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1 持続可能な開発・地球環境問題



【総論】

 グローバル化の進展は、国境を越えた人・モノ・サービス等の移動を加速・拡大し、大きな経済的な恩恵をもたらしている。その一方で、そうした恩恵は、必ずしもすべての国や人々が均等に享受しているのではない。例えば、貧富の差の拡大といった、いわゆるグローバル化の負の側面も指摘されている。グローバル化の恩恵を、開発途上国を含む国際社会全体が適切な形で享受し、持続可能な開発を実現していくことは極めて重要であり、国際社会は、これに対応するため、2002年を通じて、開発資金国際会議(3月、メキシコ・モンテレー)、G8サミット(6月、カナダ・カナナスキス)、持続可能な開発に関する世界首脳会議(8月末~9月初、南アフリカ・ヨハネスブルグ)といった会合を通じ、貧困問題や感染症問題に象徴される開発途上国の諸課題に取り組んできた。


【持続可能な開発に関する世界首脳会議】

 1992年のブラジルのリオデジャネイロで開催された地球環境サミットから10年後の2002年、リオでの合意の進展を点検し、環境と開発をめぐる新しい課題にいかに対応していくかを議論するために、8月26日から9月4日まで、南アフリカのヨハネスブルグにおいて持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)が開催された。

 今回のサミットの成果として、持続可能な開発を進めるための包括的指針となる「実施計画」と、首脳の政治的意思を示す「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」の二つの文書が採択された。また、各国政府、国際機関、非政府組織(NGO)等が自発的なパートナーを組んで共同で行うプロジェクトをまとめた「パートナーシップ」も発表された。




ヨハネスブルグ・サミットに至る経緯

ヨハネスブルグ・サミットに至る経緯

〈日本の取組〉

 日本からは、首脳級会合に小泉総理大臣が出席した。小泉総理大臣は、持続可能な開発にとっての教育面等における人づくりの重要性を強調して、開発面と環境面での人材育成等の日本の具体的貢献策をまとめた「小泉構想」を表明した。また、今回のサミットには、川口外務大臣、大木環境大臣を始め、関係省庁の副大臣や大臣政務官、さらには超党派の国会議員団が参加したほか、多数のNGO等も参加した。また、日本政府代表団には、NGO関係者が顧問として参加した。

 日本は、「実施計画」の交渉において、例えば、気候変動について、「京都議定書を適切な時機に締結するよう強く求める」とする文言をとりまとめたほか、日本のNGOと共同し、「持続可能な開発のための教育の10年」を提案し、それを「実施計画」に盛り込むことに成功するなど、高い指導力を発揮した。なお、この関連では、2002年12月に、国連総会において、2005年からの10年間を「国連持続可能な開発のための教育の10年」と宣言することなどを内容とする決議案を日本が提出し、全会一致で採択された。また、「実施計画」では、このほかにも、日本が長年積極的に取り組んできているアフリカ開発会議(TICAD)等の日本のイニシアティブが言及されたほか、人間の生存と生活に不可欠な資源である「水」の問題について、2015年までに、安全な飲料水を利用できない人々の割合を半減させるという「ミレニアム開発目標」(注)を再確認した上で、同様に、基本的な衛生施設を利用できない人々の割合も半減させるという新たな目標を設定した。

 また、日本は、「パートナーシップ」について、政府開発援助(ODA)も積極的に活用し、水、森林、エネルギー、教育、科学技術、保健、生物多様性等の分野で30のプロジェクトを行うことを登録し、それについて発表した。

 サミットと並行して行われた行事を、質・量ともに充実した形で実施するため、日本政府、国会議員、地方自治体、関係諸団体、NGO等が共同で「日本パビリオン」を設置し、エコ・カー等の展示や日本の公害克服経験を始めとした様々な分野のセミナーを連日実施し、高い評価を得た。



持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)にて演説をする小泉総理大臣(9月 提供:内閣広報室)

持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)にて演説をする小泉総理大臣(9月 提供:内閣広報室)



ヨハネスブルグ・サミットにおける日本の取組

ヨハネスブルグ・サミットにおける日本の取組

(トピック:ヨハネスブルグ・サミット 日本パビリオン)


【地球環境問題】

〈総論〉

 近年、地球温暖化、オゾン層の破壊等の地球環境問題が大きな問題となっている。これらは、人類の生存に対する脅威となり得る地球規模の問題であり、地球環境問題の解決に向けて、日本は「地球規模の共有(グローバル・シェアリング)」という考え方を提唱し、国際社会の連帯を呼びかけてきた。

 一方で、いくつかの環境問題については、その主たる原因が経済発展の推進力である近代産業化であったため、先進国と開発途上国との間の立場を調整する必要があり、国際社会は、環境問題を解決していくにあたって「共通だが差異のある責任」という考えの下、調整を行っている。また、日本は、人間に対する直接的な脅威から各個人を守り、人間個人がもつ可能性を実現させていく「人間の安全保障」の視点に立って、環境問題の解決に取り組んでいくことも重要であると考えている。

 このような状況の中で、日本は、地球環境問題への取組を引き続き外交の重要課題の一つと位置づけ、下記の三つの柱を中心に努力を重ねている。


〈国際的なルール作り〉

 第一は、国際的なルール作りに向けた取組である。日本は、条約等の国際約束の作成交渉に積極的に参画し、作成交渉の主導に努めている。また、その早期発効を目指して、日本自らが締結することはもちろん、各国に対しても締結を積極的に働きかけている。

