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外務省参与 堂之脇光朗 (小型武器の脅威) 9月11日事件が示すように、テロリズムの新しい傾向は象徴的な建造物を攻撃の対象とし、一般市民の被害を極大化し、最大限の広報・視覚効果を狙い、文明社会の人々をパニック状態におとし入れることのようである。このために大量破壊兵器が使用されれば効果は絶大であろう。これを防止するためにあらゆる手段がとられるべきことは、当然である。 他方、今日においてもテロ攻撃の手段としてもっとも頻繁に使われるのが小型武器であることも事実である。とくに、中東、南アジア、中米などの紛争地域、不安定地域においてはそうである。国連軍縮局が9月11日事件の直後に主催したテロリズムに関するシンポジウムにおいてロハン・グナラトナ氏が引用した数値によれば、今日の世界で発生しているテロ攻撃の88~92%は加害者も被害者も同国人という局地規模のものである。同氏の結論の一つは、「テロリズムのほとんどが銃器や爆発物を使用したものである以上、こうした物件が過剰に出回るのを規制することがテロ暴力抑制の核心となる」であった 。筆者もこれに同感である。9月11日事件は氷山の一角に過ぎず、より大きな根底部分を見ることなしにはテロ暴力の抑制は不可能だからである。 実のところ、小型武器の過剰氾濫を規制しようとする国際的な試みは90年代中頃から開始されてきたが、これはテロ暴力というよりも、地域紛争・国内紛争で用いられる小型武器の残虐性が問題化したためであった。すなわち、冷戦後の今日の世界では軍事大国間の戦争は起こり難くなったが、主として小型武器を用いる地域・国内紛争は一層頻発するようになり、制御し難くなっている。国連事務総長のミレニアム・サミットへの報告書によれば、過去10年ほどの間に5百万以上の人々がこのような紛争で犠牲となったとのことである 。これをはるかに上回る人々が負傷し、難民化したことは言うまでもない。要するに、小型武器こそが今日の現実の大量破壊兵器なのである。 (小型武器「行動計画」もテロに言及)
以上からも明らかなように、小型武器とテロとの結びつきは9月11日事件が起こる以前から十分に認識されていたのである。そこで、小型武器と地域紛争、テロとの結びつきをもう少し詳しく検討してみよう。 (小型武器と地域紛争) 第一に、小型武器とは何か?これは、軍用兵器のなかでも小型で軽量のものを指す。筆者が議長をつとめた国連小型武器政府専門家パネルの1997年報告書の定義によれば、「小型武器」とは拳銃、連発式拳銃、ライフル銃、AK47やM16のようなアサルト銃、短機関銃、軽機関銃などであり、すべて人間一人で携行、使用できるものである。「軽兵器」とは重機関銃、迫撃砲、RPG7のように携行可能な対戦車、対航空機用の砲、ロケット、ミサイルなどであり、すべて数人の人間が一組となって携行、使用できるものである。また、小型武器には手榴弾や地雷も含めて弾薬や爆発物も含まれる。便宜上、これらすべてを総称して「小型武器」と呼ぶことにしている。 第二に、どうして小型武器が過剰に出回るようになったのか?第二次世界大戦の終わる頃までは小型武器はもっぱら陸軍歩兵が使用する武器とされ、一般人の手に渡ることはまれであった。ところが、冷戦時代となっていわゆる「代理戦争」- それは民族解放戦争、ゲリラ鎮圧戦争などであったが - が第三世界で戦われるようになると、そのための小型武器が東西両陣営からふんだんに送り込まれた。そして、このような「代理戦争」では小型武器は職業軍人ではない一般人にも、女性、子供も含めて、広く行き渡るようになった。 冷戦が終了し、武器削減が世界的な趨勢となってからも、その結果余剰となった小型武器が紛争地に送り込まれる状況は続いた。しかも、小型武器の生産能力がある国の数も増加し続けた。2001年版「小型武器サーヴュー」によると、このような生産は1980年代には52国の196社でおこなわれていたが、1990年代にはこれが64国、385社に増加したとのことである 。その結果、今日の世界には約6億5千万丁の小型武器が出回っているとのことであり、世界の総人口の約10人に1丁との計算になる。 さらに、運搬手段や情報技術の近代化にともない、小型武器はどのような集団 一 良い政府、悪い政府、反乱勢力、テロリスト、犯罪者 一 にも非合法取引業者を通じて容易に手に入るようになった。世界における小型武器の非合法取引の総額は推測の域を出ないが、合法取引が70~100億ドルであるのに対し、非合法取引は20~30億ドルではないかとする説がある 。 第三に、小型武器が大問題となったのはなぜか?それは、小型武器がもたらす被害の規模が許し難いものとなったからである。小型武器の存在自体が地域紛争をひき起こすわけではないが、その過剰氾濫状態は紛争を長びかせ、紛争の殺傷率を高める。国際社会が小型武器問題を深刻な問題として認識したのはソマリア、アンゴラ、ルワンダでの内戦の悲惨さが注目された1992年頃からである。この三つの内戦だけで死者数は約250万人にも達した。 