第3章 > 第1節 > 3 地域安全保障
アジア太平洋地域については、2002年には、特に、北朝鮮の核兵器開発問題やミサイル問題が国際社会における安全保障上の最重要の課題となった。
また、2002年を通じて、インドネシアのバリ島やフィリピンのミンダナオ島、パキスタン等でテロが続発しており、テロとの闘いはアジア太平洋地域にとっても深刻な脅威である。さらに、海賊問題といったいわゆる「国境を越える問題」も安全保障上の懸念となっている。
アジア太平洋地域では、政治・経済体制、文化的・民族的な多様性等を背景として、欧州における北大西洋条約機構(NATO)のような多国間による集団防衛的な安全保障機構は発達せず、米国を中核とした二国間の安全保障取極の積み重ねを基軸として地域の安定が維持されてきた。
日本は、アジア太平洋地域の平和と安定を確保していくためには、この地域における米国の存在と関与を前提としつつ、二国間及びASEAN地域フォーラム(ARF)等の多国間の対話の枠組みを幾重にも重ねる形で整備し、強化していくことが現実的で適切な方策であると考えている。こうした考えに従って、日本を取り巻く安定した安全保障環境の整備に取り組んでおり、そのために、安全保障対話や防衛交流の進展を通じて、相互の信頼関係を高め、安全保障分野における協力関係を進展させるよう努めている。
2002年を通じて、日本は、ロシア、中国、韓国、オーストラリア、タイ等地域諸国との間で、二国間の安全保障対話・防衛交流を行った。こうした取組に加え、今後とも中長期的な観点からアジア太平洋地域の平和と安定について議論するための適切な枠組みを模索していくことが重要であると考えている。
アジア太平洋地域の主要国が参加する全域的な政治・安全保障の枠組みであるARFについては、近年、具体的な信頼譲成措置や予防外交に向けた取組等、協力が着実に進展している。ARFでは、
信頼醸成の促進、
予防外交の進展、
紛争へのアプローチの充実、という3段階のプロセスに沿って、段階的に対話と協力を進めていくことになっている。これまで、第1段階の信頼醸成の促進については、国防白書の発行、国防政策ペーパーの提出、PKOや災害救助等に関する会合の開催、参加メンバーが自らの地域の安全保障の情勢認識に関して作成し、ARF議長国がとりまとめる「安全保障に関するARF年次概観」の刊行等の信頼醸成措置が実施されている。また、第2段階である予防外交の進展についても具体的取組に向けた議論が行われている。
2002年7月にブルネイで開催された第9回ARF閣僚会合においては、朝鮮半島情勢やミャンマー情勢、南アジア情勢、軍備管理・軍縮・不拡散問題等のアジア太平洋地域の安全保障問題について率直な意見交換が行われた。また、ARFの将来に関して、国防・軍事当局関係者の関与の強化(その一環として、閣僚会合に先立ってARF国防・軍事当局者会合を初めて開催)や、ARF議長への支援体制の強化を含む九つの提言が全会一致で採択された。テロ対策については、各メンバーがテロ対策に継続して取り組んでいくことが確認されるとともに、テロ対策に関する会期間会合(ISM)の開催が承認され、また、テロ資金対策に関するARF議長声明が全会一致で採択された。
ARFは、これまで各国間の信頼醸成の促進に着実な成果を上げてきたが、今後より高い次元の協力を目指すべき時期にきている。第一に、予防外交に向けた議論の深化・促進を図ることが重要である。このため民間のフォーラム(トラックII)の積極的な活用や、他の地域機関との経験の共有を進めることが有益と考えられる。第二に、信頼醸成措置を一層充実させることも引き続き重要である。この観点から、国防当局者の関与を強めていくことが重要と考えている。第三は、実務的な協力の促進である。ARFにおいて、関係当局を含む実務的な協力の慣行はいまだ定着していないが、現在進めているテロ対策に関する協力がそのモデルとなるよう推進していく必要がある。第四は、中長期的に見た組織のあり方の検討である。予防外交への移行や実務的な協力の推進といった課題を考えれば、恒久的なARF事務局の設置の必要性に関し検討を始める時期に来ていると考えられる。
日本は、ARFが地域にとって重要であり、そのメンバーにとって有用で効率的な組織へ発展するよう積極的に貢献していく考えである。
ARFの存在意義、これまでの過程
(トピック:北東アジア協力対話(NEACD))