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[人間の安全保障について]
日本は、人間の生存、生活、尊厳に対する脅威への取組を強化するとの観点から人間の安全保障を重視し、様々なイニシアチブを取っている。その背景としては、今日、貧困、環境破壊、薬物、国際組織犯罪、エイズ等感染症、難民流出、対人地雷等様々な問題が個人の生存、生活、尊厳に対する脅威となっており、こうした中で人間の自由と可能性を確保するためには、人間一人一人に注目する人間の安全保障の視点から様々な問題に取り組むことが重要となっていることがある。その取組にあたっては、各国政府、国際機関、市民社会等国際社会の様々な主体が協力を進めていくことが重要となっている。
[日本のイニシアチブ]
こうした考え方を背景として小渕総理大臣は98年12月の「アジアの明日を創る知的対話」において21世紀を「人間中心の世紀」とするために人間の安全保障が重要である旨表明し、また、同12月、ハノイにおける「アジアの明るい未来の創造に向けて」と題する政策演説では「人間の安全保障基金」を国連に設置することを表明するなど日本外交の中に人間の安全保障を明確に位置づけた。
また、99年は、6月の日・北欧首脳会談において、より人間中心の社会を実現するために、人間の安全保障の観点から協力の可能性を探っていくことの重要性を確認したほか、同じく6月にケルンで開催されたG8外相会合の総括文書にて人間の安全保障の重要性につき意見の一致をみるなど、日本と国際社会の関係においても盛んに議論されている。
日本の開発政策との関連では、6月に外務省と国連大学の共催により「開発:人間の安全保障の観点から」と題する国際シンポジウムを国連大学で開催し、高村外務大臣の開会の挨拶に続き、武見外務政務次官が基調講演を行った。シンポジウムにおいては、国際機関、ドナー国と途上国の代表が保健医療、貧困撲滅、アフリカの開発について人間の安全保障の視点を開発分野でいかに活かしていくかについて充実した議論を交わした。また、8月に取りまとめられた「政府開発援助(ODA)に関する中期政策」にも人間の安全保障の考え方が言及されている。
[人間の安全保障基金を通じた具体的施策]
人間の安全保障について、日本は小渕総理大臣のイニシアチブにより、3月、国連に約5億円を拠出して設置した「人間の安全保障基金」を活用して具体的な取組を行っている。これまで東南アジアの貧困対策事業を行うアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)「人間の尊厳イニシアティブ」、タジキスタンの医師、看護婦、助産婦が研修を受け国内の公共医療の質の向上を目的とする国連開発計画(UNDP)「タジキスタン医療研修プロジェクト」、セミパラチンスク地域にて被爆の後遺症に苦しむ住民に国際社会の一層の支援を求めるため9月に東京で開催された「セミパラチンスク支援国際会議」、日本の非政府組織(NGO)と協力して、破壊された小学校2校を再建する国連児童基金(UNICEF)「コソヴォ初等教育支援事業」といった住民一人一人に直接役立つ事業を支援している。また、コソヴォ復興難民帰還支援、東チモール復興支援のため99年度補正予算にて「人間の安全保障基金」に66億円が計上され、直面する課題に迅速かつ柔軟に対応することとしている。12月には日本国際問題研究所創立40周年記念シンポジウムにおいて、小渕総理大臣は人間の安全保障の観点を具体的取組に活かしていく旨表明した。
このように、人間の安全保障の考え方に関し、日本は具体的施策を積み上げつつ、国際的な場で議論をリードしてきており、今後とも外交を展開していく上での重要な視点として、取組を強化していくこととしている。
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[国際社会による地球環境問題への取組]
近年、地球温暖化問題、オゾン層破壊等の地球環境問題が顕著化しており、これらは人類の生存に対する脅威になり得る国際社会が取り組むべき重要な課題と認識されている。これらは一国のみでは対応が困難で、本質的に国際社会が共同で取り組むべき問題である。他方、環境問題への取組が経済発展のブレーキになる場合があるという意味において、環境問題と開発問題は表裏一体の関係にあるため、異なる発展段階や経済状況にある国や地域が協調行動をとることは容易ではなく、先進国と開発途上国が鋭く対立するような問題(例えば新規資金メカニズムの設立や先進国と開発途上国間の義務の内容)も多く見られる。また、先進国内においても、取組の内容や程度をめぐって意見が異なる場合が少なくない。したがって地球環境問題を解決していく上で、このような立場の相違を調整し、交渉の積み重ねを通じて合意を図っていくことが不可欠である。
