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―大量破壊兵器の運搬手段となる弾道ミサイルの拡散問題とMTCR―

水内龍太兵器関連物資等不拡散室室長に聞く

収録:平成14年7月9日
中央大学大学院総合政策研究科修士課程2年 齋藤貴徳
中央大学大学院総合政策研究科修士課程2年
齋藤貴徳さん

1998年8月31日、日本の領土の上を、某国のミサイルが通過しました。この事件は一国の国家主権を揺るがす問題であると筆者は考えます。いったい、どうなっているのだろうか?しかし、「実際の外交は複雑でよくわからない!」と考える人も多いと思います。そこで、現在の国際社会はミサイル問題にどのように取り組んでいるのか。さらに日本政府はどのように国際社会にアプローチしていくのか、などを1987年に発足したMTCR(ミサイル技術管理レジーム)を中心に現場の外交官の方にインタビューをしてみました。(齋藤)

齋藤:現在の世界・日本のミサイル事情はどのようになっていますか?

水内:ミサイルは、「無人で、誘導機能により標的に向かって経路を修正しながら、自己の推進力によって目標をめざして飛び、それを撃破する無人の飛翔体」です。世界には数百種類以上のミサイルが存在し、その任務、性能、飛行形態による分類も様々です。ですから、ひとくちにミサイル事情というのはなかなか難しいのですが、近年、拡散との関係で特に注目を浴びているミサイルとして弾道ミサイルが挙げられます。
 弾道ミサイルは、平和利用のためのロケットと同じロケット・エンジンを搭載し、大気圏外まで打ち上げられ、その後、地球の引力によって弾道軌道を描きながら飛翔し、再び大気圏に突入して、目標物を破壊するミサイルです。1000km級の弾道ミサイルであれば10分後には目標に到達しますから、戦闘機よりも相当速く、今日の技術では迎撃することも難しいミサイルです。大量破壊兵器(核・生物・化学兵器)が、このような弾道ミサイルに搭載されれば、その脅威は一層増大します。
 1980年代末に冷戦が終わり、世界は平和に向かうだろう、地域は安定していくだろうという期待がありましたが、現実は反対のことが起こっています。冷戦期には米ソしか弾道ミサイルを持っていなかったのですが、冷戦が終わった頃には15カ国ぐらい、90年代に入り40カ国から50カ国が弾道ミサイルを保有するに至っています。
 また、弾道ミサイル以外では、巡航ミサイルについて耳にされたことがあるかもしれません。巡航ミサイルは第二次大戦直後から米ソが開発を始めましたが、高性能で実用的な巡航ミサイルが登場したのは、80年代に小型で高性能なジェットエンジンが開発されてからのことです。91年の湾岸戦争で使用されたトマホークはその代表的な巡航ミサイルです。巡航ミサイルの保有国は現在では数カ国に限られていますが、将来、その保有国が増えることは想像に難くなく、拡散防止のための努力が必要となります。
 日本のミサイル保有に関していえば、日本は憲法の枠内で必要最小限の自衛力を持つという防衛の考え方があります。それに基づいて保有している兵器体系には制約があります。日本のミサイルは、短い距離で攻撃を受けた場合に有効な反撃をするためのものであり、専ら防衛的なものです。弾道ミサイルや巡航ミサイルは保有していません。

齋藤:MTCR(ミサイル技術管理レジーム)についての簡単なご説明をお願いします。

水内:80年代から90年代にかけて、弾道ミサイル及び大量破壊兵器が拡散している状況がありました。これに対して米国を中心に国際社会は懸念を示しました。そこで、83年のG7の中で、核不拡散体制を強化するための取組が議論されました。4年ぐらいかけて議論が続けられ、87年に核兵器の運搬手段としてのミサイル不拡散を目的としたMTCRという国際協調の枠組みが発足します。条約に基づく国際機関ではありません。MTCRの目的は、ミサイル技術を持つ国が協調することによって自分たちの技術が安易に拡散しないように、お互いに約束しましょうという取り組みです。具体的には、各国は輸出管理という制度を持っています。ハイテク製品や武器を国外に輸出する時には、当局(政府、日本では経済産業省)に申請し、許可を得るという制度です。輸出申請がされて、慎重に審査が行われています。例えば、日本からシンガポールに輸出される場合、シンガポールの輸出先がペーパーカンパニーで、大量破壊兵器の開発疑惑国に迂回輸出されないようにする仕組みです。MTCRでは、射程300km以上、搭載重量500kg以上の弾道ミサイル、巡航ミサイル、宇宙ロケット、無人航空機は原則として輸出しないこととなっています。搭載重量が500kgに満たないものでも、射程300km以上であれば、個別に審査をすることとなります。部品についても審査の対象となります。

水内龍太兵器関連物資等不拡散室室長
水内龍太兵器関連物資等不拡散室室長
齋藤:そのMTCRの取組の中で、特に重要な動きははなんであるとお考えですか?

