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座談会
「国連の強化・活用を日本外交の主軸に」
(「外交フォーラム」誌4月号よりの転載)



冷戦後脅威の性格が変化する中で、国連改革の気運が高まってきた。日本はアメリカを説得しつつ、総合力を駆使して正当性と実効性双方の面から国連強化を進めるべきだ。軍縮や平和構築等、日本が常任理事国として活躍できる局面やメリットは多い

【出席者】

坂本一哉 大阪大学教授
野村彰男 国連広報センター所長
横田洋三 中央大学大学院教授
相川一俊 外務省総合外交政策局国連政策課長

【本文】

なぜいま「改革」なのか

――いま国連の内外で国連改革の機運が高まっています。国連はどのような問題に直面しているのでしょうか。

横田 国連が創設されたのは1945年です。第二次世界大戦の連合国――米、英、仏、ソ、中が中心になって、戦争のない平和な世界をつくるために編み出された機構です。
 国連は第二次大戦で連合国と敵対する国々が再び戦争を起こさないよう主要な連合国5カ国が一致して防止することが特色でした。また国家間の戦争をなくすことを目的として創設されました。ところが国連はその後いくつかの時代の制約を受けることになります。創設直後に冷戦が始まり、5大国が一致して行動できなくなり、安全保障理事会が機能しなくなりました。そして連合国と戦っていた主要国――日、独、伊が次第に経済的な発展を遂げ、政治力もつけ、国連の活動に深く関わるようになってきました。このように国連が当初想定した仕組みがうまく機能しない状況が続きました。
 1990年代に入って冷戦が終わり、再び5大国が協調する可能性が出てきました。ところが、国際社会が対処しなければならない脅威の性格が大きく変化しました。国家間の紛争よりむしろ内戦、民族紛争、テロなどが国際社会における深刻な脅威となり、それに対して国連は必ずしも有効な対応ができない仕組みになっていた。そこで国連改革の機運が高まってきたのです。

野村 経済、政治、文化などあらゆる分野でのグローバル化の加速とともに、1国だけでは対処できない問題が増えています。その分、国連の果たすべき役割はむしろ大きくなっている。テロや大量破壊兵器が脅威であるのはもちろんですが、貧困とか飢えとか環境破壊、病気などいわゆるソフトな脅威の深刻さが無視できない状況にあって、国連活動の7、8割はそうした経済社会分野の問題に振り向けられています。しかし、国連のシステムやプライオリティは、そうした時代の変化に追いついていません。国連の限界は、なんと言っても主権国家の自主的な協力の精神のもとに運営されているという点にあります。「国際社会」とは言っても「コミュニティ」とは名ばかりで、国内社会とは違って、司法も行政も不十分でセーフティネットもない混沌たる世界です。しかも各国間の経済力、政治力、軍事力などの格差が非常に大きくて、グローバリゼーションの加速で格差は広がる傾向にあって、それを放置しておけばますます無秩序の世界になりかねません。途上国の開発、貧困、地球環境、HIV/AIDS、感染症など国際社会全体の問題に、限りのあるリソースをどう振り分けるかを調整するところに国連の大きな役割はあります。そのためには主権国家が国連を盛り立てて、21世紀もそれを国際社会の普遍的組織として使っていくのだという意思の再確認が必要な時期にきているのだと思います。

相川 「国連」と一般に言う時には2つの意味があると思います。1つは国家間の利益・政策の調整の面。もう一つは事務局で、国連平和維持活動(PKO)、開発、人権・人道などでの専門家の集団といった面です。
 イラク戦争をめぐって「国連は機能しなかった」と言われます。ここにも2つの側面を見ることができます。1つは、安保理でアメリカとフランスの国家意思、政策がぶつかり、安保理で意思統一が図れなかったという問題です。もう1つの側面は国連事務局の問題です。イラク復興において事務局は当初相当建設的な役割を果たそうとしました。しかし国連職員がテロの直接の対象になって22人が亡くなり、その後事務局はイラク復興への関与を躊躇するようになった。それまで事務局は自分たちが国連の旗を掲げている限りは世界から求められこそすれ、直接攻撃の対象になるなど思いもしなかった。それが直接テロの対象となったことから、果たして事務局の役割、存在意義とは何なのかという問題に直面するようになったのです。イラク戦争はそうした国連の2つの側面を根本的に問い直す契機となったのです。
 アナン事務総長は、国連が新しい脅威に対応していくためにどう変わるべきかを考えるため、2003年秋にハイレベル委員会を発足させました。アナン事務総長の根本の問題意識は、イラク戦争で揺らいだ国連への信頼を取り戻すとともに、アメリカの国連離れをどう防いでいくかという点にありました。アメリカを一方的に非難するのでなく、新しい脅威であるテロの脅威に最もさらされているアメリカの懸念に国連、国際社会がいかに応えていくか、また、アメリカをいかに国連の中に関与させていくのか。その中で国連がどう変わっていくのかがまさに問われているわけです。

