹立に向けた改革の支援、及び〔3〕イスラエル・パレスチナ間の信頼醸成の3点を、日本の取組の柱に位置付けている。
4月、川口外務大臣がイスラエル、パレスチナ自治区を訪問し、双方に働きかけを行うとともに、総額2,225万ドルの支援パッケージを表明した。これに加え、人道支援については2004年3月に、パレスチナ難民救済機関(UNRWA)への420万ドルの支援や、12月から2004年1月にかけて国連開発計画(UNDP)等を通じた約1,500万ドルの緊急支援を表明した。また、改革支援については、7月にパレスチナ治安機関の強化のための機材供与を実施し、パレスチナ主要官庁の能力向上支援のほか、2004年3月にはパレスチナ自治政府に対して初めてとなるノンプロジェクト無償を5億円供与した。信頼醸成については、5月にイスラエル・パレスチナ双方の有力者を日本に招待し、和平実現へのビジョンにつき話し合う会議を開催、今後継続していくことで合意した。これに加え、イスラエル・パレスチナ双方の教育関係者等の市民間の信頼醸成への支援、イスラエル政府とパレスチナ自治政府間の環境協力への支援等を行ってきている。
膠着した現状を打開するため、イスラエル・パレスチナ両当事者への働きかけや関係諸国との意見交換も積極的に行ってきており、8月にシャローム・イスラエル副首相兼外務大臣が訪日したほか、有馬中東和平担当特使が、3月、8月及び2004年1月にイスラエル、パレスチナ自治区、及びシリア、エジプト等を訪問し、ハイレベルの関係者との協議、意見交換を行った。そうした中で、日本は、2004年3月22日に起きたイスラエル空軍によるイスラム過激派ハマスの精神的指導者であるヤシン師の殺害に対し、この行為がもたらす結果に対する考慮を欠いた無謀な行為であり正当化できるものではなく、和平の実現を損なうものであり、極めて遺憾であるとしてイスラエルの行動を非難した(3月24日現在)。