水内:MTCRはそもそも輸出管理のための国際協調であり、参加国も自ずとミサイル関連技術を持つ国に限られます。現在は33カ国が参加しています。しかし、MTCR参加国の間で、それだけではミサイルの拡散を防止するのに不十分ではないかという問題意識が高まりました。そこで、弾道ミサイルの拡散の取組として、もっと幅広いグローバルな規範を作ることができないかという議論をしてきています。そのようなことが今から2年半ほど前のMTCRの総会で話し合われていました。そういった規範作りのための取組の発端が2000年10月のヘルシンキ総会で始まったと言えます。
 MTCRに入っていないがミサイル開発を行っている国は現実にはあります。こうしたこともミサイル拡散の一因であり、故に、MTCRの取組を広げていくことが必要と考えています。

齋藤:MTCRは条約に基づかないとのことですが、ある国がこの取り決めを破った時の制裁・強制力というのはありますか?

水内:もともとのMTCRの性格が条約にいたらない「ふわっとしたもの」なので、違反したらどうなのかということに対して明確な答えはありません。条約で定められたものではないので、国際法上の権利や義務は発生しません。基本的には参加各国が約束を重視し、守ることが前提になっています。100%、輸出管理の体制が完璧かというと必ずしもそうではないかもしれませんが、最大限ループホール(抜け穴)を狭め、実効的な体制を強化する努力もしています。例えば、日本でも今年の4月から導入された、「キャッチオール規制」という制度もその一つです。

齋藤:MTCRに日本が参加することでどのような国益があるとお考えですか?

水内:日本はMTCRに参加するというよりは、そもそもMTCRを発足させた、いわば産みの親の一人です。大量破壊兵器を運搬可能なミサイル技術が世界に拡散していることは、世界の安全保障の観点から見て由々しきことであると思います。日本の近隣においても、北朝鮮を見てもらえばわかるように、極めて近い所にもそのような弾道ミサイルを開発、配備していると考えられる国があります。MTCRは、大量破壊兵器の運搬手段の拡散を防止しようとする取組ですから、世界の平和と安全のみならず、日本の安全保障環境の安定化に資するものであり、その観点からもMTCRの発足と機能の強化は、日本にとって大きな国益があります。

齋藤:MTCRに対して日本はどのような活動を行っているのですか?

水内:日本は先進技術を持った国です。さらに、弾道ミサイルそのものでないにしても、宇宙の平和利用という観点からロケットの開発に取り組んでいます。ロケット技術と弾道ミサイル技術には非常に共通性があり、相互に転用することができます。それ故に、日本が持っている技術をきちっと管理していかなければなりません。MTCRは、年に1回の年次総会とその間に何回かの事務レベルの会議があります。これらの会議では、(大量破壊兵器搭載可能な)ミサイルの拡散の状況をレビューし、MTCR全体、又は参加国がいかなる取り組みをすべきなのかを議論します。そうした議論に積極的に参加し、ミサイル不拡散の取り組みをリードすることが日本の役割だと思っています。

インタビュー
齋藤:それでは技術輸出を規制する時にミサイル技術とロケット技術にどうやって分けるのでしょうか?

水内:とても重要な問題です。弾道ミサイル技術とロケット技術は相互に転用可能なので、両者を区別する明確な技術上の基準はありません。そもそも、大量破壊兵器や弾道ミサイルを作っているのがどういう国かということは公知の事実となっている面がありますし、宇宙開発を行っている国の数も限られています。故に、そうした情報をきちんと分析し、どのような国に対して技術の輸出が行われようとしているのか、どのような国に注意しなければならないのかをきちっと見るというのが大切になります。

齋藤:MTCRは武器を輸出する側に対する働きかけは行っているのですか?

水内:ミサイル拡散の状況や輸出管理の重要性に関する啓蒙などを行っています。現在はグローバル化やハイテク化が進み、先進国以外の国でも技術レベルが上がっています。秋葉原あたりで誰でも買えるような一般的な機器が、大量破壊兵器やミサイルの開発に使われる懼れもあります。そう言った意味で、MTCRに参加していない国が、意図せずしてミサイルの拡散に関わっている可能性もあります。こうした国に対しても、不拡散の取り組みに積極的に参加してほしいとのアピールもこれから重要になってきます。

齋藤:北朝鮮のテポドン問題に対して北朝鮮は「これは平和利用のロケットである」と発表されたと思いますが、それに対して日本政府はどのような対応をしたのですか?

