(1) |
アンチダンピング措置及びセーフガード措置
(a) |
アンチダンピング措置はWTO協定に整合的な運用がなされている限りは貿易救済措置として正当であると考えられているが、一たびダンピング認定等に恣意的な判断がなされた場合、貿易や競争を不当に制限する可能性がある。さらにアンチダンピング調査の開始そのものが企業の輸出意欲を阻害するおそれがある。こうした観点から、日本国政府は、米国政府がアンチダンピング制度を保護主義的な目的で濫用することなく慎重に運用することを要望する。
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(b) |
また、米国によってアンチダンピング税が賦課されてから相当な期間を経過している品目も多数あり、米国政府がアンチダンピング税賦課継続の必要性について厳密に審査し判断するよう要望する。
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(c) |
米国は世界有数のアンチダンピング措置使用国である。米国のアンチダンピング措置の中にはダンピング認定等に恣意的な判断が見られるなど、現在日本を含む多くの国からWTOルールとの非整合性が既に指摘されている。実際に米国1916年アンチダンピング法や日本製熱延鋼板へのアンチダンピング措置など、WTO紛争解決機関においてWTO協定違反であると認定された例も存在している。特に米国1916年アンチダンピング法は、実際に日本企業に訴訟関連費用等、多額の実損害を既に与えており、日本国政府は米国政府に対して、WTO協定違反として認定された措置を早急にWTO協定と整合的なものとする措置を採ることを要望する。
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(d) |
また、日本国政府は、米国のアンチダンピング調査当局がダンピングマージンの計算方法や損害認定など、WTO協定との非整合性が既に確定した計算方法、損害認定方法を今後のアンチダンピング調査において適用しないことを求める。
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(e) |
徴収したアンチダンピング税及び相殺関税によって得た収入をアンチダンピング提訴者である国内生産者等に配分するバード修正条項については、同条項のWTO協定違反を認定したパネル報告書が配布されたところ、日本としては、速やかに同修正条項が廃止されるよう議会に働きかけることを引き続き要望する。
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(f) |
最後に、日本国政府は、米国政府がアンチダンピング措置同様、セーフガード措置についても、WTO協定に整合した形で慎重に運用することを要望する。なお、米国が2002年3月5日に決定し、同20日に発動した輸入鉄鋼製品に対するセーフガード措置については、WTO協定整合性の観点から多くの問題点を有していると考えており、米国政府が直ちに本措置を撤廃するよう要望したい。本措置については、別途WTO紛争解決手続においても引き続き違法性を強く訴え、その最終的な撤廃を実現すべく、関係各国と協力して対応していく。
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(2) |
エクソン・フロリオ条項
エクソン・フロリオ条項(1950年国防生産法第721条)は、国家安全保障を損なうおそれのある直接投資についてレビューし、大統領が必要と認める場合はそのような投資を制限するメカニズムである。日本国政府は、一般に、安全保障理由による規制の重要性については十分理解しているが、同条項については、(イ)「国家安全保障」の概念の不明確性などによる投資家の予見可能性の欠如、(ロ)既に完了した投資についても調査対象となりうることによる法的安定性の欠如、(ハ)調査開始や大統領決定の理由が当事者にすら開示されないデュープロセスの欠如、などの点で懸念を有しており、本来の目的の程度を越えて、日本企業の投資活動を阻害するおそれがあることを憂慮している。政府による規制の透明性と予見可能性は、企業が投資を決定する際の大きな要素であると同時に、競争的な企業が公正な環境で活動を行うための条件である。今後の同条項の運用に当たっては、米国政府に対し、WTOルールとの整合性を確保することはもとより、対米外国投資委員会(CFIUS)への通知から大統領の決定に至るまでの過程における透明性及び公平性を最大限確保するための措置を講ずるよう求める。
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(3) |
特許関連事項
(a) |
先発明主義、インターフェアレンス(抵触審査)
米国は、世界で唯一「先発明主義」を採用している。先発明主義の下では、二以上のものが別々に発明を行って各々出願した場合、誰が最先の発明者であるかを決定するインターフェアレンスの手続が行われる。
