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武見外務政務次官の南アフリカにおける政策スピーチ
題 名 : 「21世紀におけるアフリカ開発と日本の役割」 日 時 : 1999年5月5日(水) 場 所 : プレトリア大学 主催者 : アフリカ・アジア協会及びプレトリア大学 プレトリア大学副学長代理兼副校長エラスムス教授、
アフリカ・アジア協会P・J・ボータ会長、
来賓各位、
ご列席の皆様、
まず、本日、このような機会を与えて頂いたアフリカ・アジア協会及びプレトリア大学の皆様に感謝の意を表したいと思います。私は以前日本の大学で教鞭をとっておりましたので大学の演台に立つことは慣れています。しかし、この高名なプレトリア大学でお話することができ、南アが本当の「七色の国民」「虹の国」として着実に前進しておられるのを実感できたことは格別の喜びです。
南アは人類史上本当に貴重な文化的、人種的、宗教的多様性の下での共存を実現されました。無論ここまでの道のりは必ずしも平坦なものではありませんでした。この場をお借りして、その先頭に立ってこられたマンデラ大統領の不屈の精神と偉大な指導力に対し、心より敬意を表する次第であります。そして、若い世代の皆さんが、これまでの国造りにおける南アの希有な経験を自らのものとし、前進されることを信じております。
(発展しつつある日・南ア関係)
ご列席の皆様、
現在、南アフリカの皆さんにとっての最大の関心事は、来る総選挙でありましょう。94年の総選挙は世界的に注目されましたが、今回の総選挙も意義深いと考えております。なぜなら、今回の総選挙は、新憲法を導入するプロセスが完了したあとに行われる初めての選挙であり、同時にマンデラ大統領が本選挙をもって引退されるからです。私は、今回の選挙が成功することを確信しております。日本としても、独立選挙委員会(IEC)等に対し既に4,000万円(約200万ランド)以上の機材供与を行っており、また、選挙監視員も派遣する予定です。
この5年間を振り返ると、日本と南アとの関係も大きく進展しました。我が国は、マンデラ新政権発足に伴い、貧しい人々への支援を中心とした総額13億ドルの対南ア支援策を発表しました。その後マンデラ大統領の国賓としての訪日、我が国企業による大型投資、ムベキ副大統領の二度にわたる訪日、日・南ア・パートナーシップ・フォーラムの開始が行われました。
両国は、こうした二国間関係のみならず、核不拡散、対人地雷禁止、環境、人権と民主主義の追求、アフリカの紛争解決と経済開発においても価値観を共有しています。「公正で人間味のある新しい世界秩序の創出」という目標に向かってさらに協力を強化して行けるものと確信しております。
(アフリカ開発とTICADプロセス )
ご列席の皆様、
さて、アフリカン・ルネッサンスを現実のものとするための行動として、ここでは昨年10月に東京において行われた第2回アフリカ開発会議(TICAD II)の考え方をご紹介させて頂きます。
TICADは、日本の新たな積極的なアフリカ政策を実現して行くためのプロセスです。アフリカにおける政治面及び経済面での好ましい変化を支援し、アフリカ開発について幅広い議論の場を提供するため、91年に我が国はアフリカ開発会議(TICAD)の開催を提唱しました。
第1回アフリカ開発会議は1993年に開催されました。TICADで採択された東京宣言の大きな2つの特色は、アフリカ自身のイニシアティブの尊重及びアフリカとその開発パートナーとのパートナーシップの強調です。この考え方は、OECDの開発援助委員会(DAC)が96年に採択した新開発戦略へと受け継がれ、98年のTICAD IIでも改めて強調されました。TICAD東京宣言のもう一つの特色は、アジアの経験をアフリカ開発に活かすためのアジア・アフリカ協力です。TICADの後、インドネシアとタイでこうした協力を討論するためのアジア・アフリカ・フォーラムが開催され、南南協力の大きな可能性が明らかとなりました。近年、両地域間の貿易と投資が増加し、人的交流も増しています。TICAD IIでは、この考え方はさらに深められました。
