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有馬政府代表演説
有馬政府代表基調スピーチ 平成13年5月29日
於:戦略策定センター 1.はじめに 尊敬するグレフ大臣、ご列席の皆様、 本日のフォーラムにおいて基調スピーチを行う機会を与えられたことを大変光栄に存じます。 私のメッセージは、簡潔に申しますと次のとおりであります。 2.21世紀のアジア太平洋地域の課題 議長、21世紀が始まりましたが、アジア太平洋地域はダイナミックな発展の機会と課題に直面しています。97年の金融危機の影響は概ね克服され、地域経済は回復基調にあります。朝鮮半島では緊張緩和に向けた好ましい動きが見られ、朝鮮半島の統一ももはや非現実的な課題ではありません。中国は年間7~10%の経済成長を遂げており、また人口増加を考えれば、既に十分大きな政治的・経済的プレゼンスを一層増大させることになるでしょう。このような変化の波の中で、この地域の安定と繁栄をどのようにして確保していくのかは、重要かつ難しい問題です。この問題に対応するには、日本、米国、中国、そしてロシアの間の相互の理解と協力が鍵を握っていると考えます。 3.アジア太平洋へのロシアの参加の現状 ロシアは、歴史的に、自らを「ユーラシア国家」と位置付けてきています。ロシア文化の源泉はヨーロッパにありますが、その領土はアジアに向かって広がっており、それゆえにアジア太平洋の一員でもあります。しかしながら、ロシアのアジア太平洋への関与は、限定的なものであり、特に冷戦期は、軍事的分野に限られておりました。 4.アジア太平洋へのロシアの参加の重要性 このような現状ではありますが、ロシアがこの地域への関与を進め、建設的なパートナーとなっていくことは、ロシアとこの地域双方に重要な利益をもたらすことは明白であります。特に、軍縮、技術の流出を含む核の管理、武器輸出、ミサイル防衛への対応は、地域の安全保障情勢に大きな影響を持つものであり、我々日本人にとっても重大な関心事です。同様に、ロシアは、私共が深い関心を寄せている朝鮮半島の緊張緩和のプロセスにおいて建設的な役割を果たしうる立場にあります。ロシア人の5分の4はウラル以西に住んでいますが、この地域は欧州経済と関係を深めつつあります。他方、ロシアの国土面積の4分の3に相当するウラル以東のシベリア・極東地域には、豊富な天然資源が眠っていますが、残念ながら経済発展の流れからは取り残されつつあるように思えます。この地域の開発・発展のためには、アジア太平洋地域との協力を深めることが不可欠です。そしてそのような協力を進めていく上で、ロシアがこの地域において安全保障面でも信頼できるパートナーとして受け入れられるかが重要な意味を持つことを指摘したいと思います。 5.ロシアの対アジア太平洋外交の活発化/将来に対する期待 議長、以上のような文脈において、プーチン政権下においてロシア政府は、従来のロシア外交には見られなかったような活発な対アジア太平洋地域外交を展開しています。プーチン大統領の北朝鮮訪問は世界中の注目を集めました。日本は、既に沖縄サミットと公式訪問の2回にわたり大統領をお迎えしました。更に、大統領は、中国、韓国、ヴェトナムも訪問されました。ロシアの「新外交概念」が、対アジア政策の重要性が着実に増大していると規定し、シベリア・極東の経済開発の視点からもアジア重視を謳っていることに、我々も非常に注目しています。 日本が、アジア太平洋地域においてロシアに何を期待しているかを、具体的に見てみたいと思います。政治・安全保障面では、ロシアは米国の一極支配に対する警戒心を表明していますが、米国の抑止力がこの地域の平和と安定のために重要な役割を果たしていることは疑いがありません。日本としては、ロシアがこれを前提として受け入れた上で、米国との間で建設的な関係を築いていくことを期待しています。また、地域諸国が大きな関心を有する軍縮、核管理、武器輸出の問題にロシアが真剣に取り組むことを期待しています。この関連で、我々は、ロシアがSTART2やCTBTを批准したことを高く評価しています。日本は、この地域の平和と安定の維持・発展との観点から、ロシアの責任ある対応を期待しています。更に、我々は、ロシアが二国間の交流や多国間対話のフォーラムを通じて、アジア太平洋地域の諸国との間で信頼関係構築を更に進展させ、また、今後の朝鮮半島情勢の展開において建設的な役割を果たすことを期待しています。 経済面では、ロシアが、アジア太平洋地域との貿易を拡大することを期待しています。日本がロシアのAPEC参加を強力に支持したのもそのためです。また、極東・シベリアへの外国投資の誘致につながるような環境の整備に努めることを期待しています。ロシアにおいては、貿易・投資に関する制度が整備されつつあると承知していますが、その内容が頻繁に変更され、外国投資家に周知されない例が多いと聞いております。