メキシコ着任後1年半の間に、7件の日本人死亡事件や、殺害容疑で日本人に逮捕状が発出された事例、武器不法所持や傷害等で一時的に日本人が拘束された事例等、実に様々な事例に携わってきました。また、地方での飛行機墜落事故、バスの転落等の大きな交通事故、大火災等により多数の死傷者が発生した事件が起こるたびに、日本人が含まれているか否かの確認作業に全力を注いできました。
領事部への照会・相談では、日本食レストランの所在から始まり、ペットの日本への携行、病人の日本への移送など様々なものがありました。キャンセルになった定期航空便の代わりに日本から政府専用機を飛ばせと要求してきた人や、強盗に遭〔あ〕い所持金すべてを奪われたため、ホテル代と食費代を個人的に貸したものの返済してくれない事例も経験しています。
領事として一番大変だと感じることは、精神的な緊張感を24時間ずっと持ちつづけなければならないことです。日本人が巻き込まれる事件・事故は、いつ、どこで発生するかわからず、また、発生した場合には、迅速かつ的確な判断を求められるからです。一例を挙げると、午前2時にある日本人がアパートの自室でガス漏れによる爆発事故を起こし、火傷により重体となったことがありました。この通報を受けた時には、事実確認から始まり、救急車で運ばれた病院にそのまま入院させるべきか、火傷の専門病院に移送した方がいいか、入院費用はどのくらいかかるか、支払いはどうするか、更には日本の家族への連絡、メキシコへ来る家族の旅券の有無の確認など様々な要素を念頭に置いて対応しました。
私は、観光客や在留邦人の方々がメキシコで良い思い出を作り、日本に帰国していただければと思っています。強盗等の被害に遭ってはせっかくの思い出が台無しになってしまいます。身の回りに気を配り、服装や行動にほんの少し注意を払うだけで未然に被害を防げるケースも多いはずです。ひとりひとりが自分の身はまず自分で守るという点をもう一度思い直していただきたいと思っています。
執筆:在メキシコ日本国大使館領事
伯耆田〔ほうきだ〕 修