地球環境問題への国際社会の取組は、92年6月にリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED、いわゆる「地球サミット」)を契機として大きく前進した。同会議の成果である「環境と開発に関するリオ宣言」及び「アジェンダ21」において包括的な取組内容が規定され、これらに基づき、93年以降、国連経済社会理事会の下部に設置されている「持続可能な開発委員会(CSD)」において年ごとに定められた分野について見直しを行ってきている。
国際社会の具体的な取組は、主として分野ごとの多数国間条約の策定や推進を通じて行われてきている。地球温暖化問題に関しては、97年12月の京都における気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で、具体的な数値目標を挙げ温室効果ガスの削減を先進国などに対し義務づける「京都議定書」が採択されたが、同議定書で定められた「京都メカニズム」(排出量取引、クリーン開発メカニズム及び共同実施)の詳細や遵守制度の具体化等については、2000年11月に開催される第6回締約国会議(COP6)での決定を目指すこととなっており、そのための交渉が進められている。11月の第5回締約国会議(COP5)においては、COP6に向けた交渉の段取りが確定されるとともに、日本を始め多くの閣僚レベル代表から、京都議定書は遅くとも2002年までに発効させるべきとの考えが表明された。生物多様性条約については、2月にコロンビアのカルタヘナで特別締約国会議が開催され、バイオテクノロジーにより改変された生物の安全な移送、取扱い、利用のための手続を定めるバイオセイフティに関する議定書の協議が行われた。オゾン層保護については、11月末にウィーン条約第5回締約国会議及びモントリオール議定書第11回締約国会合が開催され、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)の生産量及び貿易の規制の導入等を主旨とする議定書の一部改正等が行われ、2000-2002年の多数国間基金の資金規模が決定された。また、有害廃棄物問題に関しては、12月にバーゼル条約の第5回締約国会議が開催され、「有害廃棄物の越境移動及びその処分に伴う損害に対する責任及び補償に関する議定書」(バーゼル損害賠償責任議定書)が採択された。このほか、有害化学物質問題については、ダイオキシンに代表されるような残留性有機汚染物質の規制のための条約を策定するため、政府間交渉が続けられている。
[日本の協力]
このような国際的な取組が進展する中で、日本は、地球環境問題への国際貢献を引き続き外交の重要課題と位置づけ、以下のような協力を実施してきている。
第1に、条約等国際約束の策定・実施における貢献である。気候変動については、京都議定書の早期発効を目指し、COP6を成功させるため、インドネシアのバリにおいて東南アジアの開発途上国のための京都メカニズムに関するワークショップを共催するなど、各種関連会合の開催に対して人的及び財政的支援を行い、交渉進展に貢献を続けている。残留性有機汚染物質については、日本は、交渉を通じて、国内法に基づく長年の規制を通じて得てきた農薬や化学物質についての情報・技術に関する知見を積極的に提供している。バイオテクノロジーの安全性については、日本は、輸出国と輸入国の双方の利益に配慮しつつ、両者が受け入れることができるようなバランスのとれた制度作りを目指している。
第2に、環境分野での開発途上国支援である。日本の政府開発援助(ODA)は、ODA大綱上において環境と開発の両立を重視しており、環境分野への協力は重点課題の一つである。8月に策定した「ODA中期政策」においても、厳しい財政事情の中引き続き積極的に取り組むこととされている。具体的には、97年6月に発表した「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」及び同年12月のCOP3において発表した温暖化対策開発途上国支援策(「京都イニシアティブ」)などに基づいて実施しており、協力分野は多岐にわたる。98年度の環境ODA実績は、ODA全体の24.5%を占める4238億円(約束額ベース)に上った。
第3に、環境関連国際機関との協力関係を重視している。日本は、国連環境計画(UNEP)の主要拠出国として大きな役割を果たすと同時に、日本が誘致した「UNEP国際環境技術センター」(大阪及び滋賀)のプロジェクトへの経費支援などを行っている。また、6月には、UNEPとの共催により、世界環境デー記念式典を日本で開催した。
