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日本に一番近い外国は「ロシア」 (時事通信「世界週報」2003年8月19日-26日合併号より転載) 平成15年8月
EU代表部公使 (前在ユジノサハリンスク総領事) 黒田 義久 チェーホフも訪れたサハリン サハリン――あるいは「樺太」と言った方がなじみのある方もおられると思いますが――とはどのような所なのか、なかなかイメージがわかない方も多いかもしれません。北海道とほぼ同じ面積を持つサハリンは、日本に最も近い外国であり(サハリン島南部のクリリオン岬から宗谷岬までは最短で43キロ)、北海道の人口の10分の1に当たる約57万人が暮らしています。ロシア帝国の辺境守備に当たったコサックの末裔もいます。島の形は頭を北に向けた魚のようであり、当地のロシア人によれば、ロシア大陸という母親の胎壁にしがみつく胎児のようだとも言われています。そういう彼らの気持ちはよく分かります。 ロシアの作家、チェーホフの作品(戯曲「桜の園」や「犬を連れた奥さん」などの短編)は多くの日本人にも親しまれていますが、そのチェーホフは1890年にサハリンを訪れたことがあり、「サハリン島」というルポルタージュを残しました。このチェーホフをサハリンの人たちは今も大変誇りに思っていて、ユジノサハリンスク(旧豊原)にはチェーホフにちなんだ文物を集めた博物館もあります。当時のサハリンは流刑地だったのですが、今では「女流刑囚」という商標のウオツカを売っています。私は好きです。 最近、日本の新聞紙上をにぎわせているサハリンの話題として、「サハリン・プロジェクト」と呼ばれる石油・ガス開発プロジェクトがあります。これは日本企業の参加する対ロシア最大の投資案件で、サハリン島北東部沿岸の大陸棚を鉱区に進められていますが、中東諸国に資源のほとんどを依存しているエネルギー消費大国・日本にとっては、近隣の地の新たな大規模エネルギー供給源として注目されています。また、日本の経済関係者の間には、市場開拓地としてのサハリンに関心を持っておられる方も多く、特に北海道との交流は目に見えるものも見えないものも活発です。 総領事館に在留届をしておられる邦人の方は100人近くに上っていますが、この数字は我が国の在ロシア極東3総領事館(ハバロフスク、ウラジオストク、ユジノサハリンスク)の中で最も大きなものです。最近では、学齢期のお子さんや赤ちゃんを連れてユジノサハリンスクに来ておられる若いご夫婦もあります。 日本への関心と北方領土問題 このようなサハリンですが、ロシアの他の地域と比べて邦人の方々のために総領事館のお手伝いが必要になる事件や事故が発生することは意外と少ないのです。旅行者がひったくりに遭うとか、殴られたという例はまれにあります。日本の漁船が拿捕されて西海岸のネベリスク(旧本斗)に連れて来られることもありますが、そういう時は雪の峠を四輪駆動のランクルで越えて、「領事面会」のために館員は何度も往復します。近年の大きな事故としては、2001年夏にサハリン東方沖で日本の小型機が不時着し、ロシア側の多大な協力もあって漂流中の日本人が航空機事故としては奇跡的に無事救助されたことがありました。あの時は、着替えの衣服や女性のための化粧品などを用意もしました。 一方で、私たちは大やけどを負ったロシア人の少年や国境警備隊の将軍夫妻の日本での治療のお手伝いをしたこともあります。モスクワに飛ぶには10時間かかりますが、札幌にはわずか1時間半で着けます。 サハリンのロシア人も個々人は気持ちのよい人が少なくなく、また、とりわけ若者は日本に対し非常に大きな関心を抱いています。サハリンには日本語の知識を生かすことのできる就職先が少ないにもかかわらず日本語学習に対する熱意は旺盛で、中には非常にレベルの高い日本語を話す人も少なくありません。当地では、日本政府の予算で若手経営者を養成する日本センターが活動していますが、同センターで在留邦人有志が話し相手として参加して行われる「日本語会話クラブ」にも、毎回熱心な出席者が多数あります。今年の正月も公邸に日本語を学ぶ学生たちを招待してカルタ会をしましたが、日本人よりも早くカルタを取るほどでした。 ところで、このサハリン島の北緯50度以南の部分は、ご存じのように日露戦争後に日本に割譲され、その約半世紀後のサンフランシスコ平和条約により日本が放棄した地域です。そうした歴史的経緯を背景に、戦後当地に残留した日本人も多くおられますし、朝鮮半島出身者はサハリン州の人口の7%を占めています。そして、我が国の北方領土を「行政管轄」しているのはこのサハリン州です。サハリンの世論に日本に対する強硬なものがあるのも事実で、州議会の一部で、また新聞・テレビでよく噴出します。2月7日の「北方領土の日」に総領事館前で抗議のピケを張ったりすることがあるのはロシアの中でもサハリンだけです。日本の在サハリン出先機関としてのもう一つ別の側面の仕事がこの点にあります。 「ワンポイント・アドバイス」 サハリンでのビジネスを探しておられる方は、まず当地の「北海道ビジネスセンター」にご相談ください。ロシア語が不自由な方には、日本語を話すガイドの紹介も可能です。空港や、稚内からのフェリー到着港のコルサコフでの税関申告書は正確に記入し、出国時まで必ず保管してください。 また、冬期のサハリン訪問では予備日をとっておくことをお勧めします。冬のサハリンはチェーホフの「サハリン島」となり、大雪のため島から出られなくなることがありますから。 |
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