坂元 20世紀は19世紀の世界システムに代わる新しい秩序を模索した世紀です。いろいろな側面がありますが、平和と安全保障の面では、勢力均衡に代わるものとして第一次大戦後に国際連盟、そして第二次大戦後に国際連合が創られたわけです。これから21世紀において国連を有用なものにするには、あらためて国連とは何かを考えてみる必要があります。国連は世界政府でも国際法の集権的な執行機関でもありません。では何か。それは唯一の普遍的国際機関として国際社会のコンセンサスを創出するための常設的な政治フォーラムです。そこにおいてコンセンサスが生まれれば、諸国間の力強い国際協調を引き出し、それによってさまざまな問題を解決することができると思います。
 しかし創設60周年を迎え、国連はいま機能的にも構造的にも現代世界の状況にそぐわなくなっています。機能面を考えてみますと、国際社会が対処すべき脅威が変化したのにそれに国連は対応していない。大量破壊兵器の拡散問題、破綻国家の問題、あるいは内戦や無秩序、その無秩序にテロが巣食うというような「ポストモダン」の脅威が出てきました。
 ハイレベル委員会の報告書をみますと、自衛権の拡大につながる憲章改正の必要は認めていませんね。しかしそこはもう少し掘り下げてほしかった。というのは、国際連合の安全保障機能は、国家の侵略行為を集団でたたく体制をきちんとつくって侵略を抑止することに主眼を置くシステムです。ですが、例えば大量破壊兵器拡散の問題は国家の侵略とは異なる脅威です。仮に相手に侵略の意図がなくても、大量破壊兵器を持たれたら、それだけでこちらにとっては恐ろしい。そういう脅威です。冷戦中の米ソ関係のように抑止が有効であればその脅威も和らぐのでしょうが、抑止が効くかどうか確信できない独裁者や手段を選ばぬテロリストが大量破壊兵器を持ってしまえば、こちらにとっては深刻な問題になります。このことにどう対応するか、報告書はこの点を必ずしもよく考えていないと思う。たしかに、いわゆる先制的自衛は、拡大解釈になる恐れがあります。しかし実際に大量破壊兵器による攻撃を受けてからでは、自衛が手遅れになるのもまた事実です。抑止が効かないという前提ならば、やはり先制的自衛にもう少し踏み込まないと本当の意味での安全保障にならないのではないでしょうか。

「保護する責任」を認める

横田 ハイレベル委員会の報告書は、ある意味では正当な考え方ですが、ある意味では差し迫った問題への答えとしては不十分なものだと思います。
 平和への脅威を非常に包括的(conprehensive)に、かつ相互の関係性(inter connectedness)を重視してとらえました。報告書は脅威の種類を次の6つに分類しました。1つは経済的社会的脅威です。貧困、エイズのような感染症や大規模な人権侵害がこれに含まれます。第2の脅威は伝統的な国家間の戦争。第3は内戦。第4はテロ。第5が大量破壊兵器、第6が国際組織犯罪です。
 ここには坂元先生が指摘された破綻国家という重要な点が入っていません。国が崩壊し路頭に迷っている国民には何もしてあげられない。またそれと並んで強圧的な独裁国家の脅威もあります。独裁政権下で国民が虐げられているのに対して外から何もできない。さらに自然災害もあります。これらの3点が書かれていない点でハイレベル委員会の報告書は不十分だという気がします。
 テロに対して、どう対処すべきかについて、報告書はあまり詳細に論じていません。ただ安保理を強化して、安保理がそれに対応するというかたちになっています。
 それから自衛権の問題ですが、分析が不十分であると同時に問題が残っていると思います。アメリカによるイラクへの武力攻撃は、自衛権の行使と認められるけれども、それを正当化できるかどうかが1つのポイントになって書かれていることが読みとれます。国連憲章51条では、現実に攻撃が行なわれて初めて自衛権を行使できる、とあります。ところが、これだけ武器が発達し、しかも攻撃する主体が国家だけでない。テロ集団による脅威が差し迫っている場合には、報告書では、先制的自衛権は認めるといっています。ただし、予防的な自衛は禁じている。その区別のキーワードは「imminence(切迫性)」です。攻撃が切迫していると安保理が認めた場合には、攻撃が現実になくても相手をたたきにいってもいい。しかもいまの51条のままでできると解釈しました。ところが切迫しているかどうかの判断は相対的であいまいです。

