米国の原子力事情(7月分米国紙等とりまとめ)
平成13年8月
- 核廃棄物歳出関連法案の下院歳出委員会での可決
下院歳出委員会は、米国エネルギー省(DOE)が予定していた使用済核燃料処分場(注1)の選定が大幅に遅れていることに失望した模様であり、DOEに対して2002会計年度中に右選定を完了させるよう強く求めた。DOEは商業用使用済燃料を1998年1月31日から処分のために引き取ることを法令により求められていたが、処分場選定の遅れに伴い、NRCに対する許認可申請が2003会計年度へと遅れ、処分場での操業開始は早くても、当初の予定から12年遅れの2010年になる見込みである。
(6月28日付CQ HOUSE ACTION REPORTS)
- ロシアによる米国の核物質計量管理システムへの警告
ロシアのクルチャトフ研究所(注2)の研究員は、米国のロス・アラモス国立研究所(注3)からロシアのクルチャトフ研究所に提供されたマイクロソフト社製の核物質の計量管理用のソフトウェアーに、致命的欠陥を発見し、同じソフトウェアーが何年間も米国の核物質計量管理の基幹として用いられていたと警告を発した。致命的欠陥というのは、そのソフトウェアーを使用すると、記録上から数千発の核爆弾に相当する核物質が消滅してしまうと言うものである。ロス・アラモス国立研究所は、この事実を公には認めていないが、ロシアの警告はDOEの幹部に衝撃を与えた。
一方、ロス・アラモス国立研究所は、クルチャトフ研究所が使用しているのは、古いバージョンであると指摘したが、逆に、クルチャトフ研究所は、ロス・アラモスのソフトウェアーでさえ、ハッカー等の接続が認められていない利用者にもアクセスが可能であるというセキュリティ上の欠陥がある旨の報告を行った。
(7月11日付ワシントン・ポスト)
- 原子炉燃料の国内供給者に対するブッシュ政権の考え
ブッシュ政権は、米国内における原子炉用の燃料供給を確実にする新しい濃縮技術開発のために、米国のウラン濃縮公社に補助金を支給すべきかどうか苦悩している。つまり、米国政府は、原子炉用燃料及び核兵器の製造において重要な位置を占めるウランの濃縮役務に関し、国内需要を賄うだけの能力を失いつつある米国濃縮公社(USEC)を存続させるか、ロシアをはじめとする他国からの輸入に依存するか、または、別の会社により同事業を行わせるか、との判断の岐路に立っている。
USECによる米国の濃縮産業は、旧式の濃縮施設による高コスト体質や、より効率的な設備を有するロシアや欧州の濃縮業者との競争により衰退の域にある。USECは新技術開発のため、政府からの助成金を求めているが、専門家はそれでも価格は高すぎるであろうと予想している。
米国内の濃縮産業の健全な存続は、93年のロシアからの核兵器級高濃縮ウランの購入契約や、98年のUSECの民営化のための国内法の前提とされているものである。しかし、安価なロシア産ウランは、国内産業を圧迫する一因となっており、国内産業として存続可能である旨を毎年保証するよう求めている右国内法との齟齬も生じている。
ロシアからの高濃縮ウランの購入は、その対価によって、ロシアの原子力技術者および高濃縮ウランの第三国への流出を防ぐものである。ロシアの事業者は、年間5億ドルにも及ぶその対価はロシアの外貨獲得の上でも重要な位置を占めており、ロシアは安定的な供給者になりうるとして、米国政府による長期契約の承認を切望している。
(7月24日付ニューヨーク・タイムズ)
(注1) |
使用済核燃料処分場とは、ネバタ州にあるユッカマウンテン使用済核燃料地層処分場を指している。DOEがユッカマウンテンを使用済核燃料地層処分場として、なかなか推薦できない一因は、ネバタ州選出の議員等が反対していることである。なお、ユッカマウンテンをめぐる詳細な議論については、「米国の原子力事情」(6月分米国紙とりまとめ)を参照。
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(注2) |
クルチャトフ研究所は、第2次大戦の最中の1943年、核兵器製造のために設立され、1994年に国家より「ロシア連邦国家科学センター」の地位が与えられた。その総職員数は、ロシア最高レベルの科学者や、研究者、技術者などあわせて約8,500人を数える。クルチャトフ研究所の研究対象は、軍事面だけではなく、原子力の平和利用を中心として、エネルギー技術部門、環境保護技術部門など、様々な高度技術の研究を行っている。
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(注3) |
ロスアラモス国立研究所は、米国の国家安全保障上、非常に重要な役割を果たしており、第2次大戦中に核兵器研究のため設立され、カリフォルニア大学により運営される、DOEの研究所である。右研究所は、世界で最も多くの分野を抱える研究所の一つであり、技術スタッフもその3分の1が物理学者、4分の1が技術者、そして6分の1が化学者と多岐に渡っている。 |
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