(1)総論
冷戦終結後も引き続き国際社会においては種々の不安定要因や多くの課題が存在している。99年も民族、宗教等に起因する紛争が多発し、このような紛争の下で大量の難民が発生し、また、対人地雷、小型武器等により、多くの人々に被害をもたらした。さらに、核を含む大量破壊兵器及びその運搬手段であるミサイルの拡散の危険への対処も引き続き大きな課題となった。本項では、このような課題についての国際社会の取組に関し、第1に貧困等紛争の潜在的原因の除去など「紛争予防」の問題について、第2に紛争の手段の規制という観点からも重要な「軍備管理・軍縮及び不拡散体制の強化」について、第3に実際に紛争が発生した場合、紛争の拡大や激化を抑え、紛争を解決へと導く上で重要な「国際平和協力」について、第4に紛争の発生に伴いしばしば発生する難民・国内避難民等の問題への対処など「難民問題」について取り上げ、国際社会及び日本の取組について述べる。
(2)紛争予防
99年は、国際社会の様々な場で「紛争予防」についての議論が盛んに行われた1年であった。例えば、6月に開催されたケルン・サミット及びG8外相会合においても紛争予防が取り上げられ、これを受けて12月には、ベルリンで紛争予防G8外相特別会合が開催された。なお、ASEAN地域フォーラム(ARF)の場でも予防外交についての議論が開始されている。
G8における紛争予防に関する議論は、コソヴォや東チモールをめぐる情勢が全世界的な注目を集めたことと無縁ではない。これらのケースやアフリカその他の地域における紛争とそれがもたらす人道上、経済上の悲劇を目の当たりにしてきた経験から、紛争はいったん発生してから対処するよりも、発生前に芽を摘む方が様々な点でコストがかからず、紛争をその勃発する前の段階で防止することが重要との認識が高まってきている。また、いったん紛争が起こってしまった後は、これを一刻も早く終了させ、紛争が再発しないよう国際社会として手段を講じ、長期的に持続可能な平和を達成することが必要である。
冷戦終了後、紛争の予防に関する議論が活発化したのは、ガーリ国連事務総長(当時)が、安全保障理事会の要請に応え、92年6月に「平和のための課題」と題する報告書を提出して以来のことである。同事務総長は、95年1月には「平和のための課題-追補」を提出したが、この二つの報告書は、国連を中心とする国際社会の議論の方向性を示したものと言える。
紛争予防(Conflict Prevention)という概念については、今のところ確立した定義はなく、またその対象とする範囲も明確に規定されてはいない。しかしながら、日本を始めとする各国、国連及び地域機関等の国際社会による紛争予防に対するこれまでの取組は、大きく分けて次のように分類することができる。すなわち、紛争が発生する兆しはないが、将来の紛争の根本的要因となり得る経済・社会問題への取組、紛争に発展し得る政治的・社会的対立構造の除去・緩和(調停・仲介等)、いったん発生した紛争を終了させるための平和創造活動、停戦・和平合意後の平和の維持及び再発の防止であり、これらの取組を併せて広義の「紛争予防」とすることができよう。
日本はこれまで、いくつもの紛争の解決及び再発防止のために協力してきており、また、国連、G8等における議論にも積極的に参加してきている。さらに、地域機関による活動に対しては、例えばアフリカ統一機構(OAU)の紛争予防管理解決メカニズムの強化や対ナイジェリアOAU選挙監視団派遣に対する支援等の貢献をしてきている。
日本は従来より、紛争予防に取り組むにあたって、紛争発生の背景にある種々の要因を総合的に把握し、かつ、紛争発生前から紛争発生後の幅広い段階での取組を視野に入れるとともに、その手段として政治、安全保障、経済、社会、開発等の分野での政策・措置を念頭において取組を行う「包括的アプローチ」が重要であると考えており、機会あるごとに国際社会に対し訴えてきた。このような考え方は、12月にベルリンにて開催された紛争予防G8外相特別会合においてもその必要性が確認され、「包括的アプローチ」の重要性は徐々に国際社会において浸透しつつある。日本としては今後ともこのような考え方を一層推進していく考えである。
(3)軍備管理・軍縮及び不拡散体制の強化
