高村外務大臣演説
包括的核実験禁止条約発効促進会議
日本政府代表スピーチ
1999年10月6日
ウィーン
(序)
御列席の皆様、
本日、日本政府を代表して包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議において御挨拶する機会を得ましたことは、私にとり大きな喜びであります。
先ず、この場を借りて、9月30日に我が国において発生した東海村核燃料転換施設の事故について、一言述べたいと思います。我が国は、「核燃料サイクル」の確立をエネルギー政策の基本として、原子力利用を厳に平和目的に限り、安全確保を大前提として参りました。今般の事故は、我が国にとり極めて深刻かつ遺憾なものであり、改めて事故原因の究明と一層の安全確保に対する決意を新たにした次第でありましたが、おかげさまをもって緊急事態は終息しました。なお、今回の事故に関し、国際社会より積極的な支援の申し出があったことに深く感謝し、この場を借りてお礼申し上げます。
議長、
この会議を招集されたアナン国連事務総長、国連を代表して御出席のフレシェット国連副事務総長を始めとする国連事務局関係者、また、ホスト国として開催準備のために尽力されたシュッセル外務大臣を始めとするオーストリア政府の皆様、そして暫定技術事務局のホフマン事務局長をはじめとするすべての関係者の皆様に対し、深甚なる敬意と謝意を表します。
(包括的核実験禁止条約の意義)
冷戦終結後10年が経過し、20世紀の終了を目前に控えた今日、究極的目標たる核兵器の廃絶は、残念ながら未だ遠い目標であると思われます。人類は、多くの戦争と血なまぐさい出来事にさいなまれた20世紀の経験を踏まえ、来る21世紀にこそ「核兵器のない世界」を実現しなければなりません。
この困難な課題を実現する道程において、96年9月、第50回国連総会において地下核実験を含むあらゆる「核兵器の実験的爆発及び他の核爆発」を禁止するとともに、その実効性確保のために国際監視制度等につき規定するCTBTが採択されたことは、核軍縮の歴史上極めて意義深い出来事でありました。
世界で唯一の被爆国である我が国は、核兵器のない世界を目指した現実的かつ着実な核軍縮のための国際協力に寄与するとの見地から、率先して条約を締結するとともに、この歴史的成果たるCTBTが一日も早く発効するよう、他の国々に対し、早期の署名・批准を働きかけて参りました。
本条約は、署名開放以後3年あまりの短い期間に、150を超える国々の署名を得て、その内50近くの国が批准を済ませていることに示される通り、核不拡散・核軍縮の分野における極めて重要な枠組みであるとの普遍的な認識を得ていると言えます。他方、発効要件を満たす迄に未だ長い道のりを残している現状には、遺憾の意を禁じ得ません。今回の発効促進会議においては、未署名国、未批准国に対して、可能な限り早期に署名・批准を行うことを求める強いメッセージを発する必要があると考えます。
(核兵器国、未署名国等の早期署名・批准)
議長、
我が国は、その批准が条約の発効要件となっている44カ国のうち未批准の国に対し、可能な限り早期に、且つ、明年4月の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議迄に批准するよう求めます。就中、NPT体制の下での核兵器国、即ち、米国、ロシア、中国に対して率先して批准を行うことを求めます。そうすることにより、CTBTの発効を促進するのみならず、NPT再検討会議を成功裏に導く大きな貢献にもなるものと信じます。
第二に、発効要件国のうち署名を行っていないインド、パキスタン、更には北朝鮮に対して可能な限り早期の署名・批准を求めると同時に、各国がこれら3カ国に署名・批准を働きかけることを求めます。
第三に、NPT体制には参加していないものの、本条約の署名国であるイスラエルに対して、批准に向けた国内手続きを速やかに進めるよう求めます。
第四に、特に未批准の発効要件国に対して批准のインセンティヴを与えるために現在準備委員会が行っている、国際協力ワークショップ開催等の努力を更に奨励します。我が国としても、こうした国々の批准を奨励するため、個々の国へのミッション派遣、検証技術の向上のための協力など政府開発援助の活用を含む総合的な外交努力を強化していく所存です。
(本条約の検証制度)
議長、
我が国は本条約上の義務の実施を確保するため、検証制度が早期に立ち上がることを強く希望しており、その準備のために大きな役割を果たしてきた暫定技術事務局の努力を高く評価します。
我が国としても、本条約に基づき、核実験探知のための国際監視制度施設10箇所の整備を順次進めているところであります。また、関連技術研修の実施、本条約において定められた分担金の支払い等の面でも誠実に貢献してきており、今後も同条約を実施するための体制整備のため、可能な限りの支援に努めて参ります。
(結び)
21世紀の国際社会が、「核兵器のない世界」という共通の目標を実現するためには、国際社会が引き続きその英智とエネルギーを結集し、核不拡散・核軍縮に取り組んでいくべきであります。我が国としては、本条約の発効が核軍縮・不拡散の分野における極めて重要な一歩となることを信じ、その早期実現に向けて、今後とも具体的かつ積極的に取り組んでいきたいと考えております。
御静聴ありがとうございました。
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