第5章 > 3 海外安全対策と領事移住にかかわる諸問題
【領事業務の抜本的改革】
外務省の業務の中でも、国民に直接接することが多く国民生活との関係も深い領事業務は、一般の外交業務と並んで外務省の役割の両輪の一つである。こうした領事業務の重要性を踏まえ、外務省機能改革会議の提言を受けて2001年6月に発表された外務省改革要綱の中では、領事業務についても抜本的改革の方向性が示された。
この政策を推進するために、小島外務大臣政務官を長とする領事業務改革プロジェクトチームが設置され、
省員の意識改革及び研修の強化、
領事窓口サービスの改善、
邦人保護体制の拡充という三本柱の下で検討が重ねられ、現在までにいくつかの成果が得られた。
省員の意識改革及び研修の強化については、I種及び専門職の職員が在外研修後に領事実務に従事することが2002年度から制度化されることになった。また、領事窓口サービスについては、利用者の便を向上させるため領事関連窓口の開庁時間の延長や休館時の電話対応サービスの充実、待合室の備品の改善が在外公館を中心に実施された。さらに、邦人保護体制の拡充としては、関連する諸条約の締結に向けた取組、旅券の発給・管理体制の強化や偽変造対策に関する先進国との協議といった国際的なテロ対策を推進しており、今後、情報通信技術(IT)の発展に伴う成果を取り入れて、衛星を使用した位置確認システム(GPS)を利用した邦人保護システムの配備、テロリストを含む問題外国人の入国を査証発給段階でより綿密かつ効率的に精査する査証情報広域ネットワーク(査証WAN)システムの稼動開始などを行う予定である。
外務省は、今後とも更に検討を続け、海外における国民の安全確保に努めるとともに、より利便性の高い領事サービスを提供することを目指して努力を進めていく考えである。
【人的交流に伴う安全対策の推進】
2001年の海外渡航者数は1621万人を記録し、海外に住む日本人の総数も約83万7000人に達している(2001年10月1日現在)。これに伴い、日本人が海外で事件や事故に巻き込まれる事例も増大しており、2000年の海外邦人援護件数は1万4752件、人数にして1万7091人となっている。この中には、9名の死者・行方不明者を出したハワイ沖での愛媛県立宇和島水産高等学校練習船えひめ丸衝突事故(2月)や、コロンビアにおける日本人連れ去り事件(2月)、トルコのイスタンブールで発生し、多数の日本人(解放時12名)が一時人質となった武装勢力によるホテル立てこもり事件(4月)、日本人24名が死亡または行方不明となっている米国における同時多発テロ(9月)が含まれている。外務省は、当事者や家族の援護の観点から最大限の対応を行っているが、これらの事件は、一般犯罪のみならず重大事故やテロといったあらゆる種類の脅威が国境を越えて存在するようになったことを示している。
このほか、外国人の入国者数は527万人、在留外国人数は169万人であるが、海外との人的交流を推進する一方で、テロリストを始めとして問題を起こす可能性がある外国人の入国を事前に防止することも外務省の重要な任務の一つとなっている。
海外安全対策の推進は、事前予防と事後の的確な対応の双方を重視しつつ、諸外国や関係省庁とも連携して総合的な視座の下で行うことが重要である。
事前予防のために最も重要な手段は、日本人に対する的確な情報提供と広報活動である。外務省では各国・地域について、日本人の安全対策やトラブルの回避の観点から参考となる情報を国民に幅広く提供している。例えば、治安の悪化、騒乱、テロなど、日本人の生命・身体の安全に悪影響を及ぼす事態の発生やその可能性についての情報はもちろん、一般的な治安状況、犯罪発生の傾向(状況・手口等)、査証・出入国手続、保健・衛生など渡航滞在にあたっての安全対策やトラブル回避に必要な基礎的データなどである。こうした情報の提供手段として、国別・海外安全情報FAXサービス、海外安全テレフォンサービス、海外安全情報タッチビジョンなどに加えて、インターネットを利用した外務省・海外安全ホームページを通じきめ細かく情報提供を行っている。
国際犯罪の予防には、旅券の発給・管理体制の強化や偽変造対策及び厳格な査証発給政策が有効である。近年、旅券等の渡航文書が国際犯罪組織やテロリストにより偽変造され、悪用される例が多発しており、渡航文書の偽変造対策の強化が国際的な関心事項となっている。外務省としては、各国との効果的な協力体制の構築が不可欠であるとの観点から、12月に主要先進4か国の旅券発行当局者及び偽変造対策の専門家を招聘して第2回旅券政策協議を開催するなど、旅券の発給・管理体制の強化、偽変造防止技術の向上及び情報ネットワーク作りに努めている。