特許出願人の立場からすると、(イ)先発明者の出現で事後的に特許権者の地位が覆されることがあり得る点で確実性、予見性がないこと、(ロ)インターフェアレンス手続に長期間を要するとともに多大のコストがかかること、(ハ)インターフェアレンスの過程で出願した発明又は特許に含まれたノウハウが漏洩する危険性等の問題がある。また、複数の発明者が独立に同一の発明を行い、かつ、前記発明者のうちの複数に特許が与えられた場合(ダブル・パテント)には、第三者はダブル・パテントを自ら解消する手段を持たないため、各権利者へ重複してロイヤリティーを支払い続ける必要が生じるという意味で、不当な不利益を被る可能性がある。
したがって、国際的にデファクト・スタンダードとなっている「先願主義」へ移行して頂きたい。また、移行までの暫定的措置として、インターフェアレンスの手続の簡素化を要望する。
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(b) |
例外を設けた早期公開制度
1999年11月に成立した米国の改正特許法によって導入された早期公開制度は、外国に出願されていない米国出願、及び対応外国出願に含まれていない米国出願の内容について、出願人の申請により非公開にできるという例外を設けている。
申請により非公開にされた出願内容は、権利付与後に特許公報が発行されるまで他者に公開されないため、出願明細書に記載された発明と同一の内容について善意の第三者が重複して研究開発投資や事業化投資を行う可能性があり、事業損益の予見可能性の観点から問題が大きい。
また、特許審査が長期化した場合には、その間に開発技術を独自に実用化した第三者が、特許申請中の発明に抵触する商品の市場規模を十分に拡大させた後に特許が成立する可能性があり、莫大なライセンス料を請求されるといういわゆる「サブマリン特許」の問題が生じ得る。
したがって、早期公開制度に設けられている例外規定を廃止し、係属していない出願、秘密指令下にある出願を除くすべての出願について、最先の出願日から18箇月経過後に公開するという1994年の日米合意内容の履行を強く求める。
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(c) |
再審査制度
米国は、特許権成立後に権利の有効性を再検討する制度として再審査制度を設けており、1999年11月に成立した特許法の改正により、従来の査定系再審査のオプションとして当事者系再審査の制度を導入した。
しかしながら、米国の再審査制度は、再審査請求の理由が先行技術文献の存在を理由とするものに限られ、明細書の実施可能要件不備、明記要件不備を理由とする再審査請求が認められていない。
特に、当事者系再審査は、再審査への第三者の参加機会を拡大させるために新たに設けられた制度であるにもかかわらず、特許を維持する再審査判断に不服で抵触審判部に上訴した第三者請求人は連邦巡回区控訴裁判所への上訴をすることができないなど、実質的に有効とは認めがたい制度となっている。
したがって、再審査制度において、ベストモード要件を除く米国特許法112条のすべての要件不備を再審査請求の理由として認めること、及び当事者系再審査の第三者請求人の連邦巡回区控訴裁判所への上訴を認めることを強く求める。
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(d) |
単一性を満たさないことによる分割要求
一つの出願に二以上の別の発明が含まれている場合、審査官は発明の単一性(一つの出願には独立した発明が一つだけ含まれる)を維持するために、特許請求の範囲の記載内容を部分的に選択して出願を分割するよう要求を出す。
米国の単一性の判断基準は特許協力条約(PCT)の規定よりも厳しく、PCT経由の米国出願では単一性要件を満たすと認められるものであっても、工業所有権の保護に関するパリ条約に基づく優先権を主張して出願すると単一性違反と判断される場合がある。
複数国へ出願する出願人が、単一性要件について米国特有の基準に合わせた出願準備(特許請求の範囲の検討)を行うことは、実務的に困難である。
分割要求を受けて選択クレームを決定すると、選択されなかったクレームは審査の対象から外されるので、非選択クレームを維持したい場合には、原出願の特許発行前に分割出願する必要がある。分割出願を行うことは出願人に再度の手間と出費を強いることとなり、大きな負担増加である。
また、他国において単一性を認められる発明が、米国内において複数の出願として存在することは、出願を管理する出願人あるいは特許を維持する特許権者にとって、また特許権への抵触を回避するために特許を監視する第三者にとっても負担となる。
したがって、単一性の要件を緩和することを要望する。
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(e) |
米国特許法に関連する判例法理「ヒルマー・ドクトリン」
米国特許法では、第119条の規定により、パリ条約第4条の優先権制度を導入している。すなわち、外国における最先の出願日から12ヶ月以内になされた米国出願は、前記最先の外国出願日にされた米国出願と同一の効力を有するとされる。
しかしながら、米国の判例・実務においては、判例により確立された法理「ヒルマードクトリン」に基づき、前記効力のうち、明細書記載事項が先行技術として第三者による後願を排除できる効力の発生日は、最先の第一国出願日までは遡及せず米国出願日までしか遡及しないとされている。
