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小渕総理大臣演説
高麗大学における小渕総理大臣演説
-新世紀の日韓関係-新たな歴史の創造- 平成11年3月20日 皆様こんにちは。ただ今ご紹介いただきました小渕恵三でございます。本日、ここ高麗大学にお招き頂き、まことにありがとうございます。
尊敬する金 (キム・ビョングァン)高麗中央学院理事長、金貞培(キム・ジョンベ)高麗大学総長、鄭世永(チョン・セヨン)校友会長、親愛なる諸先生方、そして明日の韓国を担う大学生の皆さん、 この建物にその雅号が残されている仁村(インチョン)・金性洙(キム・ソンス)先生は、高麗大学総長として大学の発展に尽力された功労者であるのみならず、紡績産業や言論界、更には政治の分野においても活躍をされた偉大な先達であります。金性洙(キム・ソンス)先生は、若き日に早稲田大学で学ばれ、その後は研鑽の旅路を求め、欧米各国を訪問されました。私自身、40年近く前には、ちょうど今の皆様ぐらいの年齢でしたが、早稲田大学の学生だった頃に、当時はまだ本当に珍しかった、たった一人での世界歴訪の貧乏旅行をした経験があります。私が米国のワシントンにまいりました時、1963年の夏でしたが、ロバート・ケネディ司法長官にお会いしたいと思い立ち、全く誰からの御紹介もなしに突然面会を申し入れましたところ、それこそ一介の学生だったにも拘わらず、快くお会いいただいたのであります。あの青春時代の感激を思い出しながら、「これからは君らの時代だ」というケネディ長官からの激励の言葉を、本日この席にお集まりの学生諸君を始め、韓国の若い世代の方々に対し、親愛の情を込めてお贈りしたいと思います。
聴衆の皆様、 日本の近代史を振り返っても、19世紀においてあの「明治維新」がもたらされた背景には、多くの若者達の情熱がありました。私の敬愛する維新の志士、坂本龍馬は、迫り来る内外の国難の中で、不可能と思われた広範な勢力の連携を促し、旧体制から明治維新への変革を可能にした中心人物であります。この開明的先駆者が、移動の船の中で起草した「船中八策」は、新たに作られる政府の具体的方針として、議会制民主主義、人材登用、経済や軍事に至る基本的政策を掲げたものでした。国家の平和と独立を守りつつ改革を実現する道を懸命に目指す若き竜馬の姿を、私は折に触れ思い浮かべます。国難に直面する激動期において、未来へ向けて歴史を造り上げていった変革者達の志と行動力は、今日の我々を鼓舞するものであります。
聴衆の皆様、
聴衆の皆様、 そのために、私は、日韓両国が、今後以下の三つの課題、すなわち「北東アジアの安全保障」、「アジアの再生・繁栄のための協力」、「人類社会全体の安寧と福祉」、英語で言えば「ヒューマンセキュリティー」に積極的に取り組む必要があると考えます。
聴衆の皆様、 北東アジアの安全保障を考える際に、当面の最大の問題は北朝鮮の問題です。この問題に対応する上で、私は、我々が頭に置いておかなければならない点が、少なくとも三つあると考えております。 第一は、我々の戦略ビジョンに関する点であります。我々の戦略ビジョンは、核兵器開発の問題や弾道ミサイルの問題のような当面の安全保障上の問題の解決と、より中長期的には南北対立の構造解消という二つの目標を同時に追求するものでなければならないという点であります。 北朝鮮が核兵器開発の疑惑を普E拭せず、また弾道ミサイルの実験、発射、開発、配備、輸出を中止せず、我々に不安と懸念を与えるようでは、北朝鮮との友好的な国家関係を樹立することは困難でありましょう。他方、北朝鮮が我々の懸念や不安の解消に建設的に応じる用意があるのであれば、我々としては、人道支援や国交正常化に向けて建設的に対応する用意があることを明らかにしたいと思います。数日前、秘密核施設疑惑問題に関し米朝間の合意が成立したことは喜ばしい進展であります。北朝鮮と我々の間でこのような努力を通じて北朝鮮との間に相互信頼を醸成していくことができれば、朝鮮半島の対立構造を平和の構造に置き換えていくことが可能となるのであります。 第二に、このような目標を追求していく上で、緊張を緩和していくための対話と、不測の事態を招くことがないようにするための抑止の双方について、我々は意を用いなければなりません。我々は対決を通じてではなく、対話と交渉により、北朝鮮と我々の間に存在する問題を一つずつ解決していく必要があります。我が国としては、ミサイルや核のような安全保障問題に加え、北朝鮮との人道上の諸問題の解決、及び第二次世界大戦後の不正常な関係を吹E正するための国交正常化の実現を重視しています。韓国や米国においても同様の問題があります。 朝鮮半島にある対立の構造を平和の構造に転換するには、多くの対話と交渉を、善意と忍耐を持って積み重ねていくことが必要でありましょう。このためにも日韓両国は引き続き、米国との安全保障体制を堅持していく必要があります。また、日韓の間でもは安全保障対話を強化していく必要がありましょう。我が国において「日米防衛協力のための指針」関連の法整備が進められておりますが、これは我が国の専守防衛等の基本方針に何ら変更を加えるものではなく、日米安保体制の実効性を確保し、我が国の平和と安全、更にはこの地域の平和と安定を図るためのものであります。 第三に、我々が北朝鮮と対応を行うにあたっては、日韓米三ヶ国の協力と協調が極めて重要であるということです。