第9回APEC中小企業大臣会合
松あきら経済産業大臣政務官スピーチ
「日本における構造改革と中小企業政策の新たな取り組み」
- はじめに
議長ありがとうございます。日本国、経済産業大臣政務官の松でございます。
本会合の開催にあたり、ホストエコノミーであるメキシコ政府のご尽力に感謝申し上げますとともに、各エコノミーの代表に敬意を表したいと思います。また、本日は、「政策環境の改善」をテーマとして、日本を代表してスピーチをさせて頂く機会を頂けたことを光栄に存じます。
本日は、現下構造改革において我々が取り組んでいる日本の中小企業政策全般についてお話ししますと共に、新中小企業基本法に基づく新たな中小企業像、政策理念などについて若干ご紹介したいと思います。
- 構造改革の進展
現在、我が国は、活力に満ちた経済を再生すべく、金融サイドの不良債権処理と産業サイドの構造改革を併せ、経済全般にわたる強力な構造改革を進めています。
我が国にとって重要な課題の一つである金融制度の不良債権処理は、いわゆる「金融システムの改革」でありまして、それは究極的には企業の財務体質強化に結びつくものであります。具体的には、自己資本充実の問題、それには証券界の改革が必要でありますし、また、企業経営改革の問題等もあります。さらには、情報公開等々の商習慣に結びつく問題もあり、これらに対して、中小企業分野でもさまざまな取り組みを行っています。
そうした状況の中、産業サイドの構造改革プロセスにおいて重要な施策は、創業・経営改革の促進、つまり、「厳しい環境の中で困難を切り開く新事業への挑戦を積極的に後押しして、力強いイノベイティブな中小企業群を創り出していく政策」であります。
一方、社会経済情勢の急激な変化によって-現下の日本では、構造改革の進展、とりわけ不良債権の処理がそれにあたるわけですが-中小企業、それも潜在力のある中小企業までもが破綻することを回避するため、公的なセーフティネットを構築する政策も重要であると考え、それに取り組んでいます。
これら、特に重要と述べた3.創業・経営革新の支援、4.セーフティネットの充実について具体的に述べていきたいと思います。
- 創業・経営革新
「力強い中小企業群を創り出していく政策」の中で重要なものは、まず、新しい事業を創り出す「創業への支援」でありまして、あらゆる分野で幅広い創業を強力にサポートするものです。
現在、我が国では、毎年28万社が廃業し、18万社が生まれており、完全に廃業率が開業率を上回っています。こうした状況から、我々は、政策目標として、年18万社創業を今後5年間で倍増させ、年36万社創業とする数値目標を掲げています。
また、「力強い中小企業群を創り出していく政策」の中で併せて重要なものは、「既存企業の経営革新への支援」であります。我が国の企業数は約500万社で、その99%はいわゆる中小企業であり、これらの中小企業が、前向きにイノベイティブな経営革新を進めていくように最大限にサポートするものであります。我々は、今後3年間で20,000社の経営革新の実施を促し、経営革新に取り組む企業を25,000社とする政策目標も掲げています。更に、大学との連携を進め、3年間で大学発ベンチャー1,000社を目指すこととしています。
この創業・経営革新に関する取り組みは、金融、技術開発振興、大学との連携、人材、ITなどざまざまな面にわたるものであります。
【創業支援】
まず、創業支援については、日本全国の各地域で、中高年によるチャレンジ創業、介護育児ビジネス等くらしづくり創業、地域産業集積での新分野開拓等ものづくり創業、コンテンツやネット関連などIT創業等々、潜在需要のある多様な分野において創業が湧き出るような環境の整備に取り組んでいます。
具体的には、金融の面では、ベンチャーキャピタル、公的金融機関や公的信用保証制度による中小企業への融資や保証を更に積極的に展開する一方で、ビジネスプランに着目し、的確であれば担保や保証人を取らず、融資を行う制度を新たに創設しました。
人材の面では、中高年者等の経験・潜在能力を掘り起こして伸ばし、しっかりしたビジネスプランの作成を支援するため、創業塾、創業セミナー等による能力開発支援を行うと共に、各市町村の商工会や商工会議所、全国約300カ所の中小企業支援センターがサポートすることとしています。
さらに、地域の技術と人材支援を核にした創業支援を行うこととし、地域の大学等で育まれた優れた技術や人材を創業に結びつけるため、産学官連携推進における取り組みも展開しています。
【経営革新支援】
経営革新支援については、既存の中小企業が、技術・ITによる経営革新、新たな社会ニーズへの対応等々、潜在ニーズや埋もれたチャンスを掘り起こし、新事業へ挑戦・努力することに対して強力な支援を行っています。
経営革新の裾野の拡大と先導的な経営革新企業を育成するため、従来から実施している、法律に基づき、都道府県により前向きな中小企業の経営革新の承認と、これと連動した保証及び融資が得られる制度の更なる弾力的な運用を行う一方で、経営革新講座、経営革新セミナー、交流会等によるヒトづくり・マッチング支援、コンサルティング等を推進しています。
併せて、各地の中小企業支援センター、商工会・商工会議所などにおいて、民間人専門家や経営指導員によって、各中小企業の潜在能力に応じた新事業展開等へ向けたビジネスプラン作成コンサルティング等を行っています