さらに米国を第一国とする出願は、第三者の後願に対して特許法102条(e)と102条(g)の排除効力を有するが、外国出願を優先基礎とする米国出願については、優先期間内の後願を排除する効力は102条(g)のものしか持ち得ない。
日欧などにおいては、外国出願を優先基礎とする国内出願は、最先の第一国出願日まで遡及して、かつ明細書の記載事項全体が後願排除効力を有するのに対して、米国においては同様の待遇が保証されていないことは不平等である。
したがって、ヒルマードクトリンに基づく判例及び実務について、明細書の記載事項全体(whole-contents)が最先の第一国出願日まで遡及して第三者の後願を排除する効力を有するように、改善を要求する。
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(4) |
メートル法
日本国政府は、「強化されたイニシアティブ」の下での日米規制緩和対話及び「日米規制改革及び競争政策イニシアティブ」の下での1年目の対話における議論を踏まえ、米国におけるメートル法の採用に関する作業の進捗状況に引き続き強い関心を有してきているところ、米国市場の世界貿易に与える影響の大きさにかんがみ、米国における公共部門及び民間部門において、グローバル・スタンダードであるメートル法(SI単位)の採用を徹底させることを引き続き強く求める。
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(5) |
再輸出規制
米国の再輸出規制については、日米規制緩和対話・3年目の対話において、日本より、再輸出に関する外国輸出企業の負担を軽減するための対応として、再輸出規制の運用改善を求める要望を行い、同対話の結果、第三回共同現状報告において、米国政府は一連の改善措置を講ずる旨表明した。しかしながら、これらの措置は未だ実施されていない。
そもそも米国の再輸出規制は、一般国際法上許容されない国内法の域外適用のおそれがある。また、日本はすべての国際的輸出管理レジームに参加し、かつ大量破壊兵器に係るキャッチ・オール制度も導入し、実効的な輸出管理を行っており、再輸出規制を行わねばならない根拠は乏しいと考えており、同規制の適用から除外するよう要望する。
また、再輸出規制に関する外国輸出企業の負担を軽減するための当面の措置として、米国政府が以下の具体的措置を講ずることを要望する。
(i) |
関連法の詳細についての日本企業関係者の理解を促進すべく、日本語ウエブサイトを開設する。また、在日米国大使館に輸出管理の専門家を配置するとともに、相談窓口を設置する。
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(ii) |
在米の輸出元に対して、日本の輸入企業が規制の該非判定を行う上で十分な製品情報の提供を行うよう義務付ける。
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(6) |
時計の関税算定制度及び原産地表示制度
(a) |
時計の関税算定制度
日本国政府は、「強化されたイニシアティブ」の下での日米規制緩和対話・2年目及び3年目の対話において、現在米国で行われている時計の部品毎に関税を賦課する方法を廃止し、時計完成品のHS分類6桁ベースで関税率を定めることにより貿易手続の簡素化を図るよう要望した。
2000年夏に終了した米国ITCによる見直しの内容が、日本政府が1999年に提出した「米国ITCの関税率表の簡素化に関する日本政府提案のコメント」を十分に反映していないことにかんがみ、米国政府に対し、米国ITCの最終報告書を抜本的に見直し、部品毎に関税を賦課していることを改め、HS分類6桁ベースで関税率を定めることにより、貿易手続の簡素化を図ることを改めて求める。
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(b) |
時計の原産地表示制度
日本国政府は、「強化されたイニシアティブ」の下での日米規制緩和対話・2年目及び3年目の対話において、時計の原産地表示規制を時計完成品のみに適用し、原産地表示方法は刻印、タグ、その他の手段で行い、その手段については製造者(メーカー)の裁量によって行われるようにするよう要望した。
1999年、米国関税率表(HTSUS)が改正されたことにより、ムーブメント及びケース素材表面に直接痕跡をつける“die-stamping”に加え、不滅インク(indelible ink)の使用も認められることが確認された。しかし、「原産地表示を完成品のみとすること、表示方法も製造者(メーカー)の裁量によることとする」との我が方要望を満たす内容ではないところ、原産地表示制度の簡素化を図ることを改めて求める。
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(1) |
海事分野等におけるテロ対策の取り組み
米国が推進している、二国間のコンテナ・セキュリティ・イニシアティブ(CSI)やAPECにおけるスター・イニシアティブをはじめとするコンテナ・セキュリティの強化等による海事分野等におけるテロ対策の取り組みについては、日本国政府としてもその重要性を認識しているところであり、基本的に支持する。ただし同時に、円滑な貿易の確保にも配慮することを求める。