核兵器を始めとする大量破壊兵器及びその運搬手段であるミサイルの拡散の危険は冷戦終結後も存続しており、これらの軍備管理・軍縮及び不拡散体制の強化が国際社会全体が取り組むべき緊急の課題となっている。99年は、米露間の戦略兵器削減(START)交渉において目に見える進展はなかった。また、米が国家ミサイル防衛(NMD)配備のため対弾道ミサイル・システム制限条約(ABM条約)の修正を求めたため、NMDを懸念するロシアとの間で協議が開始されたが、99年には両国間で合意に至らなかった。また、98年に核実験を行ったインド及びパキスタンが包括的核実験禁止条約(CTBT)に参加するかどうかが注目されたが、99年中に実現には至らなかった。さらに、米上院によるCTBT批准否決や核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)交渉の開始に至らなかったジュネーブ軍縮会議(CD)の膠着等、全体として核軍備管理の歩みは停滞したと言わざるを得ない。
他方、対人地雷や小型武器を始めとする通常兵器が、冷戦終結後頻発している局地的な紛争における主要な武器となるとともに、紛争終結後の復興の障害となっている。こうした現状を踏まえて通常兵器の分野においても国際的な取組が強化されつつある。
(イ)大量破壊兵器
[核兵器]
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CTBTの早期発効を目指して
日本は10月にウィーンにおいて開催されたCTBT発効促進会議の議長を務め、早期発効に向けた強い政治的メッセージを打ち出しつつ、会議を成功裡に収めることに大きく貢献した。その直後の米上院における批准に関する同意決議の否決は早期発効にとって大きな痛手であったが、日本は直ちに山本外務政務次官をワシントンに派遣し、オルブライト米国務長官や米議会関係者らに対し日本の懸念と憂慮の念を表明しつつ、CTBT批准働きかけを行った。これに対し、オルブライト長官より河野外務大臣に対し、批准努力を継続することを約束する書簡が送付された。また、10月下旬、山本外務政務次官はインド及びパキスタンも訪問し、CTBT署名・批准の働きかけを行った。日本はその後もその批准がCTBT発効の要件となっている44か国の中の未批准国に対し順次ハイレベルのミッションを派遣してCTBT批准の働きかけを行ってきている。
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核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム
98年5月のインド及びパキスタンによる核実験を受け開催された「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」は、99年7月、その報告書を発表した。この報告書は、核不拡散・核軍縮の道筋を示すものとして、大変有意義な提言を含んでおり、例えば、完全な核廃絶を目指しつつ米露間のSTARTプロセスを再活性化させ、両国の戦略核弾頭を各々1000発まで削減するよう求めることもその一つである。政府としても、この報告書の提言を踏まえ「核兵器のない世界」の実現に向けた軍備管理・軍縮外交を推進することとしている。
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核兵器不拡散条約(NPT)体制の堅持・強化に向けて
5月にニューヨークにおいて開催されたNPT運用検討会議第3回準備委員会は、核軍縮をめぐる核兵器国と非同盟諸国の対立などによりコンセンサスを得ることができなかった。2000年4月から5月にかけて開催されるNPT運用検討会議は、95年のNPT無期限延長決定後の核軍縮・核不拡散の状況を見極め、将来の在り方につき検討を行う会議であり、この会議の成功裡の開催が、核不拡散体制堅持のため重要である。
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南アジアの核拡散問題
2月のインド・パキスタン首脳会談の際発表された「ラホール宣言」では、信頼醸成措置の促進、対話強化に関する継続的取組が表明されるなど、好ましい動きが見られた。しかし、その後、4月にはインド及びパキスタン両国が相次いで弾道ミサイル発射実験を実施したほか、5月にはインド・パキスタン間の係争地域である、ジャンムー・カシミール地方の管理ライン(LOC)沿いのインド側の一部で戦闘が行われた。戦闘は7月に終結したが、その後も、インドによるパキスタン機の撃墜、パキスタンにおけるクーデターなどの事情もあり、南アジアは不安定である。世界の核不拡散体制の堅持のみならず、南アジアの安定のためにも、CTBT参加を中心としたインド及びパキスタンの不拡散分野での取組を前進させることが重要である。このような中で、日本は、2月に南アジアタスクフォース東京会合を開催して、G8を中心とする関係諸国と協調してこの問題についての取組を強化したほか、インド及びパキスタン両国とのハイレベルの対話を継続することにより、CTBT参加を中心とした働きかけを行った。
