外務省タウンミーティング第8回会合
川口外務大臣と語るタウンミーティング
(槇原経団連副会長及び花元JA全中副会長冒頭挨拶)
(槇原経団連副会長) 槙原でございます。私は民間の立場から、FTAに関しまして日ごろ考えている問題意識を3点述べさせていただきます。
まず第一に、資源の乏しい日本はこれからも通商立国として経済発展を達成していく必要があり、通商外交、特にFTAの推進は日本にとって最重要課題の一つであるということです。これまで日本は資源・原材料を輸入し、製品を輸出するという形での通商立国により目覚ましい経済発展を遂げてまいりましたが、近年では物の輸出に加え、サービス貿易、海外投資、人の移動も活発化し、こういった要素も今後の経済発展には欠かせない状況にあります。
こうした人、物、資金、サービスの自由化の枠組みを多国間で確立する仕組みがWTOですが、新ラウンド交渉の先行きが難しさを増す中、二国間、地域間のFTAの重要さは非常に高まってきています。先ほどもお話がありましたように、すでに世界では約200のFTAが締結されていますが、日本はこうした動きに大きく後れをとっています。国内問題に比べ、とかく通商問題は軽視されがちですが、通商立国である日本にとってこの後れは死活問題でもあり、こういった現状をまず認識することが重要であると考えています。
第二は農業問題への対応だと思います。詳細につきましてはこのあと花元さんからお話があると思いますが、まず認識すべきことは、日本は世界最大の農産物純輸入国であり、年間約5兆円もの農産品輸入を通じて農産品輸出国の経済発展に貢献しているという事実です。にもかかわらず農業問題においてとかく日本に批判が集中するのは、ごく一部の農産品に数百%という高関税が課せられており、また、日本の立場、農業の競争力強化に向けた取り組みが鮮明に打ち出されていないところに問題があるのではないかと考えています。
こうした状況を打開するためには、守り一辺倒の保護主義から脱却し、構造改革の推進による競争力強化を前向きに実施するとともに、こうした姿勢を諸外国に明確に、かつ力強くアピールすることが必要かと思います。その点が今の日本には多少欠けているところかと思います。
また、農産品の輸入に関しましては、食料安全保障上の観点から自給率の低下につながる可能性のある関税引き下げ・撤廃には反対との意見が聞かれますが、食糧安全保障の問題につきましても、食料自給率を何%にするということよりも、戦争や飢饉等の際にいかに対応するのか。また、平時において、国内生産、備蓄、輸入を組み合わせ、いかに安定的に食糧を確保するかという観点からの検討が必要であると考えています。特に輸入につきましては、農業分野での海外への投資、WTOを通じた輸出国の規律強化、農産物禁輸の禁止等を通じたFTAによる安定的な輸入確保も非常に重要なポイントであると考えています。
第三はFTAの推進体制です。よく言われることですが、日本には通商政策の司令塔がなく、WTOでもFTAでも日本は担当大臣が3人も出席し、だれが交渉責任者なのか分からないという批判があります。実際には、川口大臣をはじめ関係大臣の方々が非常に密接に連携を取りつつ交渉に臨んでいただいているということは存じていますが、関係業界の利益にとらわれず、国益全体を考慮した通商政策の企画、立案、交渉の推進には、やはり司令塔、そして交渉窓口の一元化が必要かと思います。
この点では、最近、小泉首相のイニシアティブで、メキシコに官邸ミッションが派遣されました。また、昨日はFTA交渉を促進するための第1回目の経済連携促進関係省庁連絡会議の初会合が首相官邸で開かれました。経済界ではこうした官邸主導の動きを非常に高く評価しています。これを外務省がしっかりとサポートすることにより、百戦錬磨の諸外国との交渉にも耐えうる司令塔、単一の交渉窓口が確立され、FTA交渉も日本の国益を念頭に置いて一層促進されるものと考えています。
最後になりますが、FTAは単なる貿易・通商問題ではなく、日本の経済構造、産業構造の高度化を図る重要なツールでもあります。これは小泉首相が進めておられます構造改革を後押しするものでもあり、その点で、FTAの推進は多少の痛みは伴いましょうが、中長期的には日本の経済発展に寄与するものであると考えています。このミーティングを機会にこの点を十分ご理解いただき、日本の国益全体からいかにFTAを推進していくかという議論がより幅広く行われることを期待したいと思います。ありがとうございました。
(花元JA全中副会長) JA全中の花元でございます。本日の中心課題である東アジア諸国とのFTAに関連して、我々JAグループがアジア諸国の農業者とこれまでどのような取り組みを進めてきたかということをまず説明したいと思います。
私どもJA全中では、昭和38年にアジア農協振興機関を設立しまして、アジア諸国の政府高官や農業指導者に研修の機会を提供してまいりました。この40年間の受け入れ総数は4500名です。とりわけ韓国、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンが多くなっています。JA全中におけるこの機関に対する事業費も毎年7000万円以上計上していまして、今後ともこれは継続していくことにしていますが、いずれにしてもFTAの推進で最も重要なことは、やはりアジアの皆さんたちの人的交流ではないかと思います。
今、約21か国で30名以上の、国の重要なポストに就かれている農協振興機関で研修をされた人がいらっしゃいます。最近では、アジア9か国の農業団体と協力のための農業者グループ、それから韓国とは農協組織とで日韓農協協力協議会を発足させました。WTOやFTA問題に対して直面している課題について、これから政策対話を行っていきたいと思っています。
