ASEAN地域フォーラム(ARF)・予防外交の概念と原則
(仮訳)
2001年8月
イントロダクション
- ASEAN地域フォーラム(ARF)は、1994年にASEANによって、地域の平和と安定の維持、及び地域の発展と繁栄を促進するために設立された。当時、地域及び世界の環境の急速な発展が、域内諸国の安全保障及び戦略上の懸念に影響を与えたことが認識された。また、この地域が極めて多様で、地域の平和と繁栄を脅かす要素が依然として残されていることについても認識された。
- ARFは、以下の3段階のプロセスを定めることによりこれらの課題に対処することを模索してきた。
ステージ1:信頼醸成措置の促進
ステージ2:予防外交の進展
ステージ3:紛争へのアプローチの充実
従来から一般的に、ARFは地域の平和と繁栄の促進に有意義なフォーラムとして、その地位を確立すべきと認識されてきた。そのためARFプロセスには、長期的な目的達成のための漸進的な発展のためのアプローチ、コンセンサスによる意思決定、全ての参加国にとって快適なペースでの進展などが必要とされる。また、ARFにおける議論はアジア太平洋地域諸国の相互理解と信用を高め、対話と協力を深化させ、地域の平和、安定及び繁栄を促進することを目的とすべきである。
- 地域的枠組みとしては比較的歴史が浅いものの、過去6年の間に多くの前進が見られた。ARF参加国の閣僚及び高級事務レベル間での継続的な交流や、これまで実施されてきた信頼醸成措置は、満足のいくレベルに達している。これにより、ARF参加国間では実直かつ率直な議論が行われるようになり、透明性や相互の信用が向上し、各国の関心事や立場に対する理解が深まった。ARFの発展には、ARF参加国間における高度の相互理解と信用が存在することが不可欠であり、これからも信頼醸成がARFプロセス全体の主眼となるべきことが強調された。
- したがって、第4回ARF閣僚会合において、閣僚は、ARF・信頼醸成措置に関するインターセッショナル支援グループ(ISG)に対して、信頼醸成措置と予防外交の重複部分を特定し、信頼醸成措置に焦点を置きつつ、これらの重複部分に取り組むための方法及び手段を検討するよう指示した。重複部分について検討し、プロセス全体への信頼感を高めるために、共通の基礎となる予防外交の実用的な概念と予防外交の実践を決定づける諸原則に対する共通認識が必要である。このため、シンガポールで行われた第6回ARF閣僚会合において、閣僚は信頼醸成措置に関するISGに対し、特に予防外交の概念と原則に焦点を当てつつ、信頼醸成措置と予防外交の重複部分を検討するよう指示した。
ARFにおける予防外交の定義、概念、原則
- 予防外交の定義についての合意、更には、予防外交の概念及び予防外交の実践を決定づける諸原則に対する共通の理解が、ARFにおける予防外交の更なる進展にとって有益となる。ARFにおける予防外交の定義は、広範な目標を設定し、予防外交の概念はとるべきアプローチを示し、予防外交の原則はARFにおける予防外交の実践のための基本的要素を示す。
- 予防外交の定義、概念及び原則は、ARF参加国間で合意されたとおり、法的な拘束力を持たない。これらはARFのみに適用される共通認識であり、ARFにおいて議論が進行する中で形成されつつあるコンセンサスの現状を示すものとして理解されるべきである。これらの議論は、ARF参加国間の相互理解と信用を高めることを目的とし、現実の地域情勢を考慮し、また国際法及び確立されたARFプロセスと矛盾しないものでなくてはならない。
予防外交の定義
- 予防外交の定義は多くの議論を喚起してきた。一方、予防外交が直接の当事者すべての同意の下、主権国家によりとられる、コンセンサスに基づく外交的、政治的措置であるという点に関しては、一般的コンセンサスがあると考えられる。その目的は以下のとおり。
- 地域の平和と安定を潜在的に脅かし得る国家間の紛争及び衝突の発生の防止。
- 紛争及び衝突の武力衝突へのエスカレートの防止。
- 紛争及び衝突の地域への影響の最小化。
予防外交の概念
- 予防外交についての広範な定義の下、多くの学術的研究が行われ、様々な概念が提起された。予防外交を目的に応じて時系列に並べると、(1)紛争・衝突の発生の防止、(2)紛争・衝突の武力衝突へのエスカレートの防止、そして(3)紛争・衝突の拡散の防止、となる。実際に危機が発生する前に実施される措置もある。
- 予防外交の措置は以下を含む。
