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演説
町村外務大臣演説

日本記者クラブにおける町村外務大臣政策演説(概要)


平成16年12月16日
於:日本記者クラブ


 9月27日に小泉総理より突然外務大臣をというお話をいただきました。私が初めて当選をした日の夜に、先輩の政治家であります父親の町村金吾から、「君は通産省に13年勤務をして、経済のことが好きなのかも知らんが、やはり経済のことは民間に基本的に任せておけばよろしい。政治家たるものは外交とか、防衛とか、治安とか、教育とかそういう問題に取り組むのが本来の政治家のあり方ではなかろうか。」と、こういう先輩訓話をいただきまして、そう言われてみればそうだなというようなことで、もちろん税制調査会でありますとか独禁調査会でありますとか、そういった経済がらみのことはやって参りましたが、文教関係、あるいは国防、あるいは外交ということも自分なりに一生懸命やってきたつもりであります。文部大臣を2回も勤めさせていただきましたし、また、最初の文部大臣の後、5年程前になりましょうか、外務政務次官も1年ちょっと勤めさせていただきました。その後、外務省は波瀾万丈の何年間、いろんな事件があったり、いろんな混乱があったりして参りました。しかし、ここ2、3年の間に少し落ち着いてきたのかなという感じはいたします。良い意味でも悪い意味でも落ち着いてきているというところがあろうかと思いますが、しかしそれにしても、相当な余波というものが今でも外務省の中にはなんとなく残っているという気がいたしました。少しでも外務省の外交官の皆さん方が外交活動に専念できるように、私も努力をしていきたいと、こう思っているところでございます。

 私が政治家に初めてなりましたときのお師匠さんが安倍晋太郎先生でございました。安倍通産大臣の時に私は、「政治家にならないか。」というお誘いを受け、そして初当選したときにはもう、安倍外務大臣でいらっしゃいました。当時、外務大臣だというと、仰ぎ見るような存在で、えらいもんだなと新人議員として思っていた記憶がございますけれども、当時の安倍大臣のキャッチ・フレーズは、「創造的外交」、あるいは「志ある外交」ということを盛んにおっしゃっておられたのを今でも思い出します。もう少し遡ると、福田先生が、外務大臣のときか、総理大臣のときですかね、「Heart to Heart」という有名な演説を確かマニラでなさったことも思い出されまして、そんなことを念頭におきながら、日本がこれから「志の高い国家であり、国民である」といろいろな国々の方々から思われるような、そういう国造りに努力をしていかなければならないし、それを具現化するような外交というものをやっていかなければならないと思ったりもしております。具体的にどういうことか、それは個々の局面でいろいろとあろうかと思いますが、ややもすると、戦後の日本、これは私が文部大臣の時に非常に痛感したことでありますけれども、もうお金がすべてと。お金は大事ですと。しかし、お金がすべてではないということを本当は日本人は分かっているはずなのですが、戦後の豊かさの中でそれがどんどん失われてきてしまった部分というのは大変大きいと思います。私は、外交はいろんなパワーが必要だろうと思います。しかし日本は所詮、軍事パワーで世界に冠たる国になるということは望むべくもありませんし、また望む必要もない。日本がこれから生きていくのは、やはり「ソフトパワー」とでもいいましょうか、これはジョセフ・ナイ教授が「ソフトパワー」ということを言ったわけでございますけれども、日本が世界に誇るそういった「ソフトパワー」というものをどう発揮していくのか、先般、総理のもとで「文化外交の推進に関する懇談会」というのがございまして、私も出席いたしましたけれども、やはり「広い意味での文化の力」というものが非常に重要ではないかと思っております。それはやはり、日本の中には、伝統的なお茶、お華という文化のみならず、昨今であれば、非常に新しい舞台芸術だってですね、大したもんです。バレエの吉田都さんとかですね、あるいは小沢征爾さんとかですね、世界に冠たるアーティストがたくさんカまれてきています。私は、何年か前にフランスのアリアンス・フランセーズというところに行って、フランス語の普及というものはどういうふうに行われたのかということを勉強したことがあります。彼らは100年も前、1900年頃からその活動をやっているんですね。そして、永々として、フランスの文化、フランスの言葉というものを世界に広める努力をしている。それに比べて日本語の普及なんていうのは、学びたい人はものすごくたくさんいます。その割には、そうした普及の取組が不十分であって、私が文部大臣の時に、文化庁に、外務省の文化交流部ともよく話をして、日本語の普及をもっときちんとやれるようにする、当時は「ソフトパワー」という言葉は使いませんでしたけれども、そういうことをもっと一生懸命やってみようよということで、国際交流基金をはじめ相当力を入れ始めてくれておりますが、こういう面はもっともっと力を入れてもいいんだろうと思っております。「ソフトパワー」という時は、文化の力ばかりではなくて、例えば日本が当たり前だと思っている、政治的な価値観、社会的な価値観というものも、つまり民主主義でありますとか、あるいは自由主義でありますとか、市場の力でありますとか、あるいは平和とか、人権とか、それにかなり徹してやってきたと、何も憲法第9条を引用するつもりはありませんけれども、やっぱり日本の国柄というのは戦後そうやってつくってきたわけでありますから、そういったことをもっともっと世界の国々に発信していく。そのことがまた、日本は、信頼に足る国だということになりますし、後ほど少々述べますけれども、日本はだからこそ常任理事国入りする必要がありますし、する資格もあると、こう思っているわけであります。それから「ソフトパワー」というのは他にもいろんな面がございまして、例えば、政策の魅力といったようなこともですね、日本の「ソフトパワー」に入ってくるものだと思います。私が小さい頃、学生の頃はケネディにあこがれた、それは若くてハンサムな大統領ということもありますが、やはり、あの月に人間を送ろうという非常にすばらしいアポロ計画というものを打ち出すアメリカ、あるいはケネディ大統領というものが学生の私には大変魅力的に映ったわけであり、そういうことは日本でももっとあって良いのではないのかと思います。これはアメリカの真似であるとは言うものの、海外青年協力隊の諸君だって、実によくやっております。私は海外に行くと必ず彼らに会うようにしておりますが、そういうような活動というものは目立たないけれども、しかし、日本の幅広いパワーにつながってくるものと思ったりもしております。そのような意味で、私は全く「ハードパワー」が必要ではないとは言うつもりはありませんが、日本はやはりより「ソフトパワー」に重点をおいてこれから日本の外交というものを展開していくことが必要なのではないだろうかと、それこそが「志の高い外交」ということに繋がってくるのではなかろうか、とやや抽象的ではございますが、そんな風に思っております。