オーナーシップ、パートナーシップ、南南協力という考え方に共通しているのは、アフリカの潜在的な開発能力への信頼と、対等な目線に基づく水平的な協力という考え方です。TICADのプロセスを通じて、こうした考え方が広く受け入れられるようになって来ていると思います。そして、TICAD IIにおいては21世紀のアフリカ開発に向け貧困削減と世界経済へのアフリカの統合を基本テーマに、戦略的かつ行動指向的な東京行動計画を採択しました。
(子どもの健康と寄生虫対策)
ご列席の皆様、
今後はこの「東京行動計画」の具体的な目標をアフリカの大地において現実のものとしていく努力が必要です。この努力は、アフリカ諸国自身が主導権をもって成すべきですが、わが国としてアフリカ諸国を支援し、ともに歩んで行くことができるならば、大きな喜びであります。ここでは、我が国としても特に関心があり、支援ができると考えられる「子どもの健康」と「寄生虫対策」について説明させて頂きます。
日本では本5月5日は子どもの日です。人種、文化、宗教の違いに一切関係なく、子どもは我々の未来です。日本が世界保健機構(WHO)と国連児童基金(UNICEF)の推進する「ポリオ根絶及び子どものワクチン構想」を支援しているのも、こうした考えに基づくものです。日本は93年以降現在まで、東アジア・西太平洋地域を重点に、ポリオ・ワクチン及びコールド・チェーンの供与等約28億円の支援を実施し、この結果、同地域でのポリオ根絶にほぼ成功しました。そして今、こうした成果を南アジア地域やアフリカに広げつつあり、TICAD IIでもアフリカにおけるポリオ根絶推進に一層取り組む旨を表明しました。具体的には、我が国は、今後5年間にアフリカの医療・教育・水供給分野に対し、900億円程度をめどに支援する意図を表明しました。また、ポリオ根絶を含む子どもの健康保全については、青年海外協力隊を通じて草の根レベルの協力を推進して行く計画です。
次に寄生虫対策については、例えば、現在、世界で毎年5億人以上の人間がマラリアに感染し、約200万人が死亡しており、アフリカで最大の伝染病であることは御承知のとおりです。日本は97年のデンバー・サミットで、国際寄生虫対策の重要性を指摘しました。さらに、98年のバーミンガム・サミットにおいて、橋本総理(当時)は、アジアとアフリカに「人造り」と「研究活動」のための拠点を造り、寄生虫対策の人材養成と情報交換を改善させて行く旨提案しました。現在、ケニア、ガーナ及びタイにおいてセンター設置に向けて準備を行っています。
(人造りと開発の基盤の安定化)
ご列席の皆様、
このほかにも、日本は東京行動計画をアフリカにおいて現実のものとするため、さまざまな面での支援を実施しつつありますが、特に強調したいことの中に、人造り、という観点があります。人造りが国造りの鍵であることは、日本を始めとするアジアの経験から明らかです。我が国は、アフリカ諸国から技術研修で毎年約1,000名を受け入れています。これに加え、特に「南々協力」を活用した人造りを重視しており、今後5年間でアフリカ各国の研修員2,000名がアジアや北アフリカ等で行う研修を受けられるよう、資金・技術の両面にわたる支援を行います。
また、開発の基盤を安定させるための支援も必要です。国連の発表によれば、現在、サハラ以南アフリカには2千万弱の地雷が埋設されているといわれます。一昨日、私はマプトで開催された対人地雷禁止条約第一回締約国会議に日本政府を代表して出席しました。そして私は、アフリカの人々や子どもたちが安全に大地を踏みしめることができるよう、そして地雷によって障害を負った人々が一刻も早く社会生活を再び営むことができるようになるよう、国際社会が一丸となってこの問題に取り組まねばならないと痛感しました。
わが国は「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱しており、地雷除去と犠牲者支援のため 98年から5年間で100億円程度の支援を行うことを表明し、これを実施に移しています。98年には10億円程度の支援を実施致しましたが、今後とも、積極的な支援を継続し、拡大していく考えです。
(債務問題への日本の貢献)
ご列席の皆様、
