第2章 > 第1節 > 6 地域協力・地域間協力
【総論】
グローバル化に伴い国際関係が複雑化しつつある中で、世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)等の世界規模の機関を通じた対応に加え、地域の国々が集まって更に踏み込んだ協力を行う事例が多く現れるようになった。具体的には、東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)といった地域内での協力の強化や、アジア太平洋経済協力(APEC)、アジア欧州会合(ASEM)、東アジア・ラテンアメリカ協力フォーラム(FEALAC)といった地域間同士の協力が進展している。また、東アジア地域では、テロ、海賊、エネルギー安全保障、感染症、環境、薬物等の国境を越える問題について、インド、オーストラリア、ニュージーランド等を含めた協力の輪が拡大しており、広い視野に基づく協力を進めている。また、安全保障分野ではASEAN地域フォーラム(ARF)等での協力が進展している(第3章第1節第3項参照)。
日本は、東アジア地域を中心とするこうした協力が、
地域内の安定性を確保しつつ進展していくと同時に、地域全体の近代化(市場整備等)を推進するものとなること、
単なる政治的意思の表明ではなく、実質的内容を伴う形で進展すること、
経済分野の協力から出発しつつも、中長期的には政治面でのガバナンス(適切な統治)にも及ぶ方向性を視野に入れつつ進展すること、
グローバル・ガバナンス(国際機関等を通じた国際社会によるマネージメント)と衝突せず、相互に補完する形で進展することが重要であると考えており、こうした考えに基づき、東アジア地域における地域協力や地域間協力を積極的に推進している。
アジア太平洋地域における地域協力・地域間協力の枠組み
【ASEAN+3】
アジア通貨・金融危機の教訓を踏まえ、東アジア諸国間で地域協力を強化する機運が高まる中、ASEAN+3の枠組みが生まれた。ASEAN+3は、1997年以降毎年、首脳会議を開催しているほか、外務大臣会議を始めとする様々な閣僚会議を開催しており、一層の広がりと深みをもって発展している。
2002年7月にブルネイにおいて、第3回ASEAN+3外務大臣会議が開催され、川口外務大臣は、協力の進展を歓迎しつつ、関係閣僚間の協議を効果的に首脳プロセスにつなげるため、外務大臣会議が必要に応じ調整の役割を積極的に果たすことが重要であることを指摘した。また、ASEAN+3では、経済分野のみならず、国境を越える問題を含む政治・安全保障の分野も扱っていくべきであるとの意見が示された。
11月、カンボジアで開催されたASEAN+3首脳会議では、北朝鮮の核兵器開発計画の放棄に関し明確なメッセージが示された。また、多くの首脳が反テロの意思を表明し、小泉総理大臣より、テロ対策能力向上(キャパシティ・ビルディング)のための支援として、研修セミナー要員の受け入れの拡大を表明した。経済面での協力強化については、小泉総理大臣より、日・ASEAN包括的経済連携構想を始めとする経済連携強化に向けた日本の取組は、東アジア全体の経済活動の活性化と競争力の強化につながるものであるとの考えを示した。また、同会議では、小泉総理大臣より、日本で8月に開催した東アジア開発イニシアティブ(IDEA)閣僚会合での共同声明のフォローアップの重要性に言及し、多くの首脳よりこのイニシアティブが高く評価された。さらに、日本は、ASEAN域内の格差を是正することにより統合強化を目指すASEAN自らの取組であるASEAN統合イニシアティブ(IAI)に積極的に協力していく考えを示した。
ASEAN+3首脳会議に出席する各国首脳(11月 提供:内閣広報室)
【日中韓三国間協力】
日本は、北東アジアの平和・安定と繁栄を確保することが、国際社会全体の平和・安定と繁栄の実現に不可欠であるとの考えから、日中韓三国間協力を進めている。
日中韓三国間協力は、1999年に初めて開催された日中韓首脳会合を一つの契機として、地域の繁栄の実現に向け、経済、金融、環境分野での協力を中心に推進してきた(「繁栄のための協力」)。日本は、2002年7月に初めて外相レベルでの会合を主催し、これを定例化するなど、三国間の信頼関係の構築に努力してきた。2002年は日中韓国民交流年であり、日中韓ヤングリーダーズ交流プログラムや日中韓国内講演ツアーを実施するなど、文化交流面でも三国が緊密に協力した。
2002年11月にカンボジアで行われた日中韓首脳会合では、これまでの信頼関係を基礎に、「繁栄のための協力」を一層深化させるとともに、「安定のための協力」も含めた幅広い分野において日中韓三国間の協力を推進していく考えを表明し、朝鮮半島情勢について意見交換を行った。また、今後の日中韓協力を経済貿易、情報通信、環境保護、人材育成、文化協力の五つの分野に重点を置いて進めることで一致した。
このような「繁栄のための協力」や「安定のための協力」を始めとする幅広い分野での日中韓三国間の協力の推進は、東アジア協力促進の原動力とも言える。今後、日中韓が率先してASEAN諸国との具体的協力を一層進め、東アジア全体の地域協力の拡大、深化につなげていくことが期待されている。