 イラクに日本の自衛隊をさらに1年間派遣延長するということを決めて、実行に移されたのが昨日からでございましょうか、大変重要な決定をしたと思っております。私は、ここ10何年を見ただけでも、日本の外交、あるいは日本の政策というのは随分変わってきたと思います。私も国会議員になって、20年少し経ったところでありますけれども、例えば有事法制、何故この国にはないんだろうかと、私が当選したのが昭和58年でありますけれども、そういう議論を先輩議員としましたが、「そんなこと言ったって無理だよ。」と、まるで取り上げてくれない。しかし、政府の方ではもう、第1分類、第2分類は、既にその時点でもう検討はほぼ終わっているんですね。それから約20年経って、ようやく有事法制が具体的な法律として国会で成立し、今年の国会でもそれを裏打ちするためのさらに必要な国民保護法制というものもできあがってきた。本当に20年近くかかっているということ。それは、大きくみれば、冷戦が崩壊したからということも当然とは思いますけれども、やはり日本自身の経験からも、湾岸戦争でお金だけ出して、ほとんど評価されない、あまりお金のかからなかった掃海艇を派遣したことだけが少々評価されたと、あのとき世界の中で、特別の税制で、特別に税金を集めて、1兆円以上集めた国は日本だけでしたが、それにもかかわらず、いわば日本の外交というものは、厳しい批判を内外から受けた。その反省に基づいて、随分いろいろな法律を通したり、いろいろな活動をやってきました。PKO法案、1回流産しましたけれども、成立をさせ、まだまだそこには制約がありますけれども、それでも、カンボジアに派遣をし、東ティモールに派遣をし、ゴラン高原にも派遣をし、やって参りました。そして、これはもちろんPKOではございませんが、特別の立法をしてアフガニスタンにおけるテロとの闘いへの支援の一環としてインド洋に自衛隊艦船等を派遣し、さらに、今イラクにも派遣をしていると。このことだけを取ってみても、私は相当日本の姿勢、要するに国際的な問題について日本もちゃんと関与をしていく、そしてそれに正しい解決の方向を見い出すべく努力をするというのは、ややもすると自衛隊を出すことへの反発ばかりが大きく言われますけれども、決してそんなことはない、ようやく日本も世界の共通した関心事項に関心を向けて、一緒に国際社会とともに汗を流す国になってきたんだという、そういう評価の方が間違いなく高いと思っております。

