ヨハネスブルク・サミットの今を語る!
宇喜多秀俊前地球環境課長に聞く
収録:平成14年6月21日
今年の夏、南アフリカのヨハネスブルクで、持続可能な開発に関するサミットが開かれます。近年日本でも注目されている環境と開発に関する会議なだけに日本の役割が期待されています。今回は、日本の主張はいかなるものなのか、といった基本的な質問からNGO/NPOの参加問題、途上国と先進国との対立問題などサミットの背景にあるさまざまな動きも含めインタビューしてみようと思います。 |
大沼:まず、ヨハネスブルク・サミット(「持続可能な開発に関する世界首脳会議」)が今年(8月26日~9月4日)開催される背景・意義はどういったものでしょうか。
宇喜多:1992年にリオで地球環境サミットが開かれ、アジェンダ21、持続可能な開発に関する行動指針が採択されました。それがこの10年間どのように実施されてきたのか。また、この10年間新たな現象(グローバリゼーションやIT革命)が起こってきていて、これらが持続可能な開発にどのような影響を与えているのか。更に今後の課題も踏まえて、そうした問題に取り組む最高政治レベルでの決意を表明するためにこのヨハネスブルク・サミットが開催されます。
大沼:リオ・サミットと今回のサミットとの大きな違いはなんでしょうか。
宇喜多:リオ・サミット以降、さまざまな条約が結ばれたり、宣言がなされたりすることで、環境面での改善はおおいに見られたのですが、その反面、開発という側面が遅れてしまいました。今回は、環境にも留意しつつ、開発という側面にも重点が置かれています。 |
大沼:日本政府はそういった中、どのような主張を行っていますか。
宇喜多:環境面では、循環型社会の構築、科学技術を活用した環境保全の推進等を主張しています。ODAの問題に関して言えば、92年に比べてその額は2000年までの統計と比較すると-13%になっています。世界全体としてはマイナスですが、そのような中、日本は21%その額を増やしています。このODAを有効に使うために、オーナーシップ(途上国が主体的にODAを使っていこうとする意思)を重要視し、それに基づく先進国からのパートナーシップ、そして結果重視のアプローチの重要性を訴えています。更には「戦略」、「責任」、「経験・情報」を皆で分かち合うというグローバル・シェアリング(地球規模の共有:途上国の発展なくして、地球全体の発展はなく、また今の時代に「環境と開発の両立」という課題に取り組むことで次世代とも資源等の共有を図るという考え)の精神を掲げています。また、途上国におけるガバナンス、民主主義の重要性も説いています。
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大沼:バリにおける閣僚会合では先進国と途上国の対立が報じられていますが、交渉の上での苦労、工夫を聞かせてください。
宇喜多:大きな問題として、途上国に対する資金の問題、また貿易の問題があがっています。ただ全体としては8割が合意に至り、残りの2割がまだ調整中という段階で、資金・貿易の問題だけが残っているという状態です。また、ガバナンスの問題も途上国との対立要因にもなっています。
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大沼:NGO/NPOの参加の重要性が説かれていますが、そのメリットとデメリットは何ですか。日本の代表団の中での調整も大変だと思いますが、いかがでしょうか。
宇喜多:まず、そのメリットですが、われわれ役人はどうしてもデスク・ワークに偏っているところがあるので、実際に現場のことを詳しく分かっているNGOの方々の意見は大変参考になります。月に2回程度、対話集会を行っているのですが、できるだけ多くコミュニケーションをとることで、われわれが気づかない重要な事柄が情報として入ってくる、これは大変意義深いことだと思います。環境教育だとか、ジェンダーの問題はNGOの意見が基になり議論されています。また、ホームページに寄せられる意見、例えば、議長ペーパーへのコメントなども、NGOの声が反映されています。今回のバリの会合では、初めてNGO担当大使が設置され、その調整役としての働きを発揮できたと思います。
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大沼:環境教育についてどのような議論がなされていますか。
宇喜多:持続可能な開発に関する教育には、経済・社会・環境といった3本の柱が必要です。途上国においてこれらが10年なり20年なりをかけて、初等教育を初めとし、だんだんと広まっていくことを望みます。日本はNGOからの意見をもとにして「持続可能な開発に関する教育の10年」という概念を打ち出しました。教育の分野に関して積極的に行っていこうという立場です。ただ留意すべき点としては、教育というのは、何か定型的な型を作って押しつけるものではなく、それぞれの国の文化、慣習等があるので、それらに根付いた教育内容・方法が自分たちの手によって進められていくことが重要であると思います。
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大沼:個々人が環境に対してもっと留意することが、この会議の意義を高めると思われますが、日々の生活で私たちでもできることはどのようなことだと思いますか。
宇喜多:リサイクルを積極的にやるとか、環境会計をつけるだとか、小さなことでも自分ができることから始めるのが大切だと思います。キング牧師の言葉に、「最大の悲劇は悪人の暴力ではなく、善人の沈黙である」という言葉がありますが、地球環境はどんどん悪くなっています。個々人が情報を主体的に集めて、地球全体のことを考えていくこと、それが今後ますます重要なことになっていくでしょう。環境のことを考える際、横のつながりだけではなく、次世代のこと、つまり、縦のつながりも考えていくことが大切だと思います。
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【インタビューを終えて】
今回「持続可能な開発に関するサミット」がアフリカで開催されることの意義を踏まえ、サミットをより身近なものに捉えていくべきでしょう。インタビューをして自分がいかに環境・開発問題に対して、「善人の沈黙」を守ってきたかと思うと恥ずかしい思いがしました。でも、これからが自分の始まりであるように、これを読んだ個々人やNGO/NPOの方々の一人でも多くがヨハネスブルク・サミットに興味を持ち、そしてどんな小さなことでも実行に移していってもらいたいと思います。(大沼)
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