第3章 > 第3節 > 2 国際組織犯罪、薬物、海賊
【国際組織犯罪】
グローバル化やハイテク機器の進歩、人の移動の拡大等が進む現代社会において、国際組織犯罪が大きな問題となっている。これに対処するため、国際的な協力が強く求められており、2002年も引き続き、国連、G8、経済協力開発機構(OECD)の金融活動作業部会(FATF)等において、精力的な取組が行われてきた。
国際組織犯罪防止条約及びその補足議定書は、組織犯罪を防止し、これと闘うための協力を促進する国際的な法的枠組みを創設するものであり、特に、補足議定書は、人身取引、移民の密入国、銃器等の不正な製造及び不正取引といったそれぞれの各犯罪行為を防止することを目的としている。日本は、2000年12月に同条約に署名し、2002年12月には、すべての補足議定書に署名した。日本は、これらの条約及び議定書の交渉にあたって、G8間の調整グループの議長を務め、また、条約交渉の事務局であった国連の国際犯罪防止センター(CICP)に資金拠出を行うなど、交渉の促進に大きな役割を果たしてきた。
また、腐敗や汚職が、開発や民主主義の進展を阻害する重大な要因となっているとの認識の下、国連腐敗対策条約の交渉が、2002年から開始され、腐敗防止のための予防措置、犯罪化条項を始めとする具体的な案文の交渉が進められている。
通称リヨン・グループと呼ばれているG8国際組織犯罪上級専門家会合では、1995年以来、様々な国際組織犯罪に対する対策について議論が行われ、G8サミット・プロセスにおける首脳・外相等による議論に貢献してきたほか、国際組織犯罪防止条約の交渉の進展に大きな貢献をしてきた。最近では、司法・法執行面における国際協力、ハイテク犯罪対策といった観点から議論が行われている。特に、米国同時多発テロ発生以降は、リヨン・グループに蓄積されてきた国際組織犯罪対策の知識や経験を、いかにテロ対策に効果的に役立てることができるかといった観点から議論が行われるようになり、これを踏まえて、国際犯罪に関するG8の勧告がまとめられ、2002年5月にカナダのモントランブランにおいて開催されたG8司法・内務閣僚会合で採択された。
FATFは、これまで資金洗浄(マネーロンダリング)に関する国際的な対策と協力の推進に指導的な役割を果たしている。具体的には、マネーロンダリング対策に関する国際的な基準となる「40の勧告」を策定し、その見直し及び実施状況の監視を行っているほか、新たなマネーロンダリングの手法や対策の研究を行っている。日本は、FATFの中心的なメンバーとして、その取組に積極的に参加している。
今後も、日本は、地域レベルの取組も含め、マネーロンダリング対策に関する国際的な取組の推進に引き続き積極的に貢献していく方針である。また、マネーロンダリング対策の手法は、テロ資金対策にも有効であり、2002年12月にインドネシアにおいて、マネーロンダリング及びテロ資金対策に関する国際会議が開催されるなど、マネーロンダリング対策の重要性は高まっている。
国際組織犯罪防止条約及びこれを補足する3議定書
【薬物】
2002年4月、日本の麻薬・覚せい剤乱用防止対策推進議員連盟、日本政府及び国連薬物統制計画(UNDCP)の共催で、第5回国際麻薬統制サミットが東京で開催され、35か国、1地域及び6国際機関から議員、政府関係者及び専門家が出席した。同サミットでは、深刻化するアジアの薬物問題等に関して意見交換を行い、会議終了時に議長サマリーが採択された。同議長サマリーにおいては、アフガニスタンの薬物対策に関する支援の約束(コミットメント)、覚せい剤等の合成薬物対策の強化と国際協力の推進等が、世界の議会人及び政策決定者のための指針として示された。
また、日本は、国連による薬物対策のプロジェクトを継続的に支援しており、2002年には、UNDCPに対し304万米ドルを拠出した。その拠出金から、UNDCPがアフガニスタンにおいて実施する取締り強化のためのプロジェクトに対し50万米ドル支援を行い、また、ミャンマーの主たるケシ生産地であるワ地区における代替作物支援プロジェクトに対し50万米ドル支援した。さらに、ベトナムの主たるケシ生産地であるキーソン地区の教育、保健、衛生プロジェクトに対しては、人間の安全保障基金より約30.8万米ドルを拠出した。
【海賊】
近年、増加の一途をたどっている海賊事件は、2001年には全世界で370件を数え、1995年の132件に比べ3倍近く(注1)に増加している。特に、東南アジア海域において、総事件数の半分近くに及ぶ178件(注2)が集中して発生している状況は、石油等のエネルギー資源の輸入をまさに東南アジア海域を通じた海上輸送に依存している日本にとって脅威となっているだけでなく、この地域全体の安定と経済の発展にも大きな影響を与えている。
このような状況の中で、小泉総理大臣は、2001年11月の東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)首脳会議において、深刻化する海賊問題を解決していくため、海賊対策に関する地域協力協定の作成を検討することを提案し、各国の賛同を得た。これを受け、日本は、ASEAN諸国、中国、韓国、インド、スリランカ、バングラデシュとともに、「アジア海賊対策地域協力協定(仮称)」の作成交渉を開始した。日本は、これまで2002年7月及び9月、東京で交渉会議を主催し、海賊の防止と抑止のための関係国の協力を目的とした協定の早期作成を目指し、精力的に交渉を行っている。
また、日本は、2000年4月に開催された「海賊対策国際会議」の成果に基づき、東南アジア及びその周辺国の海上警備機関及び海事政策当局とそれぞれ専門家レベルの会合を持つとともに、海上保安庁の巡視船を派遣して、各国海上警備機関と連携訓練等を行っている(2002年3月インドネシア、8月ブルネイ、10月インド)。さらに、海上保安大学校への各国からの留学生受け入れ、国際協力事業団(JICA)を通じた海上犯罪取締り研修により、各国の海上警備機関職員の取締り実務の能力向上(キャパシティ・ビルディング)を図っている。
日本は、今後とも海賊事件の撲滅に向けて、アジア諸国を始めとする関係国との連携や協力の強化を図るとともに、そのために必要な技術支援や人材育成を積極的に行っていく考えである。
海賊事件報告件数