このような取組に加え、酸性雨問題について「東アジア酸性雨モニタリング・ネットワーク」を東アジア主要国の参加を得て2000年に本格稼働するべく取組を進めている。
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[テロ事件の深刻化と国際協力の強化]
99年には、8月にキルギスにおいて武装勢力により資源開発調査に従事していた国際協力事業団(JICA)の専門家4名が誘拐される事件(64日後に無事解放)が発生したほか、モスクワなどロシアの主要都市では8月から9月にかけて連続爆発事件が発生し、300人以上が死亡した。そのほか、コロンビア、アルジェリア、パキスタン、スリ・ランカ、アルメニア等世界各地においてテロ事件が相次ぎ多くの死傷者が出た。
また、10月のバンコクのミャンマー大使館占拠事件、イスタンブール発カイロ行きエジプト航空機ハイジャック事件、12月のスリ・ランカ・コロンボにおける爆弾事件、カトマンズ発デリー行きインディアン航空機ハイジャック事件において、日本人が巻き込まれている。
このような深刻なテロ事件が続発する中で、国際社会はテロ対策のための国際協力に真剣に取り組んでいる。G8は、96年7月のパリにおけるテロ閣僚会合で採択されたテロ対策のための25項目の実践的措置及び97年6月のデンヴァー・サミットで採択された6項目の追加的措置の実行を引き続き推進するとともに、国際社会のすべての国々に対してこれらの実施を呼びかけている。また、6月のケルン・サミットにおいて、テロ資金供与防止条約に関する交渉を促進することが要請された。
国連においては、12月、総会にてテロ資金供与防止条約が採択された。この条約は、テロ行為に対する資金供与を処罰することを締約国に義務づけることを主な内容としている。さらに、この総会においては、国際テロ廃絶のための措置の決議(54/110)も採択された。
[日本の取組]
日本は、在ペルー日本大使公邸占拠事件(96年12月)を契機に、あらためて国際テロに対する対策を見直し、危機管理体制、情報収集体制、警備体制の強化を図ってきている。また、「海外危険情報」の発出等を通じ、世界の危険地域に関する一般国民への情報提供の強化に努めてきている。さらに、8月のキルギスにおける邦人誘拐事件を踏まえて、このような国境を越えたテロ事件の再発防止のため、現地に大使館のない被兼轄国等の情報収集や提供等の体制強化、緊急時に備えての通信機器の整備等に努めている。
あらゆる形態のテロを非難し、断固としてこれと闘い、テロリストに対し譲歩しないこと、テロリストに対する「法の支配」を適用するためテロ防止関連条約の締結等法整備をすることは、G8サミットなどでも繰り返し強調されており、日本もこうした方針の下で、各国との協力を積極的に進めてきている。日本は、これまで採択された12本のテロ防止関連条約のうち既に10本の条約を締結している。また、サミット参加国と共に、各国に対してこれら条約の早期締結を呼びかけてきている。
また、地域協力の一環として、97年10月の日・ASEANテロ対策協議、98年10月のアジア・中南米地域テロ対策協議に続いて、99年12月にはアジア・中近東テロ対策協議を開催した。同協議においては、テロ情勢及びテロ対策について情報交換を行うとともに、テロ防圧のための一層の国際協力の重要性について認識の一致をみた。
日本赤軍については、97年2月にレバノンで身柄拘束された国際手配中のメンバー5名が、禁固3年、刑期終了後国外退去との刑が確定し、服役した。(日本政府は、レバノンにおける司法手続が終了次第、速やかに5人の身柄の引渡が行われるようにレバノン政府に要請してきたが、2000年3月、レバノンに政府亡命が認められた岡本公三を除き、4名がレバノンから国外追放処分となり、その後日本で逮捕・収監された。この結果、同月末現在逃亡中で国際手配されている日本赤軍メンバーは8名、よど号ハイジャック犯は5名となっている。)
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[国際組織犯罪]
近年、グローバリゼーションが進む中でその負の側面として生じてきた国際組織犯罪は、国際社会にとってますます大きな問題となっており、各国間の協力体制の強化及び国際的な法的枠組みの整備が焦眉の急となっている。現在この問題への国際的な取組は主として国連とG8の場を通じて行われている。
国連においては、国際組織犯罪を防止し、取り締まるための包括的な条約である国連国際組織犯罪条約及び銃器、不法移民、人の密輸に関する三つの議定書の交渉が進められており、98年11月の国連総会において、2000年中に国連国際組織犯罪条約を採択することが決議に盛り込まれた。