いずれにしても、アジア諸国は非常に人口密度が高い中で、小規模の家族農業によって主食である米を中心に食糧の安定を図ってきていますし、アメリカやオーストラリアのような輸出国の農業とは、自然状況、コストの面、規模等の面で大きな競争力の格差があります。このような環境の中で双方の農業者が生産と生活を高めるために発展していくためには、東アジア諸国とのFTA、あるいはもっと広い視野で経済的・社会的・文化的な相互発展と繁栄が本来の目的とされるべきだと思っています。
WTOやFTA等で日本農業に関する論調で、日本は生産コストが非常に高く、農業の構造改革が後れて、農産物の価格が高いという批判があります。しかし、我が国とアメリカを中心にしての比較をしますと、公共料金、物流費、生産性、土地、人件費、非常に割高です。これが農産物の価格を押し上げるようになっていることも事実です。こういった生産以外のコストの削減についても、これからしっかり検討しなければならないと思っています。
また、生産者の努力によって、この10年で農産物価格が約18%下がっていますが、実際に消費者の手元に入ります価格というのはこの10年間全く変わっていません。日本の中にはいろいろな業界の業種の人がおられて、それぞれの人がそこで生活をしているわけですから、なかなかそういった面のコスト削減が我が国の場合は難しいのではないかと思っています。
いずれにしても、日本の農業を存続させるということは国家的使命ですが、国際的に競争できる農業を目指すための環境整備を国家的視点でできるかどうか。これがWTOなりFTAの交渉の鍵ではないかと思います。
以上のことから、東アジア諸国とのFTAについて、JAグループとしては議論に入る前に反対をするという立場ではありません。そのうえで、農業分野に関しては四つほど極めて重要な問題があると思います。
一つは、両国の農業の発展につながるFTAになることが必要です。二つめには、我が国は世界最大の食料輸入国ですが、農業だけが一方的に犠牲を強いられるということがあってはならないと思います。三つめには、品目ごとの事情を検証して、自由化が困難な品目については例外措置がどうしても必要だと思います。北米の自由貿易協定なども、諸外国のFTAを見ても、関税撤廃の例外措置が講じられています。最後に、FTAによる影響を来さないような国内の制度や政策の転換、農家の経営と所得の安定を確保できる政策が大前提ではないかと思います。
それから、構造改革の取り組みですが、農林水産省では平成10年1月に生産調整に関する研究会が、約1年かかって46回の論議を重ねてまいりまして、基本方向の答申を政府にしました。そして12月3日、米政策改革大綱が省議で決定されました。現在、大綱に基づく改革の推進の取り組みに当たりまして、地域農業の将来の水田ビジョンの策定実現に向かって、市町村とJAが全国一斉にこのビジョン作りを始めているわけです。そして、このビジョンができたところに、国の支援、補助金をつけていくという新たな展開をやっていまして、少なくとも全国が同じような仕組みで、同じような地域の知恵を出して、これからの水田農業、米政策を含めてビジョンを作っていくというのは、私は壮大なビジョンだと思います。また、地方分権が叫ばれていますが、少なくとも私どもは地方分権の先取りをやっていると思いますが、本当に今までの5倍、10倍どころの勉強ではありません。相当な研究を今重ねているところです。
併せて、経済事業改革も、営農指導なり販売物流、資材等の改革を17年度までに何としても実現する。それから、米改革は、22年までには私どもが主役になるシステムを作る。大学のいろいろな専門の先生の中でも、国の基本となる農業政策を団体が主役になるというのは間違っているという意見もかなり聞いているわけですが、やはりそれぞれの政策の提言はあると思いますが、このWTO、FTAを進めるためには、我々が主役となるシステムを何としても22年度までには実行したい。このような形で取り組んでいます。
もう一つは、新しい展開ではありますが、今、地産地消運動、食と農の仲間作り、健康作り、地域の活性化に取り組んでいます。私は福岡県ですが、福岡県の状況を申し上げますと、15年3月現在で、いわゆる直売所、中の流通は省いて生産者が朝持ってきたものを消費者が直接買っていただける「ふれあい市」が県内に252か所あります。販売額は約120億です。出荷農家は1万7000戸ぐらいですが、実際そのふれあい市に年間通して来る地域の人が2000万人という数になっています。そういう都市と農村の対流の拠点となりつつありまして、これはもっともっと措置が進むのではないかという気がしていまして、私どもも、市場に出荷するプロの農家と、そして、地域で高齢者の人、女性の人たちが地域と直接結ぶ、こういう2極の農業展開を中心にして、これからビジョン作りを進めていきたいと思っています。
いずれにしても、日本の農業者というのは世界一の技術を持っていますし、世界一の勤勉性を持っています。これはやはり国の宝であって、私どもJAグループとしても大変な誇りです。こうしたことを各界各層の皆さんと率直に語り合いながら、アジアとの経済連携の実現を目指したいと思いますので、よろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。
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