野村 国連改革の成否は、アメリカが国連の多国間協調の枠組みを大事に考えるかどうかに掛かっていると言ってもいいと思います。ハイレベル委員会の報告書をよく読むと、自衛権の行使をめぐる部分でも、イラク戦争を念頭にアメリカと折り合いをつけたいという気遣いがうかがえます。武力行使の合法性、正当性というところで従来の原則を変える必要はないというものの、一方で安保理決議に基づく集団的行為については、より積極的に(pro-active)、より果断に(more decisive)、そしてもっと早く(ealier)行動をとれ、と言っている。十分かどうかはともかく、これなど新しい脅威への対応にアメリカの協調をとりつけることを意識したものではないでしょうか。ハイレベル委員会の報告書が民族虐殺や大規模な虐待行為などをめぐって、内政不干渉の原則と照らして「介入する権利(right to intervene)」があるかどうかでためらうより、「保護する責任(responsibility to protect)」を重視すべきだと踏み込んでいるのは画期的です。つまり、憲章2条7項で内政不干渉の原則を掲げていますが、独裁政権下で人権を抑圧されている国民を保護するため、その国の政策に干渉する権利があるということを打ち出しています。

相川 「保護する責任」は報告書の大事な1つのポイントだと思います。国連にはイラクの問題が起こる前の1990年代において、2つの大きな悔恨がありました。ルワンダとボスニアのスレブレニッツァでの虐殺です。PKOの目の前であれだけの虐殺を許してしまった。これに対して1つの答えを出したということになったわけですね。

坂元 安保理の改革について、安保理の正統性と実効性を高めることが大切だと言われますが、私はどちらかと言えば、正統性を高めることがより重要な課題だと思っています。例えば破綻国家の救済復興にしても、国際社会の正統な関与が必要になります。「保護する責任」というのも、ある特定の国による内政干渉ではなく、国際社会全体の総意だという正統性、そして国際社会全体のバックアップがあってこそきちんと果たすことができる。正統性が伴ってこそ実力のある関与ができるように思います。
 しかしいまの安保理の構成、特に常任理事国の構成には正統性が欠如している。1つにはそれが依然として第二次大戦の戦勝大国の共同統治という色合いを残していることです。国連は2つの原理から成り立っています。1つは大国間協調、もう1つは主権国家の平等、対等な関係です。大国間協調は19世紀の勢力均衡においても大事だったわけですが、19世紀の大国協調では、ナポレオン戦争後数年間で敗戦国だったフランスを仲間に入れている。国際連盟も、規約によれば総会の過半数で理事国の増加ができるようになっている。それが国連にはない。そもそも仕組みに欠陥があるのです。欠陥が目立たなかったのは、冷戦があったからでしょう。米ソがあまりにも強かったし、日本もドイツも西側の主要国になったので国際社会におけるステータスのことはあまり問題にならなかった。ところが冷戦が終わって、またその問題が浮き彫りになったという側面があると思います。
 もう1つは構成国の実力の問題。国連創設当初、ステティニアス米国務長官は、安保理常任理事国とはどういう国であるか上院で説明して、それは「世界の産業および軍事資源のほとんどを有する国」だと述べている。米、英、仏、ソ、中です。当時もこれら5カ国すべてがそういう国だったかは疑問がありますが、いまはとても当てはまらない。この2つのことで正統性が欠如しているわけです。
 常任理事国の構成は、国連創設以来60年間同じままで続いていますが、これから60年、また同じままと考えるのは現実的ではないでしょう。どのみちある時点で変わらなければならない。その時に日本がどういう立場をとるかが問題です。