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国連総会決議:NPT運用検討会議に向けての地ならし
日本は、94年以来、国連総会において「究極的核廃絶に向けての核軍縮決議」を提出し、国際社会の圧倒的多数の支持を得てきた。99年決議については、7月に発表された「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」の報告書を踏まえつつ、2000年NPT運用検討会議において核不拡散・核軍縮についての追加的な目標につき合意すべく努力を強化することを呼びかけており、この会議の成功の必要性を訴える強いメッセージを送ることができた。
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カットオフ条約交渉
CTBTに続く多数国間の核不拡散・核軍縮に向けた措置であるカットオフ条約については、ジュネーブ軍縮会議の99年会期においても、「核軍縮」や「宇宙空間の軍備競争防止」をめぐる対立の影響のため、交渉のための特別委員会は設置されず、交渉開始には至らなかった。核軍縮・不拡散を前進させる具体的な一歩であるカットオフ条約交渉を早期に開始することが、NPT運用検討会議も開催される中で切に求められており、日本としては、今後とも、交渉の円滑な進展と早期妥結を目指して引き続き積極的な貢献を行う考えである。
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核軍縮の実施に向けた協力
STARTプロセスの下、ロシアの大量の核兵器が削減されるのに伴い、核兵器の解体、解体された核兵器から取り出された核分裂性物質の管理と処分、核分裂性物質の密輸防止、冷戦期に大量破壊兵器の開発等に携わってきた科学者流出の阻止などが、核軍縮推進及び核拡散防止の上でますます重要な課題となっている。日本はこれらの分野でもロシアなどと具体的協力を進めており、6月のケルン・サミットにおいて小渕総理大臣より、2億ドル相当のプロジェクトに資金拠出していくことを表明し、年末に158億円の新たな予算措置を取った(国際原子力機関(IAEA)による保障措置については本章第3節7.参照)。
[生物兵器]
生物兵器については、世界的な拡散の脅威が指摘される中、生物兵器禁止条約(BWC:75年3月発効、99年末現在締約国143か国)は生物兵器の開発、生産、貯蔵、保有につき包括的に禁止してはいるが、それを検証する手段については全く規定がない。世界的な生物兵器開発等の動きに的確に対処するため、検証制度が盛り込まれた議定書の作成交渉が95年以来続けられている。現在までのところ、交渉参加各国の立場が大きく隔たっているために合意に至らない点も残されているが、目標とされている2001年までのできるだけ早い時期の交渉妥結のため各国間で精力的な交渉が続けられている。日本としても、強力で効果的な検証制度の実現に向けて今後とも積極的に交渉に参加していくこととしている。
[化学兵器]
化学兵器禁止条約(CWC:97年4月発効、99年末現在締約国128か国)は、検証制度としていわゆるチャレンジ査察(抜き打ち査察)を有する画期的な軍縮条約である。この条約を実施するための化学兵器禁止機関(OPCW)がオランダのハーグ市に設置されており、現地査察を中心とする検証措置等が着実に実施されている(99年末までに世界各地で実施された査察は約580回を数える)。日本としても、化学兵器の世界的な軍縮に資するため、条約上の義務を誠実に履行してきており、99年末まで多数の産業査察を受け入れたほか、6月に北海道の屈斜路湖から引き揚げられた旧日本軍の化学兵器に対する現地査察を受け入れた。
[大量破壊兵器の運搬手段としてのミサイル]