また、95年のハリファックス・サミットにおいて設置が決定されたG8国際組織犯罪上級専門家グループ(いわゆるリヨン・グループ)は、人の密輸、銃器の不正取引、司法協力、ハイテク犯罪等の様々な国際組織犯罪への対策を議論してきた。日本は、リヨン・グループにおいて銃器不正取引問題の検討グループの議長を務めているほか、各犯罪分野でのG8諸国間の共同作業に積極的に取り組んでいる。6月のケルン・サミットでは、リヨン・グループでの作業の成果を支持するとともに、国連国際組織犯罪条約交渉の早期終結に向けて引き続き作業を行っていくことが確認された。また、10月にはモスクワで国際組織犯罪に関する司法・内務閣僚級会合が開かれ、ハイテク犯罪や国際組織犯罪の資金的側面に焦点を当てて協議が行われた。
[薬物]
世界的に深刻化してきている麻薬等薬物問題への国際的な取組は国連薬物統制計画(UNDCP)を中心に行われている。90年の国連麻薬特別総会、93年の国連総会麻薬特別会合を経て、98年6月に、薬物乱用の低年齢化や覚せい剤の乱用の増加等薬物乱用の現状を踏まえて、国連麻薬特別総会が開催された。この特別総会には、クリントン米大統領、シラク仏大統領ほか多数の政府首脳が出席し、日本からは高村外務政務次官が出席し、覚せい剤対策、青少年対策、国際協力推進を世界に訴えた。最終日、新たな国際的薬物対策の指針となる「政治宣言」を含む七つの文書が採択された。
このような国際的な薬物に対する取組を踏まえ、日本はUNDCPの活動を積極的に支援してきており、厳しい国内財政事情にもかかわらず、91年のUNDCP設立以降、毎年数百万ドルの拠出を実施してきている。
2月には東京で、中国、カンボディア、ラオス、ミャンマー、タイ、ヴィエトナムの薬物取締機関長及びUNDCP事務局長を招き「1999アジア薬物対策東京会議」を開催し、各国取締機関間及びUNDCPとの薬物対策のための地域協力について討議を行った。またUNDCP以外にも、米州機構・全米麻薬乱用取締委員会(OAS/CICAD)、コロンボプラン・麻薬アドバイザリー計画(DAP)、金融活動作業部会(FATF)といった薬物対策に関係する国際機関に対しても、資金拠出を通じてその活動を支援している。
二国間援助においても、薬物不正取引取締りのための技術協力、麻薬原料の代替作物等の導入・普及や啓蒙活動のための資金協力や技術協力を行っている。例えば、ミャンマーにおいてはケシ代替作物としてソバを栽培・普及するため、専門家派遣等の協力を行っている。
また、日本は、薬物に関する先進国の協議機関であるダブリン・グループのメンバーであり、同グループの会合において積極的な情報交換や協議を行っている。
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[国際社会の動きと日本の取組]
人権の擁護と民主化の促進が国際社会の普遍的な価値であり、その実現が引き続き国際社会の重要課題であることが、国連の諸会議やケルン・サミット等多くの場で確認された。また、人権保障は紛争予防、平和構築、開発等幅広い分野と深い関係にあることについても議論された。一方で、各地における地域紛争や民族紛争の発生に伴う深刻な人権侵害が発生している。このような現代社会における人権侵害に対処するため、世界的規模でありかつ中立的な国際機関としての国連の役割はますます重要になってきていることについても確認されたと言えよう。
3-4月に開催された国連人権委員会においては、コソヴォの人権状況に関する決議を採択し、事態の早期改善を訴えたほか、9月には東チモールに関する国連人権委特別会期が開催され、東チモールにおける人権侵害を調査するための国際調査委員会の設置等を含む決議が採択された。なお、日本は、決議案についてのコンセンサスが、国連人権委特別会期において成立しなかったことなどにかんがみ決議案に棄権した。また、人権委自体をより効率的なものとすべく、人権委メカニズムの改革について話し合いを深めた。
日本は、このような国連における人権をめぐる議論に積極的に参加してきた。また、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の活動を支援してきており、財政面では、各国による人権状況の改善努力を支援するための諮問サービス基金を始め同事務所の運営する各種基金に対し、99年には約80万ドルを拠出した。
日本は、このように国連の役割を重視するとともに、人権問題に対処するにあたっては、実際の人権状況改善につながる現実的アプローチが重要と考え、(1)対話、(2)協力、(3)明確な意見表明(批判)、の三つの方法をバランス良く組み合わせることとしている。協力については、開発途上国において長期的に民主主義及び人権尊重思想を根付かせるためには、その国自らのイニシアチブが必要であるとの観点から、途上国とのパートナーシップを原則として、法・司法制度や選挙制度の整備への支援、司法・警察官の研修のほか、民主化を支える市民社会の基礎作りのための協力を従来より行ってきている。