国連強化は日本がイニシアティブをとって

――日本は国連改革にどのように関与すべきでしょうか。

坂元 日本は、ドイツ、インド、ブラジルと組んで、国連改革のイニシアティブをとり始めました。この連合(G4)には反対する国々もありますから、日本はここにおいて、はっきり「波風を立てた」わけです。そして私は、そのことを評価したいと思います。戦後日本の外交は、慎重におとなしく波風を立てない、みんなを怒らせないという姿勢が強く出すぎていました。それは大戦争に敗れて、国際社会への復帰が一番大事だった時期にはもちろん必要なことでしたが、しかしその時期は遠い昔に過ぎています。国際社会の変化から見ても、日本の国力から見ても、もはやそれだけでは物足りない。国益のためには強い主張でもって波風を立てることが必要なこともあるのです。
 日本は日本の国益のために波風を立てたたわけですが、その国益が「開かれた国益(enlightened self-interest)」であるということを明確に主張すべきです。安保理改革をして安保理の正統性と実力を増す、それは世界にとっていいことだ。そして正統性と実力を増すためには日本の参加も必要だ、という順番で話をすることが大切です。この問題は日本の常任理事国入りの問題ではなく、国連改革、安保理改革の問題です。それが一番大切なのだということは常に言い続ける必要がある。

相川 今回日本は、60年前の構造がそのまま基本にある安保理を、現代の政治構造を反映したものとしなければならないといういわば「大義」を前面に出して主張しています。
 日本は国連に加盟することが国民の総意だった戦後の歴史があり、国連といえばみなさんが賛成してくれるいわば尊いものというイメージがずっとありました。しかし最近では逆に、国連はそもそも英語でUnited Nations(連合国)だ、敵国条項がいまだに残っている。国連なんて日本にとって役に立たない組織ではないかという意見も聞かれます。また一昨年のイラク戦争の際、アメリカをとるのか、国連をとるのかという問題提起がメディア等でなされました。どうも日本では国連を尊ぶか、見下すか極端に振れる傾向がみられます。外交に携わっている立場から見ていると、他の多くの国は国連をうまく使っています。アメリカですら国連をうまく使いながらアフリカ問題等に取り組んでいる。イギリス、フランス、北欧の国は特にそうです。日本も国連をどう使っていくかという議論をより行なっていくべきで、それが国連改革を議論する際の基本になると思います。

横田 ハイレベル委員会の審議が進んでいる時、並行して日本では当時の川口外務大臣のもとで国連改革に関する有識者懇談会ができました。私がその座長を務めさせていただきましたが、その中でとった姿勢は、国連をどう強化したらいいのかについてもっときちんと議論していくべきだということです。日本が安保理常任理事国入りするとかしないとかではありません。国連が安保理を中心に平和のために実質的に力を発揮できるように強化しなければならない。そのためには新しい常任理事国をいくつか加える必要がある。そこに日本はどう関わるかという問題です。
 国連強化に向けて、いま外務省を中心に相当日本政府が動いていることは間違いありません。それ自体私はいいことだと思います。ただ、まだ一貫性がないという印象をもっています。総合的に国連強化のための政策を立てて、日本が推進していく。それを日本の外交政策の一つの中心に据える。その上での戦術があるべきです。また、外務省だけでなく、国連機関に関わっている財務省や文部科学省、厚生労働省などの省庁も含めて政府全体が動かないといけない。そのためには高いレベルでタスクフォースをつくる必要があるでしょう。
 その狙いは、国連を強化して、国連のいろいろな活動、例えば先ほど挙げた6つプラス3つの脅威についても日本は国連を通して対応していく。国連強化に熱心であるとすれば、必要に応じてもっと国連にお金を提供する方針を出す。本気で国連を強化していくのだという姿勢を目に見えるかたちでやっていってほしいと思います。

野村 いまのご指摘は大事だと思います。日本が中心になって大きな声をあげて国連改革を進めるのはいいことです。しかしいまの日本が戦略的に国全体として、また政治の意思として国連改革を率先して進める状況にあるかといえば、そうは思えませんね。政府開発援助(ODA)予算は削れという声のほうが大きくて、依然としてそれが歴然と毎年の予算に表れている。グローバルにはODAが増えている。国民総生産(GNP)比0.7パーセントが目標とされていて、それを達成しようとする国もヨーロッパには現れつつある。政策の優先順位としてODAに比重をかけて世界の問題に関与をし続けるのだという意思をはっきり持つ国とやや後退気味の国とでは迫力も違うし、国際社会に与える影響にも差が出る。外務省だけでなく、政治家や財務省なども含めて政治全体としてバックアップする姿勢がないと、日本の声は世界に響かないのではないかという気がします。いま大事なところにきているのに、その割には日本の戦略的意思がみえない。