 先般11月下旬にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開かれたイラク周辺国及びG8等の外相レベルの会談に私も出て参りましたが、やはりそこで個別の会談をし、コーヒー・ブレークでお茶を飲みながら話をする機会がありました。そのほとんどすべての外務大臣たちが、「日本もよく参加してくれている。」と、もちろんアメリカ軍を中心とする多国籍軍がイラクを攻撃したことについて、サダム・フセイン政権を崩壊に至らしめたことについては、ドイツやフランスの反対はあるけれども、今やこうなった以上は、みんなで今のイラクを助けていこうではないかと、そのときに日本の貢献は大きい、自衛隊派遣、よくやってくれていると、そういった評価が間違いなくあります。だから「外務大臣がこうやって来てくれて大変助かる、選挙支援で4000万ドル出してくれてありがたい。」といったことは、ただ単に外交的なリップ・サービスだけではなくて、日本という国に対する、日本がこういう問題に関与してくれるということに対する国際社会の評価だと思います。中東和平の問題、率直に言ってこの問題などは、実は私はイラクとこの問題とはコインの両側だと思っておりますから、全く別問題ではないと考えればよくわかるのですけれども、何故、パレスチナとイスラエルの問題に日本が関与しなければならないのか、こういう問題を多くの国民に理解していただくことは実はとても難しいことなのです。そんなことを放っておいたって別に関係ないじゃない、そんなところにお金を出すくらいなら、ウチのそばに早く新幹線をつくってよ、そういう類の話が実に多いのです。国連に分担金を拠出することに関し、拠出し過ぎだという声が実に多い、これは国会議員の中でも非常に多いです。有人ロケットを打ち上げるような中国に何故そんなに援助を供与するのかという声も非常に多い。まだそれでも中国とか、イラクとか国連とか多少の理解はあるかもしれませんが、中東に至ってはほとんど理解がありません。しかし、私は、中東の和平が達成しないかぎり、あの地域の平和、安定はありませんし、長い歴史の中の一コマですから、本当にそれで恒久的に安定するかどうかは別にして、しかし安定してもらわなければ困るという思いがありますので、日本としてもこれから、この問題にしっかりと関与していきたいと思っております。1月9日のパレスチナ暫定政府の選挙にあたっても選挙支援をいたしますし、また、選挙監視団も壮大な規模のものでヘないけれども派遣すべく、現在準備をしているところであります。こういったことにも関わりを持っていくこと、日本はこういう面で、積極的な活動していくということが、ここ10年以上の間に相当変わってきていると思いますし、今後ともその方向は正しいだろうと、日米同盟を基調としながら、また国際協調を基調としながら、今後特にアジア太平洋地域を中心として、日本が平和づくり、あるいは繁栄を創り出すために一層の努力をしていく、ごく当たり前のことかもしれませんが、それが日本の外交の基本だと思いますし、また、それがすべて日本の国益にかなうと。日本の国益に立脚した外交を展開していくことが必要であろうと、こう思っております。

 個別の課題をいくつかお話させていただきますが、一つは、来年はなんと言っても国連の改革の年であります。来年の9月には国連改革を含めたミレニアム宣言に関する首脳会合が開かれます。日本も来年の1月から安全保障理事会の非常任理事国として活動して参ります。そういう中で、先般ハイレベル委員会の報告書が出されたことは皆さんご承知のとおりでありまして、あの中で確かA案、B案という常任理事国のあり方についての提案があった訳でありますが、日本はA案でいこうということをはっきりと言っております。既に5,60カ国以上の国々が日本の常任理事国入りに賛成をしております。おそらく、来週になると思いますが、逢沢副大臣にニューヨークに行って頂き、日本を支援してくださる国々の第1回目の集まりをやろうかと、こう思っているところであります。