また、日本は6月に「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(拷問等禁止条約)」を締結し、その結果いわゆる人権主要6条約をすべて締結した。
[女性、児童]
女性の地位向上に向けた取組として、日本は3月に開催された第43回国連婦人の地位委員会において、第4回世界女性会議のフォローアップや女性2000年会議の準備に関する審議に積極的に参加した。また、開発途上国の女性の能力向上への支援等のため、国連開発計画(UNDP)の途上国の女性支援(WID)基金、国連婦人開発基金、日本のイニシアチブにより設立された「女性に対する暴力撤廃のための国連婦人開発基金信託基金」、そして「国連国際婦人調査訓練研修所」等に対して99年度中に約554万ドルを拠出するなど、世界の女性に対する支援を行っている。
また、児童の権利保護や保健・教育の促進、緊急援助等に対し、国連人権委員会等での検討や、国連児童基金(UNICEF)を通じた協力を行っており、99年の同基金への拠出は約2622万ドル(一般財源分のみ)に上った。
さらに、5月の「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の成立及び11月の施行を踏まえ、この法律について在外公館を通じて関係国政府及び在留邦人に伝達し協力を求め、日本人が海外において児童の性的搾取にかかわることのないよう努めている。
[社会開発]
日本は、国連社会開発委員会のメンバーとして、2月に開催された第37回会期では、社会的弱者の支援等の検討に各国と協力して取り組んだ。このほか、国内においては、社会開発サミットの「宣言」及び「行動計画」に基づき作成した「西暦2000年及びそれ以降に向けての社会開発のための国内戦略」をベースに「社会開発サミットの成果の実施に関する報告書(評価レポート)」を作成し、国連へ提出した。また、日本は政府開発援助(ODA)においても医療・保健・教育等の社会開発分野を重視してきており、二国間のODAに占めるこの分野の割合は91年の12.3%から98年には20.2%に増加した。
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エイズ等の新しい感染症、また、近い将来克服されると見られたにもかかわらず、再び大きな問題となっている結核、マラリア等の再興感染症は、その伝播性や対策に要する経費負担の大きさから、一国のみで解決できる問題ではなく、世界各国が協力して対策を進めなければならない地球的規模の問題である。特に開発途上国にとっては、住民一人一人の健康への脅威であるだけでなく、社会・経済開発への重大な阻害要因となっている。近年のサミットにおいても感染症対策が取り上げられ、国際社会の共通の関心事項となっている。
世界保健機関(WHO)や国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、これら感染症対策のための国際協力を推進しており、日本もその経験や知見を活用して開発途上国の保健・医療向上に貢献するため、これらの機関及び他のドナー国と密接な協力を進めている(日本はWHOへの分担金拠出国中第2位である)。2月には尾身茂自治医科大教授がWHO西太平洋地域事務局長に就任しており、同局長の下、WHOが同地域の保健・医療の向上に更に貢献することが期待されている。
日本は、西太平洋地域のポリオ根絶支援活動の最大の援助国であり、その成果として2000年中にもWHOから西太平洋地域におけるポリオ発生の終息宣言が出される見込みである。また、日本はマラリアや住血吸虫など熱帯地域の大きな健康問題である寄生虫対策を積極的に推進しており、このためアジアやアフリカに人造りと研究活動のための拠点を作り、人材育成と情報交換を促進する計画である。
日本は、このような保健・医療分野の国際協力をODA中期政策の重点課題の一つとしており、98年度の無償資金協力の約21%、技術協力の約15%を保健・医療分野に充てた。また、94~2000年度までの7年間にODA総額30億ドルを目標に「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティヴ(GII)」を推進しており、98年度末までの5年間でこの目標を超える約37億ドルを達成した。
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7.原子力の平和利用及び科学技術分野における国際協力