坂元 国連改革の「波風を立てた」として、立てた波風に乗ってうまく向こう岸に着けるかどうか。この点アメリカをどう説得するかも大きな鍵になると思います。アメリカは、日本はよいが他の国はだめ、前は日本とドイツならよいと言っていましたが、最近はドイツについても乗り気ではないようです。しかし、日本だけを常任理事国にするというのでは改革は動きません。アメリカは安保理の数が増えると議論がまとまらなくなる、と言いますよね。そこでわれわれは正統性の強化、つまり安保理が国際社会の多様性をよく代表していることが力になるということを強調すべきだと思います。まとまらないのは、問題が難しいからであって、数が多い少ないは関係ないんです。
 アメリカの中では共和党のギングリッジさんなどが国連改革の研究会を開いていて、「国際社会の利益」といったおためごかしではなくて、アメリカの国益のために国連をどう改革するか考えると言っています。アメリカに対しては、安保理改革はアメリカの力を含めて力強い世界の国際協調をつくろうという努力であり、アメリカにとっても得ですよ、という方向に話をもっていく必要がありますね。

相川 アメリカは、ニクソン政権のロジャース国務長官のころから日本の常任理事国入りを支持しています。最近、改革をして安保理の実効性が高くなることが大事だといっています。実効性をそぐ改革は不必要だということです。アメリカは1カ国でも平和と安全の問題で行動をとる実力があるし、有志連合を使うこともできる、あるいは、国連を使って行動することもできる。そういう意味で手段が豊富なわけです。アメリカにしてみたら、国連、安保理を使いながら外交をやっていくためには、使いでのある道具である安保理が機能している必要がある。
 アメリカは国連に批判的なようにみえても、国連に対する貢献はたいへん大きい。例えばPKO予算は27%近く払っているし、任意拠出金の額も圧倒的に1位です。人の貢献面でもPKOに400数十人出しています。アメリカを国連の中にとどめておく。そのために安保理の実効性を改善する。その方向性はわれわれも同じです。
 G4は、いずれも民主主義国家で、世界の平和と安全に対する実力を備えており、改革に向け一緒にやっていこうとしています。ただ具体的にどのような改革を行ない、これらの国が常に安保理に入ると実効性がどのように強くなるのかについては、アメリカに対して十分に説得していかなければなりません。

常任理事国入りした日本は……

――さて、日本が安保理常任理事国入りする意味はどのような点にあるのでしょうか。

相川 さきほど「保護する責任」の話が出ましたが、ハイレベル委員会の報告書の多くの部分は、そこまでのひどい段階に至らないためにどうしたらいいかという問題意識があり、そのためには民主主義に基づく国づくりを行なう、人権を確保するといったことが書いてある。こうした平和の定着、国づくりの分野は日本がイニシアティブをとっていける分野であり、実績がある分野です。こういった面で日本は率先して国連安保理を強化していくことができます。
 いま、安保理の扱う問題の間口が広がっています。例えば昔はPKOは停戦監視だけをやっていればよかった。しかしいまは治安の確保から平和の復興、国づくり、選挙監視、場合によっては開発までやる。また、「石油と食糧交換計画」の場合は、安保理がイラクのような大きな国の歳入を直轄運営してきた。さらに、これまで長い審議の末条約を作成して取り組んできたような問題に関しても、最近は、そんなに時間をかけていたら、眼前に迫っているテロのような脅威に対応できないのではないかということで、安保理が決議案を通じて、特に非国家主体のテロ行為や大量破壊兵器を規律するために、いわば立法的な役割すら果たすような事例も出てきている。
 最近メディア等で「日本は常任理事国入りして何をするのか」とよく言われます。その答えはいろいろあるでしょう。しかしそもそも、安保理に入っていようがいまいが、そこで決められた決定はすべての国連加盟国が守らなくてはならないわけです。日本として入らないという選択は、他国が決めることには従うが、自らはその意思決定には参加しないということと同じではないかという気がするのです。

