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総領事館ほっとライン 第9回 上海
チャンスも矛盾も内包する上海で
(時事通信「世界週報」2004年2月17日号より転載)


平成16年2月
在上海総領事
杉本 信行



投資ラッシュで在留邦人急増

 現在、上海には2万5000人以上の在留邦人がおり、日本人学校の生徒も、ほんの2年前には700人に過ぎなかったのが、1300人以上に膨れ上がっている。4月の新学期には1600人になると見込まれている。日系企業の進出も、1日2社以上のペースで増加しており、駐在員事務所まで含めると4300社、当館の管轄地域の江蘇省、浙江省および安徽省を含めると1万社近くになる。これだけ多くの在留邦人の方がおられると、当館の保護業務も多忙を極める。最大の悩みは、死亡する方が多いことである。一昨年、昨年とも30人を超えた。世界各国で亡くなる邦人の6%が上海地域に集中するのはやはり異常だ。原因は様々であるが、病死が大半だ。変化が激しいだけにストレスが高いのかもしれない。
 このような日本企業の投資ラッシュが起こる理由は、高卒の労働者の人件費が日本の20分の1ないし30分の1という人件費の安さだけではない。視力が2~3で12時間以上の単純労働も深夜労働もいとわない向上心に燃えた質の良い20歳前の労働者が、無尽蔵に確保できる。それに加え、工場の建設費が日本の3分の1、工期も半分以下、操業開始後も営業税が日本の半分以下、それ以外にも様々な優遇策が設けられている。投資の回収が早く、インフラも急速に整備され、遅れていた流通部門も世界貿易機関(WTO)加盟により開放され始めている。
 中小企業も含めて日本からこれほど企業進出が続いているのは、あらゆる面でコストが安く、投資回収が容易である面以上に、「華東地域に世界からあらゆる業種の企業が集積すると、日本に残っていては注文が取れない」といった切迫した理由によるところが大きい。すなわち、企業の集積により、ビジネスチャンスが集中し、ビジネスサイクルが早まり、注文、製造、納入それぞれの時間が短縮され、日本にいてはこのサイクルから取り残されてしまうのである。
 もう一つ、企業にとっての中国の魅力は、国内市場の急膨張である。全土13億人の市場は幻想であるにしても、上海、江蘇、浙江の人口を合わせただけで日本の人口を上回る。この地域の購買力だけとっても、急膨張している。

急激な市場経済化と社会の矛盾

 しかし、すべてがばら色なのではない。いまだに日本企業の悩みの多くは、売掛金の回収である。市場経済が本格的に謌(うた)われてからまだ10年そこそこ、すべてが計画経済の国有企業の下で経済活動を行ってきた人たちの頭の中には、お金は国から支給されるもの、借りても手元になければ返さなくてもよいとの考えが依然としてあるように見える。
 急速に市場経済化が進む中では、当然様々な矛盾も生じる。まず計画経済の下で一応整備されていた社会福祉制度が急速に崩壊し始めている。貧富の格差も急速に拡大している。単に沿岸部と内陸部、都市と農村の間だけではなく、上海のような大都市の中での格差も甚だしい。中国の新しい指導部の最大の課題は、持続的な発展を追求する上で、これらの格差をいかに抑え、社会不安を起こさないようにするかであることは間違いない。
 上海には外地から出稼ぎに来ている人たちの子供が32万人もいるが、地元の学校へは学費が高くて入れない。一部は闇の私立学校へ通っているが、20万人近くの子供が未就学のままである。豊かな地域の中で貧困であえいでるこれらの人々に対し、草の根無償資金協力により何らかの援助ができないか検討している。
 一方で、急速な発展にインフラ整備が追いつかず、現在進出している日系企業の最大の悩みが電力不足である。総領事館としても、担当の副市長をはじめ関係機関に対し節電の影響が最小限となるようあらゆる機会に強く申し入れている。新型肺炎(SARS)再流行の懸念も、在留邦人の頭から離れない。

アジアの発展には日中関係が重要

 日中間の貿易額は昨年1300億ドルを突破した。投資も実行ベースの累積で400億ドル近くなった。人の往来も日本側が圧倒的に多いにしても400万人近くに上っている。今やお互いなくてはならない存在であるにもかかわらず、両国民の相手に対する感情は悪化していると見ている。紙幅の関係で、その原因の詳細な分析については別の機会に譲るとして、「過去の問題」が暗雲のように両国の上に大きくのし掛かっている。小泉純一郎首相の元旦の靖国神社参拝が、さらにその影を濃くしたのではないかと懸念している。
 ここ上海では、両国の経済活動に悪影響を及ぼさぬよう、中国の国益に基づいた対日関係の見直し議論が始まっている。「漢奸」とか「媚日派」等の感情的な反発をものともせず、中国の発展にとっての日中関係の重要性について客観的に認識すべきであると主張する研究者がやっと出てきた。日本側もいたずらに中国脅威論を振りかざすのではなく、日本の発展にとり、そしてアジアの発展にとり、日中関係の安定的な発展がいかに重要であるかを説得力を持って論じられる研究者が、一刻も早くここ上海で、両国の共通認識を構築するための議論を戦わせてくれることを期待している。



ワンポイント・アドバイス
 上海に進出している企業にとって、知的所有権保護の問題も大きな頭痛の種です。本物まがいの安い商品を大量に売る店があちこちにあります。高価な本物を購入されたい方は、くれぐれもご注意を。


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