日本は債務問題が多くのアフリカ諸国の未来にかかわる大きな問題であることを十分に認識しており、本問題の永続的な解決に向け取り組んでいます。日本はこれまでに80億ドルの債務繰延を行ってきました。特に27か国の二国間ODA債務を削減するため、合計約30億ドルの無償資金協力を行ってきました。さらに、重債務貧困国がIMFや世銀に対して有する債務救済のために、これら国際機関が設ける基金に対し7,300万ドル以上の資金を拠出しております。また、能力向上のためのプログラムを国際機関と協力して計画中であり、ケニア及びシンガポールを含む数か国において債務管理セミナーが開催される予定です。
債務問題に対処するための最新の方策として、日本政府は、今回、ケルン・サミット参加国政府やその他の債権国並びに関係国際機関に対し、債務救済措置に関する新提案を行いました。この提案には、これまでの国際的な重債務貧困国支援の枠組みの下で、債権国間の負担の公平性にも留意しつつ、二国間のODA債権については、現行の債務削減率67%を100%に拡大することが含まれています。我が国としては、今回の提案に基づき、ケルン・サミットにおいて、債務問題について主導的な役割を果たしていく考えです。
(人間の安全保障と日本の対アフリカ支援)
ご列席の皆様
我が国の対アフリカ政策は、アフリカの人々との連帯感(a sense of community)に支えられています。こうした考え方は、小渕総理が打ち出しておられる「人間の安全保障」の重視という政策と密接な関係があるものです。現在、多くのアフリカの人々は紛争、砂漠化等の環境破壊、飢餓、難民、人権侵害、エイズ等感染症、対人地雷といった様々な脅威に直面していますが、こうした脅威への取組み、すなわち「人間の安全保障」の確保は、我が国の対アフリカ政策の重要な目標だといえるのです。
ハーバード大学公衆衛生大学院教授リンカーン・チェン博士によると、ヒューマン・セキュリティは、次の三つの要素で構成されます。第一にヒューマン・サバイバル(人間個人が健康で長生き出来ること)、第二にヒューマン・ウェルビーング(一定の水準の生活を送りそのための財源を確保出来ること)、そして第三のヒューマン・フリーダム(人間個人の知的要求を含む根本的な要求が満たされること)であります。
アパルトヘイトからの解放は、南アの人々にとって、三つ目の要素、つまりヒューマン・フリーダムの実現に向けた、歴史的な一歩であったと申せましょう。マンデラ大統領がおっしゃる通り、他人の自由を奪う人々もまた、憎しみの囚人であり、偏見と小心さの檻に閉じこめられているのであり、その意味でかつては白人も自由ではありませんでした。自由になることは、自分の鎖を外すだけでなく、他人の自由を尊重し、支えるような生き方をすることであります。このマンデラ大統領のお言葉は、南アの人々のみならず、真に自由を求める全ての人々のにとっての至宝というべきではないでしょうか。
(結び - 南アにおける人間性の追求)
ご列席の皆様、
昨年、ムベキ副大統領は、国民和解を訴えた有名な「二つの民族」スピーチにおいて、個々人が人種を越えて南ア人としての真の「国民意識」をもつことにより、国造りのために一致して取り組むべきことを訴えられました。
私はムベキ副大統領の指摘のとおり、南アが着実にその課題を克服してゆくことを信じております。これまで南アにおける問題の解決には常に「人間性の追求」というテーマがありました。アパルトヘイト体制では、知らず知らずに人種間に不信と憎悪の壁が出来、様々な悲劇を生みましたが、平和的解決を可能にしたのは、結局「人間性」を信じた幅広い善意の人々でありました。そして、こうした「人間性への確信」は、南アが直面する問題を解決していく際の求心力となると思います。ズールー族の言葉に「ウブントゥ」がありますが、「通りすがりの見知らぬ旅人を見て、自分が一杯しかない水を飲もうとしている時、旅人もきっと喉が乾いているに違いないとの思いから、水を飲ませてあげたいと思う気持ち」のことであるそうです。この意味を聞いた時、私は「南アの奇蹟」の理由が納得できたような気が致しました。今後、ウブントゥが南ア国民全体のアイデンティティーとなって、アフリカン・ルネッサンスの実現に向け影響力を与え続けることを期待しております。
ご静聴有り難うございました。
レヤレボーガ(Re ya leboga ソト語)、
バイア・ダンキ(Baie dankie アフリカーンス語)、
スィヤボーンガ(Siyabonga ズールー語)。
平成11年 / 目次 |
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