同じ国内でも、中央と地方との政策が異なり、窓口における対応や、政府機関職員による法の執行が統一されていないこと、また許認可に多くの時間を要するなどの苦情を耳にします。このような点の改善なくしては、外国の投資家も二の足を踏んでしまうことでしょう。また、特にシベリア・極東の開発について、連邦政府が明確なビジョンを提示し、モスクワがこの地域の発展にどのように前向きな姿勢で取り組んでいるかをはっきりと示すことが不可欠です。 6.日露関係 議長、こうした流れの中で今後の日露関係を考えてみたいと存じます。 このような日露関係において、唯一未解決の政治問題として残っているのが、平和条約の締結です。両国は、係争となっている四つの島の帰属の問題を解決することにより平和条約を締結するために、真剣に交渉を行ってきています。戦後55年を経過したにもかかわらず、日本とロシアとの間の国境線が画定していないという事実は、日露両国の利益に反するのみならず、アジア太平洋地域の将来にとっても一つの不安定要因であるといえます。もちろん、日本として、平和条約が締結されないからと言って、その他の分野における対話と協力を進めないとの方針は取っていません。しかしながら、日露両国が、両国間の困難な問題を解決し、平和条約を締結することで関係を正常化できれば、日露協力の国民的基盤は今よりも格段と、そして末永く強固なものとなるのは確かと言えましょう。 問題が未解決であることが、日本国民のロシアに対するパーセプションに影響を与えていることは否定できない事実です。また、民間の経済交流も、両国間の協力が有するポテンシャルを考えれば全く満足できないレベルにとどまっています。2000年の日本の年間貿易額をみると、対米国が約2150億ドル、対中国が約855億ドルであるのに比べ、対ロシアはわずか52億ドルに過ぎません。 もちろん、このような状況は決して好ましいものではなく、また、あるべき姿でもありません。確かに我が国とロシアは別の言語圏、別の文明圏に属する国ではあります。しかしロシアが輩出したトルストイ、ドストエフスキー、チェーホフなどの偉大な作家の手による文学作品は「ロシア文学」という枠を超えた「世界文学」としての意義とスケールを有しており、多くの日本人は子供の頃からこれらの作品に親しんできており、日本人の知的体験の一部として根付いています。例えば、「人間とは何か。神とは何か。」という形而上学的課題につき登場人物同志が奔放にその思いを述べ合うというドストエフスキーの世界は、日本人の心に響くものがあるのです。同時に我が国が世界に誇ると自負している茶道、生け花、歌舞伎等の伝統芸能や柔道、剣道などの武道については、我々はロシアの方々が表面的な関心のみならず、そこに籠められた精神そのものへの強烈な関心を有していることを感じます。プーチン大統領が柔道の達人であることはつとに有名ですが、「柔道はスポーツではなく哲学である」という彼の言葉は、ロシア人の我が国への思いを象徴的に表現したものであります。この様に、日本とロシアはその精神性においてはお互いを深く理解し合い、いわば「文明間の対話」を静かにそして着実に行ってきたとも言うべき関係にあります。その意味で日本とロシアの関係は、今後画期的に好転していくための潜在的な可能性を孕んでいるのです。 我々の課題は、この潜在的可能性をどのように現実のものとするかであります。そして、まさにこれこそが、日露関係についてロシア人のよく言われる現実主義的でなければならないということの究極的意味かと存じます。 7.おわりに 議長、一ヶ月前、日本では小泉総理率いる新内閣が発足しました。小泉総理は、痛みを恐れず、既得権益の壁にひるまず、過去の経験にとらわれずと訴え、「恐れず、ひるまず、とらわれず」をモットーに、「改革断行内閣」を組織して「聖域なき構造改革」に取り組んでいます。内閣支持率は、90%という驚異的な数字を維持しています。この姿勢は、ロシアで圧倒的な国民の支持を背景として大きな改革に取り組むプーチン大統領の姿にも重ね合わせることができます。小泉総理は、既に、ロシアとの関係では、イルクーツク首脳会談までに得られたこれまでの成果を引き継ぎ、四島の帰属の問題を解決することにより平和条約を締結するべく交渉に取り組むと共に、経済分野や国際舞台などの幅広い分野における両国の協力を進めていくことを確認しています。現在、日露共に強力な指導者を有しております。その中で困難な問題を解決し、両国関係を完全に正常化できれば、両国関係の国民的基盤は今より格段に強固なものとなるでしょうし、それはまた、アジア太平洋地域の平和と安定にも寄与することとなるでしょう。 ご静聴ありがとうございました。 |
政府代表・幹部・大使・総領事 / 平成13年 / 目次 |
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