日本に入国する外国人及び外国人登録者数は漸増傾向にある一方、不法残留外国人は1992年の急増以来20万人台で推移している。主として不法滞在者の一部が引き起こす犯罪は、在日外国人に対する誤ったイメージを生じさせうるのみならず、健全な国際交流自体をそもそも妨げる恐れがあり、外務省としては、厳正な査証申請の審査を通じて不法就労や不法滞在を目的とする者の入国阻止を図っている。また、入国者の多い国々とは定期的に協議を行い領事分野での問題解決に努めている。
一方で、人の移動を円滑化し、人的交流を促進するために査証手続の簡素化及び迅速化も継続して推進している。例えば、ITの技術者について査証手続の緩和等を行っているが、こうした努力は政府の規制緩和の取組にも沿うものである。また、韓国との間で、ワールドカップ・サッカー大会共催の成功のみならず、日韓間の中長期的な人の往来の促進を念頭に、2002年冒頭から大幅な査証緩和措置をとることになった。
こうした諸施策を国民に広報するために、2001年6月及び11月に海外安全週間、2月に旅券の日を設定して関連イベントを実施したほか、海外安全に関するセミナーの開催、海外進出企業や旅行業界等に対する海外安全面での情報提供を継続的に行っている。
【快適な海外生活への支援】
海外に在留する日本人の数の増加に伴い、日本国民の安全かつ快適な海外活動のために求められる領事業務も複雑多岐にわたっている。外務省では、国民の海外での福利向上のための環境整備の一環として、従来から、文部科学省と連携して日本人学校及び補習授業校に対する支援を行っている。また、医療事情の悪い熱帯地域を中心とした開発途上国に在留する日本人の健康相談のために、医療機関の協力を得て、1972年から巡回医師団を派遣している。海外における伝染病流行(医療情報)などの情報についても、各国政府又は世界保健機関(WHO)の情報をもとに、海外安全相談センター情報等を通じて広く情報提供に努めている。近年ではこれらに加え、年金の二重払い及び期間通算の問題の解決、外国運転免許証の取得手続の簡素化など新たな分野における関連施策の推進にも努めている。
1998年の公職選挙法の改正により、海外においても国政選挙に参加することが可能となったが、この在外選挙に関する事務も国民の権利実現の観点から重要である。2001年7月の参議院議員通常選挙においては、2000年の衆議院議員総選挙に次ぐ二度目の在外選挙が実施され、約2万2000人の海外在住の日本人が投票を行った。海外で投票するためには、事前に在外選挙人名簿に登録することが必要であり、在外公館では在外選挙制度の広報とともに、館員が出張して登録申請を受け付けることにも努めており、2001年末現在、在外選挙人名簿の登録者数は約7万5000人に達している。
在外選挙の仕組み

(column9参照)
【海外日系人社会との協力】
日本人の海外移住には130年を超える歴史があり、移住者及びその子孫である日系人は、ブラジルの130万人、米国の100万人を筆頭に米州大陸を中心に約250万人(推定)を数える。日系人は政治、行政、経済、学術、文化等の広範な分野で活躍しており、各国の経済及び社会の発展に積極的な貢献を行い高い評価を得るとともに、居住国と日本との相互理解の増進、友好関係の進展に重要な役割を果たしている。
外務省は、移住者の高齢化に伴う福祉問題や自助努力が及ばない人々への支援、日系人の人材育成、経済技術協力における日系人の活用など、現地日系人社会の要望の変化に応じた支援を行う一方、時代にそぐわなくなった施策については随時見直しを行うなど、効果的な政策の実施に努めている。特に、二世、三世等の日系人の支援については、人材育成を目指して技術研修員としての受け入れや、日系人を通じた技術協力を実施し、また、日本語教育のために日本語研修や現地の日本語学校への教師の派遣等の事業を実施している。さらに、日系人を対象とした留学生奨学金助成も行っており、これらの人々が居住国と日本との「懸け橋」となって一層活躍してもらえるよう様々な施策を講じている。また、これまでの移住の歴史を正確に評価し、貴重な資料を記録・保存するとともに、日系人を含め広く一般の利用に供するための施設として2002年開所予定の横浜国際センター(仮称)の中に移住資料展示施設を開設する予定である。
【情報通信技術(IT)の発達に伴う成果の活用】
近年におけるITの発展は著しいが、領事分野でもその発達に伴う成果を十分に取り入れて施策に反映させている。具体的には、先に触れたGPSの導入を始め、機械で読み取りができる旅券や査証の開発、ホームページやメールマガジンによる情報提供の強化、海外に住む日本人のデータベースの一層の充実、オンラインによる外務本省と在外公館との間の情報の瞬時の共有などである。