第4章 > 第3節 外交実施体制
【総論】
グローバル化が進展し、それに伴い国際社会における相互依存が深化するに従って、外務省の業務量も、近年、増加の一途をたどっている。日本が直面している外交課題は、質・量ともに増大し、また、複雑化しており、こうした諸課題にこれまで以上に能動的かつ迅速に対応していくため、外務省は、外務省改革の一環として、外交実施体制の整備に取り組んでいる。
【情報の収集・分析体制の強化】
現在の流動的な国際情勢の中で、日本が国益を守り強靱な外交を行っていくためには、的確な情報収集と情勢分析を行うことが不可欠である。特に、2001年9月に発生した米国同時多発テロ以降、情報収集・分析体制強化の必要性はますます高まっている。外務省は、従来から、在外公館を中心とする緊密なネットワークを活用した幅広い分野での情報収集及び国際情勢の総合的な分析に取り組んでいるが、今日の複雑かつ流動的な国際情勢を踏まえ、情報収集・分析担当部局と政策担当部局との連携を強化するとともに、情報収集・分析機能の一層の強化に努めている。また、情報収集の手段を多角化する一環として日本政府が導入する情報収集衛星を有効に活用するため、現在、衛星画像を活用するための研究を進めているほか、同衛星の運用にあたる内閣衛星情報センターに人材を派遣するなど、政府としての取組に協力している。
【予算、機構・定員面での努力】
予算面では、2002年度の予算編成において、ODAも含め、政府全体として厳しく歳出が見直される状況の中、外務省は、一層戦略的に重点化した予算配分に努め、外務省予算は結果として前年度比2.2%減の7,466億円を計上した。具体的には、以下の二つの柱に基づいた予算となっている。
外交施策の充実強化(アジア太平洋外交の更なる推進、世界の安定に向けての貢献、21世紀の新たなODAのための改革推進、国際文化交流の推進)
外交実施体制の強化(外務省改革要綱の具体化、統合情報通信システムの整備等、機構・定員の整備)
機構については、まず、不正と疑惑の根絶等に向けた体制整備を図るため、公認会計士等外部専門家の参加を得るなど従来の査察制度を拡充するとともに、監察査察官を新設して現職検事を充〔あ〕て、外務省本省に対する監察制度を創設した。また、総理大臣・外務大臣の外国訪問に関する支援業務を、皇族の外国訪問及び国公賓の日本訪問にかかわる業務を担当している儀典官の下で一元化し、その名称を儀典総括官として、事務体制の合理化を図った。在外公館に関しては、教育・文化等を通じた国際平和の達成を理念とする国際連合教育科学文化機関(UNESCO)において日本が一層積極的な役割を果たすため、UNESCO日本政府代表部を新設することにした。2002年度末における日本政府の在外公館(実館)数は、大使館116、総領事館66及び政府代表部7の合計189である。
定員の増加については、政府の早急な対応が求められている危機管理・安全体制の強化に引き続き重点を置いて取り組んでいる。この結果、厳しい予算・定員事情の中で、2002年度には、外務本省30人、在外公館4人の合計34人の増員を行い、定員数は、合計5,363人(外務本省2,114人、在外公館3,249人)となった。外務省としては、定員の増加を図る一方、既存定員の有効活用及び事務合理化の努力を行っている。
主要国の外務省職員数
【情報化の推進】
情報化の推進については、省内のIT基盤の整備として、1995年度より、外務本省及び在外公館にローカル・エリア・ネットワーク(LAN)(注1)を構築し、それらを相互に接続している。今後とも、情報セキュリティを確保しつつ、このようなLANを特に在外公館において拡張することにしており、いずれはすべての在外公館にLANを構築する計画である。
また、政府全体として推進している電子政府実現の一環として、外務省では、国民等からの申請・届出等の手続の電子化を実現するための共通的な基盤システム(注2)の整備を進めている。これは、新たなインターネット上のウェブサイトを立ち上げ、国民がそこにアクセスし、オンラインで外務省とやりとりしながら申請・届出等の手続を行えるようにするものである。
外務省は、これらを含め外務省が担っている行政の総合的かつ計画的な情報化を推進し、情報処理機能の強化、事務の合理化、そして国民への行政サービスの向上を図るための努力を行っている。
【緊急事態への対応体制】
海外における天災や大事故、ハイジャックやテロ、誘拐事件、更には暴動、クーデター、争乱等は、海外に在住する多数の日本人の生命にかかわる事態であり、このような緊急事態に備え、外務本省及び在外公館は一体となって適切な対応をとるよう全力で取り組んでいる。
このような緊急事態への対応体制を一層強化していくため、2003年1月に、危機管理官である外務省官房長の下に、官房危機管理調整室を設置した。同室は、総合外交政策局、領事移住部、地域局等の危機管理に関連する作業への支援や調整、平時からの危機管理体制の整備等を行うことにしている。
【情報公開の推進】
2001年4月に「行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)」が施行されてから2002年末までの間に、約3,400件の開示請求が外務省に寄せられた。(これらの請求に対して2,556件の決定を行い、そのうち503件について不存在、492件を全部不開示等とした。主な不開示の理由としては、情報公開法第5条3号に規定されている「他国等との信頼関係を損なうおそれ」や「他国等との交渉上不利益を被るおそれ」が挙げられる。)外務省は、自らの活動を国民に対して説明する責務を全うするため、日本の安全や他国等との信頼関係、対外交渉上の利益、個人のプライバシー等の保護にも一定の配慮をしつつ、開示請求に誠実に対応している。また、情報公開法によって開示された文書のうち、歴史資料としての価値が認められるものについては、外交史料館において公開を行っている。
さらに、外務省では、情報公開法に基づく文書の開示のほか、1976年以来、戦後の外交記録のうち、原則として作成後30年を経過したものを自主的に順次外交史料館において公開している。事項ごとに一括して自主的に公開していくこの制度については、今後も更に充実させていく考えである。
【海外における日本企業の活動支援の強化】
グローバル化が進展する中、日本企業が海外で円滑に事業を遂行できる環境を整えるために、外交が果たすべき役割はますます大きくなっている。各大使館や総領事館は、企業支援窓口を設けて、現地に進出している日本企業からの要望に積極的に耳を傾け、公正な待遇の確保やビジネス環境の改善のために関係当局に働きかけを行っている。さらに、任国要人との出会いの場や関連情報を提供することを通じて、ビジネスの機会を拡大するといった支援にも努めている。また、経済連携協定、社会保障協定の締結といった法的・制度的な基盤の整備もこうした海外における日本企業の活動支援の一環である。
こうした活動を通じて問題が解決した例として、2002年には、例えば、相手国の司法裁定が執行されず放置されていた企業の輸出代金の回収問題が示談により6年半振りに解決した事例、また、相手国の制度改正が促され、企業の駐在員の配偶者の滞在許可の要件が緩和された事例等がある。また、外務省は、アンケート調査を実施して、海外で活動する日本企業の困難や要望を一層正確に把握するよう努めてきた。外務省としては、こうした調査結果を踏まえ、在外公館と日本企業との一層緊密な連絡・連携を図りつつ、今後ともこうした企業支援活動を充実させていく考えである。
(コラム:総領事館による日系企業の活動支援)