坂元 北岡国連大使が、日本は安保理の決定に参加しないで黙って資金を出し続けるなら、「現金自動支払機外交」になりますよとおっしゃっています。お金を出しているから、それだけで安保理の決定に参加する資格がある、というわけではないでしょうが、やはり払っている額が大きいですからね。他の国とは違うということは、国内外で言い続ける必要があるでしょう。

野村 平和と安全という問題もそうですが、国連のいろいろな関連機関、専門機関のトップたちが日本にしばしば足を運んできます。それはお金だけの問題でなく、アフリカ開発や「人間の安全保障」といった分野で真面目に取り組みを続ける日本の重みがあるからです。そのことを国連の中にいると実感します。国連全体において日本が果たしている役割はもう少し強気に宣伝していいと思う。なかなか上手に国内に伝わりきっていませんね。昨年末のインド洋スマトラ沖地震の津波被害の後、今年1月に神戸で国連防災世界会議が開かれました。ホスト国であったということもありますが、日本がもつ重みを実感させる会議でした。各国首脳、閣僚が軒並み日本にはほんとうによくしてもらっていると言わざるをえないし、現実にそういう貢献をしているわけです。

横田 ODAが世界1位の時期が10年以上続いた時に、国際社会での日本の地位は相当高かった。評価をされていた。いまでもその貯金で助かっているところがあります。こういう一般的な高い評価を踏まえて国連改革について発言していくことが意味があると思うのです。全体の条件づくり、雰囲気づくりはもっと多角的にやっていかないといけませんね。

相川 安保理改革に加え、国連事務局の改革も大きな課題です。ハイレベル委員会の報告書に国連安保理が平和と安全に主要な役割を果たすと書いてありますが、国連職員で平和と安全に携わっている人は6%しかいません。こういう状況で、本当に安保理が平和と安全の問題にきちんと対応できるのか。無駄はないのか。もっと効果的に運用できるのではないか。国連の人事は、局をまたぐ異動ができないとか、個別の人事で大国の横槍が入るとかさまざまな問題が指摘されています。こういったことも軽視されがちですが、改革すべき問題です。

横田 国連事務局の機構改革についていえば、日本人が中枢に入ったところは、すべてが満点ではないですが、一般によくなったと評価されています。緒方貞子さんが高等弁務官を務めた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は明らかによくなった。松浦晃一郎さんが事務局長になったユネスコもそうです。何より脱退していたアメリカをユネスコに戻したのはたいへんなリーダーシップです。日本政府が一所懸命バックアップしたことも間違いありません。しかし実際に成し遂げたことは正当に評価すべきです。

疑問に答える

坂元 そういうことをちゃんと知らせないと、なんのために高い比率の分担金を払っているのだ、という批判が出てくると思う。よく知らせて、国民も入れてオールジャパンで協力することが大事です。
 メディアなどでよく指摘される問題に、日本が常任理事国入りをして何をするのか、ビジョンがない、ということがあります。繰り返しになりますが、国連の改革そのものが日本のビジョンです。日本は、安保理の正統性と実力を増すための改革をやりましょう、そのために努力しましょう、というとても立派な、そして大きなビジョンを掲げていると思います。仮にどの国を常任理事国にするか選挙があるということになれば、日本もそれ以上のビジョンを語る必要が出てくるかもしれない。しかしそうなったら平和構築、人間の安全保障など、日本が貢献してきた分野や問題意識をいくらでも挙げることができます。
 もう一つよく指摘されるのは拒否権をどうするかという問題です。私は、拒否権は大事なものだと思います。もし拒否権がなかったら、国連はできなかった。拒否権がなければソ連は入らなかったでしょうから。いま拒否権をなくそうとすると、アメリカは「国連脱退も辞さず」となる。
 拒否権は最近あまり使われなくなったから不要ではないか、という議論もありますが、これは単純にすぎます。たしかに拒否権行使の回数は、冷戦中は年5回のペースだったのが冷戦後は年1回のペースに減っています。しかしそれでも拒否権は大事です。というのも拒否権がある国の1票とない国の1票とでは、拒否権は使わなくても重みが違うからです。拒否権は行使することが大事なのではなく、持っていることが大事なのです。ですから、いまの常任理事国が拒否権を持ち続けるという前提ならば、新しい常任理事国もそれを持つべきだと思います。交渉にはそういう原則で臨むべきでしょう。
 しかしどうもいまの雰囲気からいうと、常任理事国が増えても、新しい常任理事国には拒否権が与えられない可能性が高い。そこでそれについては柔軟に考える必要も出てくる。大切なことは、新しい常任理事国が、自分の1票の重みが他と比べて軽くならないようにする工夫を考えることでしょう。例えば日本の場合は、日本が絶対反対することをアメリカがやるかといえば、そういうことは考えられない。このように「1票の重み」については、いろいろな外交の立場の中で、事実上他と同じようになる。そういう可能性を求めるべきだと思います。
 それとともに、拒否権の使い方についての改革も必要です。国際社会の平和と安全にグローバルな責任を果たす意思と能力のある大国が拒否権を使ってまで反対するようなことはやめておこう、と皆が納得するような、そんな拒否権しか認めないことにする。そのためにはどうしたらよいかいろいろとアイデアを出すべきでしょう。