我々三者は全て同じペースで同一の政策をとる必要はありませんが、互いに手をたずさえて同じ方向を向いている必要があります。また、中国とロシアの協力も必要であり、我が国としては、四者会談を全面的に支持していますが、地域の信頼醸成・緊張緩和に向けて、例えば六者会合の開催も将来的課題の一つとして視野に入れるべきと考えています。 以上のような考え方に立ちつつ、私はこの場を借りてあらためて北朝鮮に対し、呼びかけを行いたいと存じます。我々は関係改善を図る用意があり、北朝鮮が対立と緊張を高めるのではなく、和解と交流を目指した対話のとびらを開くよう呼びかけるものであります。 今、韓国では、「スウィリ」という、朝鮮半島の清流に住む魚の名前を題名にした映画が大ヒットになっていると聞いています。私は、大同江の水と、漢江の水と、江戸川の水とが、対決の海に流れ込むのではなく友好の海に流れ込む日が来ることを切望するものであります。
聴衆の皆様、 日韓両国の経済関係は、今や互いに競争し、裨益するパートナーとして、切っても切れない関係に発展しました。国交正常化直後の1966年において8億ドルに過ぎなかった日韓の貿易額は、今や500億ドルの規模に拡大しました。500億ドルという貿易額は、海を隔てた二国間の貿易としては、巨大なものであり、これは英仏間の貿易額にも匹敵するものであります。 この経済の絆を21世紀に向けてさらに高い次元に高めていくことが必要であり、また、それは可能であります。私は、日韓両国は、協力して次の三つのことを進めていくことができると考えます。 まず、第一は、両国がアジア経済の回復をリードすることです。一昨年来、アジアは経済危機に瀕し、韓国もその影響を受けて、極めて深刻な外貨危機に陥りました。その後、韓国国民の団結と勤勉によって外貨危機は克服され、経済改革も相当順調に推進されています。 しかしながら、アジア全体の経済危機はまだ完全に克服されたわけではありません。数日前の新聞によると、韓国においては、20代の若者の失業は41パーセントにも上っていると報道されています。中国もかつての成長路線の調整を余儀なくされており、東南アジア諸国もその経済展望は未だ全体として明るいとは言えません。こうした中で、日韓両国が、お互いに助け合いながら経済改革を進展させ、自らの経済の回復を確実なものとする努力が必要です。我が国は、韓国の外貨危機以来、世銀やIMFなどを通じる協力と共に、二国間ベースで200億ドルもの金融面での支援を行ってきました。韓国に対する支援は、日韓両国、ひいてはアジア諸国の経済安定に資するものであります。これからは日韓両国間の投資や貿易の促進にさらにお互い努力していくべきと考えます。 第二に重要なことは、相互の経済交流・協力の幅あるいは分野を拡大することであります。環境、原子力、安全、科学技術、運輸、観光など、幅広い分野での日韓協力を進める余地があります。これらの分野は、昨年私と金大中大統領が署名した日韓共同宣言及び「行動計画」にも掲げられています。
第三は、将来のアジア経済の構想(ヴィジョン)を描くことです。この作業には、皆さんのような若い世代の人々が夢を持って参画する必要があります。
聴衆の皆様、 21世紀において、国家間の「平和」や国家レベルでの「繁栄」が達成されても、環境破壊、貧富の差、組織犯罪、麻薬、エイズ、生態系の破壊といった、国境を越えて人間の生命・尊厳に対する脅威となる問題が一層深刻化する可能性があります。これらの問題は一般的に「ヒューマンセキュリティ」の問題としてとらえることができるでありましょう。 韓国でも黄砂や酸性雨の被害がよく話しに出ると聞いています。国際交流は結構ですが、暴力団の活動が国境を越えたものになりつつある現状は寒心に堪えません。 こうした、国境を越えた問題は一国だけで対処できるものではありません。また、市場メカニズムに委ねたままで解決できるというわけでもありません。しかも、多くの問題について国際的な取組体制が整っておらず、有効な対処方法も確立していない状況です。 こうした中で、日韓両国は、アジアのリーダー役として「ヒューマンセキュリティ」の問題を真剣に考え、問題解決のためにその持てる英知と資源を投入していく必要があります。日韓両国が国連をはじめとする国際の場において、共同作業に参加し、「ヒューマンセキュリティ」のための国際的な体制作りに貢献していくこと、これこそが世界の中の日韓協力の核心であります。 言い換えれば、日韓両国は、単に経済的な繁栄の力によってのみではなく、人類の新しい挑戦に対し、知的なリーダーシップを発揮するように協力していく必要があるということです。人類共通の価値観に立脚しつつも、アジアの伝統と文化を担う国としての誇りを持っていくとともに国際社会全体の問題に関心を持ち、かつ働いていくことが重要です。そのためにも、我々両国は、世界の諸国民から敬愛され、尊敬されなければなりません。経済的な繁栄に加え、国家としての徳を備えること、これが正に私が常々申し上げる「富国有徳」であります。この理想に向け、共に努力しようではありませんか。
聴衆の皆様
聴衆の皆様
聴衆の皆様
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小渕総理大臣演説 / 平成11年 / 目次 |
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