「ルワンダの大虐殺に際してはフツ族の民兵(インテラバムウニ)は20分間に1,000人の人間を殺戮できるよう訓練された」とのことである 。また、モハメッド・ファラ・アイディットに率いられたソマリアの反乱軍は米国の戦闘ヘリを撃ち落とすのに対戦車・対航空機用ロケットを使用したが、このような「軽兵器」が市街地に向けられたら民衆はパニックにおち入るであろう。 小型武器が問題化するにいたったのはまさに今日の地域・国内紛争が正規戦争ではなく非正規戦争であるためである。正規戦争で文民を標的にすることは犯罪行為であるが、非正規戦争であるので明確な戦線も存在せず、一般市民と戦闘員の間の区別も存在しない。しかも、用いられる兵器はより殺傷性の高いものへと、拳銃や連発式拳銃よりもアサルト銃、アサルト銃よりも迫撃砲やRPGロケットとへと、移行する傾向にある。このような戦闘では大量虐殺とか町や村落への放火でパニック状態をひき起こすことが地域政権をおびやかし、転覆させる早道となる。 (地域紛争とテロ) そこで、使われる武器が小型武器であるという点では共通している地域紛争とテロ活動の結びつきをみてみよう。第一に、地域・国内紛争とテロ活動の、「双方向性」が問題であろう。一般論としては地域・国内紛争とテロ活動の違いは明確である。地域・国内紛争の当事者たちは土地や領土の支配権を求めて争うのであり、テロリストたちは土地や領土の支配を求めず、隠密裏に行動する。紛争であれば巧妙な仲介工作による予防や解決も可能であろうが、テロは隠密行動であるから予防や解決は不可能である。したがって、大虐殺があって人々がパニックとなっても紛争は紛争であり、テロではない。 ところが、この区別がつかないことがあり、とくに紛争地や不安定地域ではそうである。テロリストたちの活動が成功すると地域・国内紛争へと発展しかねないし、反対に地域・国内紛争で一方が優勢となると、不利となった側が一般市民の間に身を隠し、隠密に行動するテロリストへと逆戻りしかねない。両者のあいだの「双方向性」が問題であろう。 第二に、地域・国内紛争での小型武器の使われ方が野蛮で残虐なものとなるにつれて、テロ暴力も同じ僚向をたどる可能性がある。よく知られているように、「テロリズム」という用語の本来の使い方としてアカデミー・フランセーズが1798年に記したのは「テロの制度もしくは支配」のことであった。かなり後になって、帝政ロシアの末期頃から、テロは抑圧的な指導者の暗殺を正当化する用語として革命家たちの間で用いられるようになった 。その後長い間、おそらく今日でも、もっとも典型的なテロ攻撃は待ち伏せであり、引き続く爆撃、暗殺であると考えられてきた。一般人への危害はなるべく回避された。なぜなら、テロリストたちにも守るべき大義、正当性への主張があり、同国人や同調者からの共感を必要としたからである。 ところが、地域・国内紛争での小型武器が大量虐殺とかパニック状態をつくり出すのに使われるようになると、テロ暴力もこの新しい傾向をたどる可能性があろう。1998年のケニヤにおける米国大使館爆破事件とか昨年の9月11日事件はその兆候であったとも考えられる。よく指摘されるように、このような行動の温床となっているのは根底にある不満とか「暴力の文化」である。したがって、地域・国内紛争やテロ暴力の規模を抑制しようとするのであれば、そのような根源的な原因に着目し、暴力の手段である小型武器の過剰氾濫を規制するといった総合的アプローチが必要となる。 第三に、地域紛争とテロを結びつけるものとして、最近の「破綻国家」現象も重要である。アフガニスタンは内戦と小型武器過剰氾濫の最大の被害国の一つであった。20年以上も続いた内戦時代をつうじて小型武器は外部からふんだんに流入、供給されてきた。そして、1980年代終わりのソ連軍撤退後には部族間の闘争が再燃し、タリバン勢力が優勢となったが、停戦のめどもたたず、実効的な政府も存在せず、おびただしい数のアフガン人が殺害され、難民化したのであった。 さらに悪いことに、周知のとおり、タリバン勢力はテロ組織であるアル・カイダと手を結び、その土地は国際テロ活動の訓練場、本拠地となるにいたった。テロリストたちは土地や領土の支配を求めないのが本来であろうが、法執行の及ばない「聖域」が提供されれば、こんなにうまい話はないのである。 このような状況に対処するためには、第一にテロ勢力を排除するための軍事行動が必要であり、第二に破綻国家を実効性のある国家に復元し、二度とテロリストに利用されることのないようにする必要がある。第一の任務は米国やその他の能力と意志のある国に遂行してもらう必要があるが、第二の破綻国家の復元には幅広い国際社会の支援と協力が必要となる。まずは小型武器の流入が効果的に規制される必要があり、また、破綻国家が統治能力を回復するためには、たとえば地雷除去、余剰武器の回収・廃棄、元戦闘員の社会復帰、信頼される警察・治安体制の再建といった分野での支援が必要となる。 (行動計画」の概要) 小型武器の規制のためには、昨年の国連小型武器会議が採択した「行動計画」の序文にも述べられているように(第I章5項)、「供給および需要の双方の視点からする」総合的なアプローチが必要である。「行動計画」の採択は小型武器問題に対処するために国際社会が踏み出した画期的な第一歩であったが、テロ暴力を抑制するための正しいステップでもあった。