 国連改革というと常任理事国入りの話だけが出るのも少々アンバランスでして、国連全体が、1945年に成立して60年、日本国憲法も60年弱でありますけれども、やはり60年間何にも変わらないということ自体、状況の変化を全く反映していないという意味で、現実にマッチしていないことが非常にはっきりしていると思います。旧敵国条項などは当然削除して然るべきであることは論を俟ちませんけれども、例えば、何故日本が常任理事国入りする必要があるのかという問題については、日本の国にとっても必要だし、世界にとっても必要であるということを私どもは自信をもって申し上げることができると思います。なぜ日本にとって必要なのか。それはやはり、世界のいろいろな重要な政治的な決定に日本の考え方が反映できるということは、これは無条件に大きなことであると思っております。そして同時に、日本はなんといっても専守防衛の国、相手を攻撃するようなことはしないのですから、それだけに情報は重要です。安全保障理事会の常任理事国であるのとないのとでは、入手できる情報の量が全く違うと私は思います。日本の政策をきちんと打ち出していくためにも、そうした情報収集というのは、もちろん安保理の場だけではありません。もっともっと幅広くやっていかなければなりません。戦後の日本の国としての非常に大きな弱点というのは、インテリジェンスが誠に弱い、インテリジェンスと言わないまでも外交面での情報収集能力が弱いという点は間違いなく言えると思います。特にインテリジェンスの弱さ、むしろ情報なるものは触らない方がいい、やってはいけないものだという圧倒的な世論の中で、外務省の機密費、報償費などは大幅に削減されています。本当は大幅に増やしていかなければならないのですが。情報、インテリジェンス機能を強化するために、ああいう不祥事があったから削減されてしまったということは誠に遺憾であり、しかも、情報公開、情報公開と、なんでも公開しろと、もう、そのようなことではとてもインテリジェンス活動などできるはずがないわけでございまして、この点は、もう少しきちんと議論をし、国会の中でもきちんと議論をしながら、情報収集体制の強化をやっていかなければなりません。先日、犯罪対策の閣僚会議というのが開かれまして、そこでもテロ情報の収集の強化などが謳われているのですが、具体的に何をやるかについては、欠落しておりまして、この辺はそういう意味では「未完ャ」交響曲だと、この辺はもっとしっかりやっていかなければならない部分だろうと思っております。私は9.11米国同時多発テロが起きた後、自民党にテロ対策本部ができて、その中でインテリジェンスの分科会というのができたものですから、私はその分科会の委員長になって、9.11米国同時多発テロの翌年1月にイギリスに行き、同国のインテリジェンスの関係者にあって、いろいろな話をして参りました。その中で大変に貴重な話を聞きましたし、また、日本にとって大いに参考になることもたくさんありました。そんなことがいっぺんにできるわけではありませんが、イギリスのインテリジェンスのあり方なども参考にしながら、やっていく必要があると。少し国連から話がそれて申し訳ありませんが、そういう情報収集というチャンスを得るということは、常任理事国になることで大変大きいと思います。

 もう一つは、日本はなんと言ってもアメリカに次いで国連分担金の約2割を負担している、アメリカはもっと、3割くらい負担しなくてはならないのだろうけど、いろいろな理屈を立てて、実際には2割強で済んでいる。日本は目一杯まじめに19.数%負担している。他のP5の国々は1%とか2%ですから、それでP5でございますというのはいかがなものかと思いますので、やはり、きちんと税金を払う以上は、それに見合う発言の場、意思決定に参加する場があることは、ごく当たり前のことだと、こう思っております。そういう意味で日本が常任理事国になることは日本にとっての意義があると思います。

 同時に国際社会から見ても日本が参加することは意義があります。先ほど申し上げましたとおり、日本が平和をつくるための努力というのを永々とやってきている、それは平和のみならず、たとえばエイズ対策でありますとか、様々なそういう国際的な課題に対して、日本は熱心に取り組んでいる、それも政治的な思惑をもたずにある意味で極めて純真なと言いましょうか、ナイーブなと言ってもいい程、真剣にそうした問題に取り組んできています。しかし、そういう日本の、ある意味では馬鹿正直な行動というものが国際社会では認められてきており、日本の国際の平和と安全に貢献する姿勢というものを、国際社会は、日本の役割として認めてきています。もう一つは、やはり、アメリカを国際社会あるいは国際機関、就中国連に関与させるというそういう機能を日本が果たしていく、時としてアメリカはユニラリズムというもので単独行動に走りがちな面もあります。そうあってはないということを小泉ブッシュ会談においても、実は小泉総理は随分はっきり言っております。そういう意味で国連というものにアメリカを引き留めておく、そして国連の重要性をもっと認識させる、国連の決定にもっと権威を与える、そういうために日本がアメリカに対して働きかけができるという数少ない国のひとつであろうと思っております。さらにもう一つ言えば、アジアの声は中国のみというのはいかにもアジアの現状において相応しくない。もちろん中国が常任理事国であることはいいが、中国だけでいいかというと、それは違うだろうと思っております。そういう意味で、私は国際社会から見ても日本が常任理事国入りすることに意義があると思います。ドイツ、インド、ブラジル、日本はGroup of 4と言いますけれども、G4で首脳等が集まり、ニューヨークで会合したりしております。このG4という国々とも連携をとりながら進めていきたいと、こう思っております。先般、エジプトでアナン事務総長に会ったらば、「G4というのはギャング4だ。」とおしゃるので、「いやいや、違います事務総長、これは、ジェントルマン4であります。」と私は言っておきましたが、このG4というのも重要な機能といいますか、テコとして、協力しながらやっていきたいと思っております。