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[原子力の平和利用]
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国際原子力機関(IAEA)による保障措置の強化・効率化
IAEAは、原子力平和利用活動における核物質が軍事転用されないことを確保するために保障措置制度を設けている。しかしながら、イラク及び北朝鮮の核開発疑惑を契機として、現在の保障措置制度を更に強化し効率化する必要性が認識され、97年5月、特別理事会で、各国がIAEAとの間で締結している保障措置協定を強化するためのモデル追加議定書が採択された。これは、IAEAに提供する情報の拡充、IAEAに対する補完的なアクセスの提供等を内容とする。99年12月現在、45か国がこの追加議定書に署名しており、そのうち日本を始めオーストラリア等8か国について発効した。今後、締約国を拡大させ、保障措置を強化し、また、財政的負担を軽減するように効率的なものとしていくことなどが国際社会の大きな課題である。
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チェルノブイリ石棺計画
86年に爆発事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所4号炉は、事故直後の応急手当てとしてコンクリートなどで塞がれ、「石棺」化された。
近年、この「石棺」が老朽化し、倒壊等の危険性があるため、97年6月、石棺の補修と新しい石棺建設を内容とする、総額約7億5800万ドルの「チェルノブイリ石棺計画」が作成された。この石棺計画は、G7が97年のデンヴァー・サミットで表明した3億ドル及びその他の国からの拠出金により実施され、現在は緊急修理と基本設計作業に関するプロジェクトが進行中である。ただし、いまだ石棺計画の総額すべてが手当てされてはいないため、将来の資金手当てが急務となっている。日本は、G7の一員として、この石棺計画実施のための資金拠出を行っているほか、石棺計画の進捗に関して専門的な助言を行うために設立された「国際諮問グループ」にも参加している。さらに、初期プロジェクトの実施に日本企業が参加するなど、計画の推進に大きく貢献している。
[科学技術協力]
科学技術は、国の安全保障、経済・産業活動を支える基盤的要素の一つであり、科学技術創造立国を目指す日本として、国際的な交流を通じて日本の科学技術の発展を図ることは、重要な外交上の課題の一つである。また、科学技術は、地球環境問題、エネルギー問題及び保健衛生問題等、国際社会が共通して取り組むべき問題の解決に重要な役割を果たしており、日本は科学技術に関する国際協力を積極的に推進している。最近の科学技術は、例えば国際宇宙基地計画など、その規模の大きさから国際協力が有益なものも多い。
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二国間協力
日本は、関係国との間で定期的に、又は重要な問題が生じた場合に会合し、科学技術政策に関する情報交換や協議を行うとともに、具体的な研究協力を進めている。こうした二国間協力の枠組みとして、日本は、現在、約30か国との間に科学技術協力協定を締結している。99年1月には、新たにスウェーデンとの間で科学技術協力協定を締結した。また、船舶・航空機の運航、カーナビゲーション及び測量などの面で衛星測位システムの技術が重要な役割を果たしており、日米両国は98年9月の日米首脳会談の際に全世界的衛星測位システム(GPS)の利用を積極的に推進する方針を表明したのを受けて、99年9月、日米間でGPS利用に関する作業部会会合を開催した。
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宇宙
宇宙は、科学技術に関する国際的な協力が最も進んでいる分野の一つであり、日本は、宇宙の分野での国際協力を積極的に推進している。具体的には、日本は、米国、カナダ、欧州諸国、ロシアと共に、宇宙基地協力協定(98年1月署名、日本は同年11月締結)の下、2004年までの宇宙基地完成を目指して国際宇宙基地計画を推進している。日本の担当部分である日本実験棟の建設は、2002年から開始される予定である。
日米間では、観測、火星探査、日本人宇宙飛行士のスペースシャトル搭乗等の協力を実施している。日本はまた欧州、アジア諸国とも地球観測や宇宙通信の分野での協力を進めている。
7月にウィーンにて、国連宇宙平和利用委員会特別会合として、約17年ぶりに宇宙空間の探査及び平和利用に関する第3回国連会議(UNISPACEIII)が開催された。日本は池田ウィーン代表部大使を首席代表として、関係省庁等が参加した。会合には、全国連加盟国、国際機関等が集まり、宇宙の平和利用や宇宙技術の地球環境問題、資源問題解決のための利用、宇宙環境の保護等につき検討され、検討結果はウィーン宣言として採択された。