横田 日本の常任理事国入りをめぐって、「日本国憲法、特に9条が障害になって、常任理事国としての責任が果たせない」という議論もあります。これは国連憲章を研究し、国際法を研究している者の立場からいって、おかしな議論です。日本国憲法9条がいまのままであっても、十分に常任理事国としての貢献が日本はできます。軍事的なものを含めてです。日本が憲法をどう改正するのか、それは安保理の問題をからめる必要はなく、日本が独自に考えればいいことであるというのが私の考えです。
 それから、「常任理事国入りして何をするか」という問題、すなわち大国としての国際社会との関わり方については、最低限国連が決めた平和維持活動については財政面、人的な面その他外交的な面で協力をしていくことは当然だと思います。日本が常任理事国になることの1つの大きなメリットは、軍縮の分野の貢献です。核兵器を長期的には地上からなくしていくための外交を日本は展開しています。これがいまの5大国とは違うことです。
 同時に、ハイレベル委員会の報告書でもう1つ重点が置かれていたのは平和構築の問題です。これまでは紛争は安保理が扱うものとされていました。状況が安定してはじめて経済社会理事会が出てきて復興援助、開発援助をやるということになります。ところがそこに最低限2、3年のギャップがあるのです。それをつながなければならない。その点、日本はこれまで平和構築にも積極的に貢献してきました。いまイラクに自衛隊が派遣されているのも、平和構築のためです。戦闘地域かどうかと議論するのはまったく無意味で、戦闘地域か戦闘地域でないかよりも、自衛隊のような最低限自分たちを守る力を持っている組織でないと行けない危険性があることは間違いないのです。そのような不安定な状況で同時に、橋を直し、道路や学校をつくり、水を提供する、さらに世銀や国連開発計画(UNDP)が入れるような基盤づくりをする。日本はこれまで開発、技術の面で実績がありますし、日本の自衛隊はそういう分野で活躍する能力は十分あり、それは証明されています。私は平和構築も日本が常任理事国として果たしていける非常に重要な分野だと思っています。
 それから、敵国条項についてです。これはまったく時代遅れで、実際ハイレベル委員会も削除しろと提案していますので、国連憲章が改正される時には必ず削除は含まれると思います。

野村 最初に立ち戻りますが、今回のせっかく盛り上がった機運をいかして国連改革がなされないと、国連の正統性も薄れていくと思います。その鍵はアメリカとどう折り合いをつけるか、国際社会でアメリカをも含めて国連の役割についてある種のコンセンサスができるかどうかというところだと思います。
 さきほど日本が安保理に入ることの意味について触れられましたが、アメリカにきちっとものの言える国であり得れば、そのことの意味はすごく大きいと思う。そこを実績として日本外交が見せてくれることが必要です。今回の国連改革にあたっても、アメリカを多国間協調の枠組みにつなぎとめて改革実現に持ち込むという意味で、日本の対米説得力にかかるところもかなり大きいのではないか。その点では日本外交にもっともっとがんばっていただきたいと私は思っております。

