第4章 > 第2節 海外安全対策・領事移住
【総論】
一般犯罪のみならず、重大事故やテロといった様々な種類の脅威が国境を越えて存在している今日、外務省は、海外における日本国民の安全確保を最重要課題の一つとして、各種安全対策や被害者・家族に対する支援を始めとする事件・事故への対応の一層の強化に努めている。
2002年の海外渡航者数は約1,651万人を記録し、海外に住む日本人の総数も約87万4,000人に達している(2002年10月1日現在)。これに伴い、日本人が海外で事件や事故に巻き込まれる件数も過去10年間で約1.5倍に増加している。2002年には、中国の大連付近の海上での中国北方航空機墜落事故(5月、日本人3名が死亡)、タイのバンコク郊外におけるバス転落事故(9月、日本人9名が重軽傷)、インドネシアのバリ島爆弾テロ事件(10月、日本人2名が死亡)、中国山東省におけるバス転落事故(10月、日本人2名が死亡、13名が重軽傷)といった日本人が巻き込まれている事件・事故が発生している。バリ島での爆弾テロ事件等では、現地と外務本省に対策本部を設置し、24時間体制で連絡を取り合い、迅速かつ適切な対応を行った。また、現地の政情が悪化し、在留邦人が国外へ退避しなくてはならない事例も、インド及びパキスタン、中央アフリカ、コートジボワール等で発生した。日本は、インド及びパキスタンからの日本人退避に際しては、政府チャーター機をインドに派遣するなど迅速に対応した。なお、2001年の海外日本人援護件数(注)は、1万4,115件、人数にして1万6,253人に達している。
現在、外国人の日本への入国者数は約529万人、在留外国人数は約177万人であり、多くの外国人が日本に滞在するようになった。このように海外との人的交流が活発化している一方で、テロリストを始めとして問題を起こす可能性がある外国人の入国を事前に阻止することも在外公館の重要な任務の一つとなっており、そのような外国人の入国を、査証の発給段階で効率的に精査する査証広域ネットワーク(査証WAN)システムの稼働を12月に開始した。
10月には、海外移住審議会を発展的に改組、設立した外務大臣の諮問機関である海外交流審議会が発足した。同審議会は、
国民本位の領事サービスを実現する施策の検討、
海外邦人安全対策の推進と危機管理対応能力の向上、
在日外国人・日系人をめぐる諸問題への対応を三つの柱として、海外との人の交流に関する重要事項を審議している(領事分野での改革の詳細については、第4章第1節に記述)。
2001年の在外公館における邦人援護件数:事件/地域別内訳
【海外安全対策の推進】
外務省は、国民の安全な海外渡航・滞在を支えるため、温かく、血の通った海外安全対策を行っていくことが重要であると考えており、予防対策と事件・事故などの発生後の的確な対応の双方を重視しつつ、諸外国や関係省庁、民間企業・団体とも連携して海外安全対策を推進している。
予防のための最も重要な対策は、日本国民に対する的確な情報提供と広報活動である。外務省は、各国・地域について、海外にいる日本人の安全対策やトラブル回避の観点から参考となる情報を国民に幅広く提供している。例えば、治安の悪化、騒乱、テロ等、海外にいる日本人の生命・身体の安全に悪影響を及ぼす事態の発生やその可能性についての情報はもちろん、一般的な治安状況、犯罪発生の傾向(状況・手口等)、査証・出入国手続、保健・衛生等、渡航や滞在にあたっての安全対策やトラブル回避に必要な基礎的なデータ等を提供している。外務省では、このような情報を国民に対し、より分かり易く、きめ細かに提供するため、2002年4月に、「危険情報」を始めとする海外安全に関する情報提供サービスの全面的見直しを行った。こうした情報は、インターネットを利用した外務省「海外安全ホームページ」(http://www.anzen.mofa.go.jp)のほか、海外安全情報FAXサービス(0570-023300)、海外安全情報タッチビジョン等を通じて幅広く提供している。「海外安全ホームページ」へのアクセス件数は毎月100万件以上となっている。また、このような情報提供に加えて、危機管理・安全対策を強化するために、衛星による位置確認システム(GPS)を利用した邦人保護システムをアフガニスタン及び周辺国に配備したほか、同時多発的なテロの発生や、退避が必要となる情勢を想定した対応訓練等を実施している。
【国民の生命・安全の確保】
国際犯罪の予防には、旅券の発給・管理体制の強化や偽変造対策及び厳格な査証発給政策が有効である。近年、旅券等の渡航文書が国際犯罪組織やテロリストにより不正取得、あるいは偽変造され、悪用される事例も発生していることから、渡航文書の発給・管理体制の強化や偽変造対策の強化が国際的な関心事項となっている。外務省としては、査証WANを整備し、厳格な査証審査に資する体制を構築しているほか、各国との効果的な協力体制の構築が不可欠であるとの観点から、2002年11月に、主要5か国の旅券発行当局者との間で、第3回先進国旅券協議を開催するなど、旅券の発給・管理体制の強化、偽変造防止技術の向上及び情報ネットワーク作りに努めている。