大量破壊兵器の運搬手段であるミサイルの拡散問題は、地域の安定のみならず国際社会全体の平和に対して深刻な脅威をもたらすものであり、この問題に取り組まなければ大量破壊兵器の拡散問題に包括的に対応したことにはならない。99年にもインド、パキスタンのミサイル発射実験など懸念すべき動きが見られた。日本は、懸念すべきミサイル関連活動を行っている国に対して日本の懸念を伝達するとともに、様々な機会を通じてミサイル関連活動の自制を働きかけている。また、32か国が参加するミサイル輸出管理レジーム(MTCR)は、大量破壊兵器の運搬手段としてのミサイルの不拡散を目的とする唯一の多国間の枠組みとして、ミサイル拡散問題への対応において重要な役割を果たしている。日本は、MTCRを中心として、ミサイルに関わる種々の問題に対応することとしている。
(ロ)通常兵器
[通常兵器一般]
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国連軍備登録制度
軍備の透明性と公開性を向上させることを目的として、日本や欧州共同体(EC)のイニシアチブにより92年1月に発足した国連軍備登録制度の下で、毎年日本を含む90か国以上が、戦車、戦闘機などの7種類の主要な兵器の輸出入数量等を報告している。日本は、この制度にいまだ参加していない諸国への働きかけなどを通じ、その運営に大きな役割を果たしている。
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ワッセナー・アレンジメント(WA)
96年7月、既に解消していた旧共産圏に対する戦略物資及び技術の輸出規制を目的とした輸出規制調整委員会(ココム)の後を受け、地域の不安定化を防止するために通常兵器及び関連汎用品・技術の国際的輸出管理レジームであるワッセナー・アレンジメントが設立された。3年半の活動を通じて、情報交換が次第に強化され、また紛争地域への武器輸出の自制といった一定の協調行動がとられるようになってきている。99年には機能の全面的見直しが行われ、設立以来の懸案事項であった武器移転の透明性の拡大について一定の成果が見られた。
[対人地雷]
対人地雷問題について、日本は、普遍的かつ実効的な対人地雷の禁止の実現と地雷除去活動及び犠牲者支援の強化とを車の両輪とする包括的アプローチを取ることが不可欠と考え、「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱し、「犠牲者ゼロ」の目標の実現に向けて積極的に取り組んでいる。
「禁止」について日本は、対人地雷の使用、貯蔵、生産、移譲等を禁止し、その廃棄を義務づけるオタワ条約を98年9月に国会の承認を得て締結した。同条約は3月1日に発効し、5月には第1回締約国会議が開催されたが、日本としては、今後とも条約の普遍化と実効性確保に向けて努力していく考えである。また、ジュネーブ軍縮会議等において、当面オタワ条約を締結する見込みのない国々も参加し得るような対人地雷の移譲禁止に関する条約の早期交渉開始に向けて関係国と共に取り組んでいく。
「除去及び犠牲者支援」については、「犠牲者ゼロ・プログラム」の具体化として、向こう5年間をめどに100億円程度の支援を97年12月に発表した。具体的活動として、地雷除去については、国際機関を通じた地雷除去活動支援に加え、二国間援助を通じ地雷除去関連機材の供与、専門家の派遣を行っている。その際、草の根無償資金協力を活用して非政府組織(NGO)を通じた支援も行っている。また、犠牲者支援については、主として国際機関及びNGOを通じた支援により、義肢製作や犠牲者のリハビリ等にかかわる施設や機材の整備を支援している。日本は、97年11月以前も含めると99年9月までに既に4300万ドルを超える対人地雷関連の支援を行っている。
[小型武器]
自動小銃、拳銃、機関銃、携帯用対戦車ミサイルなど比較的小型の兵器が近年の紛争における主要な武器となっており、一般市民を含む多くの死傷者を生み出している。また紛争終了後も過剰に蓄積された小型武器のために治安が安定せず復興開発の妨げになるとの問題がある。日本は、95年、97年、98年に続き99年の国連総会で小型武器問題への取組を推進する決議案を提出するなど指導力を発揮している。特に、日本が議長を務める国連政府専門家グループが7月に報告書をまとめ、また、99年の国連総会では国連加盟国が「小型武器不正取引のあらゆる側面に関する国連会議」を2001年6月(又は7月)に開催することを決定し、その会議の準備プロセスを立ち上げることに成功した。日本は、引き続きこの国連会議の成功に向けてその準備プロセスに貢献するほか、開発途上国における小型武器問題の解決のための支援につき検討することとしている。