- 信頼醸成のための努力:すなわち、国家間の相互の信用と信頼感を構築するための取組。
予防外交は、信用と信頼感を維持、向上するための継続的な努力の上に適用されなければならない。ARF参加国間の高度の信用なくして、紛争の進んだ段階において予防外交が実施されることは困難であろう。過去数年間、ARFはその参加国間の対話を促進することに成功してきたが、ARF 参加国間の協力を強化すべき時期にきている。ARF参加国間の協力は、相互信用と理解を向上させることにより、紛争が衝突へと進展することを防ぎ、また紛争の発生を防止することができる。
- 規範(norm)の設定:すなわち、アジア太平洋地域の国家間の関係を規定する各国に受け入れられる指標ないし規範を醸成すること。
指標(code)が、予測可能性を高め、地域の平和を確保するための協調的態度を強化する限りにおいて、規範(norm)の設定は、域内の国家間の信用関係を高める。ARFは、東南アジア友好協力条約(TAC)、国連憲章等の既存の規範と矛盾することのないARF参加国間の関係を決定づける行動規範の進展といった同分野における諸措置を検討しうる。
- コミュニケーション・チャンネルの強化:ARF参加国の間の誤った認識や誤解を避けるため、透明性を向上させる手段としての開かれた容易かつ直接的なコミュニケーションやチャンネル。
このようなチャンネルは情報の共有を進展させ、早期警報を発し、対話を容易にする。
- ARF議長の役割:ARF議長は、ARF参加国によって決定された役割を果たす。
- 危機の初期段階において、適切な形で更なる措置をとることも検討されうる。ARFは、コンセンサスに達することを目指して、引き続き、更なる可能な措置につき検討していくべきである。
予防外交の原則
- 予防外交の実践を導く原則は、予防外交の範囲とメカニズムに対する理解を深め、プロセスの一貫性と、その合理的な期待度を規定するために必要である。これらの原則を形成し、適用していく上では、ASEANに成功と弾力性をもたらしてきたアプローチを用いることが有益である。このアプローチには、国家間関係における武力の不使用、紛争の平和的解決、参加国の国内問題への不干渉、現実主義、柔軟性とコンセンサス、協議による和解が含まれる。
- 以下は、予防外交の8つの主要な原則であり、主にアジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)における議論から導き出されたものである。
- 予防外交は、外交的手段である。予防外交は、外交、交渉、調査、仲裁、調停等の外交的、平和的な手段による。
- 予防外交は非強制である。軍事行動及び武力の行使は予防外交には属さない。
- 予防外交は、時宜を得たものでなくてはならない。予防外交の措置は、対処的というより、予防的なものでなくてはならない。予防外交の措置は、紛争や危機の初期段階で最も効果的に機能する。
- 予防外交は信頼、信用を必要とする。予防外交は、当事者間の信用や信頼という強固な基礎が存在し、かつ、中立性、公正、不偏性に基づき遂行される場合にのみ、成功裏に実現される。
- 予防外交は協議とコンセンサスを基盤として遂行される。いかなる予防外交の取組も、時間的な要請を十分考慮しつつ、ARF参加国間で注意深く広範な協議を行った後、コンセンサスに基づいてのみ実施される。
- 予防外交は自発的なものであり、予防外交の実践は、紛争に直接関係する全ての当事者の要請と明確な同意がある場合にのみ、実施される。
- 予防外交は国家間の紛争に対して適用される。
- 予防外交は、国連憲章、平和共存5原則、東南アジア友好協力条約(TAC)等に具現されている国際的に認知された国際法及び国家間関係を規律した基本原則に従って実施される。これらの原則には、主権平等の尊重、領土保全、国内問題への不干渉が含まれる。
結 論
- ARFのプロセスは、コンセンサスに基づき、すべての参加国にとって快適なペースで進められるべきである。ARFプロセスにおける全参加国のコミットメントを維持し、継続して強化していくためには、参加国のコンセンサスに基づく進展を確保するため、段階的なアプローチが必要である。我々は、長期的に何をなし得るかを常に視野に入れつつ、可能性を検討することが必要である。ARFが更に発展するには、予防外交の概念、定義、原則に対する共通の理解とコンセンサスを達成することが重要である。
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