【APEC】
アジア、大洋州、北米、中南米地域に加え、ロシアといったアジア太平洋地域の多様な21のメンバーから構成されるアジア太平洋経済協力(APEC)は、域内の持続可能な経済発展を実現するため、貿易・投資の自由化、貿易・投資の円滑化、経済技術協力を三つの柱として活動を展開し、「開かれた地域協力」及び「協調的自主的な行動」を原則に、地域における共同体意識の醸成、一体性の確保に貢献してきた。
日本経済の長期的発展・安定を確保する上で、APECにおける経済面での協力の深化やAPECメンバーとの信頼関係の強化は極めて重要である。それは、APEC域内の貿易は国際社会全体の貿易量の4分の3を占め、日本からの直接投資も、約4割がAPEC地域を対象としており、また、近年、経済問題にとどまらず、テロ問題を始めとする国際社会の主要な関心事項につき、首脳・閣僚間で率直な意見交換を行う有意義な場となっているからである。
2002年は、メキシコが中南米諸国で初めて議長を務め、各種の会合がメキシコで開催されたことにより、アジア地域と米州地域との連携強化にも大いに貢献した。また、2001年の上海での首脳会議で採択された上海アコード(注)を着実に実施するための取組が行われ、具体的作業が進展した。
10月に、メキシコのロスカボスで開催された首脳会議においては、上海アコードに掲げられた新しいAPECビジョンの実施に向け、「貿易円滑化行動計画」、「APEC透明性基準の実施のための首脳声明」、「貿易とデジタル・エコノミーに関するAPEC政策実施のための声明」を採択した。また、自由化に関し、WTOの交渉プロセス進展に向けた政治的メッセージを発出したほか、日本等の提案により、APECにおいて自由貿易協定・経済連携協定(FTA/EPA)についての意見交換や構造改革に関する作業を実施することに合意した。
また、2001年に引き続き、テロ問題について議論を行い、首脳会議においては、APEC域内で発生したテロ行為を厳しく非難した「APECメンバー・エコノミーでの最近のテロリズム行為に関するAPEC首脳声明」を採択したほか、APEC域内におけるテロ対策の重要性を再確認し、運輸、金融、通信等の分野における期限付きのテロ対策措置についてとりまとめた「テロリズムとの闘い及び成長の促進に関するAPEC首脳声明」を採択した。このほか、APEC全メンバーからの共通のメッセージとして、国際社会全体の懸案事項である北朝鮮の核兵器開発計画の放棄を求めるAPEC首脳声明を採択した。
APECの歩み
APEC首脳会議に臨む各国首脳(10月 提供:内閣広報室)
【ASEM】
アジア欧州会合(ASEM)は、北米とアジア、北米と欧州の関係に比べ希薄であったアジアと欧州との協力を強化するため、アジア10か国と欧州15か国及び欧州委員会が参加する地域間の対話と協力の場として1996年に設立され、活動を進めている。
2002年は、6月に外相会合(マドリード)、7月に財務大臣会合(コペンハーゲン)、9月に経済閣僚会合(コペンハーゲン)が開催され、これらの成果を踏まえ、9月にコペンハーゲンにおいて第4回首脳会合が開催された。また、初めて環境大臣会合(1月、北京)、移民管理大臣会合(4月、スペイン・ランサローテ島)が開催されるなど、ASEMの活動は緊密化し、その幅が広がりつつある。
第4回首脳会合では、ASEMの活動の三つの柱、すなわち、
テロ等国際安全保障情勢や地域情勢といった政治、
経済・金融、
社会・文化・教育その他、という広範な分野について活発な意見交換が行われた。政治分野における議論の成果として、「国際テロリズムに関する協力のためのASEMコペンハーゲン宣言」及び「朝鮮半島の平和のためのASEMコペンハーゲン政治宣言」が採択された。特に、朝鮮半島情勢については、小泉総理大臣の訪朝直後であったため、その成果につき国際社会に説明する最初の機会となり、各国から高い評価が寄せられた。また、日本は、アジア欧州間の協力関係を強化するため、テロ対策、経済関係に関する対話、教育交流等の新たな活動を関心国とともに提案し、各国首脳から支持された。
ASEMには常設の事務局がないため、アジア、欧州双方から二か国が調整国を務め、その運営を行っている。第4回首脳会合終了後、日本はアジア側の調整国に就任した。日本は、アジアの一員であるとともに先進民主主義国として欧州諸国とも基本的価値観を共有しているため、アジアと欧州の橋渡し役としてASEMの中でリーダーシップを発揮できる立場にある。日本としては他の調整国(ベトナム、EU議長国、欧州委員会)と共に、2003年以降に予定されている様々な閣僚会合や2004年ベトナムのハノイで開催される予定の第5回首脳会合の成功に向けて、積極的に活動を推進していく考えであり、今後、日本の対アジア外交、対欧州外交にとっても、ASEMの枠組みで何をなし得るかが問われることになる。
第4回ASEM首脳会合に臨む小泉総理大臣(9月 提供:内閣広報室)