米国議会で現在審議されている海事保安法案については、仮に同法案が成立した場合には、同法の運用が、国際海事機関(IMO)、国際労働機関(ILO)等の国際機関における取り組みと整合性を保ち、適正な貿易を阻害することのないよう要望する。
米国関税庁が提案している船積み24時間前までのマニフェスト提出に関する連邦規則(2002年8月8日付け米国官報掲載)については、同規則の施行により、マニフェストの提出に関して関係事業者に過大な負担を強いることのないよう要望する。
CSIについては、CSIに参加している港からの貨物の輸出に過大なコストを要したり、また、一方、非参加港が参加港に比べ極めて不利な立場に置かれ、港の間で物流に影響が生じるなど、適正な貿易が阻害される事態が生じないよう配慮されたい。
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(2) |
輸入通関時間調査
APEC等における貿易円滑化検討の際に通関所要時間は重要な指標の一つと認識している。米国政府は世界税関機構(WCO)が開発したガイドラインに基づく通関所要時間調査実施検討をより一層進め、その具体的実施時期について明示するよう要望する。
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(3) |
1920年商船法(ジョーンズ法)
(a) |
1920年商船法(ジョーンズ法)第19条(1)(b)により、外航海運に影響を与える規則を策定する権限が、米国連邦海事委員会(FMC)に対して与えられている。
FMCは、1997年9月に日本船社に対し一方的制裁措置を発動し、1999年5月に撤回したものの、引き続き日米船社に対して日本港湾の状況をFMCに報告するよう要求している。当該制裁措置の根拠となったFMC規則(同規則は1999年5月に撤廃された。)は、相手国船舶に対する最恵国待遇、内国民待遇の付与等を規定した日米友好通商航海条約に違反するものであった。
連邦政府として、FMCに対する働きかけを強化する等により、このような一方的制裁措置が今後行われることがないよう確保することを求める。
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(b) |
FMCは、同規則の撤廃後、日本船社及び米国関係船社に対し、日本の港湾事情の改善状況について引き続きレポートを求めている。
日本の港湾事情については、事前協議制度の大幅な改善実現、港湾運送事業法改正による需給調整規定の撤廃の結果、新規事業者の参入実現、港湾の364日24時間フル・オープン化の実現等、関係者による取り組みの成果が現れてきているところである。このような進展に対するFMCの正しい認識を強く求める。
このような日本の港湾事情の大幅な改善にもかかわらず、2001年8月、FMCは、新たなオーダーにより、レポートの記載事項を増やすと共に、対象となる船社の範囲を拡大した。当該オーダーには、直接日本船社に日本の法令及び通達の提出を求めるなど、船社に提供を求めることが適当と考えられる範囲を逸脱するものであり、船社にとって不当かつ過大な負担となった。
仮にFMCが、上述のような日米友好通商航海条約に違反する一方的な制裁措置を今後課すか否かについての判断をするためにレポートの範囲を拡大したのであれば、遺憾である。この場合、当該オーダーがFMCの権限の乱用に当たる重大な問題と認識している。
以上のことから、日本国政府としては、レポートの提出の根拠となるオーダーを撤回するよう強く求める。
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(4) |
新運航補助制度(MSP)の廃止
毎年1億ドルの運航補助を10年間にわたって実施するという巨額の補助金の投入が、国際海運市場における自由かつ公正な競争条件を歪曲することは明らかであることから、同プログラムの廃止を要望する。
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(5) |
アラスカ原油輸出禁止解除法を含む各種貨物留保措置の撤廃
商船貨物であるアラスカ原油輸出について、米国船籍船使用の義務付けに代表される各種の貨物留保措置は、内国民待遇の原則に反する保護主義的性格が強いものであり、交渉期間中は新たな保護主義的措置を導入しないとするWTO海運継続交渉に関する閣僚決定にも反するので撤廃を要望する。
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(6) |
1998年外航海運改革法に基づく一方的規制の防止
同法には、日本を含む外国海運企業と米国海運企業を差別し、その運賃設定のあり方(Price Practice)等について一方的な規制を可能とする規定が含まれている。そもそも運賃設定のあり方は、商業ベースの自由な海運活動の基本であり、FMCが一方的にその規制を行うことは、自由な海運活動への介入及び外国海運企業のみに対する差別的介入にほかならない。1998年同法の改正によりことさら運賃設定のあり方に対する介入が明文化されたところ、今後FMCがマーケットの実情を無視して日本を含む外国海運企業による商業ベースでの海運活動を一方的に規制することのないことを確約されるよう要望する。
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