日本に入国する外国人及び外国人登録者数は漸増傾向にある一方、不法滞在外国人は1993年を境に少しずつ減少している。主として不法滞在者の一部が引き起こす犯罪は、在日外国人に対する誤ったイメージを生じさせ得るのみならず、健全な国際交流自体を妨げる恐れがあり、外務省としては、厳正な査証審査を通じて、不法就労や不法滞在を目的とする者の入国阻止を図っている。また、入国者の多い国々とは定期的に協議を行い、領事分野での問題解決に努めている。
一方で、グローバル化が進展する中、人の移動を円滑化し、健全な人的交流を促進することは重要であり、外務省としては、査証手続の簡素化及び迅速化も継続して推進している。例えば、ITの技術者について査証手続の緩和等を行っているが、こうした努力は政府の規制緩和の取組にも沿うものである。また、2002年1月1日から日韓間の中長期的な人の往来を念頭に置いた大幅な査証緩和措置をとるとともに、日韓共催で行われたワールドカップ・サッカー大会の期間中には、韓国人に対する査証免除を実施し、大会成功の一助となった。
こうした領事分野の諸施策を国民に広報するために、「旅券の日」(2月20日)に伴う関連イベント、6月及び7月に海外安全キャンペーンを実施したほか、海外安全に関するセミナーの開催、海外進出企業や旅行業界等に対する海外安全面での情報提供を継続的に行っている。
(コラム:メキシコでの領事業務)
【海外生活支援】
海外に在留する日本人の数の増加に伴い、日本国民の安全と快適な海外活動を確保するために求められる領事業務も複雑多岐にわたっている。外務省では、国民の海外での福利を向上させるための環境整備の一環として、従来から、文部科学省と連携して日本人学校及び補習授業校に対する支援を行っている。また、医療事情の悪い熱帯地域を中心とした開発途上国に在留する日本人の健康相談のために、国内医療機関の協力を得て、1972年から巡回医師団を派遣しており、2002年には38か国に派遣した。海外における伝染病流行等の情報(医療情報)についても、各国政府又は世界保健機関(WHO)の情報を基に、渡航情報(スポット情報)等を通じて広く情報提供に努めている。近年、こうした取組に加え、年金保険料の二重払い及び期間通算の問題の解決、外国運転免許証の取得手続の簡素化等、新たな分野における施策も、関係国との協議を通じて推進している。また、海外において刑に服している日本人受刑者の日本における社会復帰を促進するために、受刑者移送条約を締結した(日本との関係では、2003年6月に発効予定)。
1998年の公職選挙法の改正により、海外においても国政選挙に参加することが可能となったが、この在外選挙に関する事務も国民の権利実現の観点から重要である。2001年7月の参議院議員通常選挙においては、2000年6月の衆議院議員総選挙に次ぐ2度目の在外選挙が実施され、約2万2,000人の海外在住の日本人が投票を行った。海外で投票するためには、事前に在外選挙人名簿に登録することが必要であり、在外公館では在外選挙制度の広報とともに、館員が出張して登録申請を受け付けることにも努めており、2002年末現在、在外選挙人名簿の登録者数は約7万5,000人に達している。
【海外日系人社会との協力】
日本人の海外移住には130年を超える歴史があり、移住者及びその子孫である日系人は、ブラジルの140万人、米国の100万人を筆頭に米州大陸を中心に約260万人(推定)を数える。日系人は政治、行政、経済、学術、文化等の広範な分野で活躍しており、各国の経済及び社会の発展に積極的な貢献を行い、高い評価を得るとともに、居住国と日本との相互理解の増進、友好関係の進展に重要な役割を果たしている。
外務省は、移住者の高齢化に伴う福祉問題や自助努力が及ばない人々への支援、日系人の人材育成、経済技術協力における日系人の活用など、現地日系人社会の要望の変化に応じた支援を行う一方、時代にそぐわなくなった施策については随時見直しを行うなど、効果的な政策の実施に努めている。特に、二世、三世等の日系人の支援については、人材育成を目指して技術研修員としての受け入れや、日系人を通じた技術協力を実施し、また、日本語教育のために日本語研修や現地の日本語学校への教師の派遣等の事業を実施して、これらの人々が居住国と日本との「懸け橋」となって一層活躍してもらえるよう様々な施策を講じている。また、日本の海外移住の歴史をたどり、移住者及び日系人の移住先国での貢献について理解を深めるため、また、日本の若い世代に移住先国や移住者について広く伝えるため、2002年12月に横浜に開所した国際協力事業団(JICA)の横浜国際センターの中に海外移住資料館を開設した。
在外選挙の仕組み