(4)国際平和協力(国連平和維持活動等)
[現状]
国連平和維持活動(PKO)は、国際の平和と安全の維持のために引き続き重要な役割を果たしてきている。99年12月末現在、同年に新たに設立された国連コソヴォ暫定行政ミッション(UNMIK)、国連シエラ・レオーネ・ミッション(UNAMSIL)、国連東チモール暫定行政機構(UNTAET)、国連コンゴー民主共和国ミッション(MONUC)を含め、17のPKOが展開中であり、約80か国から約1万8000人の要員が派遣されている。
冷戦終了後特に顕著であるが、国際社会が対応を迫られる紛争の多くが、国家間の紛争から一国内における紛争へと変わり、また、人道・人権問題に大きな関心が寄せられるようになってきていることなどに伴い、近年PKOは、伝統的な任務である停戦や軍の撤退等の監視に加え、選挙監視、文民警察、人権監視、難民帰還等の人道救援活動の実施・支援・調整、行政事務に関する助言等多岐にわたる分野の活動をもその任務として担うようになってきている。また、コソヴォに展開しているUNMIK及び東チモールに展開しているUNTAET(いずれも99年に設置)のように、当該地域における立法、司法、行政の分野での統治の権能を有し、紛争後の平和の構築を含む広範な活動を主任務とするPKOも設立されるようになってきている。特にUNTAETは、東チモールの独立と国造りを支援することとされている点が特徴的である。
PKOと地域的機関や人道支援機関等との協力も深まってきている。例えば、UNMIK統治機構構築部門における欧州安全保障・協力機構(OSCE)等による主導的役割やUNTAET人道支援・緊急復興担当部門と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)等との協力など、地域的機関や人道支援機関等がPKOと同じ地域において互いの活動を調整しつつ各々の任務を実施することにより、一定の成果を上げている。
PKOは、紛争後の平和の構築の努力とも連携を深めつつ、今後とも国際の平和と安全の維持・強化のために重要な役割を果たしていくものと思われる。
[PKOをめぐる議論]
PKOを効率的かつ効果的に実施するための質的向上に向けての試みは一貫して続けられてきているところであり、中でも、PKOの緊急展開能力の向上のための取組は継続して行われてきている。国連待機制度は、PKOに機動的に対応するために、国連加盟国が一定期間内に提供可能な要員の種類や数をあらかじめ国連に通報しておく制度であり、12月現在、87か国が参加の意図を表明しており、登録された兵力は15万人弱に達している。また、こうしたPKOの緊急展開能力を更に向上させるため、PKOが展開される前に先遣隊として現地に赴き、本来の司令部が現地に設立されるまでの間、司令部としての機能を果たす「緊急展開司令部(RDMHQ)」構想が数年にわたる議論の末、完全に立ち上がってはいないものの一部の文民ポストが認められ、実現に向けて歩み出した。さらに、北欧を中心として設立が提案されている国連緊急即応待機旅団は、国連待機制度の枠組みの中で、より即応性の高い自己完結性を有する部隊を迅速に派遣することを目的とする組織であるが、参加国からなる運営委員会や計画機関といった基本的機関が同旅団の2000年以降の本格的運用に向けて活動を続けている。
一方、冷戦後のPKOの量的拡大と任務の多様化に伴い、近年、PKO及びこれに関連する活動に従事する要員の死傷者数は増加しており、これら要員の安全の確保は喫緊の課題となっている。このような背景の下、94年に国連総会で採択された「国連要員及び関連要員の安全に関する条約」(日本は95年に2番目の締約国となった)が99年1月に発効した。12月末現在の締約国数は29か国であるが、この条約の実効性を高めるため、締約国の数が今後更に増加していくことが期待されている。
[日本の取組]
日本は、56年の国連加盟以来、国連に対する協力を外交の重要な柱の一つとして、PKOなどの国連を中心とする平和のための活動に対して幅広い協力を行ってきている。