 その他、数々の難問があります。今、皆様方が一番関心のある、国民的には関心がある北朝鮮の問題、来週中には一定の調査結果、最終結論ではないかもしれませんが、かなりの調査結果というものを出そうと思って現在、鋭意作業中ですが、これは外務省だけの作業ではありませんから、その結果どういう対応をするかという方向を出さなければいけないと思っております。

 小泉外交に対し、めちゃくちゃだとか、北朝鮮外交はなっていないという声が盛んにありますけれども、それは只今の瞬間風速のことをあまりにも見過ぎていると思います。それは、なんと言っても、小泉総理が北朝鮮を訪問したから、金正日と会談したからこそ、初めて5人の方々が帰り、また家族の方々も帰って来られました。そもそも存在すら認めていなかったその問題について、それがすべての方々かどうか、まだわかりませんけれども、少なくともこういう方々が日本に帰って来られたというところをまず、きちんと評価し、踏まえた上で、さらに安否不明の方々に対して、現在、我々がどういうことができるのかということを最大限今後とも努力をしていくということが必要なのだろうと思っております。同時に、この人権の問題という意味では国際的な広がりはありますけれども、しかし当面、日本の問題だと言わざるをえません。やはり世界レベルでいうと、北東アジアレベルでいうと、核の問題、北朝鮮の核とミサイルの問題ということがまさに六者協議という場があるように、より大きな、それがどっちが重いとか軽いというわけではありませんが、より関係する国々が多い幅広い問題としてあると思います。果たして北朝鮮の核開発がどのくらい進んでいるのかについては、諸説があって、確たることは申し上げることはできませんが、しかし、私どもとしては六者協議を早く再会させたいと種々外交努力を行っているところであります。年内開催は物理的に不可能な状態となっていますが、来年の早い段階で開催することが必要であろうと思います。そしてこの六者協議、これも拉致の実務者協議のように、ダラダラと何年もやっていくわけにも参りません。どこかできちんとした答え、節目を作っていかなければならないと思っているところであります。

 韓国につきましては、明日韓国の盧武鉉大統領が来られるし、それから外交通商部長官も来られるものですから、私も指宿で砂風呂に入るのを楽しみにしておりましたならば、残念ながら両国首脳は砂風呂に入らないことになりまして、一人で私は砂風呂に入っちゃおうかと思っております。日韓友情年ということで来年は位置づけております。それはそれで大変重要なことだと思っておりますけれども、来年は国交正常化40年という節目の年でありますし、また、韓国側からすると、戦争が終わって60年という、また節目の年、さらに100年目の節目の年だという。つまり、1905年12月に伊藤博文がいわゆる韓国統監に任命された年なんですね。それから5年経って、日韓併合が行われたと。いわば、韓国支配の明らかな第一歩が始まったのが、1905年。第二次日韓協約という協定が結ばれた年から数えて100年。そういう意味で、私は、節目の年、重要な年になるだろうと。良好な日韓関係を築いていかなければいけない、そのために明日の首脳会談は非常に重要だと思っております。