水内:98年の8月31日にミサイルが日本上空を通過しました。日本政府はこれを弾道ミサイルであると判断しました。その経緯については、詳しくは防衛庁のホームページに載っています。総合的に判断した結果、人工衛星という主張を受け入れることはできなかったということです。 日本政府の当時の対応としては、8月31日に、日本や北東アジアの安全保障の観点から、弾道ミサイルの発射を極めて遺憾であるということを表明しました。そして、9月1日に官房長官から日本政府の立場と対応についての声明として、当面の対応を発表しました。その中で日朝関係においては、あらゆるレベルで北朝鮮側に遺憾の意を伝えて厳重抗議し、説明を求めると同時に、ミサイルの開発・輸出の中止を求めるとともに、国交正常化交渉開催の当面の見合わせ、食糧等の支援の当面の見合わせ、KEDOに関する進行の当面の見合わせという対応を取りました。さらに、9月2日には北朝鮮との間のチャーター便の許可取消・不許可を発表しました。(注:これらの対応は、状況の変化により見直されてきている。)

齋藤:MTCRは北朝鮮に対してどのような関与をしていくのですか?

水内:MTCRは大量破壊兵器の運搬手段となりえるミサイルを開発している国、技術を手に入れようとしている国に対して、その輸出を制限するという取り組みです。MTCRでは、参加各国の情報交換を通じ、北朝鮮が活発に弾道ミサイル活動を行っており、さらにそのミサイル技術の輸出を盛んに行っている国という認識が共有されています。日本だけではなく、MTCRの参加国は、そういう認識の下に協調・団結して北朝鮮による弾道ミサイルの開発や拡散に歯止めをかけようとしています。

インタービュー
齋藤:具体的にミサイル問題に関して、政府・各省庁はどのような担当なのですか?

水内:官邸の指導の下、外務省、防衛庁、内閣府等が協調して、外交面、防衛面の政策をそれぞれ決定していきます。外交面に関しては、外務省の中では、北朝鮮との関係ではアジア大洋州局北東アジア課、日本の安全保障全体に関しては総合外交政策局の安全保障政策課、日米安保条約に基づく協力関係に関しては、北米局の日米安全保障条約課が担当しています。グローバルなミサイル不拡散に関しては私のところで担当しています。MTCRとの関係で、国内的な輸出管理に関しては外為法に基づき、経済産業省が輸出管理の実務行っています。

齋藤:ミサイル開発と自衛権との関係は?

水内:ミサイルそのものが問題というよりも、それが大量破壊兵器の運搬手段になりえるというところがポイントだと思います。弾道ミサイルは、高度な誘導装置を持つものはともかく、どちらかといえば命中精度の低い兵器だと考えられています。通常弾頭で撃って、目標に到達しなければ、軍事的な効果は限定されますから、どうしても核や生物・化学兵器といった大量破壊兵器を搭載しなければ、弾道ミサイルを開発・生産することが、割に合わなくなります。弾道ミサイルが拡散することは、潜在的に核兵器をはじめとする大量破壊兵器の拡散の要因にもなります。
 その逆も真です。大量破壊兵器の開発・保有は原則禁止されています。しかし、実際には隠れて開発している国があるかもしれない。核兵器不拡散条約(NPT)などは、違反の際の制裁規定がありません。そこで、こういった国が弾道ミサイルを開発したり保有したりすることも、また大変危険なことだといえます。こうしたことから、大量破壊兵器を運搬可能なミサイルが拡散しないための取組が世界レベルで必要となるのです。
 自衛の話に戻りますが、地域の安定や世界の平和のためには、各国が最大限に自制を促し、様々なレベルで地域の安定のために努力する以外には、この問題への答えはないのではないでしょうか。 例えば、ある国が自衛のためだといって長射程の弾道ミサイルを持てば、周りの国もそうするかもしれない。ミサイル開発競争は、結果的に一層の不安定化を招きます。そうならないために、国際的には、説得とか信頼醸成のための措置をねばり強く行うことによって政策転換を促していくということになります。その意味で、不拡散の取り組みは、究極的には地域の安定のための外交努力と切っても切れない関係にあります。

【インタビューを終えて】
 MTCRは大量破壊兵器の運搬手段となるミサイル等や関連技術・物資の拡散を防ぐ体制であります。しかし、平和目的のロケットと弾道ミサイルの技術の区別が困難なことや汎用品の多さからもわかるように、平和利用の技術と兵器のための技術は、実は、密接な関係にあるようです。つまり、技術の存在そのものの善悪を問うのではなく、技術を使う人間性が問われると考えました。さらに、国際的な輸出管理の枠組みであるMTCRにおいても、自制が大切というお話を聞きました。技術をどう使うのか?国際社会で自制をするという人間性が問われる時代になったと実感しました。(齋藤)


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