 2002年、日本は、京都議定書のほか、DDT(注)やポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等の残留性有機汚染物質(POPs)の製造・使用や輸出入の原則禁止・制限等を定めたストックホルム条約とオゾン層保護に関するモントリオール議定書の改正議定書を締結した。また、遺伝子組換え生物による生物の多様性の保全と持続可能な利用への悪影響を防止することを目的とするカルタヘナ議定書と、特定有害化学物質等の国際貿易の手続に関するロッテルダム条約についても、2003年の締結を目指し、準備を進めている。

 また、水、森林等の分野でも、日本は、国際会議の開催や新しい枠組み作りに向けた議論を提唱するなどイニシアティブを発揮している。特に、森林の違法伐採問題については、2000年のG8九州・沖縄サミット以来、日本が積極的に議論を主導しており、2002年には、インドネシアと共に、多くの国々、国際機関、NGOの協力を得て、「アジア森林パートナーシップ」を発足させた。また、2003年3月には、日本は、関西で、第3回世界水フォーラム及び閣僚級国際会議を開催し、「人づくり」と「社会造り」の視点を重視しつつ、開発途上国自身の取組を側面から支援していく考えである。

 野生動植物の保護については、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」や国際捕鯨委員会(IWC)等の場で、野生動植物の多様な価値に留意するとともに、保護のためにも、科学的な根拠に基づき「持続可能な利用」を図っていくことの重要性を繰り返し訴えている。


〈環境分野における開発途上国支援〉

 第二に、日本は、環境分野における開発途上国に対する支援を重視している。日本は、ODA大綱において、開発と環境の両立を掲げており、環境分野への協力を重点課題の一つとしている。1999年に策定したODAに関する中期政策においては、21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)等に基づき、環境分野の開発途上国への支援に積極的に取り組むことが明記されている。2002年のヨハネスブルグ・サミットでは、日本は、「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(ECOISD)」を発表した。


〈環境に関連する国際機関等への協力〉

 第三に、日本は、環境に関連する国際機関への協力に力を入れている。日本は、国連環境計画(UNEP)や「地球環境ファシリティー(GEF)」、オゾン層保護に関するモントリオール議定書多数国基金等に対する主要な拠出国であり、これらの活動計画の策定に大きな役割を果たしている。また、大阪と滋賀に設置されているUNEP国際環境技術センターの活動を支援している。


【気候変動問題】

 京都議定書は、地球温暖化防止に向けた国際社会の取組を強化するための重要な第一歩である。日本は2002年6月4日に京都議定書を締結するとともに、同議定書の早期発効に向けて各国に対して締結を積極的に働きかけている。2002年には、欧州連合(EU)各国のほか、東欧諸国、カナダ、ニュージーランド等が相次いで京都議定書を締結し、今後は、ロシアが締結すれば、京都議定書の発効要件が満たされることになる。

 このように京都議定書の発効に向けて国際社会の協調が進展する一方で、米国は、京都議定書には参加しないと表明した。日本は、2002年2月の日米首脳会談及び日米外相会談、4月の閣僚級の気候変動に関する日米ハイレベル政府間協議等の機会に、米国に対して、気候変動問題に対する取組を今後一層強化するよう求めるとともに、米国や開発途上国も含めたすべての国が参加する共通のルールの構築に向けて、米国が気候変動交渉に建設的に対応するよう申入れを行った。

 開発途上国の温室効果ガス排出量は、2010年ごろには先進国の総排出量を上回る見込みであり、開発途上国も含めた形で、排出削減に取り組むことが必要である。しかしながら、開発途上国は、自国の経済開発に悪影響を及ぼしかねない排出削減の義務(注)に強硬に反対している。こうしたことから、日本は、2002年7月に、米国や開発途上国を含む主要国を集めた非公式会合を主催し、今後の排出削減に向けた具体的な行動について率直な議論を行う機会を提供した。2002年10月から11月にかけてインドのデリーで開催された気候変動枠組条約第8回締約国会議(COP8)では、日本が特に強く主張したこともあり、排出削減に向けた行動について非公式な意見交換を各国が促進するべきであるとの文言が、会議で採択されたデリー宣言に盛り込まれた。



気候変動枠組条約第8回締約国会議閣僚級会合での土屋外務大臣政務官(10月)

気候変動枠組条約第8回締約国会議閣僚級会合での土屋外務大臣政務官(10月)



日本の主な温暖化対策措置

日本の主な温暖化対策措置


【今後の課題】

 日本は、従来より、持続可能な開発を進めるにあたっては、開発途上国自身の自助努力と、国際社会による対等のパートナーとしての支援が必要であることを主張してきた。2001年から2002年にかけて、開発資金国際会議やヨハネスブルグ・サミットを始めとして、開発問題に関連する国際会議が多く開催された中で、こうした日本の考え方に対する支持が定着しつつある。また、日本は、持続可能な開発を進めていくためには、環境保全と経済成長の両立を目指すことが重要であることを訴え、グローバル・シェアリングと称して各国、国際機関、NGO等が戦略、責任及び経験と情報を共有するべきであるという考え方を提唱している。

 今後は、様々な目標達成のために、ヨハネスブルグ・サミットでの経験をいかし、NGO等との連携を更に進めていく必要がある。また、WTOの新ラウンド交渉が進展する中で、貿易と環境の関係についてきめ細かい整理が求められており、日本は、現実的で均衡のとれた結論が得られるよう、国際的なルール作りに建設的に参画していく考えである。


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