坂元 「開かれた国益」に従って国連改革を求めるというのが日本の立場だとして、それが狭い意味での日本の国益にどういう意味を持つか、日本外交に占める位置もよく考えておくべきでしょう。戦後の日本外交は日米関係、国連、アジアの3つの次元で展開してきたわけですが、21世紀における日本外交の地平拡大もその3つの次元でなされることになるはずです。
 まず、アメリカは世界最強でアジェンダ(議題)設定能力のある国です。日本はこの国と同盟を結んでいる。これが日本外交のこれからの基盤であることは言うまでもありません。冷戦後、そして9・11テロ事件後の米軍再編に対応して日米同盟はまた一段と進化しつつあります。次に国連においては、世界政治のフォーラムの決定に常時参加しつつ、日米同盟の基盤も利用して世界政治に影響力のある立場を得る。そしてアジアでは、そういう立場を得たうえで、台頭する中国との関係をにらみながら、地域の平和と繁栄のためにリーダーシップをとっていく。
 3つの次元での展開を同時にやるべきですが、順番があるとすれば日米、国連、アジアという順番になるでしょう。国連をとばしてアジアというのは、特に中国との関係を考えると、いろいろな意味でやりにくいところがあるように思います。

相川 多くの国にとって、国連は利用するものというよりは何かを与えてくれるものです。日本のように国連を強化していくことが日本の国益だと信じ、実際に建設的役割を果たしている国はそんなに多くはない。また、ヨーロッパの国であれば北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)がある。アフリカでもアフリカ連合(AU)がある。日本は日米関係を機軸としていますが、平和と安全に関する地域的な機構はこの地域にない。そういう意味でも国連、特に安保理は日本にとって大事です。いま坂元先生がおっしゃったように、日本が国連に常に入っているということが日米関係も、アジアとの関係も幅の広いものにしていきます。日米と国連は決して対立しているわけではなくて、国連を強化していくということは日米関係を強化することにもつながる。これも大事な点です。
 安保理には強大な権力があります。例えば事務総長を選ぶことも、安保理が勧告して総会は基本的にラバースタンプを押す。安保理に入っていなければ、事務総長を誰にするかということすら影響力を行使することができないのが現実ですから、安保理に入って自らの考えを出していくということは大事です。

日本人職員の評判は高い

――最後に、国連の日本人職員についてはいかがでしょうか。

野村 国連の幹部クラスの人々と話しても、日本人の若手、中堅の職員は非常に評価が高いですね。責任感をもってきちんと仕事をこなすということについては、口をそろえて評価します。

横田 加えて、繰り返しになりますが、日本人が中枢に入ったところは、その組織がよくなったと評価されています。
 分担金の比率や日本の国連政策のために日本人職員がもっと増えたほうがいいという観点ではなく、日本人職員が増えることは国連事務局の効率性を高めることになるという点をもっと認識すべきです。とりわけ評価されているのは、汚職に関わることがないという信用です。
 日本人職員の増強は、一面において採用する国連の側の問題ですが、他面において、国連の側が必要とする人材を日本で養成するという日本の側のサプライの体制の問題でもあります。少しずつよくなっていますが、まだ十分でない。政府も大学もこれからもっと力を入れる必要があると思います。

野村 国連に入った人を引き上げていくシステムも必要です。いま幹部クラスに日本人が少ないので、上から引きあげるのは難しいわけです。ですから日本政府のサポートで、しかるべきところに来ている人たちが評価を受けて上にいけるようなシステムを真剣に考えるべきだと思います。

――本日はありがとうございました。


【略歴】

坂元 一哉
さかもと かずや
京都大学法学部卒業、同大学大学院修士課程修了。オハイオ大学留学。京都大学法学部助手、三重大学人文学部助教授、大阪大学助教授を経て現職。著書に『日米同盟の絆―安保条約と相互性の模索』(サントリー学芸賞)、『戦後日本外交史』(共著)などがある。

横田 洋三
よこた ようぞう
国際基督教大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。国際基督教大学教授、東京大学教授などを経て現職。国連大学学長特別顧問、国連人権促進保護小委員会委員など多くの公職を務める。『国際機構の法構造』、『日本の人権/世界の人権』など著書多数。

野村 彰男
のむら あきお
1967年朝日新聞社入社。ワシントン特派員、政治部次長、外報部次長、論説委員アメリカ総局長、論説副主幹を歴任。主に日本の外交政策、日米関係、国連問題などを担当。朝日新聞総合研究センター所長を務め、2003年より現職。

相川 一俊
あいかわ かずとし
1983年東京大学法学部卒業、外務省入省。経済局国際機関第一課、総合外交政策局企画課、アジア局中国課、国連代表部参事官、在マレーシア大使館参事官などを経て、2004年8月より現職。



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