ただ、この「行動計画」の文書は、長持間の交渉と妥協の結果採択された文書の例にたがわず、読みやすい文書とは言い難く、また、書かれていない暗黙の了解も存在する。そこで、以下では「行動計画」の主要点を紹介してみる。 まず第一に、「小型武器の非合法取引(のあらゆる側面)を防止し、取り締まり、撲滅するための行動計画」という表題は、あたかも非合法取引だけが問題であるかのような印象を与え、誤解を招きかねない。国連会議の参加国の間には「行動計画」は小型武器の非合法取引に限ったものにするべきであり、合法な生産、保有、取引などは一切規制されるべきでないとする国があったのは事実である。したがって、各国のこのような合法的、主権的権利が尊重されるべきことが序文の中で明記されるに至ったのである(第I章9、10項)。 しかし、会議全体をつうじて支配的であったのは、非合法取引のほとんどは合法的に生産、保有、取引された武器の横流しの結果であるから、各国がこのような合法的な活動を効率的に規制する必要があるとの考え方であり、「行動計画」のかなりの部分は各国がこれを約束する内容のものとすべし、とする考え方であった。 しかも、「行動計画」は小型武器の過剰氾濫で深刻な被害を受けている地域が取り組まざるをえない武装解除、除隊、元戦闘員の社会復帰(いわゆるDDR)の問題をも取り上げており、これらは非合法取引とは別の側面の問題である。「行動計画」の表題にも使用されている「あらゆる側面」との表現はこうした柔軟な解釈の余地を残すためのものと理解されたのである。換言すれば、「行動計画」は小型武器の過剰氾濫を防止し、削減するための勧告措置を取りまとめたものであり、国際社会が約6年前の問題提起の段階から目指してきた総合的アプローチの産物なのである。 第二に、すでに述べたように、「行動計画」の内容をなす勧告の大部分は、小型武器が合法的な主体から非合法的な主体へと横流しされるのを防止するとの見地から、小型武器の効果的規制をめざすもの、すなわち供給サイドを規制するものである。たとえば、各国とも小型武器の生産、保有、輸出入などを規制するための法令、行政手続きなどを整備することが求められている(第II章2、3、6、12、23、28項)。また、小型武器の刻印(第II章7、8項、第III章12項)、記録保存(第II章9項)、安全管理(第II章17、29項)とか、これらの武器で余剰となったものの処分(第II章16、18、19、20、34項、第III章14項)を確保することが求められている。 第三に、地域レベルでの警察、税関、国境警備および軍備管理関係の当局者の間の緊密な協力の必要性も強調されている(第II章27項)。そのための国際的な協力と援助の必要性にも言及している(第III章7、15項)。 第四に、すでに述べたように、「行動計画」は小型武器過剰氾濫の需要サイドの問題をも取り上げている。このような過剰氾濫で被害をうけている地域での武器の回収、破壊を含めて、いわゆるDDRプログラムへの支援の必要性が指摘されている(第II章21、30、34項、第III章14、16項)。被害をうけた子どもたちの問題も言及されている(第II章22項)。広報活動とか、「武器の文化」でなく「平和の文化」の推進の必要性も述べられている(第七章41項)。 第五に、「行動計画」の実施のための協力や援助の必要性に関して、特別に一章がもうけられている。これは発展途上地域からの参加国のほとんどは自力で「行動計画」を実施するには技術や資金が不足していることが明らかだったからである。そのため、「行動計画」実施のための能力形成(キャパシティー・ビルディング)への協力と支援が強調されている(第III章6項)。 第六に、「行動計画」の効率的、持続的な実施を確保するための制度的な工夫もされている。たとえば、各国は小型武器問題を取り扱う国家的調整官庁または組織を設置もしくは指定することが求められている(第II章4項)。さらに、各国、各地域機構・準地域機構は「行動計軌の実施に関して連絡役をつとめるコンタクト・ポイントを設置することが求められている(第II章、5、24項)。また、国連軍縮局は各国が自発的に提供するデータや情報を編集し、回覧することが求められている(第II章33項)。加えて、2006年までには進捗状況を再検討するための会議を開催することとか、一年おきに「行動計軌の国家的、地域的および世界的実施状況を検討するための会議を招集することも勧告されている(第IV章1項(a)、(b))。 終わりに、昨年の国連会意での「行動計画」の採択は、地域・国内紛争やテロ暴力の規模を抑制するために国際社会が小型武器間者に関して踏み出した画期的な第一歩であったことを再度強調したい。「行動計画」は完璧なものとは限らないし、将来における改善の余地も残されている。しかし、さしあたり、国際社会のメンバー全員がこの「行動計画」の実施に向けて精力的な断固たる努力をするべきであり、単なるペーパー作業で終わらせてはならないであろう。 |
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