92年の「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(国際平和協力法)」施行以来98年までの間に、日本は、アンゴラ、カンボディア、モザンビーク、エル・サルヴァドルのPKOと、旧ザイールにおけるルワンダ難民のための人道的な国際救援活動及びボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける国際的な選挙監視活動に要員を派遣した。
99年には、7月から9月にかけて国連東チモール・ミッション(UNAMET)に対し文民警察官を派遣し、また、インドネシアの西チモールに所在する東チモール避難民に対し供与される国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の援助物資を輸送するため、11月より航空自衛隊をインドネシアのスラバヤ及びクパンに派遣した。また、96年2月から現在までゴラン高原の国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)に後方支援部隊と司令部要員を派遣してきている。
このような国際平和協力法に基づく人的協力のほか、UNTAETでは邦人が人道支援・緊急復興担当の事務総長副特別代表に採用されるなどしており、UNMIKでも邦人が幹部職員や民政官として活躍している。
また、これらに加え、日本は国際平和協力法に基づき物資協力を行っており、4月には2度にわたって、コソヴォ難民救援のためUNHCRに対してテントなどを、また6月には東チモールにおける直接投票に際してUNAMETに対し広報用のラジオを供与したほか、10月には東チモール避難民救援のために、UNHCRに対しテントなどを供与した。
こうした日本の取組は、国連、関係国を始めとする国際社会から高い評価を受けている。
さらに日本は、PKOに対する理解を深めるとともにより効果的な協力を行うため、数次にわたりセミナーを開催してきており、3月には、ASEAN地域フォーラム(ARF)の枠組みにおいて、「変容する平和維持活動」のテーマの下、カナダ及びマレイシアとの共催によりセミナーを開催し、現在のPKOが直面する諸問題について幅広い意見交換を行った。
(5)難民問題
冷戦終結に伴い民族的、宗教的対立が各地で表面化したことにより、世界の難民数は90年代に入って急増し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)及び国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の支援の対象となる難民・国内避難民等の数は、95年には約3000万人に達した。その後、インドシナ難民問題の収束、多数のモザンビーク難民及びルワンダ難民の帰還により減少傾向に転じたが、99年1月現在で依然として約2500万人となっており、さらに99年にはコソヴォ、東チモールのように大規模な難民問題が発生した。
このような、世界各地における難民や国内避難民等の存在は、人道上の問題であると同時に、関係地域ひいては世界全体の平和と安定に影響を及ぼしかねない問題となっている。日本は、人間の安全保障の観点から、難民・国内避難民等に対する人道支援を国際貢献の重要な柱の一つと位置づけており、UNHCR、世界食糧計画(WFP)、赤十字国際委員会(ICRC)など中立的な立場にある国際機関を通じ、積極的な支援を行っている。また、政府としては、人道支援を行う日本の非政府組織(NGO)を支援しており、コソヴォ等における日本のNGOの活動への支援を拡充し、NGOが現地でより機動的に活動できるようにするための諸措置を講じた。今後とも緒方貞子国連難民高等弁務官を長とするUNHCRを始めとする国際機関、NGOと連携しつつ、難民問題の恒久的な解決に向け取り組んでいく考えである。
難民問題の恒久的な解決には、単に人道支援を行うことだけでなく、紛争の予防や、帰還民が再び難民化するのを防ぐため、地域の安定化を図るような支援を行うことが必要である。そのためには紛争予防への取組が強化される必要があるほか、紛争発生後の緊急人道支援から復興支援、本格的な開発支援へと一連の支援がスムーズに展開されていくことが重要であり、その実現には実際に支援にあたる各国政府、国際機関、NGOなどが調整・連携を強化していくことが不可欠である。また、国際機関の職員殺害など、難民支援活動にとって困難な状況がしばしば発生しており、人道支援要員の安全確保も難民支援における重要課題となっている。
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