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演説

国連の場における演説

第31回FAO総会における岩永峯一日本政府代表演説

2001年11月6日
於:ローマ(イタリア)

 議長、FAO事務局長閣下、ご列席の皆様

(冒頭)

 私は、第31回総会に出席し、日本国政府を代表して所見を述べることができることを大変光栄に思います。この会議の準備に携わってこられたFAOディウフ事務局長をはじめ多くの関係の方々に、心から敬意を表します。

(現状認識)

 議長、
 21世紀の食料・農業問題の重要性を認識し、飢餓や栄養不良の撲滅と世界の食料安全保障の達成に向け議論するため、1996年、各国首脳がここイタリアに集いました。「世界食料サミット」の開催から5年が過ぎましたが、「世界の栄養不足人口を2015年までに半減する」との目標の達成が危ぶまれていることを深く憂慮します。この問題を考えるとき、私は、世界食料サミット以降、我々は何を実行し、何を経験し、またその結果何を教訓として得たかを十分考慮することが重要だと思います。

(UR実施の経験、アジア経済危機の教訓)

 この5年間は、ウルグアイ・ラウンド合意を実施する期間でもありました。世界の穀物需給を見てみると、先進国では需要量より生産量の方が多く、生産量と需要量の差が拡大し、先進輸出国においては輸出がさらに増加する傾向にあります。一方、開発途上国では、生産量と需要量ともに増加しているが、生産量は需要量を下回っており、その差は拡大傾向にあります。このため、これらの国では、食料調達にあたっては、益々輸入依存度が高まっている状況にあります。この観点から、開発途上国においては、食料安全保障の問題は長期化、深刻化しており、一方で、一部の先進主要輸出国が輸出増大により恩恵を受けているという「不公平性」は否定できません。また、ここ数年の農産物価格の低下に伴って、一部の国では追加的な農業支援を余儀なくされるなど、新たな問題も発生しています。
 昨年、我が国で開催した「FAOアジア太平洋地域総会」では、「アジア経済危機」の経験と食料安全保障が議論されました。経済危機の際、農業は雇用吸収の緩衝剤としての役割を持ち、急激な都市への人口移動を緩和し、農業が社会的安定に果たす役割の重要性が再認識されました。

(食料安全保障の達成)

 議長、
 今後の国際的な食料需給のひっ迫の可能性や、開発途上国等の飢餓・栄養不足問題を考慮すれば、それぞれの国において、先進輸出国への食料依存を高めるのではなく、持続可能な食料生産能力の向上を図ることが必要です。すなわち、国内生産を基本に据えつつ、輸入と備蓄を適切に組み合わせて食料安全保障を確保することが重要です。食料安全保障の確立は、開発途上国ばかりでなく、先進国も含めた人類全体の最優先の課題であり、国内農業生産を食料供給の基本に位置付けることが可能になるような貿易ルールが必要と考えます。

(持続可能な農業・農村開発、農業の多面的機能)

 持続可能な農業・農村開発は、貧困層の約4分の3が居住する農村部の人々の生活向上と、雇用の確保を図る上で根本的な役割を担っています。同時に持続的な農業生産、自然環境と調和した生産活動を通じて、国土や自然環境の保全など、農産物以外の種々の有形・無形の価値が作り出され、これらは貿易では決して代替できません。

(国際備蓄)

 我が国は、自然災害等にともなう一時的かつ大規模な食料不足の発生に際し、開発途上国、とりわけ純食料輸入開発途上国や後開発途上国の食料安全保障の支援スキームを強化する観点から、基礎的食料を国際的に現物で備蓄し、円滑な食料援助の実施を可能にする国際備蓄の仕組みをWTOに提案しており、開発途上国等をはじめ、多くの国々から大きな関心が示されています。今後、国際備蓄の実現に向け、議論を深めていきたいと考えております。

(林野、水産)

 森林・林業が土壌や水資源の保全、持続可能な利用などを通じ、食料安全保障に果たす重大な役割を十分認識し、持続可能な森林経営の推進が必要です。また、海洋生態系の合理的な管理と海洋汚染防止に注意を払い、科学的な根拠に基づいた海洋生物資源の持続的な利用を行うことが必要です。先般、我が国では、森林・林業、水産に係る基本法をそれぞれ改正、制定し、持続可能な森林経営の推進と、水産業の振興に努めています。

(食品の安全性、食品の表示、バイオテクノロジー、遺伝子組換え農作物)

 食品の安全性や品質、食品表示等に関する消費者、市民社会の関心が高まっており、科学に基づいた的確なアプローチによって、食品の安全性確保、消費者への関連情報提供がますます重要になっています。特に、バイオテクノロジーは、世界の栄養不足人口を解決する潜在力を秘めており、その食品安全性の確保や正確な情報の提供、さらに消費者のバイオテクノロジー産品等に関する理解と信頼を高めるために、コーデックス委員会における活動をはじめとして、こうした分野の活動をFAOが重視することを求めます。

(我が国の取組み協力)

 我が国は世界最大のODA供与国となっておりますが、その中で、食料・農林水産分野については、開発途上国の自助努力による食料増産への取組みや持続可能な農業農村開発等を支援するため、1996年から1999年までに63億8千5百万ドルの二国間政府開発援助を実施してきました。また、食料安全保障特別事業(SPFS)、世界食料安全保障状況地図(FIVIMS)の作成、その他FAOの多くの事業に任意の拠出を行って、「世界食料サミット」のフォローアップに協力してまいりました。さらに、FAOを通じた「飢餓撲滅」の取組みを支援するために、新たに「人間の安全保障基金」の資金等を活用したFAOの活動の支援を検討することとしています。
 また、我が国においては以上のような政府による取組み以外に、世界食料デー・シンポジウムの開催、「飢餓撲滅」のための一般市民からの募金など、食料安全保障問題に関する我が国市民社会の関心も、年々高まりつつあります。

(多様な農業の共存)

 議長、
 世界の食料安全保障に向けて我々が取り組むべきこと、その内容は、「ローマ宣言」、「行動計画」の中に包括的に明記されていることを再度想起すべきです。加速化するグローバリゼーションと地球的規模の諸問題に直面する21世紀においてFAOの果たすべき役割は益々重要になっています。
 このような中、21世紀の貿易ルールを決める新たなラウンドの立ち上げを目指すWTO閣僚会合が目前に迫っています。ウルグアイ・ラウンド合意以降の世界の食料需給、栄養不足、貧困の実態を含む農業・農政をめぐる状況を我々はきちんと検証し、FAOが的確な評価・分析の実施とそれに基づく適切な活動を行うことを強く求めます。また、各国が食料安全保障の確保の重要性に一層配慮し、21世紀において様々な国や地域における多様な農業が共存し、食料の増産を通じた飢餓撲滅と世界の食料安全保障が実現できることを希望します。


国連の場における演説 / 平成13年 / 目次


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