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多国間の協力
ライフサイエンス分野では、日本の提唱によりG7などと共同で実施している、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)において、脳機能及び生体解明のための基礎研究への研究資金の助成を行っている。99年にはHFSP推進機構の設立10周年を迎え、7月に機構が置かれているストラスブールで、12月にワシントンで、記念行事が行われた。過去10年間の研究費助成件数実績は延べ422件に上る。
またアジア太平洋経済協力(APEC)の枠組みにおいては域内の産業技術交流促進のため、3月に第16回産業技術ワーキング・グループ会合(於:香港)が、8月に第17回会合(於:シアトル)が開催された。さらに、アジア欧州会合(ASEM)の枠組みにおいては、中国の呼びかけで、10月に北京において科学技術大臣会合が開催された。
旧ソ連下で大量破壊兵器の研究に従事していた科学者・技術者の国外流出を防止することは日本の安全保障の観点から重要であり、また、彼らの有する技術を民生用に利用することは、日本の科学技術の発展にとっても有益である。このため、日本は、これらの科学者・研究者が民生用の研究プロジェクトに従事する機会を提供するために、94年に日本、米国、欧州連合(EU)、ロシアにより設立された国際科学技術センター(ISTC)に対し積極的な支援を行っている。日本は、6月のケルン・サミットで小渕総理大臣が表明した対露非核化・不拡散支援の一環として、12月、ISTCに対し、それまでに行った約110件(約3100万ドル)の協力に追加して2000万ドルの拠出を行った。
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99年は世界各地において、地震、洪水などの大規模な自然災害が多発し、多数の人命が失われるなど、被災国の社会及び経済に深刻な影響を与えた。被災国政府は、災害に際し被災者の救援に全力を挙げて取り組んでいるが、特に開発途上国の多くは災害の多発地域であるにもかかわらず、その社会的・経済的基盤が脆弱であるため、十分な救援活動を行い得ない状況にある。日本は、人道的な観点からこれら被災国に対し、被災国政府や国際機関の要請に応じて、国際緊急援助隊の派遣、緊急援助物資の供与、緊急無償資金の三つの援助、いわゆる「ヒト、モノ、カネ」の緊急人道援助を実施した。
具体的にこの1年間は、コロンビア、トルコ及び台湾における地震災害、ヴィエトナムにおける洪水災害やヴェネズエラにおける集中豪雨災害など世界的に大規模な自然災害が多発した。これらを反映して、日本は合計11チーム289名の国際緊急援助隊を派遣した。その内訳は、救助チーム3チーム(186名)、医療チーム5チーム(78名)、専門家チーム3チーム(25名)であった。救助チームの3件は、コロンビア(1月)、トルコ(8月)、台湾(9月)への派遣であり、いずれも災害の発生したその日のうちに、かつ要請を受けて数時間の後に日本を出発するという、極めて迅速な対応であった。特に、トルコでは国際緊急援助隊・救助チーム発足以来、初めて生存者の救出に成功した。医療チームは、救助チームと同時にコロンビア、トルコ及び台湾へ派遣され、災害直後の外傷患者などに対する外科治療のみならず、時間の経過とともに変化する医療ニーズを敏感に捉え、内科や小児科、また災害直後の精神的ケアを行うための精神科など幅広い医療活動を行った。専門家チームは、トルコと台湾の地震災害に対する耐震分野などにおいて、災害後の応急復旧面での助言や指導を行い、被災国政府より高い評価を得ている。さらに、トルコ地震の際には、住居を失った被災者のために兵庫県より無償で提供された500戸の仮設住宅を被災地に届けるために、国際緊急援助隊派遣法に基づき「ぶんご」など3隻の海上自衛隊艦船が輸送業務を担った。
緊急援助物資の供与は19件、総額約4億6000万円が実施され、各々の被災状況に応じて、テント、毛布及び医療品・医療資機材などが被災国へ供与された。また緊急無償資金の援助は16件、総額約10億1000万円が実施された。このうち、トルコと台湾の地震災害では、住居を失った被災者に対する越冬用暖房器具の設置や仮設住宅の供与など緊急人道支援活動を実施する日本の非政府組織(NGO)に対して、資金供与を実施した。
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