 中国の関係が非常に悪いではないかというご批判があります。私どもは中国は大切なかつ大きな隣国でありますし、また、小泉総理がいつも言っているとおり、脅威ではなくて、お互いの国が発展する良きopportunity、機会である、チャンスであると、これについて私は正しいと思っております。経済面、人の往来、非常に飛躍的に伸びております。もっともっと伸びる可能性はあると、こう思っているところでありますけれども、どうもその靖国神社にお参りして以来、ギスギスしているではないかと。原子力潜水艦の領海侵犯、あるいは特に手続きをふまない海洋調査は太平洋側では18件を数えております。さらには、東シナ海の資源開発の問題などなど、いろいろ頭の痛い問題には事欠かないのでありますが、それにもかかわらず、サンティアゴ、ビエンチャンでの首脳会談は、かなりストレートな議論が、かなり率直な、ちょっと外交的にいうと率直すぎるぐらい率直な言葉でのやりとりがあったようでありますが、それはそれでいいと私は思います。意見の違いがあればこそ、首脳会談はやるべきであって、もちろん違いがないときもやっていいのですけれども、違いがあるからこそ、お互いにその違いがどこにあるのか、どういう意見なのか、靖国の問題であって、首脳間であれだけ議論された、なぜ自分が靖国神社を参拝するのかということをはっきり言われた総理大臣は小泉総理が初めてではないかと思います。この辺は、なかなか意見が一致するというのは難しい問題です。価値観の問題もありますし。そういう意味で、意見の違いがあっても、両国首脳が率直に意見を語り合った、述べあったという意味で、私は2回の首脳会談は非常に意義があったと、これからも意見の違いがあっても、そういった率直な会談を積み重ねるところから信頼感が生まれるものと信じています。日米間だってもっともっと激しい経済戦争という言葉があったほどであります。私もかつてニューヨークで勤務していたとき、自動車摩擦、これなどはまさに自動車戦争と言われるほど激しいものがありました。それでも日米関係は、しっかりと発展することができた。そう思えば、日中の長い友好の歴史の中で、一時的に冷えたり、暖まったりという時期はあったとしても、私は長い目でみて、日中関係を良好に発展をさせていきたい、そのために努力していきたいと考えております。ODAの扱い一つとってみても、これはもう、ごく自然に考えて、自然の流れで中国に対するODAが、半分以上に減ってきている。このトレンドでいけば、いずれの日にかなくなると、中国だって、いつまでも非援助国ではなくて、もうすでに援助国なのですから、もっと堂々たる援助国になっていいんじゃないのかな、と思っております。

 日米同盟も重要であります。これほど、日米間に問題が少ない時期もないかもしれない。強いて言えば、大きな問題というか課題としては、米軍の再編成の問題があります。これも日本は日本なりの見方、特に沖縄の負担の軽減ということを念頭におきながら、より効果的に、新しい技術の発展、あるいは新しい脅威の出現、あるいは北東アジアに残る伝統的な冷戦構造の遺物といったようなものに対応するためにどういうお互いの協力ができるか、どういう兵力構成がいいのか、どういう米軍のあり方がいいのか、どういう日本の自衛隊の対応の仕方がいいのか、ということを、そもそも論として、もう一度議論し直しておりまして、ちょっと最初に各論の議論が先行した部分がありまして、それはおかしいと、もう一度きちんとした理念から議論しようと、私が大臣になってからもう一度頭の整理をしはじめておりまして、そんな議論をする中で、いつということは具体的に申し上げられませんけれども、来年にかけて、いずれ2+2会合も開き、われわれ政治家もしっかりとそこで方針を述べながらこの問題を解決をしていかなければならないと思います。

 日露も大変大きな課題があります。プーチン大統領、来年初めというと1月、2月と言う感じになってしまいますが、1月、2月という可能性は現状では難しいと思いますが、いずれにしても来年の前半のどこかのうちに大統領が訪問される。これは日露首脳会談で決まった話ですから、当然プーチン大統領はお見えになります。そのときに、この領土問題をきっちり解決しながら、北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結するという基本方針は変わらないわけであります。変わらないわけでありますが、これはいろいろなものの考え方があるなと思います。諸先輩が、1956年の日ソ共同宣言以降、あるいは共同宣言のときを含めて、大変長い間、さまざまな工夫、努力をしてこられた。冷戦時代は率直に言って、いろいろな工夫、努力があったとしても、ほとんど事態を進展させることは難しかったんだろうと思いますが、特に冷戦が終わった後、1992、3年の東京宣言をはじめとして、いろいろな動きがありました。結果は何も変わっていないわけですけれども、様々な努力が行われてきたことは事実であります。そうした諸先輩の努力もしっかり受け継ぎながら、少しでも事態が、レールがいつまで経っても交わることのない平行線で、ずっと後また50年やることもまた、一つの外交かとは思いますけれども、それはいかがなものかと、やはりレールはどこかで交わらなければならないのではないかと私はそう思っていたりしておりまして、どういう姿、形がいいのか、いろいろ省内でも議論をしているところでありますけれども、プーチン大統領訪日に向けて何らかの答えが、一度に出ないとしても、出せる方向で、いろいろな議論をし、努力をしていくことが重要であると思っております。

 取り急ぎ、ポイントだけを申し上げました。どうもご静聴ありがとうございました。



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