また、中小企業や地域研究機関が持つ技術シーズの事業化等技術による経営革新や、企業間連携ネットワークシステムの開発・導入などITによる経営革新、新たなビジネスモデルの展開等、種々の経営革新努力を補助金、融資等で支援することとしています。
技術開発の面では、我が国経済の活性化、産業競争力強化のためには、事業化に結びつく革新的技術を開発する元気な中小企業を育てていくと共に、知的財産権問題への対応を的確に行っていくことが重要であると考えています。これまで中小企業技術革新制度(SBIR)により、中小企業の技術開発から事業化までを一貫して支援してきており、今後更なる拡充を図るとともに、我が国製造業の基盤的技術で、経済活性化への波及効果が特に高いと考えられる技術開発プロジェクトを指定し、戦略的・集中的に支援すべきと考えています。
人材の面では、中小企業が新事業を展開するにあたっては、経営戦略、マーケティング等を助言する高度な人材の確保や新商品の販売ルート・取引拡大が大きな課題と考えており、様々な取り組みを行うことを考えています。
- セーフティネットの充実
「力強い中小企業群を作り出していく政策」と共に、重要であると考える施策は、すなわち、セーフティネットの充実であり、これは、変化が多い経済情勢に鑑み、大型倒産や金融機関破綻、自然災害などの急激な影響により、やる気と能力のある中小企業までが経営破綻に追い込まれるような事態を、より的確に回避できるようにするためのものであります。
セーフティネットの充実に関する施策の中で、特に力を入れていくものを若干説明したいと思います。
【セーフティネット保証・貸付】
大型倒産や金融機関破綻など更には災害に至るまでの事件・事故に直面した中小企業が連鎖的に破綻に追い込まれることを回避するため、信用保証協会の特別の保障制度、政府系中小企業金融機関に特別の貸付制度を設けており、その弾力的迅速な運用に努めているところであります。当然のことながら、そのような危機が発生した場合には、各都道府県の商工会連合会や主要商工会議所等に相談窓口が設置され、きめ細かにサポートが行われることにも意を払っています。
【資金調達手段の多様化】
また、資金調達手段の多様化にも努力しています。新事業進出など、経営革新に向けての意欲とプランを持ちながら、物的担保に依存した間接金融を中心とした現在の金融枠組みの制約から、資金調達に困難を来している現状を改革し、やる気と潜在力のある中小企業の資金調達手段を多様化することとし、売掛債権担保融資の推進や私募債による資金調達の推進を行っているところであります。
【再建途上の潜在力のある中小企業の再生支援】
更に、民事再生法等により再建途上の潜在力のある中小企業の再生に資するため、DIP(ディップ)ファイナンス、これは、再建企業向けの融資でありますが、こうした取り組みも行っています。
- 新中小企業基本法に基づく中小企業像、政策理念
これまで、現下、我々が取り組んでいる中小企業政策について述べてまいりましたが、今の我が国における中小企業の政策理念は、「中小企業は我が国経済のダイナミズムの源泉」ということであります。
従来の中小企業基本法、これは、今から約35年ほど前に、我が国が高度成長期の時代に作った法律でありますが、ここでは「大企業との格差を是正する」ことを中小企業政策の理念としていました。当時は、二重構造論の中で、近代的な大企業に追いつくということが重要と考えていたわけであります。しかし、それから我が国経済が急速な成長を遂げ、成熟経済に移行するのに伴い、消費者の価値観は多様化し、また改廃業率の逆転により我が国経済の活力が懸念されるなど、中小企業を巡る環境も大きく変化してきました、こうした環境変化を踏まえ、3年前に基本法を大改正し、「独立した中小企業の多様で活力ある成長発展」を促していくという新たな政策理念へと大きく方向を転換したわけであります。
このような政策理念の実現を図るためには、民間に委ねるべきは委ね、民間の能力を施策の実施に積極的に活用していくこと、また、地方公共団体が、国と対等の行政主体として、地域経済の源泉たる中小企業の振興などを地域の特性に応じて図っていくことが重要であると考えています。
そのため、中小企業を総合的に支援する「中小起業支援センター」、また中小企業の支援機関である商工会議所、商工会などが全国的に(約3,000ヶ所)配置されておりますが、こうした機関を、国、都道府県、市町村レベルの3つの体系に整備し、中小企業に対しきめ細かいサポート体制を整え、中小企業施策が、その効果を最大限高めることが出来るように取り組んでいるところであります。
- 最後に
最後になりますが、我々は、こうした理念に沿い、有望あるいは潜在力のある中小企業の果敢な創業及び経営革新への挑戦を支援していくことによって、我が国経済が、活力に満ちた中小企業によって支えられ、さらにはAPECの発展に大きく貢献するよう、これからもしっかりと取り組んでまいりたいと考えております、
(Thank you very much)(Gracias グラシアス)
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